告白した日➁
先輩たちに呼ばれたあとに、何の話だったのかと聞いてくる優奈をはぐらかして、告白の前置きが始まったと僕は記憶している。
現在の状況もそうなるはずだと思っていたんだけど……優奈は僕に話しかけてくることもせず、帰宅の準備を始めていた。
今日の優奈は僕の記憶とは違う行動をしてる気がするけど、きっと僕の記憶が間違ってるんだろう。人間の記憶なんて絶対に合っているとは限らないし。
今ひとつ腑に落ちない気持ちを抑え込み、優奈に人生で二度目の告白をすることを僕は決意した。
「倉住さん、少しだけ時間あるかな?」
帰宅準備をしている手が止まり、優奈が僕に背を向けたまま数秒の沈黙が流れる。そして、僕のほうに振り返ることもせずに重々しい声で返事をする。
「どうしたの?」
記憶とは違う状況に、告白の返事はOKだと分かっているにも関わらず、心臓がまるで警報のように激しく鼓動し始めた。
「今まで黙っていたけど、入学する前に僕は倉住さんに会ったことがあるんだ」
「うん……」
あのときも同じ返しだったと思う。バスの中でのことを思い出して少し照れていたんだっけ。あ、照れているからこっちを振り向けないのか。
「倉住さんは覚えているか分からないけど、バスで僕の隣に座った倉住さんが眠っちゃって……」
「うん……」
うん? このときの返事は『私も覚えてる』だったはずだ。これも僕の記憶違いかな?
このあとに、二人でバスの中でのことを笑いながら話してたら、いつの間にか自然と自分の気持ちを伝えることができた、と思っていたんだけど……どうするべきか。
「覚えてないかな?」
このまま告白してしまおうかとも考えたけど、あのときと同じ流れにしようと思って、優奈から覚えているという言葉を引き出すことにした。
「ごめんなさい……」
???
覚えて……ない? いやいや、それはありえない。きっと照れているだけだ。
「いや、まあ、とにかく……僕はその日、倉住さんに恋をしました。図書委員の仕事を頑張っていたのも、早くひとり立ちできれば倉住さんと一緒の当番になれるかもしれないと思って……」
優奈は僕に背中を向けたまま、肩を震わせるだけで何も言わない。
「他にもいろいろ伝えたいことはあるけど……あの日からずっと倉住さんのことが好きだったんだ。僕と付き合ってほしい」
本来の予定とは全然違うけど、なんとか告白をすることはできた。あとは優奈が頷くのみ。
「ごめん……なさい」
え……??? なんで……???
「志和くんとは……付き合え……ない……。本当に……ごめんなさい」
震える声を抑えるように告げる優奈の言葉に、体が凍り付いたように動かなくなり、周囲の音も風景も全てが遠のいていくような感覚に襲われた。
そんな僕の方を振り向くこともせずに、優奈はカバンを手に取って走り去る。ちらりと見えた横顔には涙が流れていた――