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リープ彼女 ~死神になった少女~  作者: 現世
第三章 終わらないタイムリープ
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さよならをする理由


「どういうことなんだ? 私たちの知らない何かが、優奈にはわかったということか?」


「空、わかってないのはあんただけさ。梨々花とくじらちゃんは、きっともうわかってるよ」


 そう言いながら顎をくいっと動かし、視線を二人へ向ける。


「私は優奈ちゃんの意志を尊重するだけです。優奈ちゃんがそう決めたのなら、私はもう何も言えません」


「私も優奈の意志を尊重したいとは思うわ。でも……正直、納得できない」


 古海先輩は二人の言葉に首をかしげたが、すぐにハッとした表情を浮かべた。


「優奈……お前、まさか……」


「はい。私はもう、純くんと付き合うつもりはありません。だからメダカちゃんが純くんを呪うこともありません」


 それに対して古海先輩が何かを言おうとした瞬間、メダカちゃんが叫ぶように声を上げ、テーブルから勢いよく立ち上がった。


「えっ……だめですっ! そんなの、そんなのだめです……。私のせいで、二人が……」


 ゆっくりと私に詰め寄ってくるメダカちゃんの瞳からは、大粒の涙がこぼれ、震える唇を伝いながら静かに落ちていく。


「メダカちゃんのせいじゃないよ。私はきっとね、純くんとさよならをする理由を探してたんだ。タイムリープを繰り返せば繰り返すほど、私と純くんの心は離れていくような気がしていたから……」


「そんなことないですっ! だって志和先輩も、倉住先輩のことが本当に大好きで……」


「うん。私だって純くんのことが大好きだよ。でもね、私はもう、純くんが死んでも涙が流れてこなくなっちゃったんだよね」


 メダカちゃんの顔がくしゃりと歪む。唇がわずかに動くが、言葉は出てこない。こぼれ落ちる涙を拭おうともせず、ただ悲痛な瞳で私を見つめているだけだった。


「私の心はもう、普通の人とは違うの。途中からは数えてないけど、四、五十回くらい繰り返したのかな。一回が二年で考えたら、私はもう百年近く高校生活を繰り返してるってことになる」


 あまりにも現実離れしていて、その重さに誰もが息を詰まらせる。


「見た目は変わらないけど、普通の人間だったらもうおばあちゃんだよね。ううん、とっくに寿命で死んでる。そんな私に、純くんと一緒に未来を歩いていく資格はない」


「そんなこと……そんなことありません……」


 涙を飲み込みながら、メダカちゃんは喉を震わせて懸命に言葉を絞り出す。


「それにさ、私はもっと早くに、純くんと付き合わないって選択をすることもできたんだよね。私と付き合うことが、純くんの死の引き金になってるって可能性も考えてたから……」


 何度目かのタイムリープでくじらちゃんに、今ならまだ引き返せるって言われたっけ……。あのときにその選択をしていたら、こんなに長くタイムリープを繰り返すこともなかったんだろうな。


「でも、純くんのそばにいたくて……純くんがほかの女の子と付き合うのは嫌で……結局、私はその選択を試すことができなかった」


 迷いも葛藤も、言葉にした瞬間、まるで重りのように私の胸にのしかかる。『純くんの命を救いたい』それが一番の願いだったのに、その選択をできなかった自分が情けなくて、苦しくて、どうしようもない気持ちで胸がいっぱいになる。


「でもね、さっき話を聞いてて思ったの。もし中学生のときに、ほんの少しの勇気を出せていたら、純くんの隣にいたのは私じゃなくて……メダカちゃんだったんじゃないかって」


 そう言いながら、メダカちゃんと並んでいる純くんを想像した。それは私が願ってきた光景とは違うはずなのに、思ったよりも嫌だという感情が湧いてこない。


「そう思うと、なんだか納得できたの。メダカちゃんになら純くんを託せるって。だって、私も同じだから……。私も純くんの笑った顔が大好きだから」


 私がいなくても、純くんが笑って生きていけるならそれでいい。メダカちゃんならきっと、その笑顔を守ってくれる。


「これで私は、この長いタイムリープを終わらせることができる。ありがとう、全部話してくれて」


 そう言って私が微笑みかけると、メダカちゃんはそれまで我慢していた感情を全て吐き出すように泣き崩れた。


 私の言いたいことは、もう何もない。あとのことは東堂先輩に任せよう。


 そう考えて視線を向けると、東堂先輩は静かに涙を流していた。周囲を見回すと、古海先輩も、くじらちゃんも同じように涙を流し、瀬名さんまでもが薄っすらと目尻に涙を溜めていた。


 どうしたものかと考えていると、東堂先輩の嗚咽を含んだ声が私の耳にスッと入り込んできた。


「優奈、メダカちゃんのことは私に任せて」


 何も言わずとも考えは伝わっていたようなので、私はただ静かに頷き、安心してその場を離れることにした。




 車に戻り、シートに体を沈めると、これまでの緊張が一瞬にして解け、深い悲しみが胸の奥からじわりと押し寄せてきた。その悲しみを内に留めておくことができなくなり、隣に座るくじらちゃんの胸に顔をうずめた。そして声を殺して涙を流した。


 そんな私を見かねた瀬名さんが後ろを振り返り、穏やかな口調で語りかけてくる。


「優奈ちゃん、あたしには優奈ちゃんの悲しみを全部理解してやることはできない。だけどさ、こういうときは思いっきり泣いたほうがスッキリするんじゃないのかい」


「そうだぞ。もうメダカちゃんもいないんだ。後輩の前だからって、かっこつける必要もない」


「バカっ! あんたと一緒にするんじゃないよ」


 運転席と助手席の間から顔を覗かせていた古海先輩は、瀬名さんに軽くはたかれてシートの肩口に鼻をぶつける。そうして痛そうに鼻をさする、滅多に見れない古海先輩の滑稽な姿見ていると、少しだけ心に余裕ができた。


「あはは。いえ、古海先輩の言う通りかもしれません。すべて本心ですし、嘘を言ったつもりはないですけど、そういう気持ちもあったのかもしれません。でも……でもやっぱり、純くんの隣にいられなくなるのが悲しくて、苦しくて……うっ……うぅ……」


 胸の内を話していると、すぐに深い悲しみが舞い戻ってきて、息を呑むほどの苦しさが広がっていく。


 それからしばらくの間、私は溢れ出す感情を抑えようともせず、くじらちゃんの胸の中で小さな子供のように大声を上げて泣き続けた。


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