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我が家に子犬がやって来た!  作者: もも野はち助
【我が家の元愛犬】

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54/90

54.我が家の元愛犬は容疑者を追いつめる

 何やら悪巧みをするような笑みを浮かべたアルスは、フィリアナと手を繋いだ状態でシークの案内を受けながら、城内を移動し始める。そして、その後ろを半ば呆れ気味な様子のロアルドが続いた。


 すると、客室のような部屋の前でシークが歩みを止める。どうやらこの部屋でパルマンの尋問が行われているようだ。その事をアルスがシークに確認する。


「パルマンが尋問を受けているのは、この部屋か?」

「はい」


 すると、扉をノックしようとしていたシークをアルスが押し除けた。

 そして自ら扉をノックすると同時に許可がおりる前にさっさと入室してしまう。


「お取り込み中のところ、失礼致します!」


 一応、ラテール伯爵家のお抱え魔導士という自身の設定を忘れていないようだが、それでも許可なくアルスが入室してしまったので、室内が微妙な空気となる。そんなアルスの後をフィリアナとロアルドも慌てて続いた。


 すると、室内でセルクレイスと向き合うように長椅子に座っていた男性が目に入る。サラサラの肩ほどの銀髪を後ろに束ね、金の丸ぶち眼鏡をかけた線の細い40代前後のその男性は、入室したフィリアナ達にゆっくりと視線を向けてきた。地下道では俯き気味な様子でしか確認出来なかったが、どうやらこの男性がパルマンのようだ。

 しかし、パルマンはアルスの姿を目にすると、茫然としながら予想外の言葉を口にした。


「アルフレイス殿下……?」


 その瞬間、室内にいた全員が一斉にパルマンを警戒する。

 中でもアルスは、一瞬で射殺すような鋭い視線をパルマンに放った。


「お前……何故、俺が本当の第二王子アルフレイスだと分かったんだ?」


 現状、城内の者達が『第二王子』と認識している人物は、ルケルハイト公爵家嫡男のクリストファーが扮していたアルフレイスの姿だ。だが、パルマンは何の疑問も抱かずに7年間も時が経って成長したアルスの姿を目にして、すぐにこの国の第二王子だと認識した。すなわち、今までクリストファーが扮していた『第二王子』が、別人である事を知っていたという事だ。


「何故って……魔力オーラの色がアルフレイス殿下の物だったので……」

「魔力オーラ? 何だ、それは」


 初めて聞くその単語にアルスが片眉を上げ、怪訝そうな表情を浮かべる。


「ええと……。実は今、私がかけている眼鏡は、人の魔力が視覚化出来る魔道具でして。殿下の魔力オーラは、かなり特殊な色をなさっているので、どんな姿になられても分かったと言いますか……」

「ほう? それは少し前まで、犬の姿だった俺の事もお前は第二王子だと認識していたという事か?」

「は、はい」

「なるほど、そうか……。兄上、恐れ入りますが、尋問役を代わって頂けますか?」


 そう言って、目が一切笑っていない笑みをアルスに向けられたセルクレイスは、苦笑しながらその席を譲る。


「アルス、あまり凄むとパルマンが怯えて、ますます口を割らなくなるぞ?」

「ご心配になく。こちらは、このバカが犯罪者である証拠を握っておりますので!」


 そのアルスの言葉にパルマンが狼狽(うろた)えだす。


「は、犯罪者!? お、お待ちください! 確かに先程は、飛び込んできたのが第二王子殿下とは気付かず、攻撃魔法を放ってしまいましたが……。私は殿下に危害を加えるつもりなど毛頭ございません! そ、それに私は……これまで法に引っかかるような罪など犯してはおりません!」

「ほぉ〜? お前は国家予算から捻出された魔道具の研究費用の不正流用は法に引っかからない罪だと言うのか? 確かに犯罪者とまでは言わないが、立派な不正だぞ?」

「で、ですが……その分、私は数々の実用性ある魔道具を開発し、国益にはかなり貢献しているはずです……」


 アルスの気迫に押されながらもパルマンが、かろうじて反論する。

 そもそも40代前後の男性が、まだ14歳の少年の気迫に圧されている状況が、おかしいのだが……。

 しかし、このパルマンの反論がアルスの逆鱗に触れたらしい。その瞬間、アルスがカッと目を見開きながら、勢いよくテーブルに両手を突く。


「だからと言って、本来開発するべき魔道具の研究費用を個人的興味で開発していた魔道具につぎ込んでもいいと思っているのか!?」

「ヒィッ!」

「お前に与えられた研究費用は国民の血税から捻出されているのだぞ!?  そもそも……その魔力オーラが視覚化出来る眼鏡もお前が勝手に開発し、しかも国の方に一切申請もせず、私物化しているじゃないか! あの地下道の部屋には、そういう魔道具が腐るほどあった……。この件に関しては、王家より魔法研究協会に断固抗議させてもらうからな!!」

「も、申し訳ございませんでしたぁぁぁー‼」


 完全に14歳の少年の気迫に呑まれてしまった哀れな銀髪40代の中年は、怯えながら座っている長椅子の背もたれにしがみつく。その状況から傍観していたフィリアナとロアルドは、同時にある事を思う。アルスと国王リオレスは、本当によく似ていると……。

 対してセルクレイスやフィリックス達は、呆れ気味に苦笑を浮かべていた。


 すると、アルスが後ろに控えていたシークに目配せをする。その合図でシークは一度部屋を出て行った後、すぐにある物を両手に抱え、再び入室してきた。


 しかしシークが手にしていた物を見た瞬間、先程まで怯え切っていたパルマンの表情が険しいものへと変わる。だが、アルスはそんな事には、おかまないなしにそのある物をパルマンの目の前にドンっと置いた。


「これが何だか分かるな?」

「属性魔法を調べるための水晶……ですね……」

「そうだ。お前は先程から、この水晶に触れる事を拒んでいるそうだな? 何故だ?」

「…………」

「言っておくが、犯罪者のお前に魔法能力検査を拒否する権利などないからな! 何が何でもこの水晶には触れてもらう!」


 そうアルスが啖呵を切り、パルマンの腕を掴もうとした。

 しかし、先程まで弱々しい雰囲気でアルスに怯えていたパルマンは、何故か態度を一変させ、凄むような目つきでアルスを睨みつけながら、勢いよく手を振り払う。


「お断り致します!」


 パルマンのその態度に一瞬、室内が静まり返った。

 だが、そんな中でもアルスはいち早く我に返り、パルマンを責め立てた。


「断る……だと? 先程も伝えたが、お前に拒否権はない!」

「何故です? 確かに私は魔道具の研究費用を独自に取り組んでいた魔道具に不正流用はしましたが、それで犯罪者扱いされる謂われはないはずです!」


 すると、パルマンのその返しにアルスが意地の悪い笑みを浮かべた。


「何を言っている? お前の容疑は研究費用の不正流用ではない」


 そう言ってアルスは、ラテール伯爵家の魔導士団用の制服の懐から地下道で回収した厳重管理本を取り出し、テーブルの上にやや乱暴に投げ置いた。


「この本は王立図書館で持ち出し厳禁な上に閲覧者制限の掛かった厳重管理本だ。これがどこにあったと思う? 先程まで、お前が潜伏していたあの地下道だ!」

「それが……何だと言うのですか?」


 パルマンのその返答にアルスがビキリと、こめかみに青筋を浮かばせる。


「『何だ』だと……? お前は自分が犯した罪が分からないのか!?」


 そう怒鳴りながら、アルスがパルマンを威圧するように再び両手をテーブルに勢いよく叩きつける。


「お前の罪状は二つだ! まず一つ、持ち出し厳禁の厳重管理本に掛けられた盗難防止用の魔道具を何らかの方法で外し、まるで自分の私物のようにその本を所持していた窃盗罪! 二つ目は、この本に書かれている内容だ……。ここには闇属性魔法について書かれているが、その内容は一般公開出来ない王家の秘密事項に該当する。すなわち、閲覧可能な人間はリートフラム王家の人間のみ……。それを王族でもないお前が、無許可で閲覧しただけでなく、持ち出したとなれば反逆罪にも問われる!」


 アルスのその話に先程チラリとその本の内容を垣間見てしまったロアルドとフィリアナが、ビクリと体を強張らせる。だが、それ以上に本の中身を目にしていたはずのパルマンは、何故か落ち着いた様子を貫いていた。


「なるほど……。確かにこの本を持ち出したのが私であれば、そのような罪に問われても仕方がありませんね……。ならば、この本を持ち出したのが私だと言う証拠をお見せください」


 そのパルマンの言い分にアルスが、不機嫌そうに片眉を上げた。


「何だと?」

「そもそもあの地下道を私が私物化していたと言う証拠はどこに? あの試作品の魔法錠は、魔道具開発部の人間であれば誰でも持ち出す事は可能です。となれば、あの地下道を私物化していた人物が私とは限らない」


 パルマンのこじつけのような屁理屈反論にアルスが顔を顰める。


「ならば何故、先程のお前はあの地下道に身を隠していたのだ?」

「こちらの人権を無視し、魔法能力検査を無理強いされそうになった為、やむを得ず自室を抜け出した後、身を隠せそうな裏の森に逃げ込んだ際、偶然あの地下道を発見したのです」

「お前……そんな都合のよい言い分が通るとでも思っているのか……?」

「通るも通らないも、まずはあの地下道を私が私物化していたと言う証拠をご提示ください」


 先程のオドオドした様子を一切なくしたパルマンは、何故か毅然とした態度で容疑を否認してきた。だが、あの地下道がパルマンによって私物化されていたのは明白である。それを屁理屈に近い理由で言い逃れようとする様子に室内にいる全員が呆れ始める。


 同時にここまで状況証拠が揃っているにも関わらず、意地でも魔法能力検査を拒み続けるパルマンの姿勢から、余程自身に王家の血が流れている事を明るみにしたくないようだ。

 そんなパルマンの頑なな態度にアルスの方も強硬手段に出る。


「そこまで言うのであれば、地下道で発見された魔法錠に解錠条件の設定を行った人物の魔力と、お前の魔力が同一人物の物でないか確認させろ」

「私は現在任意でこの尋問に協力しております。ですので、それは辞退したいとセルクレイス殿下にもお話を……」

「お前が協力しないと言うのであれば、お前の母である前グレンデル伯爵夫人に魔法能力検査を受けて頂く。夫人もお前と同じ貴重な雷属性持ちであるのだから、容疑者としての条件には十分当てはまるからな」


 何故か無関係なパルマンの母親をアルスが引き合いに出すと、急にパルマンの顔色が変わった。


「何故、母を!?  母はこの件とは全く関係ないではないですかっ!!」


 急に感情的になったパルマンの豹変ぶりに目の前の水晶を壊されないかと懸念したシークが、慌てて水晶をテーブル上から回収する。だが、アルスの方はそんなパルマンの変化に一歩も引かず、畳み掛けるように更にパルマンを追いつめる。


「何故そう言い切れる? 夫人は現状一番容疑者として可能性が高いお前の母親だ。息子のお前が夫人に頼み、あの魔法錠の解錠条件を設定させた……とも考えられるだから、その可能性がゼロではないだろう?」

「は、母は……もう40年近くも前から、そのような事が出来る状態ではございません……」

「知っている」


 その瞬間、パルマンが信じられない物を見るかのようにアルスを凝視した。だがその表情は、すぐにアルスを物凄い形相で睨みつけるものへと変わる。


「ご存知なら、何故……」

「お前が頑なにこちらの協力に応じないからだ。お前が屁理屈でそれを拒否するのであれば、こちらも言いがかりレベルで夫人を巻き込む。それが嫌なら、さっさとお前が魔法能力検査を受けろ」


 あからさまに怒りを露わにするアルスの様子は何度も目にした事があったフィリアナだが、今のような冷たく静かに怒りを募らせている状態は初めて目にした為、ロアルドと共に思わず息を呑む。


 同時に二人は、パルマンの豹変ぶりにも驚いていた。

 そんなパルマンだがアルスを鋭く睨みつけたまま、ある不満を口にする。


「何故……私なのですか? そもそも容疑が掛かった経緯は一体何なのです!?」

「先日、ラテール伯爵邸に兄上が張った光属性魔法の結界が、何者かの闇属性魔法で一部破られていた。お前達はその間、ラテール邸に警備上の確認の為、兄上に同行していただろう。そんなお前達は役職上、兄上が光属性魔法を扱える事も知っている上、全員高魔力保持者だ。よって、あの期間中に兄上の張った結界を破る事が出来る可能性があった人間は、お前達三人だけだった為、容疑が掛かっている」


 アルスのその説明を聞いたパルマンが一瞬、驚くような表情を浮かべた後、考え込むような仕草を見せる。


「と言う事は……ラッセル宰相閣下殿や第一騎士団長のマルコム殿も魔法能力検査を受けさせられたという事ですか?」

「ああ、そうだ」

「結果は?」

「は?」

「お二人の結果は、どのような物だったのですか?」

「何故、お前がそんな事を気にする……」

「同じ容疑者扱いをされている身としては、他の方の結果が気になってしまうのは仕方のない事かと」


 パルマンのその言い分を聞いたアルスが、盛大にため息をつく。


「ラッセルは、宰相見習い時代に検査した時と同じく氷属性魔法のみ。マルコムも同じく火属性魔法のみだが……あいつの場合、魔法を放つのが極端に下手だから、今回容疑者からは完全に外れている」


 そのアルスの話を聞いたパルマンは、何故か驚くように瞳を大きく見開く。だが、すぐに神妙な顔つきになり、そのまま考え込んでしまった。

 そんなパルマンの態度に再びアルスが苛立ちを募らせ始める。


「それでどうするのだ? お前が魔法能力検査を受けるか……。あるいは、お前の母親である夫人にご協力頂くか……。どちらか、さっさと選べ!」


 すると、何やら覚悟を決めた様子のパルマンが口を開く。


「分かりました……。そこまでおっしゃるのであれば、協力致します……。ただし! 私の属性魔法を検査する水晶は、他お二人に使われた水晶と同じ物にして頂きたい!」


 承諾はしたものの、何故かよく分からない部分に拘りを見せ始めたパルマンにアルスが怪訝な表情を向ける。


「そこは……こだわる必要性があるのか?」

「対象者によって調べる道具を変えるのは、公正な結果が出ない可能性もあるので。もし、そのようにご対応頂けるのであれば、私も魔法能力検査を受けます」

「分かった。シーク! その水晶はラッセルとマルコムの属性魔法を調べた際に使用した水晶か?」

「え、ええ……。恐らくは。ラッセル宰相閣下の属性魔法を調べている最中にパルマン殿が逃亡されて騒ぎになり、その後そのまま検査していた部屋に置き去りにされていた物を持って来たので……」


 シークの説明を聞いたアルスが、今度はパルマンの方に視線を向ける。


「パルマン。これでいいか?」

「はい……」


 やっとパルマンが属性魔法の検査に承諾したので、アルスがシークに目配せをする。すると、シークが手にしていた検査用の水晶をパルマンの前に置いた。その水晶を一度、ジッと見つめたパルマンは大きく深呼吸をした後、恐る恐る自身の手をその水晶に近づける。


 すると、パルマンが触れた瞬間、水晶が眩い光を放ち始める。それは貴重な雷属性の使い手だという事を示す光り方だった。


 しかし、パルマンが触れた水晶の反応はそれだけではなかった。

 なんと水晶は、まるでその眩い光を蝕む小さな黒い染みのような物も映し出したのだ。

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