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怒りの涙-Reunion  作者: 高村聡
第3章「幼馴染の二人」
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第20話 二人きりの夜

「早く帰らなきゃ、果穂さんに怒られちゃうね」

「そう……だね」孝典は苦笑いする。



「ごめんね、無理言って食べてもらって」

「こっちこそありがとう。美味しかったよ」菜々子は玄関まで見送ってくれる。


 孝典は玄関で靴を履き、ベロを直す。



「おっと」振り返ると、突然菜々子が胸に飛び込んできた。


「どうした?」


「来週も、来てくれる?」


「うん、来るよ」孝典は迷いなく即決する。


「本当? 嬉しい!」菜々子は身体を離した。


 彼女の笑顔を見た男は、何でも許すだろう。



「じゃあ、来週待ってるね」菜々子は手を振った。


 孝典も恥ずかしそうに手を振る。


 玄関の扉がバタンと閉まる。



 上がっていた口角は、すぐに下がった。



「何やってんだろうな」孝典は後悔し、真っ直ぐ夜道を帰る。



「ただいま」果穂が待つ自宅に帰る。


「早かったね」彼女は怒らなかった。


 孝典は果穂を抱き締める。


「ちょっと、急に何?」果穂は驚く。

「何となく、ハグしたくなった」


「もう」彼女は離してと背中を摩る。


 しょうがないなと果穂から離れて椅子に座った。


「どこ行ってたの?」

「渋谷だよ。友だちとばったり会っちゃってさ」バッチリ合っていた目を逸らし、咄嗟に嘘をつく。



「ふーん、友だちね」

「何?」孝典は菜々子にキスをされた頬を撫でた。


「ううん、何でもないよ。珍しいなあって思っただけ」


 

「先にお風呂入って来なよ」

「うん、ありがとう」孝典は脱衣所に行き、扉をパタンと閉じた。


 大きく息を吸い、はあと息を吐いた。


 後ろめたい事は何もないのに、どうして嘘をついてしまったのかと後悔する。



 ――バシャン。

 体にかけ湯する。


 頭を洗い、身体を洗った。


 湯気で曇った鏡にお湯をかけて、見えるようにする。


 孝典は、鏡に写った自分を見つめる。


「一体どうすれば、記憶が戻るんだ」鏡の向こうの自分に自問自答する。


 彼は何も応えない。



 これで思い出せないのなら、菜々子が嘘をついているのか。


 ――そんな訳がない。


 あのアルバムに映っていた彼は、確かに高村聡で、結城孝典の過去のはずだ。



「教えてくれよ、思い出させてくれるんだろう? なあ! おい!」孝典は鏡に頭をつけた。


 しかし、高村聡は、眠ったままで目覚めない。


 ――ずっと待っている果穂が不憫だろう?

 ――お前には関係ないと言うのか?

 

「くそっ」鏡の前にいると体が冷えてきた。


 孝典は湯船に浸かる。


 ――覚悟が足らない。


 両親が亡くなったことを聞いただけで動揺してしまった。


 それはまだ受け入れられていないと言う事なのか。


 つまり、時間が経つのを待てばいいのか。



「忘れよう」頭のてっぺんまで潜って湯に浸ける。


 しばらくして、孝典は風呂から上がる。


「上がったよ」果穂に声を掛ける。


 その果穂はソファで横になって寝ていた。


 孝典は、彼女の体に膝掛けをそっと掛ける。


 その後、黙って寝室に戻ろうとする。



「んー」果穂が眠そうな声を出した。

「ごめん、起こしちゃった?」彼女は横に首を振る。


「これ、掛けてくれたの?」

「うん」


「ありがとう」孝典は礼を言った果穂の顔をじっと見た。


「何見てんだよ」

「何でもない」孝典はほっぺを掻く。


 果穂は孝典を押し倒した。


「え?」彼女は、キスするくらい顔を急接近させる。


「ねぇ」

「うん?」


「なんで、最近つまんなそうな顔するの?」


「そ、そんな顔してる?」


「うん。この頃、私の顔を見て笑ったことある?」


「急に言われても、思い出せないよ」


「思い出せないってことは、笑ってないってことだよね」孝典は何も言い返せなかった。



「私と居たらつまらない?」果穂は身体を起こす。


「そんなことないよ」孝典はゆっくりと起き上がって、笑った。


 自分でも、引きつっているのが分かった。


 果穂は、再び身体を密着させる。


「ねぇ」さっきよりも甘い声で言ってきた。


「どうしたの?」孝典は果穂の手を握る。


「最近してないね」

「そういえば、そうだね」



「しよっか」彼女は首筋にキスをした。


 一回でなく何度もしてくる。


 もうこれには拒否権が無い。


 孝典は果穂の腰回りを触る。


「乗り気じゃん」首筋にあった唇は、孝典の唇の前にある。


 孝典はしゃぶりついた。


 濃厚で長いキスが続く。



 少しの間してから、お互いの服を脱がし合った。


 孝典は一瞬の快楽を求め、欲望のままに行為をする。



 熱くなった身体を重ね合った。



「綺麗だよ」二人は見つめ合う。


 興奮は最高潮に達し、やがて冷静になった。


 二人は裸のまま抱き合う。


 果穂と身体が触れた時、孝典は自分でも汗を感じた。


「風呂上がりなのに」


「もう一回入ればいいじゃん」

「そうだね」二人は汗を流して、ベッドに入る。


 体力を使った身体は、すぐに眠気を誘った。

 

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