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我が家に子犬がやって来た!  作者: もも野はち助
【我が家の元愛犬】

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46/90

46.我が家の元愛犬はどんな服でも似合う

 翌日、朝食を済ませた後にサロンに移動した面々は、昨日確認された光属性魔法で張られた邸内の結界状況の説明をセルクレイスから受けていた。


 すると、早朝から城へ向かった父より信じられない報告が伝達魔法で入る。なんと、魔法能力検査を受けさせようと自室に待機させていたパルマンが、忽然と姿を消したのだ。その事でサロン内は、かなり緊迫した空気を漂わせていた。


「兄上! どういう事ですか!? 本日は朝一番にパルマンとラッセルの持つ属性魔法を父上立ち合いのもと、確認されるというお話だったではありませんか! 何故、その前にパルマンが逃亡しているのです!?」


 フリルがお惜しみなく施されたグレイのブラウスに当時ロアルドが派手すぎると、あまり着なかった黒地に金と赤の見事な刺繍が施されたロングベストを着用したアルスが勢いよく立ち上がり、不満を訴えながら勢いよくテーブルに手を突く。


 ちなみにアルスの下半身コーディネートが、年不相応な黒い膝丈のブリーチズに白タイツなのは、お育ちの良い美少年令息を意識した母ロザリーの趣味だろう……。

 兄が昔から膝丈の下履をあまり好きではなかった事を知っているフィリアナは、本日アルスがされた服装から、当時のロアルドが着せ替え人形に徹してくれなかった事に母ロザリーが、並々ならぬ不満を抱えていた事を密かに感じ取ってしまっていた。


 そんな母の趣味丸出しの服装をさせられているアルスだが……。

 流石、現役の王族だけあってサラリと着こなし、全く違和感がない。その為、誰一人その服装については気にしておらず、現状の状況に集中するように深刻な表情を浮かべている。そんな緊迫した空気の中、父からの報告内容をセルクレイスが語り始めた。


「先程のフィリックスの報告によると、父上は本日早朝からラッセルとパルマンが扱える属性魔法の種類と数値の確認をする手配をしたそうだ。そして、まずはラッセルから測定を行なっていたのだが……。その間、自室で待機させていたパルマンが、忽然と姿を消したらしい……。一応、部屋の扉前とバルコニー下に数名の警備兵と宮廷魔導士を配置していたそうだが……不可解な事に誰もパルマンが部屋から出る姿は目撃していないそうだ」

「では、パルマンの部屋には秘密の通路があったという事ですか?」

「いや、あの部屋にはそのような抜け道はない。今回パルマンが逃亡出来たのは、彼がこの一年間に独自に開発研究をしていた転移効果のある魔道具の試作品を使ったからだと思われる」


 すると、その話にクリストファーが怪訝な表情を浮かべる。


「転移系の魔道具開発って……確か予算的に難しいから昨年の魔道具開発会議で却下されていたのでは?」

「…………それをどうやらパルマンは、別の魔道具開発と称して予算を搾取し、秘密裏に研究に力を注いでいたらしい……」

「明らかに不正ではないですか……。魔法研究協会は何故そのような人間に研究所のトップを任せているのですか?」

「確かにパルマンは、人間性には大いに問題があるが……毎回画期的な魔道具を開発する為、見過ごされる傾向があったそうだ……。今回のカモフラージュ用として開発中と称していた魔道具も、しっかりと進捗状況を協会の方に報告していたそうだ。しかもその魔道具は、野営時などで周囲に簡易結界を張れる実用性の高い物で、すぐにでも試作段階に踏み切れる内容で報告が上がっていた為、協会の方も特に疑わなかったらしい」


 そこまで語ると、セルクレイスが深いため息をつく。

 そんな従兄の様子にクリスとファーが苦笑する。


「でも実際は、結界を張れる魔道具ではなく、転移系の魔道具の開発をしていたと……」

「そういう事になる。ただ問題なのが、その転移系の魔道具が、かなり未完な状態だったらしく、転移可能な距離が短い上に場所指定も出来ない状態だったそうだ。すなわち、使用したパルマンですら、どこに転移されるか分からない状態で使用したらしい」


 そのセルクレイスの話からパルマンの居場所を割り出す事は、かなり難しい状況である事が窺えた。

 すると、アルスが何かを思いついたように「あっ」と小さな声をあげる。


「兄上、パルマンの契約している聖魔獣は今どこに?」

「パルマンの聖魔獣? あの黒猫か? 恐らく魔法能力検査をする際に聖魔獣の影響が出ないように検査側の方で預かっていると思うが……」

「でしたら、その聖魔獣にパルマンの居場所まで案内させればよいのでは?」


 そのアルスの提案にクリストファーが、盛大に呆れ顔を浮かべる。


「アルス……動物は人と会話をする事が出来ないだろう? どうやってその聖魔獣にパルマン殿の居場所まで案内させる気だい?」


 つい昨日まで犬だったせいか、動物を人間と同じような感覚で扱うアルスにクリストファーが、残念な子供でも見るような目を向ける。すると、アルスがムッとしながら、ある事を主張してきた。


「もちろん俺達が探せと言っても、あの黒猫に意図は伝わらないと思うし、たとえ伝わっても主人を裏切るような行動などしないと思う。だが、格上の同じ聖魔から圧力をかけられたら、どうなる? あいつらは基本動物なのだから、同じ聖魔獣同士なら力の上下関係には敏感なのではないか? 俺達の要望は、自身の聖魔獣にならその意図を伝える事が出来るから、その聖魔獣を介してパルマンの黒猫に案内をさせるよう仕向けられると思う」

「そういえば……昔、シルがまだ幼かった時、遊びに夢中になりすぎて手がつけられないくらい興奮した事があったが……父上の聖魔獣であるブライアスに睨まれただけで大人しくなった事があったな……」

「シルってセルク兄様の聖魔獣の銀狼ですよね? それが陛下の聖魔獣の大鷹に睨まれただけで大人しくなったのですか?」

「ああ。鳥類よりも肉食獣の方が強いはずなんだが……。父のブライアスの場合、聖魔獣の中でも規格外の魔力の高さだからか、シルからすると自分よりも格上になるのだと思う」


 そのセルクレイスの話を聞いたクリストファーが、思案するように顎に手を当てる。


「では、同じ聖魔獣同士なら格上の聖魔獣を介して、その黒猫にパルマン殿の居場所まで案内させる事が可能という事ですかね?」

「どうなのだろうな……。あの黒猫とパルマンの信頼関係も影響してくるとは思うが……可能性がゼロではないはずだ。そうなると父上のブライアスか、あるいは私のシルでパルマンの聖魔獣に圧をかける為、私は早々に城に戻った方がよさそうだな……」


 そう言ってセルクレイスが立ち上がると、それにつられるようにアルスも腰をあげる。


「兄上、俺も一度、城に戻りたいのですが……構いませんか?」

「ああ。むしろ父上から、術の解けたアルスと話がしたいと要望がきている。ただし、君が解呪に至った事は、まだ内密にしたいらしい。戻る際は侍従か見習い魔導士等に扮して登城するよう指示があった」


 すると、アルスが怪訝そうな表情を浮かべる。


「何故そのような事を? そもそも今回の騒動の首謀者は、ほぼ逃亡中のパルマンで決まりではないのですか? ならば、もう警戒の必要はないのでは?」

「いや、まだ犯人がパルマンだと決めつけるのは早い。クリス、昨日ロアが捕縛した刺客から依頼者についての情報は何か引き出せたか?」


 すると、クリストファーが困り果てた様子で苦笑を浮かべる。


「一応、依頼者について途中まで口を割らせる事が出来ましたが……その内容は、パルマン殿を彷彿させるような特徴ばかりでした」

「やはり、そうか……」


 セルクレイス達のやりとりにアルスだけでなく、フィリアナも不思議そうに首を傾げる。犯人がパルマンであるのだから、それは当然の結果である。しかし、セルクレイス達は、何故かその状況に納得出来ないらしい。

 その事で不思議がっている二人に今まで静観していたロアルドが、補足説明をする。 


「要するに何故かパルマン殿にとって不利な情報しか上がってこない状況だから、不自然だと言うのが殿下達のお考えだ」

「「あっ……」」


 やや苦笑気味のロアルドの説明にアルスとフィリアナが同時に声をあげる。

 すると、今度はクリストファーにロアルドが質問をする。


「クリス様、ちなみに襲撃者からは、どんな情報が引き出せたのですか?」

「一応、聞き出せたのは、依頼主は40代前後の銀髪の男性で高魔力保持者。そして闇属性魔法が使えたそうだよ。あとメガネも掛けていたとか言っていたけれど、それ以上の情報を引き出そうとしたら……その刺客も何か術を掛けられていたらしく、急に苦しみだして事切れてしまったんだ……」


 その話にフィリアナの体が、分かりやすいくらいにビクリと強張る。

 一方、アルスの方はそういう展開に慣れているのか狼狽えもせず、逆に呆れるように顔から表情が、すとんと抜け落ちた。


「それ……パルマン以外に該当する人物がいないじゃないか……」

「だから使えない情報しか得られなかったんだ」

「それは本当に使えない情報なのか?」

「アルスは相変わらず物事の裏を読み取るのを面倒がるよね……。それじゃ王族としてやっていけないよ?」

「うるさい! 俺はお前のように腹黒くないんだ!」

「僕が腹黒いかどうかは、さておき……。それ以上にパルマン殿を犯人と決めつけられない理由がある。彼は貴重な雷属性魔法使いだが、もし王家の血が入っていれば二属性魔法が使えないとおかしい。ならば魔法研究所の所長にまで昇り詰めた彼は、今までどうのようにして、それを隠したんだ? 所長就任以前は宮廷魔道士だったのだから、その事は採用試験で絶対に発覚するはずだろう?」

「どうせ試験中に不正をして受かったのだろう? そもそもパルマンが逃亡した時点で怪しいじゃないか……」


 そう口にしたもののアルス自身もどこか半信半疑な様子だ。

 その事に気付いたクリストファーが、呆れた様子で息を吐く。


「アルス……それ、自分で口にしておきながら全く納得していないだろう?」

「正直なところ、犯人がパルマンであれば個人的にスッキリはする。だが、いかにもパルマンを犯人に仕立て上げようとしているこの状況は、違和感しかない……」

「君、本当にパルマン殿の事、毛嫌いしているよね……」

「お前は、あいつのしつこさを知らないから、そんな事が言えるのだ! あいつは、二属性魔法の研究の実験を俺が承諾するまで、浴室や手洗い場まで7歳児の俺の後をつけ回して来たのだぞ!? 俺は知っている……。ああいう(やから)を『ストーカー』と言うのだ!」


 どこでそんな言葉を覚えたのかは謎だが、どうやら犬にされる前の幼少期のアルスは、城内でかなりしつこくパルマンに付き纏われていたらしい……。そうなってしまった経緯に責任を感じているセルクレイスが、気まずそうに天を仰ぎ見た後、深いため息をつく。


「とりあえず……本日、私は一度城に戻る。その際、アルスも一緒に同行させるが……その際は侍従か見習い魔導士の服装で……」

「「見習い魔導士の方がよろしいかと思います!」」


 何故か力強く魔導士の服装を勧めてくるロアルドとフィリアナにアルスが、怪訝そうに片眉を上げる。


「何故二人とも俺に魔導士の方を勧めてくるのだ?」

「だってアルスじゃ侍従のふりなんて無理だもの!」

「お前、偉そうな態度が滲み出過ぎなんだよ……。だから侍従に扮してもすぐに怪しまれる!」

「…………兄上、見習い魔導士として同行いたします」

「…………分かった」


 説得力があり過ぎるラテール兄妹からの意見にアルスが、いじけた様子で同意する。そんな弟に憐憫の眼差しを向けたセルクレイスだが、先程からそのやり取りを見て、笑いを堪えているクリストファーに目を向けた。


「クリス、君はどうする?」

「僕は、一度家に戻り、今回首謀者から暗殺を請け負っている組織について、調べてみようかと思います。以前、アルスを犬の姿に変えた者もそうでしたが……どうやらこの暗殺組織では、任務が失敗した場合、本人の意志とは関係なく自害を強要する呪術を掛けられているようなので。今回はたまたまその呪術が発動した状況を目の前で確認出来たので、もしかしたらその状況から父上が何か気が付かれるかもしれませんので」

「分かった。確かにその方面ついては、クレオス叔父上が詳しいからな……」


 そのセルクレイス達のやり取りを聞いていたラテール兄妹が、何故王弟がそのような事に詳しいのか、不思議そうに首を傾げる。そんな二人の反応を見たアルスが、一言補足を入れた。


「ルケルハイト公爵家は、裏でリートフラム王家の影として動いている。ちなみに王家の影達の管理も行っているぞ?」

「そうなの!?」

「ああ。だからクリスは性格が悪い」

「アルス……それ、うちの稼業とは関係ないよね?」

「否定しないという事は、お前も性格が悪い事を自覚しているのだな」

「うわぁ……。曇りなき眼で平然とそういう事を口にするアルスの方が、いい性格をしていると思うよ……」

「俺は間違った事は言っていない」


 すると、何故かロアルドが深刻そうな表情をした後、おもむろに口を開く。


「なぁ、アルス。今の話って……リートフラム王家にとって機密事項になるんじゃないか……?」


 ロアルドのその質問にフィリアナがギョッとした表情を浮かべる。

 対するアルスは、平然とした様子でサラリと答えた。


「そうだが……何か問題でもあるのか?」


 その返答にロアルドとフィリアナが、驚きから大きく息をのむ。


「問題しかないだろう!? お前、それ僕達の前で口にしてはダメなやつじゃないか!」

「何を今更……。ここまで王家の揉め事に巻き込まれているのだから、この程度の機密事項をお前達に知られても、どうという事もない」

「お前、何でそう大雑把に考えるんだよ!! 王族の自覚無さ過ぎだろう!?」

「何故、そんなに目くじらを立てて怒る?」

「怒るに決まっているだろう!! ラテール家を継ぐ僕は、父上の代からリオレス陛下に贔屓にして貰っているから、その機密事項を知っていても問題はないだろうけど……。今後、他家に嫁ぐかもしれないフィーは、どうなるんだ!! 王家の機密事項を知ってしまったら、嫁ぎ先がかなり限定されてしまうだろう!?」


 すると、アルスが今日一番の怪訝そうな表情を浮かべる。


「ロア、お前は何を言っている? フィーの嫁ぎ先は王族である俺の許なのだから何の問題もないだろう?」

「はぁっ!?」

「ええっ!?」

「二人とも、何をそんなに驚いているのだ? そもそもフィーは、俺に『ずっと一緒にいようね』と言い続け、約束させたじゃないか……。それは生涯を共にするという意味だろう?」


 あまりにも突飛な事を言い出したアルスにフィリアナだけでなく、ロアルドも愕然とする。


「フィー……。お前、そんな約束、いつしたんだ?」

「い、いつって……。それ、まだアルスが子犬だった頃の話だよね!?」

「そうだな」

「いや、それ状況的に意味が違うから! お前、何で自分の都合のいい様にフィーの発言を解釈したんだ!?」

「俺は別に都合のいいような解釈などしていない! ちなみにその頃から生涯、フィーと共に生きる事は俺の中では決定事項だ!」

「勝手に決めるな!!」


 まさかアルスが、そんな事を思っていたとは全く予想していなかったフィリアナが、将来に対する不安と焦りから涙目になって兄に問う。


「に、兄様……。私、もしかして将来は辺境伯夫人……?」

「多分、そうなるな」

「何でお前が答えるんだよ!! フィー、だ、大丈夫だぞ? 兄様と父上で陛下に掛け合って何とかするから……」

「何ともならないと思うぞ?」

「アルス……お前、少し黙れ!!」


 全く別の内容で揉めだしたアルス達の様子を見ていたセルクレイスが、呆れからか片手で顔半分を覆いながら、その状況を収めようと口を開く。


「まぁ、アルスとフィーの今後については、本件が解決した後に追い追い話し合うとして……。とりあえず、私は早々に城に戻りたいので、一緒に付いて来る者は出立の準備をして貰えないか?」

「「「あっ……」」」


 セルクレイスの一言で三人は気まずそうに顔を見合わせた後、慌てて身支度に取り掛かり始めた。

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