告白の再現
「何の話だったの?」
戻ってきた純くんに何の話をしてたのか聞く、で合っているはず。
「いや、たいした話じゃないよ」
私の視線を避けてはぐらかす純くんに「そっか」とだけ呟くと、急に場の空気が重く沈んでしまった。
あれ、なんか覚えてる感じと違う。間違えちゃったみたい。どうしよう、どうしよう……。
「でも、気になるから教えてほしいな」
「んーと、どこの中学出身だったか聞かれただけだよ」
よかった、中学校の話になった。次は私がどこの中学校だったかって聞いて、はぐらかそうとするんだよね。
「本当に?」
「ほ、本当だよ。そういえば、倉住さんはどこの中学出身なの?」
それから、純くんがごまかそうとしてるって気づいたから、素直に答えなかったのを覚えている。
「おしえてあげなーい」
「えー」
「何を話してたか白状したらおしえてあげる」
困った顔をした純くんは、数秒沈黙したあとに覚悟を決めた表情を見せる。
「わかったよ。でも、その前に話したいことがあるんだ」
「話したいこと?」
ここからバスの話になって、純くんに寄りかかって眠っちゃったことを思い出して恥ずかしくなったんだっけ。
「実は今まで黙っていたけど……入学する前に僕は、倉住さんに会ったことがあるんだ」
「……うん」
純くんもあの日のことを覚えてくれてたっていう嬉しい気持ちと、恥ずかしい気持ちで私は何も言えなくなっちゃったんだよね。
今なら全然恥ずかしくないけど、ここは恥ずかしがってる私を演じなきゃ。
「倉住さんは覚えているかわからないけど、バスで僕の隣に座った倉住さんが眠っちゃって……」
「……私も……私も覚えてる」
恥ずかしがってる演技をしてるって考えると、なんだか本当に恥ずかしくなってきた。
「倉住さんも覚えててくれたんだ」
「だって、志和くんに寄っかかって眠っちゃって、起きたときすっごく恥ずかしかったんだもん。志和くん笑ってたし」
あのときは本当に恥ずかしかった。
「いや、ごめん。あんなに顔が真っ赤になっていく人なんて滅多にいないから、あのときはつい……」
「それは言わないで~! 志和くん、私のこと変な人って思ってたんだ。ショック……」
それは今の私でもすごく恥ずかしいから本当に言わないで~!
「いやいや、全然変な人とか思ってなかったよ! むしろ礼儀正しい子だなって思ってたし、心の中で神様に感謝の舞を捧げてたくらいなんだ」
「あはは、なにそれ。意味わかんな~い」
よし、もう大丈夫なはず。意味がわからないことを言い出した純くんが急に真剣になって、告白されたのを覚えてる。
「ははっ、僕も自分で何を言ってるかわかんなくなってきた。でも、とにかくあの日、僕は倉住さんに一目惚れをしたんだ。入学式で倉住さんのことを見かけて、たまたま同じ図書委員になれたときは本当に嬉しかった。図書委員会の仕事を一生懸命やっていたのも、倉住さんがいたからなんだ」
前にも同じことを言われたはずなのに、胸の奥が熱くなってくるのを感じる。夢じゃなければいいのに……。
「あの日から毎日、倉住さんのことばかり考えてる。好きなんだ。だから僕と付き合って欲しい」
あれ、なんで涙が出てくるんだろう。このときの私は涙なんて流してなかったはず。止めなきゃ。
「ど、どうしたの!? 迷惑だったかな。ごめんっ!」
「ち……ちがうの。嬉しくて。私も……私もずっと好きだった。これからも、ずっと……ずっとずっと好き」
だめだ。止めようと思えば、止めようと思うほど涙が止まらなくなる。夢でもいいから、純くんのいるこの世界にずっといたい。
「……ははっ、夢みたいだ。倉住さんがそんなに僕のことを好きでいてくれるなんて。返事はOKって思っていいのかな?」
「うん……よろしくお願いします」
幸せすぎてどうにかなってしまいそう。絶望しか待っていない現実になんて戻りたくないよ。
それにしても、もしこれが夢なのだとしたら、この夢はいつまで続くんだろう?
いったいどこで終わりを迎えるんだろう……。