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我が家に子犬がやって来た!  作者: もも野はち助
【我が家の元愛犬】

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64/90

64.我が家の元愛犬は暴君を拒絶する

 アルスが拳をテーブルに叩きつけた音で室内が静まり返り、全体に悲壮感が漂い始める。


「俺達の祖父は……どれだけ非道で残酷な行いを繰り返し、多くの人間を絶望させたんだ……?」


 そんなアルスから搾り出すようにこぼされた言葉にフィリアナとロアルドは、かける言葉が思いつかず、押し黙ってしまう。対するクリストファーは、一度気持ちを落ち着かせるように静かに目を閉じた後、ゆっくりと口を開く。


「本当にね……。何故、あのような人間が平然と存在していただけでなく、一国の王として君臨出来ていたのか、その異常すぎる当時の時代背景に心の底から物申したいよ……」


 そう口にしたクリストファーは、今までフィリアナ達が見た事もないような冷徹な表情を静かに顔に貼り付けていた。恐らくクリストファーは、アルスよりももっと早い段階から、この祖父の非道な行いについて自分なりに調べた事があるのだろう。人伝で聞いた噂ではなく、祖父が犯したもっと残忍で凶悪な罪の真実を……。


 それは今のアルスと同じように自身にも暴君であった祖父のような面があるのではないかと懸念し、調べずにはいられなかったのだろう。そんな当時のクリストファーと同じ心境に陥ってしまっているアルスが、その気持ちを代弁するかのように口にする。


「あんなクズの極みのような男の血が自分にも流れていると思うと……あまりのおぞましさに吐き気がする!!」


 吐き捨てるように声を荒げたアルスが、今度は自分の膝に拳を叩きつける。

 会った事もない自身の祖父に対する怒りから、音がなりそうな程の強さでアルスが歯を食いしばり、小刻みに震え出す。


 そんなアルスの腕に再びフィリアナが手を添え、少しでもアルスの抱えている怒りが軽減できないかと優しく摩り始めた。


「フィー……」

「アルスのせいじゃない……。アルスが責任を感じる必要なんて……一つもない!」


 まるで浄化の呪文のように何度も呟くフィリアの言葉で、人を殺しそうな程の凄みを見せていたアルスの表情が、徐々に和らいでいく。


「分かっている……俺のせいじゃない。まだ生まれてもいなかった俺達には、どうする事も出来なかったのだから……」


 そう言って自身の腕を摩ってくれていたフィリアナの手にそっと手を重ねる。

 そんな二人の様子を眺めていたクリストファーが、ボソリと一言呟いた。


「アルスはいいなー。あの暴君の事で心を乱されても、すぐにフィリアナ嬢に慰めて貰えて……。僕なんか君が犬にされていたこの7年間、周囲から王弟の息子でもあるクリストファー・ルケルハイトと、第二王子アルフレイス・リートフラムで、二人分の前王に対する怒りに晒されていたというのに……」


 そのクリストファーの言葉に流石のアルスもすまなそうな表情を浮かべた。


「お前が7年間、俺を演じてくれていた事に関しては一応、感謝はしている……」

「一応なの? そこは『心の底から感謝している』と言うべきところだよね?」

「故意に俺の事を『キラキラオーラを纏う第二王子』という印象操作をしようとしていたのだから『一応』だ!」

「リオレス叔父上に頼まれたからなのに……。酷いなー」


 そんな会話をしながら、いつの間にか先程の重苦しい雰囲気を少し軽減させてくれたクリストファーだが、アルスの様子も少し落ち着いたのを見計らい、先程の話を再開し始める。


「まぁ、僕らが生まれる前に非道な限りを尽くし、最後は寝台の上で腹上死を彷彿させるような全裸姿でめった刺しにされ、醜態の極みのような死に方をした祖父の事で、孫の僕らが責任を感じても無意味だよね……。だからもうこの話は終わりにしよう! それで先程の話に戻るのだけれど……」


 サラリと自身の祖父をこれでもかと貶したクリストファーが、本題に話を戻し始める。すると、アルスもその流れに乗り出だした。


「先程の話というのは、ラッセルが俺達リートフラム王家を恨んでいるという話か?」

「うん。でもいくら王家を恨んでいるからと言っても自分の血縁者に王位を継がせたら、やはり暴君の血統は続くわけだろう? そう考えるとラッセル卿は、何が目的で直系の王族から王位継承権を奪おうとしているのか、その理由が分からないんだよね……」


 眉間に皺を寄せながらクリストファーが愚痴る。

 すると、ロアルドが発言許可を得るように軽く片手をあげた。


「あの……先程から気になっていたのですが、ラッセル宰相閣下は黒髪ですよね? でも先程のアルスの話では闇属性魔法持ちは皆、銀髪で生まれてくるとの事だったのですが……」


 そのロアルドの質問に「そういえば……」と、フィリアナとアルスも首を傾げる。そんな三人が抱いた疑問にクリストファーは、あっさりと答えた。


「いや、髪の色に関して、どうとでも出来るよ」

「「えっ?」」


 そのクリストファーの答えにフィリアナとロアルドが呆けたような驚きの声をあげ、アルスが怪訝そうに片眉を上げる。すると、三人に向かってクリストファーが自身の右手にある指輪を見せびらかした。


「君達、忘れてやしないかい? 僕がつい最近までこの国の第二王子に()()()()()事を」

「で、ですが……それはその王家に代々伝わる指輪を使ったから可能だったのですよね? そのような貴重な物をラッセル宰相閣下がお持ちなのですか?」

「いいや。全く同じものは持っていないと思うよ。でも髪の色を変える程度なら類似した効果を持つ指輪が、すでに50年前に魔道具として開発されているから、恐らくそれを使っているのだと思う」


 そのような便利な魔道具が存在していた事を知らなかった三人が、驚きの表情を浮かべる。その反応からクリストファーが指輪について更に補足を始めた。


「まぁ、髪色を変えるだけと言っても、かなり貴重で悪用されやすい魔道具だから、その製作と在庫管理は王家と公爵家を通さないと、高位貴族でも簡単には入手出来ない代物ではある。ただ宰相などの要職についている人間には、護身具として王家より支給されるんだ。ラッセル卿の場合、生まれてすぐにお父上の前宰相閣下に支給された物を赤ん坊でも身に付けやすい装飾品に加工して、付けさせられた可能性が高いね」


 すると、アルスが片眉をあげて訝しげな表情を浮かべた。


「そんな魔道具、俺は知らないぞ?」

「だろうね。本来なら最優先護衛対象である第二王子の君にも支給されるはずだったのだけれど……。君の場合、幼少期からやんちゃが過ぎたから、悪戯で悪用される事の方が厄介だとリオレス叔父上が、君にはその指輪の存在を隠していたみたいだよ?」

「父上め……」

「いや、自業自得だろう」

「うるさいっ!!」


 そう悪態をついたアルスが、眉間に皺を刻みながら不貞腐れる。

 そんなアルスの様子に呆れつつもクリストファーが、再び話を本題へと戻す。


「まぁ、今話した僕の推論だと、ラッセル卿は生まれた頃から髪の色を偽っていると言う事になるのだけれどね……」


 そのクリストファーの言葉に三人は、思わず押し黙ってしまう。

 それはラッセルの父親である前宰相バッセムが、自身の妻を犯した男の血を引く事を承知の上で、その子供であるラッセルを実の息子のように愛情を注いで育てたと言う事になるからだ。


 その背景にはラッセルを出産後、妊娠する事が出来なくなってしまった妻の存在が大きく影響している事が伺える。恐らくラッセルの父は、妻が他の男の子供を無理矢理孕まされてしまった状況でも彼女と離縁する考えは、毛頭なかったのだろう。

 それだけ前宰相は、妻である夫人を愛していたという事だ。


 だが、血統を重んじる貴族社会では、その家の血を引いていないラッセルのような存在が家督を継ぐ事は認められない。だからこそ、前宰相夫妻はラッセルが前王の子供だという事を必死で隠し通そうとしたのだろう。すなわち前宰相バッセムは、自身の家の血統を守るよりも妻と共に生きる道を選んだ事になる。


 そんな考えに辿り着いてしまったフィリアナ達は、何ともやるせない気持ちでいっぱいになる……。すると、押し黙ってしまった三人にクリストファーが、更に補足をする。


「ちなみにラッセル卿の奥方のユリア夫人は前宰相の弟君のご息女で、卿とは従兄妹同士だから、結果的にはアーストン侯爵家の血統は一応、守られてはいるよ」


 その話に三人は、どこかほっとした表情を浮かべてしまう。

 だが、クリストファーだけは難しい表情を浮かべていた。


「そうなると……何故ラッセル卿は、現リートフラム王家から王位を奪おうとしているのか、ますます動機が分からない……。辛うじて思い当たるのが、前王オルストの血が濃い人間に王位を継がせたくないとかかな……」

「だが、それも前王の孫であるユーベルとかいう奴が王位を継承する事になるのだから、大して変わらないじゃないか……」


 アルスの言い分にクリストファーとフィリアナが同意するかのように頷く。

 だが、ロアルドはクリストファーの推論を更に掘り下げ出す。


「でも光属性魔法に関しては、間にリオレス陛下とセルクレイス殿下が一度引き継いでいるから、前王から直接引き継がれた力ではないよな? そういう意味で一応、血が薄くなったという扱いになるんじゃないのか? 要は前王の血を濃く受け継いでいる血筋の一族が、今後もこの国を治め続ける事を阻止したかったんじゃないか?」

「仮にそういう考えで、息子を王位に就かせようとしたと主張されても殆どの人間は、ただの親バカ心としか思わないぞ……」


 アルスの言い分にロアルドの方も「確かにそうなのだけれど……」と口にするが、息子に対する親心が動機という流れよりかは、自分の推論の方がまだ犯行動機としては筋は通っているようと感じていた。

 すると、今度はクリストファーが自論を展開し始める。


「なるほどね。ロアの仮説だと、前王の第一子の血筋よりも第二子以降のラッセル卿の血筋の方が、いくらか血が薄まるから、将来的に前王のような暴君が誕生する可能性が低くなると言う事か……。でも僕としては、もっと手っ取り早く前王オルストの血筋を絶やす方法を考えてしまうのだけれど……」


 何やら不穏なワードを口にし始めたクリストファーに三人が怪訝そうな表情を浮かべる。


「それは自身の息子を国王にし、現王族を全員処刑するとかか?」

「アルスはすぐに過激な考えに走るねー。そうではなくて……現状リートフラム王家が長きにわたって守り続けていた光属性魔法の加護を無くす道に進もうとしているのではないかと、僕は考えたんだ」


 そのクリストファーの仮説を聞いた三人が唖然とする。


「そ、それは……前王の血を根絶やしにする為だけに行うには、損害が大きすぎるのではないですか?」

「そうだね。国全体を守れる光属性魔法の恩恵を失うから、魔獣の脅威だけでなく、()()()()()()()も受けやすくなるかもね」


 ある部分を敢えて強調したクリストファーにアルスとロアルドが大きく反応する。


「まさか……」

「ラッセルは、この国の実権を隣国のグランフロイデに差し出そうとしているのか⁉︎」


 アルスがそう叫んだ瞬間、タイミングを見計らったように部屋の扉がノックされた。

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