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怒りの涙-Reunion  作者: 高村聡
第3章「幼馴染の二人」
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第13話 歪んだネクタイ

「明日も晴れるといいな」雲一つない快晴の空を見上げながら孝典は1人呟く。


 ペンキのついた作業服で角材に座り込む。


 雨の日も、日差しがカンカンと照りつける夏の日も関係ない。


 ずぶ濡れになりながら、汗だくになりながら、1日の職務を全うする。


 週休2日制で、基本的には土日が休日だが、繁忙期は休日出勤だってある。


 どうしてこんな仕事を続けているんだと考える日もある。


 ――果穂と暮らしていたいから。


 いつも辿り着く答えはそれだった。


 泥臭くても、汗水垂らしてでも、俺という存在を認めてくれる人がいるから頑張れる。


 果穂には感謝してもしきれない。


 孝典が幸せを感じる時は、いつも果穂を思っている時だった。


 雲一つない晴れの空に浮かぶ太陽が、夕闇を連れて訪れた。


 カラスの鳴き声も聞こえる夕暮れ、孝典は帰り道に足を進める。


 ふと見上げた空は、夕焼けに染まって真っ赤だった。



 翌日、孝典は慣れないネクタイを締める。果穂もまた、見慣れないドレスを着る。



「ネクタイ歪んでるよ」そう言って孝典のネクタイを直す果穂。


 いつもと雰囲気の違う、メイクを施した彼女を見て、孝典は見惚れていた。


「似合ってるよ」抱きつきたい気持ちを抑え込みながら、孝典は言った。


「ありがとう」はにかむ果穂が可愛かった。


 心臓がキュッと縮こまるような感覚と共に、頬が熱くなる孝典。


 まるでこれからプロポーズでもするかのような胸の高鳴りを抑えながら、準備を終えた2人は式場に向かう。


「なんておっきい教会なんだ」

「本当だね」流石社長の息子。式は豪華にするとは言っていたが、これは想像以上だ。



「さあ行こうか」

「うん」二人は教会の中に入る。


 受付を済ませると、待合室に案内される。


 待合室には既に沢山の人がいて、見る限り、金持ちそうな人達ばかりだ。


「俺、これ場違いじゃないよね?」孝典は不安になる。


「大丈夫。あなたは私の彼氏でしょ」果穂は孝典の背中を強く叩いた。


「痛いよ」

「自信持って、堂々してて」

「分かった」孝典は大きく深呼吸をした。


「あ、果穂! 久しぶりー!」数人の女性の集まりが手を振っている。


「久しぶり」果穂も手を振り返す。


 そこには、果穂の親友の西山麗香(にしやまれいか)もいた。


 どうやら、彼女の友人たちみたいだ。彼女と目が合うと微笑み、孝典も返した。


「元気にしてた?」

「ありがとう、莉沙(りさ)。元気だよ。皆も相変わらずみたいで安心した」楽しそうに会話をしている。


「ねぇ、その人誰?」莉沙が孝典に対して言う。


「私の彼氏だよ」果穂は自慢げに答える。

「どうも、はじめまして」孝典は会釈した。


「へー、ちょっと意外。果穂のタイプってどっちかと言えば、王子様タイプだよね?」莉沙は孝典をじーっと見つめる。


 孝典はどうすればいいか分からなくなった。


「好みぐらい変わるよ、私は昔と違うの。ね、そうでしょ?」



「でも! 私は果穂があんたみたいな男と結婚するって言っても絶対認めないから!」莉沙は何故か怒っていた。


「ちょっと、何にキレてるの?」果穂はため息をついた。


「失礼だよ、莉沙。ごめんね孝典くん」麗香は頭を下げた。


「全然、気にしないでください」口ではそうは言っても、本心はイライラしていた。



「この子、最近彼氏に浮気されて振られちゃって機嫌が悪いのよ」


「ちょ、ちょっと麗香! 今、それ関係ないでしょ!?」莉沙は麗香の口を塞ぐように掴みかかった。


「莉沙がお祝いの席で、当たり散らすからでしょ?」

「うぅ⋯⋯ごめん」莉沙はシュンとし、場の空気も重くなってしまった。


「全く、騒がしい奴だな」1人の男が近づいてきた。


 金髪にピアス、派手な見た目だが高そうなブランドのスーツを身につけている。

 恐らく金持ちだというのは、見た目で分かった。



潤一(じゅんいち)、なんであんたがここにいるのよ」莉沙は嫌そうな顔をする。


「サニーに呼ばれたからに決まってんだろ。お前、俺に振られたからって八つ当たりするな」


「は? 振ったのは私なんですけど!」莉沙は顔を赤くして、潤一に詰め寄る。


「ねぇ、やめなって」再び麗香が注意した。


「えっ? なにそれ、私が悪いわけ?」


「そうやってすぐ突っかかるからダメなんじゃん」麗香は呆れた様子で言う。


「だってこいつが……」


「もういい加減にしなさいってば」麗香が彼女の腕を引っ張って、離れていく。


「ちょっ⋯⋯まだ話終わってないんですけど!?」莉沙は抵抗するが、麗香の力には敵わないようだ。


「莉沙が余計なこと言ったみたいで、すみませんでした」潤一が近づいてきて、孝典に謝る。


「いえ、気にしてないですから」


「昔からああなんですよ」

「なんか、大変ですね」孝典は苦笑いした。


「そういえば自己紹介がまだでしたね。俺は滝川潤一(たきがわじゅんいち)です、さっきの元彼です」


「俺は結城孝典って言います」2人は握手を交わした。


 見た目こそ派手だが意外と礼儀正しい人物のようだ。


「いい男だね、梅崎さん」

「ありがとう。あんたも変わったね、前はもっとカッコ悪かったけど」


「うるせぇ」その光景を見て、孝典は少し複雑な気持ちになってしまった。


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