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我が家に子犬がやって来た!  作者: もも野はち助
【我が家の元愛犬】

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79/90

79.我が家の元愛犬は今は余裕がない

「それじゃあ、アルスは私を助けに来てくれる前にリオレス陛下と闘っていたの!?」

「ああ……」

「そ、そんな疲れた状態なのに私を攫った人達をあんな一瞬で全員倒しちゃったの!?」

「あいつらなんて父上と比べたら、地面は這う小さな虫程度だぞ? そもそも父上の強さは異常過ぎるんだ……」


 悔しいのか、それとも面白くないからなのか……。

 やや不貞腐れ気味で呟いたアルスだが、フィリアナにしてみればアルスの強さも異常過ぎると思ってしまった。


 そんなフィリアナ達は、現在アルスが乗ってきた駿馬で城内の会場に向かっていた。フィリアナが監禁されていた礼拝堂だが、城の敷地内にあるとはいえ、その場所は徒歩だと城から20分以上も掛かってしまう場所にあった。その為、アルスは一刻を争う事態でもあった為、前回乗った黒毛の駿馬で助けに来てくれたようだ。現在は、その駿馬に乗りながら城に戻っている最中で、その後ろをフィリアナの居場所をアルスに伝えてくれていたレイが続いている。


 そのレイだが、フィリアナが礼拝堂で監禁されている間に外にいた見張りを5人ほど、雷属性魔法で戦闘不能状態に追い込んでくれていたようで、アルスが駆けつけた際はスムーズに奇襲をかけられたそうだ。お礼に後で、たくさんブラッシングをしてあげようとフィリアナが口にした際、アルスが「その前に俺のブラッシングが先だろ!?」と主張してきたので、内心困っている。


 そんな二人だが、このまま会場に戻る事に対して互いに不安を抱いていた。

 何故なら今から戻る会場には、闇属性魔法で精神的を操られてしまっている国王リオレスが、未だに暴走している可能性が高いからだ。


 もし未だにリオレスの闇属性魔法が解かれていなければ、それを抑え込んでいるセルクレイス達の負担は相当のものだろう……。特にセルクレイスは、アルスがフィリアナを救助するまでのこの30分だけでなく、その20分前からリオレスと交戦しているので、体力面でそろそろ限界が近いはずだ。


 そして途中参戦のルゼリアだが、いくら凶暴な魔獣が多い辺境伯領で鍛え抜かれた魔法剣の使い手とはいえ、一撃が重い国王リオレスの相手を30分以上も続ける状況は、かなり苦しいと思われる。


 そうなれば一刻も早くリオレスにかけられた闇属性魔法の解呪が望まれる。しかし、その為には術者であるラッセル自身にしか解呪してもらうしかないのだ。

 だが、もしラッセルがその解呪を拒否したきた場合……あとは最悪な方法で解呪を試みるしかなくなる。


 術者であるラッセルの死……。

 あるいは対象者であるリオレスの死……。

 そのどちらかでしか、リオレスの暴走は止められない。


 だが二人は、ラッセルがそう簡単に解呪に応じるとは思えなかった。

 ラッセルが解呪に応じるという事は、自身が闇属性魔法の使い手である事が明るみになるだけでなく、国王リオレスを操って息子殺しをさせるような術をかけた事を認める形になってしまうからだ。


 そんな自身が犯人だと自白するような真似をするくらいなら、術者は自分ではないと言い張り、暴走したリオレスに息子殺しをさせ、現状のリートフラム王家の血が絶えるのを待つ方が得策である。恐らくラッセルは、今回リオレスに闇属性魔法を使うと決めた段階で、この展開を考慮していたはずだ。


 ラッセルにとって最高の展開は、国王リオレスによって王太子セルクレイスと第二王子アルフレイスが命を落とす事だ……。そうなれば王位継承権は自分の息子に移るだけでなく、息子を手にかけた国王リオレスの評判も地に落ちる為、息子が王位についた際、統治しやすい状態からスタートを切る事が出来る。


 逆にリオレスの暴走を止める為に自身が殺されたとしてもラッセルには、生への執着などないだろう。すでに王族の暗殺を企てた時点で反逆罪で処刑されるか、あるいは生涯獄中生活を強いられ、一生『反逆者』という肩書きが付きまとう絶望的な未来が待っているだけだ。


 そんなラッセルを取り巻く状況に薄々気づいている二人だったが……。出来れば自分達が戻る前にラッセルによって、リオレスの闇属性魔法が解呪されている状況であって欲しいと願わずにはいられなかった。


 しかし、現実はそんなに甘くはない……。

 二人が会場に戻ると、未だに王太子セルクレイスとその婚約者のルゼリアが、国王リオレスを抑え込む為、対峙していたのだ。


 しかも二人とも限界が近いようで、かなり息を切らしている……。

 それでも見た目は全くの無傷状態を保っているところは流石である。もし二人が目に見える傷を負ってしまえば、折角セルクレイスが来賓達に余興だと思わせた事が、全て無駄になってしまう。


 だが、二人が無傷でやり過ごせている状況もそろそろ限界が近いようだ。

 そんな状況で城に戻った二人がシークから受けた報告は、ラッセルの身柄は拘束したが、解呪に応じるどころか自身は闇属性魔法など使えないと言い張る予想通りの展開だった。


 その報告を聞いたアルスは、魔王のような形相で「ならば俺があいつを殺して、この茶番を終わらせてやる!」と、ラッセルを拘束している部屋に乗り込もうとし始める。そんなアルスをフィリアナとシークが、二人がかりで止めに入っていると、前方から疲れ果てた様子の兄ロアルドが二人のもとにやって来た。


「お前達……こんな状況で何を遊んでいるんだ……」

「遊んでなどいない! ラッセルのバカがふざけた事を抜かしているから、俺が息の根を止めてやろうとしているだけだ!」

「兄様! アルスを止めて!」

「どうして殿下は、地頭はいいのにそんなに考えが安直なんですか!」


 必死でアルスを羽交締めにしている妹達の様子にロアルドは、げっそりした状態でボソリと呟く。


「やはり三人で遊んでいるじゃないか……」

「「「遊んでないっ!!」」」


 三人から同時に反論されたロアルドだが、今はそのツッコミを拾う気力がない程、疲れ果てているようだ。


「冗談はさておき……。シーク様から報告は受けたと思うが、現状はかなりまずい状況だぞ? セルクレイス殿下とルゼリア様の限界が近いだけでなく、会場の安全確保を行っている僕らの魔力も尽き欠けている……。逆に来賓は、この緊迫した接戦に未だに盛り上がりを見せているが……。主催者側は皆、限界に近い状況なんだ……」


 ぐったりしながら嘆くロアルドは、やや虚な目をシークに向ける。


「シーク様……。ラッセル宰相閣下は未だに闇属性魔法の解呪に応じてくださいませんか……?」

「応じるも何も……『自分は闇属性魔法など使えない』の一点張りだ……」


 その返答を聞いたロアルドが、絶望するようにガクリと肩を落とす。

 そんなロアルドの反応を見たアルスは、再び目を据わらせる。


「やはり俺があいつを()るしかないな……」

「殿下、何でもすぐに殺そうとするのはおやめください……」

「ならば他に方法があるのか!? 無いだろう!? だったら俺が()るしかないじゃないか!」

「闇属性魔法の使い手である事が証明されてもいないのに処罰出来るわけないじゃないですか! 宰相閣下もその辺りを計算して、このような方法をとられているのですよ! 何で殿下は頭の回転は無駄に速いのに、そんな事も分からないんですかっ!」

「シーク! 今、俺の事をバカにしただろう!? 明らかに不敬だぞ!?」

「ご安心ください。俺は、いつでもアルフレイス殿下の事はバカにしております」

「お前……」


 そんなやり取りをアルスとシークがしていると、中庭の方から盛大な爆風が巻き起こる。すると、ロアルドが慌てて来賓達の観戦を妨げないように地属性魔法で防御壁を展開させた。そんな疲弊した様子の兄にフィリアナが、心配そうに声を掛けた。


「兄様……大丈夫?」

「大丈夫じゃない……。だが、父上はもう完全に魔力切れを起こしてしまって、今は少しでも早く魔力を回復させる為に休んでいるから、ここは僕と上位の宮廷魔道士達で踏ん張るしかないんだ……」


 再びガクリと肩を落としたロアルドの嘆きで、フィリアナ達が思っている以上に深刻な状況に陥っているという事が伝わってくる。


「冗談ではなく本気でラッセルを何とかしないと、まずいな……」


 そのアルスの呟きにフィリアナがビクリと全身を強張らせる。


「ダメ……ダメだよ!! もうアルスは人を傷付けないで!」

「フィー……。ごめんな? こんな暴力的な婚約者、嫌だよな……」

「違う!! そういう意味で言ってるのではないの! 私がアルスに人を傷付けて欲しくないのは……その度にアルスが罪悪感を抱いて苦しんでいるからだよ!!」


 そのフィリアナの言い分にアルスが、驚くような表情を浮かべる。


「そんな事はないぞ? 俺はその事はかなり割り切って考え……」

「そんなの嘘だよ! だって……さっき私を攫った人達にあんなにも容赦のない攻撃をしたのに、いざその人達が命を落とす状況になったら、風属性魔法で助けようとしていたじゃない!! アルスは自分では気が付いていないかもしれないけれど……誰よりも命の重さを知っているんだよ!!」


 そう主張するフィリアナにアルスが一瞬だけ呆けたような表情を浮かべた後、何かを堪えるように深く息を吐く。


「そうだな……。確かに俺は物心つく前から命を狙われていたし。ルインの事もあったから、誰よりも命の重さを知っているとは思う……。だがその分、拾えずに見捨てなければならない命がどうしても出てしまう事も知っている……。今回の場合、ラッセル自身も父上を操るような術を掛ければ、自身の命と父上の命が天秤にかけられた時、自分の命はあっさりと切り捨てられると分かっていて、こんな策に出たのだろう……」


 そう口にしたアルスは一瞬、どこかラッセルを憐れむ様な表情を浮かべた。

 だが次の瞬間、何かを決意したような強い光を瞳に宿し出す。


「だからといって、あいつの思い通りの展開になんて絶対にさせない! あいつが罪を犯し、自分の命を捨ててまで息子を王位に就かせたいというのであれば、俺はあいつを殺し、自分の手を汚してでも父上の王位と兄上の王位継承権を死守してやる!」


 そう言い切ったアルスは、何かを吹っ切ったように会場の出口に向かって歩き出した。


「ま、待って! アルス!」


 そんなアルスのマントをフィリアナが慌てて掴む。


「フィー……悪いが、もう決めた事だ……。父上に息子殺しをさせるわけにいかない……。それを回避するには、もうラッセルを殺す事で解呪を行うしかないんだ……」

「でも……でも! もう少しよく考えれば、他にも解呪の方法が――――」

「そんな方法を探している間に俺は父上と兄上の両方を失ってしまう!!」


 かなり余裕のない追い込まれた状態だったからなのか……。

 その瞬間、アルスはマントを掴んでいたフィリアナの手を勢いよく振り払い、初めてフィリアナの事を大声で怒鳴りつけてしまった。

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