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我が家に子犬がやって来た!  作者: もも野はち助
【我が家の元愛犬】

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77/90

77.我が家の元愛犬は盛大に魔法を放つ

 まさか国王リオレスまでも狙われていたとは思わなかったフィリアナが、青い顔をしながらその詳細をアルスに問いただす。


「ど、どういう事!? だってリオレス陛下は、もう王位を継承されていて次期国王候補ではないのだから、命を狙われるのはおかしいでしょう!?」


 両腕を掴まれ、体を激しく揺すられながら問われたアルスは、一端フィリアナを落ち着かせようと、掴まれた両腕をフィリアナの手から一気に引き抜き、そのままその両手を握る。


「落ち着け! フィー! 確かに父上が大変な事になってはいるが……命を狙われているとかではない! むしろ……父上の方が俺達の命を奪おうとしてきているんだ!」


 そのアルスの話が全く理解出来なかったフィリアナが一瞬ポカンとした後、再びアルスの両腕を掴みかかる。


「な、何でそんな事になっているの!?」

「俺にも詳しくは分からない……。だが今、会場では暴走した父上が大暴れしている……」

「暴走……? そ、それってもしかして……」

「ああ。恐らく闇属性魔法の影響だと思う……」


 そう返して来たアルスの表情は、今まで見た中で一番不安そうな表情だった。

 そんなアルスの様子が心配になったフィリアナは、掴んでいた両腕を下に滑らせ、そのままアルスの両手を握り占める。


「アルス……。私が会場を出てから一体、何があったの……?」


 心配そうに上目遣いで自分の顔を覗き込んできたフィリアナに先程まで無敵状態だったアルスが、急に弱々しい様子を見せ始める。

 そんなアルスは、少し前に会場で起こってしまった出来事をフィリアナに語る為、振り返り始めた。




 まずアルスは同年代の令息や令嬢達に群がられていた際、はぐれてしまったフィリアナがエレノーラと共に会場を出て行く姿に気付き、追いかけようとしていた。


 しかし約一名、かなりしつこくアルスの足止めをしていた令嬢がいた為、なかなかその輪から抜け出せなかったのだ。その令嬢は侯爵令嬢でリリティアと名乗っていたが、派手な金髪の巻き髪という印象しかなく、顔立ちまでは記憶に残っていない。


 だがリリティアは、かなりしつこく足止めをしてきた上、故意にアルスからフィリアナを引き離す動きを見せたので、アルスはエレノーラよりもこの令嬢を怪しいと疑い、探りを入れようとしばらく様子を見る事にしたのだ。


 しかし、エレノーラと共に会場を出てしまったフィリアナの事も気になっていた。だが、フィリアナには長らく専属で付けていた王家の影のイーヴァと、自身の聖魔獣のレイを付けていた為、もし何かあればすぐにどちらかが対処してくれるだろうとも思っていた。


 その為、まずは怪し過ぎる付きまといをしてくるリリティアの動向を探ろうとしたのだが……。何とリリティアは、フィリアナだけでなく、アルスとの交流を図ろうとする他の令嬢達までも邪険にし始めたのだ。その瞬間、リリティアは単に王族に群がっているだけの令嬢で、今回の件に関与している事はないと判断した。


 しかしその分、本気で第二王子の婚約者の座を狙っているらしく、そのしつこさは並ではなかった……。どんなにアルスが紳士的に道をあけて欲しいと伝えても、別の話題を振る事でその要望を有耶無耶にしながら、リリティアはその隣に居座り続けたのだ。


 その間、アルスの忍耐力はブチブチと音を立てながら、限界を迎えようとしていた。だが先程、口をパクパクさせたフィリアナから『紳士的に!』と言われてしまった為、アルスは必死に堪え、穏便にこの集団をやり過ごそうと努力する。そして、なんとか会場の出入り口付近の壁際までその集団を引き連れながら、移動する事に成功した。


 あとはこの場から去る適当な言い訳をした後、出口からさっと出てしまうだけだと思っていたアルスだが……。出口まであと少しというところで、リリティアが調子に乗り出す。なんとリリティアは、あろう事か、アルスにとって一番の禁句とも言えるフィリアナの評判を下げるような事をやんわりと口にし始めたのだ……。


 その瞬間、アルスの中で何かがブチ切れる。

 アルスは、リリティアがベラベラしゃべっている最中、全力で会場の壁に自身の拳を叩きつけたのだ。そんな突然豹変した第二王子の様子に賑やかだった集団が、一瞬で静まり返る。


「失礼……。大変申し訳ないのだが、少々気分が悪いので裏に下がらせて頂きたい……。道をあけて貰ってもよろしいかな? ライクス侯爵令嬢……」


 ギリリと奥歯を噛みしめながら、こめかみに青筋を立てている第二王子の表情にその場にいた全員が凍り付く。もちろん、リリティアも流石にそのような反応を見せたアルスから、やり過ぎたと気付いたらしい。つい先程まで誠実そうな雰囲気だったアルスの豹変ぶりに顔を真っ青にさせた。


「え、ええ! もちろんでございます! その……殿下の不調に気付かず、大変申し訳ございませんでした……」


 その謝罪の中に先程のフィリアナを貶すような事を口にしてしまった事が含まれているのだろうが、アルスの中では許すつもりなど一切なかった。

 だが今は、それどころではない状況が聖魔獣のレイの動きによって、アルスに伝えられてきた。


 互いに居場所が分かるアルスとレイだが、そのレイが城内周辺から少し離れた場所へと移動し始めたのだ。常に城の外から見守るようにフィリアナに付いているようレイに指示していたアルスは、自身の聖魔獣の動きによって、今は隣にいないフィリアナの安否が気になり始める。


 そんな不安に駆られたアルスは、群がっていた集団から無事に抜け出すと、すぐにレイが移動し始めた場所へ向おうとした。しかし、そのタイミングでセルクレイスとルゼリアが、二回目のダンスを踊り始めてしまう。その瞬間、二人のダンス見たさに周囲の貴族達が踊る事をやめ、自然とダンスフロアがセルクレイス達のみになってしまう。すなわち、またしても王太子とその婚約者が狙われやすい状況になってしまったのだ。


 その為、アルスの方も下手にその場を離れる事が出来なくなってしまった。

 リートフラム王家の血を引いている人間は、通常の貴族と比べると魔力量が規格外な為、もしラッセルと交戦するような状況が起これば、アルスのような高魔力保持者は一人でも多くこの場に待機している事が望ましいのだ。


 だが、急に移動を始めたレイの動きも気になっていたアルスは、とりあえずセルクレイス達のダンスが終了するまで待つ事にした。そんなアルスのもとに珍しく緊迫した表情を浮かべたシークが足早に向かって来て、耳打ちをしてきた。


「殿下……恐れ入りますが、取り急ぎご報告させて頂きたい事がございますので、一度会場の外に出て頂けますでしょうか……」


 シークの申し出から、すぐにフィリアナに何かあったのだとアルスが察する。

 するとアルスは乱暴にシークの腕を掴んで早々に会場を出ると、すぐ近くにあった空き部屋へと引きずり込む。


「フィーに何かあったのだな!?」


 食いつきの良い魚のような勢いでフィリアナの安否確認をしてきたアルスは、明らかに良からぬ事がフィリアナに降りかかってしまった事を確信していた。そんな主君の野生の勘にシークが驚きの表情を浮かべる。


「殿下……何故、その事を?」

「フィーにはイーヴァだけでなく、レイにも城外から護衛的な意味で監視させていた。そのレイが、先程から礼拝堂の方へと移動している……」

「まさか! フィーはそこに監禁されているのですか!?」

「まだレイが移動している最中なので、最終的に何所へ連れていかれるか分からない……。だが、あの礼拝堂は一カ月程前から修繕の為、立ち入り禁止になっている。誰かを監禁するには打って付けな場所のはずだ。それで……実際にフィーは今どこにいるのだ?」


 すると、シークが珍しく重苦しい表情を浮かべる。


「分かりません……。ですが先程、フィー専属で警護にあたっていたイーヴァが、ゲストルームの一室で下腹部を刺され、意識のない状態で発見されました……」

「…………っ! イーヴァは……無事なのか!?」

「はい。浅くはないですが……致命傷には至らない刺し傷だったので一命は取り留めました。ですが、どうやらイーヴァは刺されたからではなく、隣国で使われている精神に作用する魔術で意識を奪われたのだと思われます」

「また隣国か……」


 シークの報告から、またしても隣国の関与が懸念される状況にアルスが顔を顰める。


「そうなると……フィーも同じように魔術で意識を奪われて攫われた可能性が高いな」

「恐らくは」

「ちなみにニールバール侯爵令嬢は今どこにいる?」

「ニールバール侯爵令嬢……エレノーラ嬢の事ですか?」

「そうだ。少し前、フィーは彼女と一緒に会場を出て行った」

「なっ……!」


 アルスのその話に何故かシークの顔色が変わる。


「シーク、何故驚く?」

「何故って……殿下はエレノーラ嬢のご婚約相手が誰かご存知ないのですか!?」

「知っている。確かマークレン伯爵家の長男……」


 そこまで言いかけたアルスは、その家がどういう歴史を持つ家で、現在どのような交流を行なっているかを思い出す。


「くそっ! マークレン家は過去に前国王派に属していた事のある家じゃないか! しかも隣国グランフロイデとは船で交易が盛んだ……。何故、俺はすぐに気づけなかった!?」

「仕方ありません……。現在のマークレン家は過去に前国王派に属していた事もあり、自粛の意味もあって、ここ数年の王家主催の社交場には参加を控えていたようなので……。殿下の記憶にもあまり残らなかったのでしょう。ですが、フィーが攫われた状況から考えると、今回の件は我が国の前国王派に属していた家と隣国が手を組んでいる可能性が考えられます」

「また……あの愚王の負の遺産が関与しているのか……。もういい加減にしてくれ!!」


 そう叫んだアルスは、近くの壁に思いきり自身の拳を叩きつける。

 前国王派は、前王オルストの時代では美味しい汁をたくさん吸えたが、現在のリオレスの代ではあまり大きな顔が出来ない状況だ。しかも当時王太子派だった貴族達から、嫌厭されている。その為、現王家を恨んでいる家もあるだろう。マークレン伯爵家のそんな家の一つだと思われる。


「殿下……」

「シーク、俺は今からフィーを助けに行く……。お前は俺の警護ではなく、兄上の警護に回れ!」


 そのアルスの指示にシークが目くじらを立てる。


「何をおっしゃるのですか! それでは殿下の警護は誰が行うのです!? お命を狙われているのはセルクレイス殿下だけでなく、第二王子であるあなたも同じでしょう!?」

「俺は自分の身ぐらい自分で守れる!」

「だからと言って……お一人で向かわれるのはどうかと思います!」

「どの道フィーを攫った奴らは、俺一人で来いと呼び出してくるはずだ。ならば、その前にこちらから奇襲を仕掛けたい」

「どちらにしても相手が待ち受けている場所にお一人で行かれる状況は同じですよね!? そのような事、俺が了承すると思いますか!? だったら俺も同行いたし――――」

「お前が一緒だと俺が全力を出せない!!」


 そのアルスの返答にシークが悲痛な表情を浮かべる。


「殿下……」

「今回、俺は相手に手心を加えるつもりは一切ない。お前は……俺が人を殺めるところを見たいのか?」

「では……フィーには見られてもよいという事ですか……?」

「いい訳ないだろう……。だが、そんなきれい事を言っている場合じゃない。俺はどう思われようとも……フィーを確実に無傷で助けられる方法を選ぶ!」


 そう言い切られてしまったシークは、諦めるように盛大に息を吐く。


「かしこまりました……。ですが、そのような殿下の安全面に問題のあるご命令を俺一人の判断で受ける訳にはまいりません。恐れ入りますが、一度リオレス陛下かセルクレイス殿下にご相談後、許可をお取り頂けますか?」

「分かった……」


 短く返答したアルスは父か兄の許可を取る為、会場へシークと共に足早に戻る。

 すると、ダンスを終えた様子の兄達が来賓達から盛大な拍手を受けていた。その為、兄ではなく父親から許可を取ろうとアルスが、二階辺りに位置する王族専用のボックス席の方へと目を向けた。


 だが、その瞬間、アルスの目に信じられない光景が飛び込んでくる。

 なんと父である国王リオレスが息子である王太子セルクレイスに向かって、盛大な火属性魔法を放とうとしていたのだ。その瞬間、アルスの体が勝手に動く。


「兄上ぇぇぇぇぇー!!」


 そう叫んだアルスは、咄嗟に父と兄の間の空間に強烈な風属性魔法を放っていた。

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