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我が家に子犬がやって来た!  作者: もも野はち助
【我が家の元愛犬】

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70/90

70.我が家の元愛犬は説得に苦戦中

  フィリアナが二週間かけて王族の婚約者としての準備に奮闘していた頃――――。


 アルスの方は、会場の警備態勢とラッセルを監視する王家の影達の配置場所の確認や、来賓予定の招待客の把握、そして当日に自身が着る衣装の準備など、フィリアナに負けないくらい準備に追われていた。


 同時にパルマンへ尋問に応じるよう説得しようとこの二週間、毎日のように監禁部屋にも通い詰めていたが、何の進展もないままお披露目式当日を迎えてしまう……。その為、何とかしてラッセルが闇属性魔法保持者である証拠を得られないか、クリストファーと共にお披露目式直前まで奮闘していたようだ。

 だからなのか、支度を終え控室で待機していたフィリアナのもとにアルスがやって来たのは、開始時間の30分前だった。


「フィー! 遅くなってしまって、すまない!」


 やや息を切らし気味で控室に入ってきたアルスにフィリアナが苦笑しながら、室内に準備されていた水差しからコップに水を注ぎ、アルスに手渡す。


「まだ30分前だから大丈夫だよ。はい、お水」

「助かる……」


 フィリアナから受け取ったコップの水を一気にあおったアルスは、ふぅーと一息つく。

 そんなアルスは、黒をベースに赤と金の豪華な刺繍が施された短めのマントの下に詰め襟風の上着を着ている。その上着に袖口と真ん中の留め具部分を中心に豪華な赤と金の刺繍が惜しみなく施され、下履もサイド部分に豪華な刺繍がライン上にされていた。


 元の姿に戻ってからは、母の趣味で令息風の愛らしい服装姿の多かったアルスだが、フィリアナが今回のようにカッチリとした大人っぽいアルスの正装姿を見るのは初めてである。顔立ちが整い過ぎているアルスだが、こういう格好をすると更に端正さが際立っている。


 何よりもフィリアナが一番変化を感じたのは、いつの間に襟足がスッキリしているアルスの髪型だ。元の姿に戻ったばかりのアルスの髪は、いかにも伸ばしっぱなしという襟足が長い状態で、それを母ロザリーが細めの黒いリボンで、ちょこんと束ねていた。だが今はその長かった襟足部分は切られ、やや刈り上げも入ったすっきりしたものになっている。その部分をそっとフィリアナが触れてみる。


「アルス、髪切ったんだ」

「ジーナが華美な髪飾りを付けようとしたから、バッサリ切った。そもそも俺は髪が長いのは、あまり好かない」


 そう言って何故かアルスはフィリアナに向かって、ずいっと自身の頭を差し出してきた。恐らく襟足に触れた事で、フィリアナが頭を撫でたがっていると勘違いしたのだろう。そんなつもりはなかったが折角差し出してくれたので、とりあえずフィリアナはその頭を撫でる。

 すると、少し腰を屈めてフィリアナに頭を撫でられていたアルスが、チラリと上目遣いをしてきた。


「フィーは、長い髪の方が好きだったか?」

「うーん……。アルスは顔立ちが整っているから、どちらも似合っているとは思うけれど……。でも今の短い方が、キッチリしていて大人っぽく見えるかな?」

「フィーの赤いドレスも少し大人っぽいが似合っているぞ? 初めは赤色なんて毒々しくなるから、フィーには絶対に似合わないと思っていたが……。この少し落ち着いた色味の赤だと、上品な印象になるのだな……。流石は母上と義姉上だ!」


 そう言ってアルスは、フィリアナの赤いドレスの膝上辺りに施されたフリルを一部手に取る。本日のフィリアナのドレスは、大人っぽさを感じさせるワインレッド色のドレスだ。シルエットもAラインなので、その部分でも大人っぽさを感じさせる。だが、実は後ろ部分に大きなリボンが施されている為、優美で上品な大人っぽさの中に愛らしさが垣間見えるようなデザインに王妃とルゼリアが拘ってくれた。


 その為、正面から見たフィリアナは一見、凛とした雰囲気を感じさせる令嬢に見えるが、くるりと踵を返せば大きなリボンが目に止まり、13歳という年相応な愛らしさを引き立ててくれるデザインである。

 フィリアナも実は赤いドレスを着る事にあまり自信がなかったのだが、このデザインに関しては、とても気に入っている。


「そう言えば、アルスはピンク色のドレスがいいって言い張っていたよね?」

「ピンクはフィーのこの淡い薄茶色の髪と明るい水色の瞳と合わせると、凄く柔らかい印象になるだろう? 絶対にピンクの方が似合うと思ったんだ。だが……今回はもう俺の衣裳が決まっていたから、その衣裳の色合いに合わせて貰うしかなかった……。だから今度は俺がフィーのピンク色のドレスと合う色合いの衣裳を用意する! 次に参加する夜会には、フィーには絶対にピンク色のドレスを着て貰うからな!」

「う、うん。分かった……」


 どうやらアルスは、どうしてもフィリアナにピンク色のドレスを着て貰いたいらしい。フィリアナにとっては、幼い頃によく着ていた色なのだが、13歳になっても着る事は許される色なのだろうか……と考えてしまう。


 すると、急にアルスが撫でられている頭をそのままフィリアナの膝の上にコテンと倒してきた。その状態が、まだアルスが犬だった頃に膝の上に顎を乗せてまどろんでいた状態と似ていた為、つい癖でフィリアナはその頭を撫で続けていると、何故かアルスが盛大なため息をついた。

 その原因が、先程アルスが口にしていたパルマンの事だとフィリアナが気付く。


「パルマン様、まだお話してくれないんだね……」

「ああ……。確かに俺はあいつに酷い脅しをかけてしまったから、口をきいてもらえない事に関しては仕方がないと思っている……。だが、パルマンが王家を敵に回してまで口を割らない理由が分からない。やはりあいつはラッセルと繋がっているのか?」

「そういう感じには見えなかったけれど……。でも何でパルマン様は、あそこまで闇属性魔法が使える事を隠したがったのかな?」

「恐らく自身が闇属性魔法を使える事が明るみになれば、母親が暴君の被害に遭ったと言う事も明るみになる。それを懸念して母親の名誉の為にどうしても隠し通そうとしたのだと思う……」


 そう暗い表情でそう語ったアルスは、頭の向きをフィリアナの方に変え、そのまま腕を回しながら腹部辺りに顔を埋めてきた。これも犬だった頃に怒られた時や落ち込んだ時のアルスの癖である。その為、フィリアナは何の疑問も持たずに無意識で甘えてきたアルスをそのまま受け入れる。


「アルスのせいじゃないよ?」

「分かっている。だが、どうしてもやるせない気持ちになってしまう……」

「大丈夫だよ。前国王陛下の事で周りからアルスが責められるような事があっても、私だけは絶対にアルスの味方でいるから」

「ならば他の人間にどう思われようとも、もう関係ないな。フィーだけ味方でいてくれるのであれば、俺はそれだけでいい……」


 そう言ってグリグリと腹部部分に頭を擦り付けてきたアルスの髪をフィリアナが、苦笑しながら優しく梳く。


「今日のルゼリアお姉様のお披露目式、誰も傷つかないで無事に乗り切りたいね……」

「少なくとも兄上とフィーと義姉上だけは、俺が絶対に守り切る!」

「リオレス陛下は?」

「父上は強過ぎるから自身で何とかされるだろう? しかも母上が危害を加えられたら破壊神のごとく暴れ回ると思う……」

「王妃様だけでなくて、アルス達が危害を加えられても破壊神になって欲しいな……」

「フィー……。父上が本気で怒ると恐ろしい事になるから、軽はずみにそういう事は言わないでくれ。万が一、そうなった場合、俺と兄上の二人掛かりでも歯が立たない……」

「リ、リオレス陛下って、そんなにお強いの!?」

「父上の場合、魔法攻撃も凄いが物理攻撃の方がもっと恐ろしい……」


 その話でフィリアナは、以前バサバサの衣裳を着た状態で華麗にアルスに足払いを掛け、床に転がしたリオレスの姿を思い出す。確かに……40代に差し掛かってもリオレスの身体能力は、身軽な10代のアルスよりも未だに上のようだ。同時にフィリアナは、この親子が本気で親子喧嘩などをしたら、かなり大変な事になるだろうな……とも思ってしまった。


 そんな会話をアルスとしていたら、控室の扉がノックされたので、アルスが入室の許可をする。

 すると、本日父フィリックスと共にメインでアルスの警護にあったくれるシークが入室してきた。


「殿下、そろそろ会場入りのご準備を……」


 そう言いかけたシークだが、フィリアナ達の状態を目にした瞬間、驚いた表情を浮かべながら、早々に退室して行った。そしてすぐに外で待機していたフィリックスに向って叫ぶ。


「フィリックス先輩! 殿下がフィーに婚約者間でも不適切と思われる接し方を全力でされております!」

「なっ……! シーク!! ちょっと待て!!」


  付き合いの長い臣下のまさかの告げ口行為をされたアルスがそれを咎めたが、時はすでに遅く……。

 シークと入れ違いで、室内に魔王のような形相を浮かべたフィリアナの父フィリックスが現れた。

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