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我が家に子犬がやって来た!  作者: もも野はち助
【我が家の元愛犬】

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81/90

81.我が家の元愛犬は元飼い主に庇われる

 フィリアナと共にパルマンのもとに向かったアルスだが、部屋の前でパルマンの見張りをしている騎士二名に止められてしまう。


「アルフレイス殿下……その、パルマン殿への面会は……」

「分かっている。パルマンが俺との面会だけは拒否しているのは……。だが、今回は火急を要する問題が起こっている為、例外としてパルマンと話をしたい。この責任は全て俺が持つ。だから扉を開けろ」

「しかし……セルクレイス殿下より、アルフレイス殿下は中に入れぬようにと……」

「その兄上が今、危機的状況なのだ! その状況を打破する為にどうしてもパルマンの力を借りたい! 頼む……。中に入れてくれ……」


 この二週間、アルスは自分の所為で尋問に応じなくなったパルマンを説得する為、この部屋に足繁く通っていたからか、見張りの騎士達とは顔なじみになってしまっているらしい。そんな騎士二名は、現状のアルスが、いつもと様子が違う事に気付き、互いに顔を見合わせた後、深く頷いた。


「かしこまりました……。ですが、またパルマン殿が騒ぎ立てるような状況になれば、すぐに面会は中断して頂きます。それでもよろしいでしょうか……」

「ああ。構わない。頼む……」


 すると、騎士の一人がパルマンの監禁されている部屋の扉の鍵を開ける。


「どうぞ」

「ああ。助かる」


 そう言ってアルスと一緒にフィリアナが室内に入ると、読んでいた本から顔をあげ、驚いたような表情を浮かべたパルマンと目があった。だが、すぐにその表情は怒りと不快を表すものへと変わった。


「アルフレイス殿下、どういうおつもりですか? 確か私はセルクレイス殿下にあなたとだけは、面会をしたくないとお願い申し上げているはずなのですが?」

「分かっている。俺もお前の許しを得るまでは、無理強いするつもりはなかった……。だが、今は急を要する為、見張りの者達に無理を言って中に入れて貰った」

「急を要する? そちらの都合で? 流石、暴君の血を濃く受け継がれていらっしゃいますね。私にあのような仕打ちをしておきながら、平然と約束まで破るとは……」


 初対面のオドオドした印象を削ぎ落したかのようなパルマンが、チクチクとアルスを責め立てる。その様子にフィリアナが、不快そうに眉を顰めた。だが、当のアルスは、何故かその嫌味の嵐に耐えるように静かに言葉を交わす。


「確かに俺は……かなり酷いやり方でお前に属性魔法の検査をさせてしまった……。だが、お前の母親の名誉を傷つけるつもりなんてなかった……」

「つもりはなかった? 私があの検査に応じたのは、検査用の水晶が他二名の容疑が掛かっていた方々と同じ物だと伺ったから、応じたのです! ご聡明な殿下方であれば、もうご理解頂けているはずですよね!? 私は、あの検査で自分の中に闇属性魔法が使える資質がある事を明るみにしたくはなかった事を! あの力は……私の母が、あなた方の祖父である前国王陛下に女生としての尊厳を酷く踏みにじられた証のようなものなのです……。その所為で母は40年程前から、まるで少女のような純粋無垢な精神年齢まで退行するような心の壊し方をしたのです!」


 そのパルマンの訴えにアルスがビクリと肩を震わせる。


「母は……私の事はもちろん、先に出産していた兄二名の事も自身の子供だと理解しておりません……。幼少期に同じ邸内で会っても、父が預かっている親戚の子供という認識で……優しくして貰えましたが、他人行儀な接し方しかしてもらえませんでした……。私のこの力は……母が汚された証なのですよ!! だから私は……この力を今までひた隠しにしてきたのです!! それなのにあなたは……!」


 一方的にアルスを責め立てたパルマンは、怒りをぶつけるように自身の目の前の机に両拳を勢いよく叩きつけた。そんな怒りをぶつけられたアルスは、反論するどころか後ろめたそうな雰囲気で謝罪を口にした。


「本当にすまない……。あの時の俺は、お前の母親の事情を知らなかったとは言え、検査を強要させる為にその引き合いとしてお前の母を交渉材料に使ってしまった……」

「交渉材料? 脅迫材料の間違いではありませんか? あの時、殿下が私にされた仕打ちは、あなたのおじい様に完膚なきまでに心を壊された母の名誉を更に傷付ける行為だ! 殿下は……私がこの40年近く必死に隠し通して来た自身の中にある母の不名誉な証を人前で暴いたのですよ!?」

「本当にすまない! だが! だが……俺も自分の守りたい物を守る為に必死だったんだ! パルマン、あの時、お前に掛けられていた容疑は、闇属性魔法の悪用で魔獣を城に襲撃させたという疑いじゃない! あの時、お前に掛けられていた容疑は……15年以上に渡って行われていた王太子、ならびに第二王子の暗殺未遂容疑だ!」


 その瞬間、パルマンが驚きから大きく目を見開く。


「どういう……事ですか? そもそも何故、闇属性魔法持ちというだけで、そんな容疑が……」


 そう言いかけたパルマンが、ハッと何かに気付いたように息を詰まらせる。


「王位継承権の略奪……」

「そうだ……。15年以上に渡って俺達の命を狙っていた人物は、お前と同じ境遇の……前王オルストの被害に遭った女性が出産した直系のリートフラム王家の血を引く人間だ……。もちろん、その可能性は俺が生まれる前から兄上が命を狙われていたので、ずっと囁かれていた事だが……。以前お前がラテール邸に国宝の転移効果のある魔道具を設置しに来た際、まだ犬の姿だった俺は、その数日前に何者かによって魔法封じの闇属性魔法攻撃を受けてしまっていた……。そこでやっと犯人が、王家の直系の血を引くだけでなく、闇属性魔法保有者だという事が判明した……」

「だから殿下は、あんな横暴なやり方で私の属性魔法の確認を……」

「…………」


 アルスの話を聞いたパルマンから、少しだけ刺々しい雰囲気が和らぐ。

 しかし、そんな事情があったとしてもパルマンの怒りは収まらなかったらしい。


「だからと言って……あのように私の中にある母の不名誉な証を暴く必要はありましたか? そもそも、殿下はあの時に使用した検査用の水晶は、他二名と同じ物だと言っていたではありませんか! だが蓋を開けたら違っていた……」

「違う! あれは本当に同じ水晶だと思っていたんだ! まさかその後、すり替えられていたなんて……そんなの気付かないに決まっているじゃないか!」

「よく確認もしないで安易にあの水晶で検査をさせたのは殿下です! 殿下は……この40年間、私がどれほどこの力を忌まわしく思い、必死で隠して来たか、その気持ちが理解できますか!? 私は生まれてこの方、母に息子として接して貰うどころか抱きしめられた頃もありません……。それどころか、母は時折、成長後の私の姿に酷く怯え、発狂しかける事もあるのです!! 実の母親に……そのような反応をされてしまうお気持ちが殿下に分かりますか!? この40年間、母親にとって忌々しい存在だと思われ、脅威さえ抱かれてしまっている私の気持ちがっ!!」

「…………っ!」


 烈火のごとく怒りを爆発させてきたパルマンの言い分にアルスが言葉を詰まらせる。アルスは自身の祖父が犯した罪が重すぎて、反論する事が出来なかったのだ。


 しかし、次の瞬間――――。

 そのやり取りを隣で傍観していたフィリアナが、怒りを爆発させながら大声で叫ぶ。


「いい加減にして!! 黙って聞いていれば……さっきから、ずっと自分は物凄く不幸な境遇みたいな事ばかりを主張して……。パルマン様が不幸過ぎるというのであれば、アルスやリオレス陛下達はどうなるの!?」

「フィー……?」


 突如、怒りを爆発させたフィリアナにアルスとパルマンが唖然とした表情を浮かべる。そんな二人の反応になどお構いなしにフィリアナは、更に怒りを爆発させていった。


「パルマン様のお母様が前王陛下に酷い事をされ、あなたを無理矢理身籠らされ、心を壊してしまった事は本当に酷過ぎる出来事だったと思います……。でもそれは、現国であるリオレス陛下やクレオス公爵閣下も同じ状況だという事には気づかれないのですか!? 前王妃セレンティア様は当時、相思相愛だったご婚約者様と挙式間近な時に前王陛下の目に止まり、あなたのお母様と同じ目に遭われたそうです……。しかも妻にならなければ、そのご婚約者様の家を取り潰すと脅され、無理矢理リオレス陛下を身籠されたお話は、多くの歴史書に記されているので国内では有名なお話ですよね!?」

「それは……」

「リオレス陛下もあなたと同じように、ずっとご自身の存在を責めていたと思います……。自分には母親が憎んでやまない人間の血が流れていると……。自分は、そんな人間に母親が汚された証のような存在だと……。それでも前王妃様は、リオレス陛下とクレオス公爵閣下に惜しみなく愛情を注いでくださったそうです……。ですが、前王妃様はリオレス陛下が11歳の時にお亡くなりになられました……。リオレス陛下の実の父親である前国王陛下の手によって、バルコニーから突き落とされて!」


 そのフィリアナの話にパルマンだけでなく、アルスもビクリと肩を震わせた。


「パルマン様のお母様が前国王陛下の所為で心を病まれてしまった事は、私も同じ女性なので自身がそんな目に遭ってしまったら、もう生きていたくないと思うくらいショックを受けてしまうと思います……。それだけ目をそむけたくなる程の酷い目に遭われてしまったのですから、同情の念しか抱けません……。ですが……それでもパルマン様のお母様は今でもご健在でいらっしゃいますよね?」


 そのフィリアナの一言でパルマンが驚くような表情を浮かべた。


「酷く心を壊されてしまってはいるけれど、命までは奪われていない……。ですが、リオレス陛下やクレオス公爵閣下の場合は? お二人は……無体な真似をした人間に無理矢理自分達を身籠らされても、惜しみなく愛情を注いで育ててくださった王妃様を僅か11歳と7歳で亡くされているのです……。しかも、その元凶でもある父親の前国王陛下の手によって! それでもお二人は……決して許せない父である前国王陛下から引き継いだこの国を……。母である王妃様が大切に守られてきたこの国を今でも必死で守り続けているんです!」


 そう訴えたフィリアナは、まるでパルマンを責め立てるように目の前のテーブルに勢いよく両手を突く。すると、パルマンがフィリアナの気迫に圧され、怯えたような表情をしながらビクリと全身を強張らせた。そんなパルマンを射貫くように睨みつけるフィリアナだが……その瞳からは、いつの間にか大粒の涙がボタボタと零れていた。


「あ、あなたはさっきから自分とお母様が不幸だと言い張っているけれど……。そうしたら、リオレス陛下とクレオス公爵閣下は、どうなるの!? あなた以上に前国王陛下の所為で酷い目に遭っているのよ!? しかもそれは、あの暴君がいなくなってからも続いている! リオレス陛下なんて……今でもあの暴君の所為で、自分の息子達が、ずっと命を狙われ続けているの……。アルスなんて……生まれた頃から、ずっと今まで命を狙われ続けた挙句、7年間も犬の姿で生活をさせられたのよ!? 生まれてすらいなかった時におじい様が犯した非道な行いのせいで……アルスはまだ14年間しか生きていないのに、その人生をもう滅茶苦茶にされているんだからぁぁぁー!」


 そう叫んだフィリアナはテーブルの上に片膝を乗り上げ、襲い掛かるようにポカポカとパルマンを殴り始めた。

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