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リープ彼女 ~死神になった少女~  作者: 夢幻 現世
序章 リアルな夢
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告白した日


 図書室から出ようと考えたときに、そろそろ次の走馬灯に移動するんじゃないかと予想していたので驚きはない。

 先輩たちのおかげで、沈んだ気持ちからも少し立ち直ることができた。


 こんな不思議な体験をしているくらいだから、現実世界の僕はもうだめなのかもしれない。死んでしまうかもしれないなら、最後にこのリアルな走馬灯の世界を満喫させてもらうことにしよう。


 そう決意をした僕はまず、現在の状況を確認することにした。目の前に備え付けてあるデジタル時計に表示されている日付は7月16日。

 日付を見た瞬間にピンときた。この日は優奈と付き合うことになった日だ。おせっかいな先輩たちのおかげで。


 先輩たちがくれた映画のチケットがきっかけで『春休みにバスの中で初めて出会った日からずっと好きだった』と、僕は思いを告げることができた。

 優奈もあの日のことを覚えてくれていて『入学後しばらくしてから僕のことがずっと気になっていた』と、返事をしてくれた。


 時刻はもうすぐ午後五時で、放課後の図書室を閉める時間。二人の生徒が本を借りずに図書室を出ていったところで、古海先輩が集合をかける。


「よ~し、倉住もあとは明日の昼当番の仕事にしていいからこっちにおいで~」


 僕が座っている貸し出しカウンターの前に、図書室に残っていた古海先輩と東堂先輩、優奈の三人が集まる。


「先週、うちの父さんが映画のチケットを四枚くれてな、この間の休みに梨々花(りりか)と二人で観に行ってきたんだ」


「とっても面白い映画だったわよ」


 懐かしい会話だな。今後の展開を知っている僕としては、古海先輩の話し方がとても芝居がかって見えて笑いが込み上げてくる。まあ、本当に芝居だったんだけど。


「梨々花ったらもう、わんわん泣いちゃってさ」


「わんわん泣いていたのは(そら)ちゃんでしょ。私は静かに涙を流していたわ」


 事実をバラされた古海先輩の顔が少し赤くなる。この光景も懐かしい。


「まあ、と・に・か・く! それだけ面白くて泣ける映画だったってことだ!」


「ジャジャジャジャーン! ここで二人にいいお知らせで~す」


 古海先輩がカバンから映画のチケットが入った封筒を取り出す。


「未経験者の中でも図書委員会の仕事をいち早く覚え、私たちに多大な貢献をしてくれたお主らに、二枚余ったこの映画のチケットを一枚ずつ進呈してたもろう~!」

「わ~パチパチ~」


 当時は、ただただ呆然としていただけだったけど、大根役者な先輩たちの意味不明な語尾と棒読みに思わず吹き出しそうになる。込み上げてくる笑いを抑えながら先輩たちに感謝を伝えつつ、精一杯の笑みを浮かべてチケットを受け取った。


 先にチケットを受け取った僕が優奈のほうにそっと視線を移すと、優奈は感情を押し殺したような声で感謝の言葉を述べ、喜びを感じさせない顔で静かにチケットを受け取った。


 あれ? このときの優奈ってこんな感じだったっけ? もっと喜んでいたような……。


「一人で観に行くも、二人で観に行くも主らの自由であるからにして」


「イヤーン! 二人で観に行ったらまるでデートみたいじゃな~い! 映画のあとは二人で近くの公園に行っ――」


 変なスイッチが入ってしまった東堂先輩の頭を、古海先輩がぺしっと叩く。


「じゃあ、用件も済んだし私たちは先に帰るぞ」


「戸締り忘れないでね~」


 二人は満足した表情で図書室の入口へと向かって歩き去る。そして廊下に一歩出たところで、古海先輩が僕を呼んだ。


「志和~、ちょっとこい」


 何を言われたかは何となく覚えている。


「志和、夏休みは長いぞ」


「志和くん、頑張ってね」


 近くまで駆け寄った僕にそれだけ言い残し、今度こそ二人は去っていった。


 そう、この日の二人の行動はすべて、僕が優奈に告白するためのお膳立てだったのである。当時の僕でも、この時点で既にそのことに気づいていた。

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