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我が家に子犬がやって来た!  作者: もも野はち助
【我が家の元愛犬】

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69/90

69.我が家の元愛犬は少し浮かれ気味

 アルスと婚約の婚約が正式に決まったフィリアナは、王太子セルクレイスの婚約者であるルゼリアのお披露目式が開催されるまでの二週間、兄ロアルドと共にリートフラム城に滞在する事になった。


 その間、付け焼き刃的な王族向けの淑女教育を受け、更にお披露目式に参加する際に着用するドレスの準備に追われ、現在は慌ただしい日々を送っている。


 ちなみに兄ロアルドは、現在貴重な王立アカデミーの長期夏季休暇中なのだが、アルスが元の姿に戻ってからは、フィリアナと同様に王家の問題に振り回されているので、全く休暇らしい時間を過ごせないでいた。


 そんな状態だったので少しは休暇らしい過ごし方をしたいと思い、ラテール邸への帰還を希望したのだが……。フィリアナが不安がるとアルスに引き留められてしまい、結局は妹と共に城にお披露目式までの二週間、城に滞在する事になってしまった。その為、今年度のロアルドの一ヶ月半もあった王立アカデミーの長期夏季休暇は、アルス達リートフラム王家のお家騒動の所為で、完全に潰される事が確定する……。


 その事で滞在三日目くらいまでブチブチ文句を言っていたロアルドだが……。その度にアルスが「俺とフィーが大変な状況なのだから、兄であるロアが全力でフォローするのは当然だろう!?」と理不尽な俺様風を吹かせてくるので、もうこの状況を受け入れる事にしたらしい。


 対するフィリアナの方は、アルスとの婚約が決まったと同時に城に呼ばれたデザイナー達に囲まれ、お披露目式の参加用のドレスの準備を嬉々として行う現王妃と未来の王太子妃から、着せ替え人形のような扱いを受けていた。


 その際、王妃とお披露目式の主役であるルゼリア組とアルスの間で、フィリアナのドレスの色を何色にするかで意見が分かれ、その論争で半日ほど時間を無駄にし、納期まで間に合わなくなるのではと、デザイナー達を青ざめさせた。


 王妃とルゼリア組は、アルスの正装が黒に赤のアクセントの色合いだった為、フィリアナもそれに合わせ、上品な色合いの赤色のドレスを提案したのだが……。アルスの方は、とにかく可愛い色合いのドレスをフィリアナに着せたいと、ピンク色のドレスを推してきたのだ。


 結局、二人の全体のバランスを考慮しての女性陣と、ひたすらフィリアナの可愛さをアピールしようと暴走するアルスの意見のぶつかり合いは、当事者であるフィリアナの「王妃殿下とルゼリアお姉様のドレスの方がいいと思う」という一声で、女性陣側に軍配が上がった。


 だが、どうしてもピンク色のドレスを諦め切れなかったアルスは、お披露目式とは関係なく、別件でデザイナー達に発注したようだ。その為、フィリアナは二着分の色とデザインが異なるドレスの採寸をする羽目になる。

 その話を後からフィリアナから聞かされたロアルドは、盛大に呆れていた。


 ちなみにルゼリアは、第二王子が犬の姿にされている事は、セルクレイスと婚約が正式に結ばれた際に聞かされていたそうだ。今にして思うと、フィリアナが登城した際、王妃とルゼリアと三人でお茶をする機会が何度かあったのだが、その時やけにルゼリアがアルスの事を気に入り、何度も頭を撫でていた事があった。だが、それは未来の義弟に対するルゼリアの可愛がり方だったようだ。

 後になってその事を知ったフィリアナは、少しだけ寂しさを感じてしまった。


 そんな新たな気づきを得ながらも慌ただしい状態で披露目式への参加準備に追われていたフィリアナが、今回一番懸念していたダンスだが……。意外な事にアルスがロアルド以上の完璧なリードを行えた為、僅か2日で練習は終了となった。何でもラテール伯爵邸で生活をしていた際、フィリアナとロアルドの練習風景を毎回恨みがましく凝視していたようで、いつの間にか覚えてしまったらしい。


 そのアルスのリードの仕方は、フィリアナがロアルド以上に踊りやすいと感じる程レベルの高いものだったのだが……。その事を口にしてしまうと兄がいじけてしまうと思い、心の中だけで思う事にした。


 そんなロアルドもフィリアナの付き添いとして城に滞在しているわけではなく、二週間後に控えているルゼリアのお披露目式で、セルクレイス付きの警護の一人として数えられている。


 しかし正式な警護要員ではないので、当日は第一王子と第二王子の警護を臨機応変に行うという扱いだ。だが当日の警備体制の把握は必須となる為、王族警護をメインで担っているマルクス率いる第一騎士団の会議などにも参加を強いられていた。


 また父フィリックスも今回は全面的にアルスの護衛をメインで行う予定である。

 尚、今回は久しぶりに元部下だったシークと組んで、アルスの警護にあたるそうだが……。シークが「殿下お一人で全ての刺客を撃退しそうで、やりがいを感じられません」と、愚痴をこぼしているらしい。

 その話を父フィリックスから聞いたフィリアナとロアルドは、パルマンの追跡を行った時の事を思い出してしまい、思わずシークの愚痴に同意してしまった。


 そのような慌ただしい準備期間を過ごしていたフィリアナだったが、不思議と襲撃に対する不安や緊張感は、あまり感じていなかった。その理由の一つとして、やはりアルスの存在が大きく関係している。


 以前の犬の姿だった頃から過去何度もフィリアナの窮地に駆け付けてくれたアルスだが、今回のお披露目式では開始から終了まで終日フィリアナの隣にいてくれるのだ。しかも犬だった頃と違い、今回は魔法攻撃だけでなく物理攻撃も対応可能と言う状態だ。その状況が、かなりフィリアナに安心感を与えてくれる。


 同時にいつの間にか自分の中で、窮地に駆けつけてくれる存在が兄ロアルドからアルスに変わってしまっている事にもフィリアナは気付く。恐らく決定的にその役目が兄からアルスに変わってしまった切っ掛けは、まだアルスが犬の姿だった頃、フィリアナを庇い魔封じ効果のある闇属性魔法を受けてしまった出来事だろう。


 だがその頃のアルスは、物理攻撃も封じられ魔法攻撃も全力を出せなかった事もあり、自身を顧みずにただひたすらフィリアナを守る事だけに重点を置く守り方だった。しかし、現状の元の姿に戻った今のアルスであれば、全体の流れを把握しながら魔法攻撃はもちろん、物理攻撃にも対応が可能である。


 それだけの対応力がある事をアルスは、パルマン追跡時にフィリアナ達に披露している。つまり今のアルスであれば、フィリアナを庇って命を落とす危険性は、かなり下がったという事だ。


 しかし未だに今回の黒幕の目的がはっきりしていないので、先が読めない状態ではある。そもそも一番の容疑者候補が、この国の宰相という有り得ない状況下では何が起こるか全く想像がつかない。下手をしたら、ラッセルが闇属性魔法を使い、会場にいる人間全員を巻き込みながら捨て身で、現リートフラム王家を絶やそうとしてくる可能性もあるのだ……。


 そんな危険性もある宰相ラッセルを王家側は影達に徹底的に監視させている一方、王太子セルクレイスが暗殺首謀者がパルマンであるという偽情報をラッセルに吹き込んでいた。もしパルマンとラッセルが繋がっていた場合、この情報を耳にすれば何らかのアクションをラッセルが起こすと王家は考えていたからだ。


 しかし現状ラッセルが動く気配は全くない。

 そもそもラッセルとパルマンが繋がっているのであれば、この間の尋問でパルマンは属性魔法検査を受けようとは思わなかったはずだ。あの時、パルマンが検査を受けると決意したのは、自分と同じ力を持つラッセルの闇属性魔法が属性魔法検査用の水晶で感知されなかった情報を耳にしたからだ。


 だが、結果は無情にもパルマンが闇属性魔法保持者だと言う事が明るみになってしまっただけだった……。

 恐らくパルマンが逃走した騒動に乗じて、検査が終わり部屋に残されたラッセルが、自身が使用した一属性しか感知できない水晶と、通常の反応をする水晶をすり替えたのだろう。その事を証明したくともその水晶は、恐らくもうとっくに処分されている可能性が高い。


 だが、問題はどうやってラッセルが、その水晶を手に入れたかになる。

 何故ならあの水晶を作ったのは、魔道具作りに特化したパルマンなはずだ。

 その件に関しては、アルスとクリストファーが調査をしているようで、二人の考えでは何らかの方法で、ラッセルが一属性しか検知されない属性魔法水晶をパルマンに作らせるような情報を与えたのではないかという話だった。


 同時に闇属性魔法について書かれていた厳重保管の書物をパルマンが所持していた件も、実は裏でラッセルがパルマンに持ち出せるような状況を作り、誘導的に仕向けたのではないかと疑っているらしい。


 その真相を確かめる一番手っ取り早い方法は、パルマン本人にその詳細を問いただせばいいだけなのだが……。パルマンはあの日の尋問以来、口を固く閉ざしてしまい、一向にこちらの尋問に応じないらしい。


 せめてパルマンの口から何故ラッセルが闇属性魔法持ちである事に気付けたのか聞き出せれば、ラッセルが闇属性魔法を使える事を立証出来るので、容疑者として扱えるのだが……。現状はラッセルが首謀者だという物的証拠も犯行動機もハッキリしない為、容疑者扱い出来ないでいる。


 その状況に捜査が難航しているのは、無駄にパルマンを追い詰めるような尋問をしてしまった事が原因だと、アルスが責任を感じている事にフィリアナは気づいていた。現状、義姉になるルゼリアのお披露目式の準備の傍ら、アルスが何度もパルマンが監禁されている部屋に足を運び、尋問に応じるよう説得しているからだ。


 しかしパルマンは、王族であるアルスやセルクレイスはもちろん、マルコムや父フィリックスの尋問でも一言も言葉を発しようとしないらしい。

 そんな膠着状態になってしまったパルマンから情報を引き出す事に見切りをつけた王家は、襲撃が目論まれている当日にラッセルが事を起こしたところを取り押さえる作戦に切り替えたらしい。


 だが、その作戦を決行するには、万全の警備体制が要求される。

 しかし、現状ラッセルがどんな闇属性魔法でお披露目式に影響を与えてくるのか予想が出来ない為、かなり対策に苦戦しているようだ。


 精神に作用する効果が多い闇属性魔法は使い方によっては、かなり脅威となる。

 特に以前アルスが受けた魔法封じの魔法をセルクレイスが受けてしまうと、もう闇属性魔法に対処出来る人間がいなくなってしまう……。


 同時に隣国が使用している魔術も王家は警戒しているようだ。

 アルスが命を落としかけるほど追い詰められた際、ラテール邸の殆どの者が謎の深い眠りに陥ってしまった件は、隣国の魔術の影響ではないかと考えられている。

 もしそんな魔術をお披露目式に参加している全員にかけられてしまったら、完全にお手上げ状態である……。


 ただそれほど大掛かりな術式を展開させる為には、膨大な量の詠唱文言と術式の記述、そして人目につきにくい広い個室が必須となる。その為、当日は小まめな城内の巡回警備が必須になるようだが、その巡回警備に人員を割き過ぎると、今度は会場警備が手薄になってしまう。現状、あからさまに警備人員として使えるのが、ルケルハイト公爵家が管理している王家の影と、マルコム率いる第一騎士団のみなのだ……。


 そのような状況になってしまっている原因に宰相ラッセルの存在が影響している。

 本来であれば式典などの城内警備の手配は、宰相であるラッセルが中心となって動くのだが……。今回はその中心となるべき人物に容疑がかかっている為、本来警備に割り振れる人員をあからさまに使えない状態なのだ……。

 その場合、どうしてもラッセルにも警備態勢の詳細を伝えなければならない。

 だがそれは、敵に手の内を見せる事になってしまう。


 何よりもそんな仰々しい警備体制をしている事を他国の来賓達に悟られる事は、出来れば避けたい。国内で謀反の可能性がある事を他国に悟られてしまったら、好機と捉えられ攻め込まれる隙にもなってしまう。実際に隣国グランフロイデが、前王が無駄に撒き散らした子種に目をつけ、この国の実権を握ろうと目論んでいる可能性も出てきてしまっているのだ……。


 十五年近くも王子達の暗殺を目論んでいた黒幕は、恐らくラッセルで間違いないだろう。しかしそれを立証するための証拠も証言も現状何一つ得られていないのが現実だ……。またラッセルの犯行動機が不明な事も捜査を難航させている。


 そんな中、アルスだけは、その打開をパルマンの証言によって見出そうと監禁部屋の前まで通い詰め、未だに尋問に応じるように説得を試みているのだ。

 しかし本日も無駄足になってしまったようで、フィリアナとロアルドが使わせて貰っている王族専用のサロンに盛大なため息をつきながら入ってきた。


「アルス……。今日もパルマン様はお話をしてくださらなかったの?」

「ああ……。もういっそ扉を蹴破って、無理矢理話をつけたくなった……」

「お前、それをやったら本当に前王陛下と同じになるぞ?」

「そうだよな……。それだけは死んでも嫌だったから何とか堪えた……」


 相当、前王オルストの存在がトラウマになっているのか、アルスが眉間にこれでもかというくらいの深い皺を刻みつけながら小言をこぼす。


「出来れば義姉上のお披露目式前に何故ラッセルが闇属性魔法持ちだという事が分かったのか、その確認方法を聞いだしたかったんだがな……」

「パルマン殿のリートフラム王家に対する嫌悪感は、相当なものみたいだな……」

「まぁ、孫の俺ですら自身にあのクズカス王の血が流れている事を呪いたくなるくらいだから、パルマンの場合はもっと激しい嫌悪感を抱いているのだろうな。だが……」


 そこで一度、アルスは言葉を切る。


「それを言ったら俺の父上や叔父上はどうなる? 父上達は、あいつが行った目を背きたくなる程の非道な行いをずっと見せつけられた挙句、最愛の母まであの暴君に殺されたのだぞ? パルマンの生い立ちに関しては確かに同情の余地しかないと思う……。だが、いい大人のくせに自分だけが不幸だと訴えているようなパルマンの態度には腹が立つ!」


 吐き捨てるように語られたアルスの心境に室内の空気が少し重くなる。

 それを軽減させるようにロアルドが話題を変えた。


「そういえば……警備体制以外にも二人は頑張らなければならない事があっただろう? 王族として社交場に参加する準備は、もう大丈夫なのか?」


 すると、先程とは打って変わった満面の笑みをアルスが浮かべる。


「もちろんだ! ダンスは完璧だし、フィーのドレスも出来上がって今日届く! フィー、試着の際は俺もフィーのドレスを確認したいから一緒に衣装合わせしような〜」

「アルス。お前、一気に緊張感なくなったな……。そんなに浮かれてて大丈夫なのか?」

「浮かれてなどいない! ただ……少しだけフィーのドレス姿を見られる事に心躍らせているだけだ!」

「その状態を浮かれてるって言うんだよ!! まったく……。フィー、アルスがこんな状態だからお前がしっかりしないとダ……」


 そうフィリアナに注意喚起をしようとしたロアルドだが、いつの間にか妹が不安げな表情で俯いている事に気づき、途中で言葉が途切れた。その事でアルスもフィリアナの異変に気づく。


「フィー、どうした?」

「ご、ごめんね! その……あと四日でお披露目式だと思うと、ちょっと緊張しちゃって……」

「緊張というよりも不安でたまらないって顔だぞ?」

「兄様、うるさい!」

「これは図星だな……」


 フィリアナが一言多い兄に抗議の声を上げると、急にアルスがフィリアナの頭を撫でてきた。


「アルス?」

「大丈夫だ。当日は俺が全力でフィーの事を守るから! だからフィーは何があっても俺から離れちゃダメだからな?」

「う、うん。分かった」


 そうアルスと約束したフィリアナだが……。

 この後、現実はそう上手くいかないという事を実感する事になる。

 だがこの時のフィリアナは、自身がその切っ掛けを作ってしまうとは全く思っていなかった。

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