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我が家に子犬がやって来た!  作者: もも野はち助
【我が家の元愛犬】

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51/90

51.我が家の元愛犬の魔力量は規格外

「どうなっているんだ!? 魔法錠、多すぎだろ! おい、ロア! 今、何個目だ!?」

「えーっと……多分、7個目?」

「兄様、違うよ! 入り口のも合わせて8個目だよ!」

「キャウ!」

「そ、そうか……。何にせよ、物凄い厳重警戒という感じだな……」

「警戒というよりも、魔法錠の設置数が異常過ぎだ!」


 地下に降りてから現在7枚目の扉のような壁と向き合っているフィリアナ達は、先程から壁に無駄に設置されている魔法錠を解錠しながら皆、ウンザリしていた。


「兄様、何でパルマン様は、こんなに魔法錠を設置したのかな……」

「うーん。多分、解錠して入ってくる人間の魔力切れを狙っているんじゃないか? この魔法錠は一つ解錠するのに、かなりの魔力量が必要だろう? ようするにこの魔法錠は、解錠する度に大量の魔力消費をさせ、侵入者を諦めさる為に無駄に多く設定されたんだと思う。しかも使い手の少ない雷属性魔法が必須だから、解錠条件もかなり厳しい……」

「そ、それじゃあ、パルマン様のところに行くには大量の魔力消費をしないと辿り着けないって事!?」

「そういう事になるな」

「そ、そんな! パルマン様のところに辿り着く前にレイが倒れちゃうよ……」


 ロアルドの考察を聞いたフィリアナが情けない声をあげると、何故かその隣にいるアルスが魔王のような不気味な笑い声を立て始めた。


「フッ……フハハハハハッ! 上等じゃないか! ならば、こちらも魔力切れを起こすまで、いくらでも解錠してやる! レイ! ここからは最速で行くぞ!」

「キャウ!」


 何故か不適な笑みを浮かべたアルスが、半ばヤケクソ状態でレイと共にズンズンと次の部屋に突き進んで行く。そんなこの地下道は、降りてすぐに5メートル程先で行き止まりとなっており、その壁に雷属性魔法で解錠出来る魔法錠が設置されていた。


 その魔法錠を開け、壁を押しやると扉のように開いて奥へと進めるのだが……。その先には、またしても同じような壁が現れる。その作りが5メートル程の間隔で続いているので、三人は先程から何度も魔法錠を解錠する行動を繰り返させられているのだ。


 その際に一番厄介なのが、一度の解錠に大量の魔力を消費しなければならないという部分だ。只でさえ貴重な雷属性使いが必須条件なのに、それに加え解錠で何度も大量の魔力を消費させられるので、侵入者は途中で魔力切れを起こしてしまい、先に進めなくなるという仕組みらしい。


 かなり手の込んだ侵入者対策だが、現役魔法研究所所長のパルマンと同等か、それ以上の魔力持ちの人間など、そうそういない。侵入者の撃退方法としては非常に効果的な対策である。


 だが、そんな鉄壁の侵入者対策がされた地下道も現在は、雷属性持ちの聖魔獣と契約を交わした高魔力保持者である少年によって、バカバカと解錠されてしまっている。今回は、たまたまその解錠条件を見事に満たし過ぎている聖魔獣契約者コンビが、捜索隊としてやってきてしまったのだ……。


 この状況に関しては、もうパルマンに運がなかったとしか言いようがない。

 そんな現状からフィリアナは、少しだけパルマンに同情心が芽生えた。対するアルスとレイは、パルマンが可哀想になるくらいの勢いで魔法錠を解錠し、奥へと突き進んで行く。


 すると15枚目の壁が現れた際、急にフィリアナが抱えていた黒猫が腕からスルリと抜け出し、まだ未解錠のその壁をガリガリと引っ掻き始めた。そんな黒猫の行動に三人は、この先にパルマンがいると察する。その黒猫をロアルドが素早く回収するように抱き上げ、アルスに小声で指示を仰ぐ。


「どうやらこの先にパルマン殿がいるようだな……。アルス、どうする?」

「パルマンの方も黒猫を利用され、自分の居場所を俺達に突き止められた事に気付いているはずだ。恐らくこの中では、俺達を迎え撃つ準備をしているだろう……。ならば解錠と同時にこちらも奇襲をかける。扉が開いた瞬間、俺が突っ込み、パルマンの気を引きつけるから、ロアはその隙に拘束系の魔法で奴を捕縛してくれ」

「分かった。フィーは戦闘が始まったら、この黒猫が巻き込まれないようにしっかりと抱いて、後ろで待機だ。そして万が一、兄様がパルマン殿を取り逃したら、レイと一緒にお前が魔法で足止めしてくれ」

「分かった!」


 そう言ってロアルドから黒猫を受け取ったフィリアナは、二人の後ろに下がる。すると、アルスとレイとロアルドが互いに目を合わせると同時に小さく頷き合った。それを合図にレイが魔法錠を解錠するために右手をポンと置く。


 その間、三人は張り詰めた空気をまといながら、魔法錠の解錠を待つ。

 すると、カチリと音がした瞬間、アルスが勢いよく壁を蹴り開け、中に突っ込んだ。同時にロアルドが、解錠前に練り上げていた魔力を放つ体勢に入る。


 案の定、扉の向こうには侵入者に向けてパルマンが攻撃体勢に入っていたようで、強力な雷属性魔法を放ってきた。それをアルスが火属性魔法で相殺する。狭い室内で強力な魔法がぶつかり合った所為で、入り口から爆風が吹き荒れ、少し離れた場所で待機していたフィリアナの視界を一瞬だけ奪う。


 だが、それと同時に何かが壁に激突するような大きな音も聞こえた。

 その音でフィリアナが慌てて部屋の中を覗き込むと、魔法を放とうとしている体勢の兄と、何かを見下ろしているアルスの姿が目に入る。そして更によく目を凝らすと、アルスの視線の先には銀髪で、やや顔立ちが整った中年男性が壁にもたれ掛かるように意識を失っていた。


「に、兄様? どういう状況?」

「アルスが全部やった……。兄様は全く出番がなかった……」

「お、落ち込まないで、兄様! ほら! 私も何の役にも立っていないし!」

「黒猫を保護していたフィーは、一応役に立っていたと思う……」

「…………」


 どうやら魔法を相殺させた時に発生した爆風に紛れて、アルスが直接パルマンに物理攻撃を加え、壁まで吹っ飛ばしたらしい。先程の音はその際にパルマンが壁に激突した音のようだ。

 何にせよ、二人が無事だった事にフィリアナは安堵していたのだが、アルスの方は何故か渋い表情を浮かべていた。


「しまった……。勢いよく蹴り飛ばし過ぎた……。この後、色々と尋問するつもりだったのに……」

「お前、足癖悪いんだな……。普通、大の大人は蹴り一発で、あそこまで吹っ飛ばないぞ?」

「14歳の少年の蹴りで、簡単に吹っ飛ぶパルマンの方が軟弱過ぎるんだ!」


 どうやらアルスは部屋に突っ込みながら魔法を放ち、そのままの勢いでパルマンに飛び蹴りを放ったらしい。王族とは思えない程の見事な特攻ぶりである……。

 だがこのままでは、パルマンからは何も聞き出せない。


「どうするんだ? パルマン殿が目を覚ますまで、ここで待つか?」

「いや、こいつはこのまま城に連行する。おい! お前達、出てこい!」


 すると、フィリアナの後ろから今まで全く気配すら感じさせなかった三人の男女が、すっと姿を現わす。三人とも黒のロングコートに付いているフードを深く被っている為、顔は確認出来ないが、男性二名に女性一名である事は辛うじて分かる。恐らく王家の影部隊に所属している人間だろう。


 しかし、全くその存在に気付いていなかったフィリアナは、突然現れた三人に驚き、令嬢らしからぬ声をあげてしまう。


「ぎゃあ!」

「驚かせてしまい、申し訳ございません、フィリアナ様……。殿下、お呼びでしょうか?」

「こいつを城まで連行しろ。その後、目を覚ましたら俺と兄上で尋問するから、すぐに報告を」

「かしこまりました。そちらの黒猫は、いかがいたしますか?」


 ふとパルマンの方に目を向けると、先程驚いたフィリアナの腕から抜け出た黒猫が、心配そうにパルマンに擦りついていた。


「そいつも一緒に連れて行け。あとパルマンに関しては、すぐに魔封じの首輪を装着させろ。念の為、その黒猫にも」

「しかし……パルマン様ほどの魔力を封じるには、既製品状態の首輪では難しいかと……」

「魔封じの首輪を貸せ。俺が封じの為の魔力を更に込める。俺の方がこいつより魔力は上だから、余裕で抑え込められるだろう?」

「恐れ入ります。殿下、お願いいたします」


 そう言って王家の影の一人から、魔封じの首輪を受け取ったアルスが魔力を込める。首輪は、装着させた相手の魔法を封じられる魔道具なのだが、対象者の魔力が強すぎる場合、上手く封じられない事がある。それを補う為に高い魔力の人間が更にこの首輪に魔力を注入する事で、効果を上げる事が出来るのだ。


 しかし、フィリアナはその首輪自体を見るのが初めてだった為、興味津々でアルスの手元を覗き込む。すると、アルスが見やすいようにフィリアナの目の前で、その作業をやって見せた。


「もしかしてフィーは、魔封じの首輪の実物を見るのは初めてなのか?」

「うん。だって私の場合、使う機会って殆どなかったし……」

「そうか……。でも今後は、護身用に一つは携帯しておいた方がいいぞ?」

「何で?」

「奇襲を受けた際、襲ってきた奴の魔法をその場ですぐに封じ込める事が出来るからな! 便利だぞ!」

「そ、そうだね……」


 アルスのその発想を聞いたフィリアナが、思わず困惑した笑みを浮かべてしまう。

 通常の伯爵令嬢であれば、『もし奇襲を受けた際』という状況は、余程運が悪くなければ体験する事はない。だが、すぐにそういう発想に至ってしまうアルスは、それだけ幼少期の頃から、刺客の襲撃を頻繁に受けていた事が窺える。


 恐らくラテール伯爵邸に来る前のアルスの生活は、常に命の危険を感じながらの殺伐とした日々だったのだろう。だが、当人があっけらかんとした性格をしている為、あまりその深刻さを周囲に感じさせない。それでもアルスが今まで過ごしてきた日々は、確実に平穏な日常ではなかったはずだ。


 そんな幼少期を過ごしたアルスが、よくここまで真っ直ぐな性格のまま成長する事が出来たなと思うフィリアナだが……。恐らくその背景には王族一家をはじめ、親身になって接してくれる臣下達の影響が大きいのだろう。何よりもアルス自身、かなり強い心の持ち主だった事が、この真っ直ぐ過ぎる性格を維持する事に繋がった可能性が高い。


 それに引き換えフィリアナは、常に兄に助けて貰える環境であった為、アルスと比べるとかなり甘やかされて育った。急にその事に気付いたフィリアナは、目の前で大人相手に堂々と指示を出しているアルスの様子が、やけに目に付く。


 その状況から、幼少期に全く違う環境で育ったアルスと自分を比べてしまったのだ。そんな甘やかされた環境で育った自分が、急に恥ずかしくなってしまったフィリアナは、無意識に少しだけアルスと距離をとる。すると、すぐにその事に気づいたアルスが、不思議そうに顔を覗き込んできた。


「フィー? どうした?」

「えっ……? 何が?」

「今、何故か急に俺と距離を取らなかったか?」


 アルスの指摘にフィリアナが、一瞬だけ驚いた表情を浮かべた後、大きく首を振る。


「そ、そんな事ないよ?」

「だが今一瞬、俺から目を逸らしたよな? 俺は何かフィーの気に触るような事をしてしまったか?」

「してない! してないよ!? アルスは何もしてない!」

「なら何故、距離を取ったんだ?」

「というか、何でアルスはそんな事が分かるの!?」

「犬だった頃、感覚過敏になっていたから、今もその癖が抜けていないんだ。それで何故、俺から距離を取ったんだ?」

「それ、そこまで言及する必要、ある……?」

「ある。俺は少々ガサツなようだから、無意識にフィーに不快な思いをさせていないか物凄く気になる」


 どうやらアルスに対しては、隠し事は出来ないらしい……。

 しかもここまで気になる理由を言われてしまっては、フィリアナも誤魔化す事が難しくなってきた。


「後でちゃんと話すから……今はちょっと待ってくれる?」

「分かった。だが、絶対だぞ? こういう少しのすれ違いで、仲が拗れる事があると以前母上殿から伺った事があるから、俺は出来るだけそのような状況は回避したい」

「お母様、アルスに一体何を教えているの!?」

「教えてもらったわけではないぞ? 犬だった頃に母上殿がご友人方とお茶をしている際、そのような男女の話をされていたのを俺がたまたま耳にしただけだ」


 その話を聞いたフィリアナが、アルスに白い目を向ける。


「アルス……犬だった頃、かなり人の話を盗み聞きしていない?」

「するつもりはなかったんだが……。皆、俺がだたの犬だと思っていたから、油断して目の前でペラペラと話すんだ。フィーだって俺に向かって、たくさん愚痴や悩み事を話していただろう? 例えば……半年前に初めて女性としての成長を迎えた際、それをフィリックスやロアに気づかれたら、どうしようと怯え……」

「や、やめてぇぇぇー!! そういう事は聞かなかった事にしてぇぇぇー!!」 

「何故だ? それは祝い事に該当するとても喜ばしい事ではないのか?」

「に、兄様ぁ! 助けてぇ!」

「お前……そういう微妙な話題の時に兄様に助けを求めてくるなよ……」

「だ、だって! アルスの暴走を的確につっこめるのは、兄様しかいないから!」

「俺は暴走などしていない!」


 先程、アルスを『フィリアナ限定での気遣いの化身』と称したロアルドだったが……。今の二人のやり取りから、そう称した事を心の中で撤回した。

 同時にアルスには、早急にデリカシーという言葉の意味を学ばせなければと使命感も抱き出す。そんな事をロアルドが感じていると、仕事が早い王家の影達がパルマンと黒猫を連れ出す準備を整えていた。


「殿下、我々は今からパルマン様を城へ連行いたします。殿下はこの後、いかがなされますか? もし我々と共に城に戻られるのであれば引き続き、護衛をさせて頂きますが……」

「いや、まだ俺達はここで調べたい事がある。お前達だけ先に戻れ」

「かしこまりました。念の為、フィリアナ様専用として女性の護衛を一名残しておきます」

「ああ、助かる。ご苦労だった」


 そう言って、アルスが片手を挙げると影部隊の男性二名が、パルマンを肩に担いで外に連れ出し始め、残った女性は再び気配と一緒に姿を隠す。それらのやり取りを傍観していたフィリアナは、アルスがかなり人を使い慣れている様子に改めて王家の人間なのだと実感した。

 すると、先程のアルスの言葉が気になったロアルドが質問をする。


「アルス。まだここで調べたい事って、何だ?」


 すると、アルスは先程爆風で滅茶苦茶になった室内を見回す。


「この地下道は、まだ先が続いているだろう? その先に何があるか気にならないか?」

「あー、確かに」

「と言う事で……この先に何があるのか確認しに行くぞ!」

「お前、絶対にこの状況を楽しんでいるだろう?」

「今までこういう探索系の遊びをしていても俺だけ言葉が話せなかったから、物足りなさを感じていた……。だが、今は俺も二人の会話に参加出来る!」

「あーうん。それは良かったなー。それじゃ、フィー。アルスの要望通り、幼少期の頃によくやっていた探検ごっこに今から付き合ってやろうなー」

「兄様、棒読みになってる……」

「気のせいだ」


 こうして三人は地下道の奥に何があるか確認する為、再び先へと進み始めた。

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