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リープ彼女 ~死神になった少女~  作者: 現世
第三章 終わらないタイムリープ
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新たな協力者


 店内に一歩足を踏み入れると、さっき私たちが出たときよりもさらに賑わいを増していた。忙しそうに動き回っていたチーフマネージャーの美神(みかみ)さんが、私たちに気づいて足早に向かってくる。


「あら、二人ともおかえり。空ちゃんと梨々花ちゃんはどうしたの? 店長に何か用事?」


「いえ、今日はお茶をしに来ただけです」


 東堂先輩がすぐに返事をする。このカフェの店長と先輩たちは知り合いらしく、美神さんはうちの高校の卒業生だ。お互いにそのことを知ってからは、私とくじらちゃんにも気さくに声をかけてくれるようになっていた。


「そう。ちょっと待たないといけないけどいい? テラス席ならすぐに案内できるけど」


「じゃあ、テラス席で」


 古海先輩が即答した。外は暑いけど、私たちにそれを断る権利はない。


 案内された長方形のテーブルに先輩たちが腰を下ろし、私とくじらちゃんはその向かいに座る。暑さのせいか、ほかに客の姿はない。メニューを決めて注文を終えると、私はさっそく先ほどの除霊について切り出した。


「東堂先輩が霊感が強いっていうのは知ってましたけど、除霊までできるなんて全然知りませんでした。それともしかして、古海先輩も霊感があるんですか?」


 あの男の子を見たとき、東堂先輩に話しかけられた古海先輩は『何か憑いてるな』と言っていた。


「ああ。私と梨々花が幼馴染なのも、それが関係してるからな」


「うちのお父さんと空ちゃんのお父さんは、昔から仕事の関係で交友があるのよ。それで小さいころは空ちゃんが私の家によく来ていたの」


「古海先輩の家も神社とかなんですか?」


 古海先輩は運ばれてきた水をひと口飲んでから私の質問に答える。


「いや、うちは退魔師の家系だ。除霊とか悪霊退治とかを専門にやってるだけだから、家自体は普通の家と変わらんよ」


 そんなこと初めて聞いた。これだけタイムリープを繰り返していても知らないことはまだまだあるんだな……。


 私はさらに質問を重ねる。


「じゃあ、さっきの悪霊は古海先輩にも退治できたんですか?」


「できないこともないが、さっきのは悪霊ってわけじゃないから退治はしないな」


「えっ、でも、あの男の子はちょっと怖い感じになってましたよね。それなのに悪霊じゃないんですか?」


 くじらちゃんが驚いたように少し声を張った。


「貴船さん、霊にもいろいろあってね、動物の霊なんかは基本的に悪い霊じゃないの。寂しいからとか、ただ単に波長が合っただけとか理由は様々だけど、ほとんどの場合は、悪さをしようと思って人間に憑くわけじゃないのよ」


「じゃあ、さっきの霊は……」


「あの男の子の体から追い出しただけよ」


「でも、それじゃあ、また別の人に取り憑いちゃうんじゃないですか」


 退治しなかったということに、くじらちゃんは納得ができない様子だ。


「もちろんお前の言うとおりだ。だが動物霊に取り憑かれるのは、べつに悪いことばかりじゃないんだ」


「いい方向に変わることだってあるのよ。だから私たちは周囲の人に頼まれない限りは祓うことはしないし、動物の霊は基本的に退治はしないの」


 私たちがいまいち納得できていないと感じたのか、古海先輩が少し例をあげてくれる。


「たとえばな、取り憑かれたおかげで引きこもってたやつが社会復帰したりとか、いじめられなくなったりとか、恋人ができたりとか、そんなこともあり得るんだよ。それにずっと憑いているわけじゃないしな」


「そうなの。早ければ数日、長くても数年で勝手に離れていくわ」


 なるほど、それなら退治しないほうがいいのかもしれない。でも……。


 私は率直な疑問を投げかける。


「取り憑かれたことが命に関わることはないんですか?」


「そりゃあ、それが原因で死んじまうこともあるさ。しかし、こればっかりは憑かれてみないとわからないしな……」


「そうね……」


 あるんだ……。だったらやっぱり、純くんの死に霊的な何かが関係している可能性も否定できない。それなら先輩たちに、純くんのことを話してみるべきだ。


「あの……先輩、私の相談に乗ってもらえませんか?」


「ん? どうした? 何かあったのか?」


「私たちにできることなら何でも相談に乗るわよ」


 どこから話すべきか……。


「実は……純くんが死んでしまうんです」


「……病気なのか?」


「いえ……」


「このタイミングで私たちに相談するってことは、霊的な何かが関係してるということかしら?」


「それもわかりません」


 先輩たちの困惑の表情が次第に濃くなっていく。


 信じてもらえないかもしれないけど、純くんのことを説明するにはタイムリープのことを話すしかない。


「詳しく話すと長くなるので、今ここでは簡単にしか話せないんですけど、私は純くんの命を救うために過去を繰り返してるんです」


「なるほどな……タイムリープってやつか」


「繰り返してるってことは、一回や二回じゃないのね?」


 まるで疑う素振りを見せずに先輩たちはそう言った。


「……信じてくれるんですか?」


「なんだ、嘘なのか? そんなわけないよな?」


「ええ、優奈が私たちにそんな嘘をつくはずがないわ。それに私たちはタイムリープの存在を否定することはできないもの」


 もう遠い過去になってしまったけど、最初のタイムリープのときに出会った、タクシーのお姉さんとの出来事を思い出した。

 お姉さんも何か普通じゃない経験をしていたから、私がタイムリープをしていることに気がついた。先輩たちもお姉さんと同じなんだ。

 

「それで私たちは何をすればいいんだ?」


 私はできるだけ要点をまとめて、前回までのタイムリープのことを話した。

 すべて話し終わると先輩たちは、霊能者の目線で純くんの死についての意見を述べる。


「優奈の行動で死ぬ時期が変わるっていうなら、悪霊に取り憑かれたって可能性は低いよな」


「そうね。霊的な可能性を考えるなら、どちらかというと呪いとかカルマとか、そういう類いの可能性があるかもしれない。でも私が志和くんに最後に会ったのは夏休み前だけど、そのときに何か悪いものが憑いてたようには見えなかったわ」


 呪いと聞いて、私は日野原くんの顔が頭の中に浮かび上がった。日野原くんは純くんと私を見送るときに、いつも呪われろと言ってくる。いや、でも、まさか……。


「あの、さっき話した中にも出てきた、純くんの幼馴染の日野原くんが、よく別れ際に呪われろって言ってくるんですけど……」


「うーん、それはただの冗談なんじゃないか?」


「そうね。本当に呪うような人は、本人に直接そんなこと言わないと思うもの」


 そうだよね。日野原くんが純くんのことを呪ったりするわけがない。


「呪われてたら、本人に自覚とかはないんですか?」


 それまで黙って話を聞いていたくじらちゃんが、ぽつりと尋ねた。


「ある場合と、ない場合があるわね。でも呪いの場合だったら、私たちなら事前に気づけると思うわ」


「そうなんですか?」


「ああ、呪いってのは、普通は徐々に浸食してくるもんなんだ。発動してからすぐ死ぬなんてことは、よっぽど強力な呪術者じゃないと無理だな」


「じゃあ、もし純くんを呪ってる人がいるとして、相手がすごい人だったら先輩たちでも……」


 もし原因が霊的なものだった場合、先輩たちで無理ならどうしたら……。


「その可能性は低いけど、そのときは今回で志和くんを救うのは難しいわね」


「そうですか……」


「そんな顔しないで。“今回で“って言ったでしょ。それにまずは霊的な原因かどうかを調べるのが先よ」


「そうですね」


 できれば霊的な原因であってほしい。何も手掛かりがないよりも、そのほうが純くんの命を早く救うことができそうだから。


「一度、志和くんのことをじっくり()てみる必要があるわね。できれば一応、日野原くんのことも視ておきたいわ」


「そうだな。やつらが今日一緒にいるなら、今から呼べないか?」


 純くんは今日、日野原くんの家に行くと言っていた。


「わかりました。まだ一緒にいると思うので、連絡してみます」


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