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リープ彼女 ~死神になった少女~  作者: 現世
第三章 終わらないタイムリープ
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先輩の見栄


 画面に目をやると、日野原くんの名前が表示されている。私はすぐに通話ボタンをスワイプした。


「もしもし、日野原くん?」


「優奈ちゃん、だめだった……。救急車はすぐに来てくれたんだけど、病院に着いたときにはもう……」


「そっか……。連絡してくれてありがとう。じゃあ私は今からやることを済ませたら、すぐに過去に戻ることにするよ」


 メダカちゃんのことは、私の口から日野原くんと月田くんには言わないほうがいいだろう。私が過去に戻ったとしても、この世界は続いていくのかもしれないから。


「病院には来ないのか? 冷たいんだな……いや、わりぃ、当たり前か。過去に戻るなら死に顔なんて見たくないよな」


「うん……。わかってくれてありがとう」


「ああ……純輝のこと、頼むよな! 優奈ちゃんの大事な彼氏だけど、あいつは俺たちにとっても大事な親友なんだ……。頼む、本当に頼む……うぅっ……」


 電話の向こうで咽び泣く日野原くんの嗚咽が途切れる。


「優奈ちゃん、俺からも頼むよ。純輝のこと、必ず助けてやってくれ」


 代わりに聞こえてきた月田くんの声は震えていた。


「うん。私は純くんの命を救うことができるまで、絶対にタイムリープをやめたりしない。約束する、絶対に救ってみせるから。じゃあ、もう切るね」


 電話を切ると、心の中に静かな後悔がじっとりと染み込んでいく。


 間に合わなかった……。もっと早くに純くんのところへ向かっていれば、間に合ったのかな。でも最初に日野原くんから電話があったときに向かっていたら、この力に気がつくことはなかっただろうし……。


「優奈ちゃん、どっちにしろ今回は無理だったさ。ヒーリングの力は万能ってわけじゃない。表面的な傷は今の優奈ちゃんでも治せるだろうけど、内面的な傷は体の内部の臓器をイメージできないと治せないからね。いくら霊力があってもさ」


「そうなんですか?」


「ああ。脳味噌や内臓なんて優奈ちゃんは見たことがないだろう? だから今回の彼氏の傷は、優奈ちゃんには治せなかっただろうさ。何も気に病むことはないよ」


 そう言ってもらえたことで、今回は仕方がなかったんだと、自分の心に折り合いをつけることができた。


 だけど、何かしらの事故に遭ったあとの純くんを救うためには、ヒーリングの力をもっと強力なものにする必要があるということだ。そのためには、霊力以外にも医学の知識が必要なのか……。頑張って勉強しないといけないな。


「よし、じゃあ、メダカちゃんって子のところに話を聞きに行こうか」


 そう言って立ち上がり、帽子をかぶってリビングを出ていこうとする瀬名さんを、古海先輩が慌てて呼び止める。


「ちょっと待て! その格好で行く気か?」


 瀬名さんの服装は、お風呂上りに着替えた上下黒のスウェットのままだ。スウェットにしてはおしゃれなデザインだけど、いい歳をした大人があの格好で行っていいのは、せいぜい近所のコンビニ程度だと私は思う。


「うるさいねー。どうせ過去に戻るんだから服装なんてどうでもいいだろう? 電車に乗るわけでもないしさ」


「どうでもよくない! これから後輩に話を聞きに行くんだぞ! 私の面子も考えてくれよ!」


「それこそどうでもいいだろう? 過去に戻るんだからさ」


 結局、瀬名さんは着替えることなくそのまま玄関へと向かっていき、私たちもすぐにそのあとを追いかけることになった。


 エレベーターを降りて駐車場に到着すると、広々としたスペースの片隅に、周囲の空気を換えてしまうかのような存在感を放つ、一台の高級セダンが静かに佇んでいた。来るときに乗ってきた、古海先輩の自慢の愛車だ。


 その車に全員が乗り込み、駐車場を出ると、瀬名さんはすぐにポケットから煙草とライターを取り出した。


「おい、この車は禁煙だぞ。煙草臭くなるだろ」


「あたしは禁煙にした覚えはないよ。あたしの車なんだから、吸おうが吸わまいがあたしの勝手だろう?」


 古海先輩の制止を無視し、咥えた煙草に火をつける。


「えっ? この車って、古海先輩のって言ってませんでしたっけ? あー、なるほど。高校を卒業したばかりなのに、やけに高そうな車に乗ってるなーと思ったら、実は瀬名さんの車だったんですね」


 私がそう言うと、助手席に座っている瀬名さんは、後ろを振り返って自慢気な顔を見せる。


「なかなかカッコイイだろう? あたしが引きこもってる間、動かさないとエンジンが悪くなっちまうからね。こいつに貸してやってんのさ。それにしても空は、勝手に自分のものってことにして優奈ちゃんたちに自慢してたのかい?」


 その言葉に古海先輩が反論し、東堂先輩も会話に参加して、あーだ、こーだと言い合いが始まった。すると、それまで黙っていたくじらちゃんがぽつりと声を漏らした。


「優奈ちゃんと瀬名さんはともかくとして、先輩たちも普段と変わらない感じですね……」


 悲しみと不機嫌さが入り混じった表情を浮かべるくじらちゃんの肩に、東堂先輩が腕を回し、そっと体を寄せる。


「貴船さん……。もちろん私たちも、志和くんが亡くなってしまってとても悲しいわ。だけど私たちが悲しい顔を見せたら、優奈が落ち込んでしまうでしょう?」


 それを聞いて、ハッとした表情を浮かべて私に振り向く。


「優奈ちゃん、ごめん……」


「謝ることは何もないよ。私は全然平気だから」


「貴船、私たちは霊に関わることが多いから、人の死に慣れてしまってるっていうのもあるんだ。お前みたいになるのが普通だと思うぞ」


「そう言ってもらえると助かります……」


 それからは、くじらちゃんの口数も少しずつ増えいき、まるで純くんの死などなかったかのように、五人で会話を交わしながら目的地を目指す。


「おっ、たしか、あのアパートの中のどれかだったよな」


 瀬名さんの家を出てから十五分ほど車を走らせたところで、目的地である集合住宅が見えてきた。私はすぐにメダカちゃんに電話をかける。呼び出し音が鳴ると、一秒も待たずに電話は繋がった。


「もしもし、メダカちゃん?」


「はい……」


「もうすぐ着くよ。私のほかにくじらちゃんと東堂先輩、それから昨日会った古海先輩と、古海先輩の叔母さんがいるんだけど大丈夫かな?」


「はい……」


 よかった。さっきと違って落ち着いてくれているみたいだ。


「近くにゆっくり話せる場所と、車を駐めておける場所はあるかな?」


「……はい……っ……」


 いや、違った。まだ泣いているみたい。だけど必死に感情を抑えようとしてるんだ。


「ごめんね。もう少し落ち着くまで近くで待ってようか?」


「いえ、大丈夫でず。すびばせん。きちんと話をするために気持ちを落ち着かせていだんでずけど、ついさっき、日野原先輩から電話があって……。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」


 あー、そっか。純くんが死んじゃったことを聞いたんだね。それなら仕方がない。でもどうしよう……。このまま行くべきか、少し時間をおいてから行くべきか……。


 そう考えていると、東堂先輩が私に向かって静かに片手を差し出し、手のひらを上に向けた。目が合うと、その視線からは『私に任せて』という自信を感じる。うん、こういうときはやっぱり東堂先輩に任せるのが一番だ。


「謝らなくても大丈夫だよ。ちょっと東堂先輩に代わるね」


 そう伝えてから、東堂先輩にスマホを手渡した。


「もしもし、メダカちゃん? とりあえず落ち着いてもらうために、私と貴船さんだけで家におじゃまさせてもらってもいいかしら?」


「……ひっく……はい……お願いじます」


 メダカちゃんの了承を得て、部屋の番号を聞いたあと、東堂先輩は軽く返事をして電話を切った。


 駐車場の入り口に到着すると、すぐに車を降りて、くじらちゃんを連れてメダカちゃんの家へと向かっていった。


 二人が角を曲がっていき、姿が見えなくなると、瀬名さんが神妙な面持ちで口を開いた。


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