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我が家に子犬がやって来た!  作者: もも野はち助
【我が家の元愛犬】

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52.我が家の元愛犬は童心を忘れない

 地下道の先が気になった三人は、その先に何があるのか確認する為、先程までパルマンがもたれかかっていた壁の魔法錠を解錠し、更に奥へと進み始める。

 しかし、その先はずっと通路が続くのみだった。


 どうやら今までの魔法錠が設置されていた扉のような壁は、元々は一直線に続く通路にパルマンが侵入者除けの対策として、後付けした物のようだ。パルマンにしてみれば、10個以上もの魔法錠を解錠してくる猛者(もさ)など、自分以外には存在しないと自負していたのだろう。


 だが世の中には、規格外な魔力を持つ人間が存在する……。

 今回は、たまたまそういう人間がパルマンと同じ雷属性の魔法が使える聖魔獣と契約していた為、この地下道は簡単に攻略されてしまったのだ。パルマンにとっては、本当に運がなかったという状況である。


 そんな事など微塵も気に留めていない規格外な高魔力保持者のアルスは、うんざりしていた魔法錠の解錠から解放され、レイと共にご機嫌な様子でサクサクと通路を突き進む。すると、10分程進んだあたりで、先程とは全く違う作りの年季の入った彫刻の施された石造りの扉が見えてきた。


「どうやら、これは初めから地下道に存在していた扉みたいだな……」

「でも何だか重そうだよ? 私達で開けられるかな……」

「俺とロアの二人がかりで押し開ければ平気だろう? いざとなったら俺が魔法で吹き飛ばす!」

「アルス……それはやめておこうな。ここは一応、歴代の王族が使っていたかもしれない通路なんだぞ? そんな事をしたら歴史学者達から、お前に非難が殺到するからな?」


 そんな会話をしながら扉に近づいた三人だが……。

 またしてもお馴染みな物を見つけてしまい、ほぼ同時に盛大なため息をつく。


「また魔法錠か……」

「と言う事は……この中にはパルマン殿の私物が置いてある可能性が高いな」

「あいつ、よく研究予算を多めに申請して、勝手に自分の作りたい魔道具を作っていたから、そういう物をここに隠しているのではないか?」

「どちらにしても確認しておいた方がいいかもな。もしかしたら、パルマン殿の出生ルーツに関する記録などもここに隠しているかもしれないし……」


 そう言ってロアルドがレイに視線を向けると、それを察したレイが解錠に取り掛かる。すでに15個以上の魔法錠を解錠しているレイだが、膨大な魔力持ちのアルスのお陰で全く疲れた様子はない。そんな魔力提供者のアルスだが、先程からブツブツとパルマンに対しての不満を口にしていた。


「パルマンの奴……今まで他の魔道具の研究予算を使って、全く関係ない魔法錠を15個以上も量産していたのか……。これは確実に予算流用の不正行為だ! もし今回の黒幕でなかったとしても徹底的に絞り上げてやる!」

「アルス……お前、よっぽど幼少期にパルマン殿に付きまとわれた事が嫌だったんだな……」

「当たり前だ! 人が排泄をしている時にまで扉をドンドンと叩いて、外から話しかけてくるような奴だぞ!? 出る物も出なくなる!」

「分かった、分かった。フィーもいるんだから、そういう品のない思い出話はまた今度な……っと。どうやらレイが扉を解錠してくれたみたいだぞ?」


 ロアルドの言葉で真っ先に扉に向かったアルスは、仕事をきっちりこなし誇らしげな顔をしているレイの頭を労うように撫でてから、重そうな石作りの扉を両手で奥に押しやった。すると、意外にも扉はすんなりと開き、アルスがいち早くその部屋の中に足を踏み入れる。しかし入室したアルスは、初めてパルマンの部屋に入った時と同じような反応をした。


「だからあいつは……。何で部屋を片付けるという事をしないんだ!」


 アルスの後に続いたロアルドとフィリアナも部屋に入るなり、同じ反応をする。何故ならば、この部屋もパルマンの私室と同じように様々な魔道具や魔法書、そして書類が散乱していたのだ……。

 その惨状を目にしたフィリアナが遠慮がちに呟く。


「パルマン様は……片付けが苦手なのかな?」

「いや、苦手というよりもそういう概念がないんじゃないのか? ほら、この辺なんかは、やりかけのまま放置している感じだぞ? あっ、これ懐かしい。一昔前の魔力増幅ピアスだ」

「兄様! 見て見て! 属性魔法を調べる時に使う水晶! こんな物もあるよ!」


 そう言ってフィリアナが水晶にペタリと手を置くと、水晶が水属性の反応である淡い水色の光を放つ。


「フィー……。遊びに来ているわけじゃないんだぞ?」

「だってこの水晶、子供の頃に触ったきりだったから懐かしくて、つい!」


 そう言って何度も水晶に触れては、また手を離す事をフィリアナが繰り返していると、その手元をアルスが珍しそうにジッと見つめてきた。そんなアルスの様子に気付いたフィリアナが、不思議そうな表情を浮かべる。


「アルス、どうしたの?」

「いや……。こんな水晶、初めて目にしたから珍しくて……」

「「ええっ!?」」


 そのアルスの反応にフィリアナとロアルドが同時に驚きの声をあげる。


「アルス、もしかして魔法能力検査を受けた事がないの!?」

「嘘だろ? この国の人間なら6歳になったら必ずやらされるんだぞ? 何でアルスは受けていないんだ?」

「あー、いや。多分やった事はあるとは思うんだが……。まだ赤ん坊の頃だったから、俺が覚えていないだけだ」

「「赤ん坊の頃?」」


 アルスの返答を聞いた二人が、怪訝そうに眉間に眉を寄せる。

 すると、アルスがその理由を説明し始めた。


「俺達、直系の王族は生まれてすぐに属性魔法が何なのか確認されるんだ」

「それは……二属性持ちだから?」

「いや、一番の理由は本当に王家の血を引いているかの確認だな。王妃の産んだ子供が王家特有の二属性持ちでないと、別の男と子を成した事になるから」

「あー……」

「なるほど……」


 今の話では、もしこの国の王に嫁いだ女性が不貞を働いた場合、生まれてきた子供の持つ属性魔法から、その事がすぐに発覚してしまうという事だ。逆に本人の意思とは関係なく、国王以外の男性に襲われた挙句、その男の子を身籠ってしまうという事態も懸念しなければならない。その為、王太子の婚約者となった女性は、その後ずっと王家の影より過剰な程の警護を受ける事となる。


 現状、王太子であるセルクレイスの婚約者のルゼリアにも多くの影が護衛として付いている。しかしルゼリアの場合、彼女自身が凄腕の魔法剣の使い手である為、襲撃を企む頭の悪い輩は出没していないようだ。それどころか、婚約者である王太子の方が命を狙われている状況なので、彼女がセルクレイスの護衛のような存在にもなってしまっている。


 だが、王族が生まれてすぐに属性魔法を確認される理由は、まだあるらしい。

 その続きを更にアルスが語り出す。


「それと第一子が、ちゃんと光属性魔法を持って生まれてきたかの確認もある。もしそうでなかった場合、国王が王妃よりも先に別の女性に自分の子供を産ませた事になるから、今度は国王の方に不貞を犯した疑いが出てくる。しかも光属性魔法はその子供に受け継がれない為、何としてもその子供を探し出し、王位を継がせなけれなならない」

「過去にそういう事ってあったの?」

「いや、流石に第一子ではなかったが……現状、似たような状況に陥っているだろう? なんせ祖父である前王が無駄に子種をまき散らしてくれた所為で、孫の俺と兄上は命を狙われているのだから……」

「た、確かに……」


 王妃同様、国王側もホイホイと子種を撒き散らす事が出来ないのが、このリートフラム王家である。国王が節操のない人間だと、現状のように先王オルストが本能のまま子種を撒き散らした事で、孫であるセルクレイスとアルスが王位継承権を持つ祖父の隠し子から、無駄に命を狙われるという状況を招いてしまっている。


「あと第二子以降に関しては、闇属性持ちでないか早急に確認する為に行っている」


 そのアルスの話にフィリアナが首を傾げる。


「闇属性持ちだと……何か問題があるの?」


 あまり馴染みのない属性魔法であった為、危険性があるのではと懸念したフィリアナが、その事をアルスに確認する。すると、アルスがその理由を丁寧に教えてくれた。


「闇属性魔法は精神に作用する効果の魔法が多い。だから危険視されている属性魔法なんだ。そんな魔法をまだ善悪の区別が付かない子供の内から使えてしまったら、大問題だろう? だから直系の王族の男児に関しては、生まれてすぐ属性魔法を確認されるんだ。幸い俺の場合は、一般的な四属性の火と風属性だったが……。クレオス叔父上は、風と闇属性持ちだったから、生まれてから10歳くらいまで、闇属性の方は使えないように魔道具で封印されていたらしい」


 アルスのその話に二人が「なるほど」と頷く。


「まぁ、一番の理由は、やはり生まれた子供が本当に王家の血を引いているかの確認だろうな……。なんせ過去に一度だけ、王妃が生んだ第一子が光属性どころか、二属性持ちでない状態で生まれてきた事があったからな」

「アルス……。過去の話とは言え、そんな王家のスキャンダルをサラリと口にするなよ……。一応、お前は現役の王族だろう?」

「今更隠したって仕方のない事だろう? 大体、歴史学を学ぶ上で皆、その辺りの話を家庭教師(カヴァネス)から面白おかしく聞かされているじゃないか。十三代目国王の最初の王妃が男癖の悪い女で、生まれた子供から不貞が発覚して国外追放されたと……。フィーの歴史学の授業でも、その話を貞操概念の大切さを教える教訓的な話として使っていたぞ?」


 アルスのその話を聞いたロアルドが眉を潜める。


「お前……僕だけじゃなくてフィーの淑女教育まで一緒に受けていたのか?」

「俺はこの7年間、いつでもフィーと一緒だったからな!」

「いや、それ……胸を張って言う事ではないからな?」


 そんな会話をしながら、アルスも属性魔法を調べる水晶にぺたりと手を置く。

 しかし、何故かその反応を見たアルスが怪訝そうな表情を浮かべた。そして何度もその水晶をペタペタと場所を変えながら触る。その度に水晶が真っ赤に光った。


「おい、アルス。お前もフィーみたいに水晶で遊ぶなよ……」

「いや、別に遊んでいる訳ではないんだが……」


 そう言いつつも、先程のフィリアナと全く同じ行動を繰り返すアルスの様子を見ていたフィリアナは、水晶がおかしな反応をしている事に気付く。


「兄様。この水晶、変だよ? アルスは二属性持ちなのに火属性の方しか感知されていないのだけれど……」

「本当だ……。もしかして壊れているのか?」


 その二人の話を聞いたアルスが、バッと顔を上げる。


「やはりそうなのか!? 赤くしか光らないから不思議に思っていたんだ! 俺は二色に光る様子が見たかったのに……」

「お前、やっぱりその水晶で遊んでるじゃないか……」

「初めて目にして触ってみたのだぞ!? 興味が湧くのは当然だろう!?」


 そう訴えたアルスは、まだ諦めがつかないらしく、しつこく両手で水晶を撫で回すが、やはり反応は赤く光るのみだった。試しにフィリアナも一緒になって触れてみたが、最初に触ったアルスの火属性魔法しか感知されない。


「やっぱりこの水晶、壊れているみたい……」

「パルマンめ! 何でこんな欠陥品を後生大事にここに隠しているのだ!」


 余程、二色で光る光景が見たかったのか……アルスが再びパルマンに対して悪態を付き始める。

 すると、またしてもフィリアナが何かを見つけた。


「あっ! アルス、兄様、これ見て! まだ未使用の魔法錠が、こんなにたくさんあるよ!」

「何だとっ!? あいつ、一体いくら分の魔道具開発予算を私用研究に流用しているのだ!! 開発予算は国民の血税から捻出されているのだぞ!? 抗議だ! パルマンが開発予算を流用していると魔法研究協会に断固抗議してやる!!」

「いや、魔法錠の研究は国から開発予算が出ている範囲じゃないのか?」

「だからって、こんな大量に試作品を作っていい訳がないだろう!? この魔法錠一つ作るのに貴重な魔石が一つ使われているのだぞ!?」

「そ、そうなの!?」

「それは……明らかに予算オーバーになるな」


 ロアルドが苦笑いをしながら、丁度視界に入った机の上で開きっぱなしになっている分厚い本を手に取る。だが、その本の開かれているページを目にした瞬間、動きが止まった。


「おい、アルス。これを見ろ……」


 ロアルドが差し出してきた本を受け取ったアルスが、その開かれているページの内容を確認し出したので、フィリアナも一緒になって横から覗き込む。

 すると、そのページにはある属性魔法について書かれていた。


「これは……闇属性魔法について書かれている本か?」


 そう呟きながらアルスが表紙を確認した瞬間……カッと目を見開き、大声で叫ぶ。


「これ、王立図書館で持ち出し厳禁な上に閲覧者制限が掛けられている厳重管理本じゃないか!! それをあいつはぁぁぁぁー!! 持ち出すどころか、どう見ても完全に私物化してるだろう!!」

「「うわぁー……」」


 あまりにも酷いパルマンの生活態度の状況にロアルドとフィリアナが、同時に引き気味な反応を見せる。


「大体! どうやって、あいつはこれを持ち出したんだ! とりあえず、この本は俺が回収する! 他にも借りたまま私物化している物が紛れているかもしれない……。疑わしい物を見つけたら、すぐに俺に声をかけてくれ!」

「わ、分かった……」


 アルスの呼びかけに素直に頷いてしまったフィリアナだが……何か目的がズレてきているのではとも思い始める。すると、その事に関して兄が素早くツッコみを入れてくれた。


「待て、アルス。お前、本来の目的を忘れていないか? 僕達はここにパルマン殿の私物整理をしに来たんじゃない。王族の暗殺を企てているかもしれない証拠を探しに来たのだろう?」

「そうだった……。あまりにも奴のだらしの無さに思わず我を忘れて、片付けようとしてしまった……」

「アルスって、そういうところは意外としっかりしているよな? 子犬の時から妙に綺麗好きだったし」

「そういえば小さい頃、私が泥遊びをしようとするとアルスに止められた気がする……」


 そう呟いたフィリアナは幼少期の頃、雨上がりの水たまりで泥んこ遊びをしようとしていたところを子犬だったアルスに何度か必死で止められた事を思い出す。そんな経緯から、ずっとアルスは綺麗好きだと思い込んでいたのだが……。この後、本人から予想外な事実が告げられた。


「別に俺はそこまで綺麗好きと言う訳ではないぞ? あれは、まだ犬になる前からの癖だ」

「「癖?」」

「服を汚してしまうと、城を抜け出した事を周囲にすぐ気付かれてしまう。だが服を汚さなければ気付かれない。何か悪戯をした時もそうだ。だから極力、服を汚さないような癖がついてしまっただけだ」

「「…………」」


 もはや呆れしか出でこない理由に兄妹が真顔のまま無言になる。

 だが、フィリアナがアルスについてある事を思い出す。


「で、でも! アルスは犬だった頃、湯浴みとブラッシングが大好きだったよね!? だからやっぱり綺麗好きなんじゃないかな?」

「湯浴みは服を着ていないから、外で遊ぶとすぐに泥などが付いて毛が固まる感じが不快だったから好んだ。ブラッシングに関しては……単純に毎日たくさんフィーに撫でまわして貰えるから、気に入っていただけだ」

「…………」

「お前、色々な意味で本当に残念な奴だよな……」

「俺は残念な奴なんかじゃない!」


 どうやら犬時代のアルスの綺麗好き説は育ちの良さからではなく、単純にフィリアナ達が普段のアルスの行動から勝手に綺麗好きだと思い込んでしまっただけらしい……。そんなしらけ気味の空気感をものともしないアルスは、再度この場を仕切り直す。


「とりあえず、ここにある物は証拠品として全て王家の影達に回収させる! まずはパルマンへの尋問を優先させるぞ!」


 そう主張したアルスは出口に向かって、さっさと踵を返す。

 どうやらワクワク探索隊の調査結果が満足いくものではなかった為、早々に飽きてしまったらしい。そんなアルスの後を慌ててフィリアナが追いかけ、更にその後ろを呆れ顔のロアルドが続く。


 しかしこの時の三人は、この部屋の中に暗殺を企む主犯格に繋がる品が置いてあった事には、全く気づいていなかった。

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