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我が家に子犬がやって来た!  作者: もも野はち助
【我が家の番犬】

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40/90

40.我が家の番犬は変化する

ごめんなさい……。

8000文字近くな上に前半、読者様タイプによっては結構読むの辛い展開かも……。

 フィリアナの叫び声と同時に部屋の中を駆け抜けていった稲妻は、アルスが倒れ込んでいる辺りから奥の方にバチバチ音を立てながら、侵入者に向かって走っていく。そしてその稲妻とすれ違うように部屋の奥から順に強固な岩壁がフィリアナ達の方に向かうように床から三枚現れた。

 その状況にフィリアナは、縋るような視線で勢いよく扉の方へと振り返る。


「に、兄様ぁぁぁ!!」


 そこには兄ロアルドとレイの姿があった。

 恐らくアルスの危機的状況を感じ取ったレイが、ロアルドをここまで連れてきてくれたのだろう。そんなレイは部屋に入るなり、一直線に侵入者のもとへと突進しながら、雷属性の魔法を広範囲に放つ。

 レイの素早い動きで防御魔法を放つ余裕がなかった侵入者は、その攻撃が直撃し、やや痙攣したような動きを見せた後、そのまま前方に倒れた。


 すると、ロアルドが地属性魔法で即座に強固な岩壁を作り出し、侵入者全体を覆うように捕縛しながら、フィリアナ達のもとへ駆けつけた。


「フィー! 無事……」


 フィリアナの安全を確認しながら近づいてきたロアルドだが、目の前の惨状が視界に入った瞬間、言葉を失い立ち尽くす。


「何で……こんな事に……」

「に、兄様ぁ! ど、どうしよう……どうしようどうしようどうしよう!! こ、このままじゃアルスが……アルスが死んじゃう!!」


 顔色を失い放心状態のロアルドの腕を半狂乱になったフィリアナが大粒の涙をこぼしながら、乱暴に掴んで揺さぶる。


「落ち……つけ……。止血……そうだ! 早く止血をしないと!!」


 あまりにも衝撃的な状況で頭が全く回らない状態になりつつも、ロアルドはピアノに向かって走り出し、そこに掛かっていた埃除け用のカバーを乱暴に引っ掴んだ。

 その間、フィリアナは必死にアルスに呼びかける。


「お願い……お願いだからアルス、目を開けていて! 私をしっかり見て!」


 フィリアナが必死に呼びかけるも当のアルスは青みがかった薄灰色の瞳を虚にしながら、ヒューヒューと喉を鳴らす。だが呼びかけには反応し、微かに視線だけをフィリアナに向けてきた。だが、腹部からの出血は全く止まる様子がない。

 するとピアノカバーを抱えて戻ってきたロアルドが、アルスの傍に膝から滑り込むように座り込む。


「とりあえず、これで……。レイ! お前は急いで父上を呼んできてくれ!」

「キャウ!」


 ロアルドに指示を出されたレイが、物凄い勢いで部屋を飛び出して行く。

 しかし目の前のアルスは、フィリックスの到着を待つのが難しいくらいに衰弱していた。

 そんなアルスの腹部を刺さっている石槍ごと、ピアノカバーでしっかり巻き付けたロアルドだが、これ以上の応急処置が自分に出来ない事に苛立ちを見せる。


「まずい……。血が止まらない……」


 必死で止血を試みるも、すでに手遅れとしか思えないアルスの状態にロアルドも瞳に涙を溜めだす。そんな兄の様子を目にしたフィリアナが、発狂するようにアルスに声をかけ始める。


「ダメ……ダメだよ、アルス!! お願いだから目を閉じないで! 私を……私をちゃんと見て!」


 発狂気味で泣き叫ぶフィリアナに瀕死のアルスが眼球のみ動かして視線だけ向ける。

 だが、それ以上の反応はない……。

 それどころか徐々に瞳が虚ろになり、白目部分が目立ってきていた。

 そんな今にも意識を失いそうなアルスにフィリアナが必死で呼びかける。


「アルス、お願い! お願いだから……目を……目を閉じないでぇー……」


 今、アルスが瞳を閉じてしまったら、そのまま逝ってしまう……。

 その事に気付いているフィリアナは、必死でアルスの意識をとどめようとした。

 そしてアルスの方もフィリアナの願いを聞き入れようと、必死で瞳を見開いてくれている。


 しかし、その瞳は徐々に白目部分の領域は増えいく……。

 その状態からアルスが意識を失いかけている事だと理解しているフィリアナは、いつも窮地から自分を救ってくれる兄に縋りつく。


「ダメぇ……。目を閉じないでぇ……。に、兄様……アルスが………アルスがぁ……」

「くそっ! アルス、しっかりしろ! 頼む……。頼むから、まだ行くな!!」


 いつの間にか涙をこぼしながら止血をしている兄の様子から、もうアルスは手の施しようが無いほどの状態なのだと、嫌でもフィリアナは痛感する。

 その瞬間、フィリアナは勢いよくアルスに縋りついた。


「や……やだぁぁぁー!! アルス、行かないでぇ!! 私を……私を置いて行かないでぇぇぇ!!」


 そんなフィリアナの悲痛な訴えも虚しく、目の前のアルスは意識が朦朧とし始めたのか、眼球が天を仰ぎ始める。それが事切れる寸前である事を察したフィリアナが、アルスの顔を両手で覆いながら半狂乱になって叫び出す。


「やだやだやだぁぁぁー!! ダメ!! アルス、目を閉じたらダメェェェー!!」

「アルス!! 行くな……。行くなぁぁぁー!!」


 フィリアナだけでなく、ロアルドも涙を零しながら必死で呼びかけるが、残酷な事にアルスの呼吸の間隔が、まるで命のカウントをするかのように徐々に長くなる。その状況に堪らなくなったフィリアナが、両手でアルスの顔を覆ったまま、アルスの額に自身の額をくっ付け、祈るように懇願する。


「お願い……お願いだから……行かないでぇ……」


 ギュッと瞳を閉じながら呟くフィアナが、ボロボロと涙を零しながらゆっくりと目を開ける。すると、虚ろなアルスの瞳が、一瞬だけ穏やかそうな光を宿してフィリアナを見つめ返して来た。

 しかしその瞳は、そのままゆっくりとフィリアナの目の前で閉じられる。


 それと同時に苦しそうだったアルスの呼吸音が、ふっと消えた。

 その瞬間、フィリアナが苦痛に耐えるように自身の唇を強く噛む。

 そして、そのまま動かなくなったアルスに縋りつくように覆い被さる。


「嫌ぁ……嫌ぁぁぁぁぁぁー!! アルス……起きてぇ……。アルス……アルスゥゥゥー!!」


 防音措置がされている室内に深い絶望感と、フィリアナの悲痛な叫びが響き渡る。そして何度も何度もアルスの体を揺すって起こそうとしている妹をロアルドが涙を拭いながら、そっと肩を抱き寄せ、アルスから引き離した。


「フィー……。アルスは、もう……」


 兄のその言葉にフィリアナの顔が、更にくしゃりと歪む。


「嘘……。こんなの……嘘よぉぉ!! だって、これは夢でしょう!? 現実じゃないから……私が目を覚ませば、きっと―――!」 

「フィー!!」


 ショックからか虚ろな瞳で妄想めいた事を言い出した妹の両肩をロアルドは掴み、自分の方に向かせた。対するフィリアナは、駄々をこねる幼子のようにイヤイヤと首を激しく振る。


「嫌ぁぁぁ!! 兄様、離して!! アルスは……アルスは、まだ生きてるんだからぁぁぁ!!」

「フィー!!」

「嫌ぁぁぁぁぁぁー!!」


 半狂乱になって泣き叫びながら暴れる妹を瞳に涙を溜めたまま、ロアルドが必死に押さえつける。


「フィー!! 頼むから、落ち着いてくれ!! これは現実に起こってしまった事なんだよ!! それに……どんなにフィーが暴れたって、アルスは……もう戻ってはこないんだ!!」


 兄のその言葉で放心状態になっていたフィリアナが、ビクリと体を強張らせてと動きを止める。そしてそのまま俯き、自身の寝間着用の裾を指が白くなる強さでギュッと握りしめ、涙をハラハラとこぼし始める。


「何……で……? 何でぇ……? だ、だって、ついさっきまで、アルスは元気だったのに……。わ、私と一緒に眠っていたのにぃー……」

「フィー……」


 顔をくしゃくしゃにしながらボタボタと涙をこぼし、アルスの亡骸に縋りつく妹の肩をそっと掴んで、そこから優しく引き離したロアルドは、痛みを堪えるような表情をしながら、そのまま妹の肩をゆっくりと何度も撫でる。


「うっ……ふぅ……。に、兄様ぁ……。嫌ぁ……、アル、アルスゥー……」


 そのまま兄に縋り付くように静かに泣き始めたフィリアナを労るようにロアルドは何度も頭を撫でた。

 だが、どれだけ悲しんでもアルスは、もう動かない……。

 妹の背中越しに見える微動だにしないアルスの姿にロアルドも再び涙をこぼし始める。


「くそっ……。なんでもっと早く……僕は駆けつけられなかったんだ……」

「兄様ぁ……」


 アルスを失って辛いのは、ロアルドも同じだ。

 ましては、あと少し早く自分が駆けつけいれば、アルスは死なずにすんだかもしれないと思うと、自分に対して物凄い怒りが込み上げてくる。


 だが、今更それを思い返したところでアルスは、もう二度と帰っては来ない。

 ならば、アルスの為に出来る事をこれからしなければと、フィリアナよりも先に気持ちを落ち着かせたロアルドは妹から体を離し、すでに事切れてしまったアルスの亡骸を優しく撫でる。


「ごめんな、アルス……。間に合わなくて……」

「に、兄様のせいじゃ……ない……。私が……油断しなければ……。私がもっと強力な防御魔法が使えたら……。ごめんね、アルス。ごめんねぇー……」


 フィリアナも何度も謝罪を口にしながら、兄と同じくアルスの事を撫でようと手を伸ばす。

 しかしその瞬間、突如としてアルスの体が光り始めた。


「フィー!!」


 その異変を察したロアルドが、妹を庇うようにアルスの亡骸から引き離す。すると、その光は球体となって、そのまますっぽりとアルスの体全体を包み込んでしまった。


「な、何……これ……。アルス……アルスは!?」

「落ち着け! フィー! 何か……様子が変だ……」


 二人が光の球体に包まれたアルスの様子を窺っていると、突然その球体は強く光を放つ。


「きゃあ!」

「くっ……!」


 あまりにも眩しい光に二人は腕をかざし、自分達の瞳を庇う。

 だが閃光のような強烈な光を発した球体は、しばらくするとその光を徐々に弱めていった。

 それを見計らい二人は、恐る恐るその光の球体の中を覗き込む。


 しかしアルスの亡骸は淡い光に優しく包まれたままで中の様子は確認できない。

 二人が固唾を飲んでその状況を見守っていると、光はアルスの体に吸収されるように収まっていく。


 だが、光の中から現れたのはアルスではなかった。

 なんと姿を現したのは、全裸状態で横たわる黒髪の少年だったのだ。

 その信じられない状況に兄妹達は唖然としたまま、その少年を凝視する。


 胎児のように膝を抱えて横たわる少年は、全体的に華奢な印象だ。

 だが、骨格などが骨太になりかけており、身長から察するとフィリアナと同じくらいの年齢のようだ。

 肩ぐらいの長さまで無造作に伸びた黒髪はサラリとした様子で艶もあり、なぜかしっかり手入れをされている印象を受けた。


 中でも特に目を引いたのは、少年がとても端整な顔立ちをしていることだった。

 形の良い上がり眉からは凛々しい印象を受けるが、閉じられた瞳には女性のように長い睫毛がびっしりと生えていた。

 鼻筋も通っており、瞳を閉じた状態でも少年の顔立ちが、かなり整っていることがわかる。

 もし目を覚ましたら、この少年は間違いなく美少年顔である。


 しかしそんな凛々しい顔立ちの美少年が、なぜ先程までアルスがいた場所に全裸で横たわっているのかが、よく分からない。

 そもそもアルスの亡骸は、一体どこへ行ってしまったのだろうか……。

 あまりに信じがたい状況に二人が茫然としていると 目の前で横たわる少年が小さな呻き声を上げた。


「うっ……」


 その少年の声に二人がビクリと体を強張らせる。

 だが、そんな二人の反応に気付かない少年は、そのままゆっくりと上半身を起こし、胡坐をかくような体勢で座り直す。すると、少年の右耳あたりから太腿の上に何かがポロリと落下した。

 それを少年が手を伸ばして拾い上げ、何なのか確認し始める。

 その瞬間、はっきりと少年の顔を確認出来た二人は、思わず息を呑んだ。


 やや鋭さを含みはしているが、淡い青みを含んだ透明感のある薄灰色な少年の瞳は、どう見てもアルスと同じ色をしていたからだ。

 その事に二人が驚いていると、何故か少年が盛大に舌打ちする。


「クソッ! 出来ればこれは使いたくなかっ……」


 そう言いかけた少年だったが、何故か急に押し黙ってしまい、まるで時が止まったかのうように動かなくなる。その様子を息を潜めて見守っていた二人……。

 だが次の瞬間、少年はバッと両手を広げ、その手を凝視し始めた。

 その勢いある動作にまたしても二人は驚き、同時に肩を震わせる。

 一方、少年の方は切れ長でバサバサの睫毛をまとったアルスと同じ色の瞳をこれでもかと、大きく見開いた。


「物が……掴める……。それどころか……指がちゃんと動かせる!」


 その不可解な少年の発言にフィリアナ達は互いに顔を見合わせて、怪訝そうな表情を浮かべた。すると今度は少年が自身の顔をベタベタと撫でまわし始める。


「顔に……毛が生えていない!? か、体も……ちゃんと肌が見える!」 


 更によく分からない事を呟き出した少年は、何故かせわしなく自分の体をベタベタと触り始めた。そんな少年の奇行を茫然とした様子で眺めていたフィリアナ達だが、しばらくすると少年がゆっくりと二人の方へと視線を向けてきた。端整な顔立ちとは裏腹に、まるで人を射貫くような意志の強さを感じさせる強い光を宿した少年の瞳に二人は思わず息をのむ。


 すると、少年の眼差しが、ほんの少しだけ和らいだ。

 そして何故か二人の愛称をゆっくりと口にする。


「フィー……? ロア……?」


 声変わりをしたばかりのような声で名前を呼ばれた二人はこの瞬間、少年が何者なのか、すぐに理解する。そして、その答えをフィリアナが唇を震えさせながら口にした。


「アル……ス……なの……?」


 フィリアナが恐る恐るそう呼びかけると、少年は青みがかった薄灰色の瞳を大きく揺らがせ、痛みを堪えるような表情を浮かべながら、眉間に深く皺を刻みこむ。

 そんな辛そうな表情を浮かべた少年を労おうと、フィリアナがその頬にそっと手を伸ばした。すると少年はその手を素早く掴み、まるでロアルドからひったくるようにフィリアナを自分の方へ引き寄せ、そのまま深く抱き込む。


「ぎゃぁぁぁぁぁー!! に、兄様! 兄様ぁぁぁー!!」


 同じくらいの年頃の全裸の少年にいきなり抱きしめられたフィリアナは、淑女とは思えない悲鳴を上げながら、兄ロアルドへ必死に助けを求める。対して少年の方は、うっすらと瞳に涙を浮かべながら、抱き込んでいるフィリアナの肩口辺りに顔を埋めて深く息を吸い込んだ。


「フィー……。フィー、フィー、フィー!! ああ……これでやっとフィーと会話が出来る!!」


 そして感極まったように叫びながら、更にギュウギュウとフィリアナを抱きしめた。その状況を唖然とした様子で眺めていたロアルドだが、顔を真っ赤にしながら涙目で助けを求めてくる妹の声で我に返る。


「バ……バカッ! フィーから離れろ! お前、本当にアルスなのか!?」

「何を今更言っている! この状況であれば、どう考えても俺がアルスに決まっているだろう!? 大体……やっと人としてフィーと触れ合える事を味わっているのに……邪魔をするな!」

「うわっ! こいつ、本当にアルスだ……。そもそもお前、それを兄である僕に面と向かって言うか!? 妹の体裁が危機的状況なのだから、邪魔するに決まっているだろう!? 大体……今の自分の姿をよく見てみろ! 今のお前は、どう見ても露出狂の変態としか思えない状態だからな!?」


 そうロアルドから指摘を受けたアルスは、一度フィリアナから体を離し自身の姿を確認する。

 一方、フィリアナは両手で顔を覆いながら何とかアルスの拘束から逃れようとするが、アルスに右腕でガッチリと腹を抱え込まれてしまい、身動きが取れない。


「確かに今の俺は全裸だな」

「分かっているのであれば、少しは恥じらえよ!! 普通、真っ先にそこを気にするだろう!?」

「7年間も全裸で生活をしていたから、特に違和感がなかった」

「持てよ!! 違和感!! 何なんだよ……お前のその肝の据わり方!!」

「犬が服を着たがったら、おかしいだろう!?」

「今は犬の姿じゃない!!」


 そう叫んだロアルドは、先程犬の姿だったアルスに止血で使ったピアノカバーを主にアルスの下半身目掛けて投げ放った。すると、アルスが不機嫌そうな表情を浮かべる。


 しかし、そのピアノカバーを思わず目にしてしまったフィリアナは、先程の絶望的な状況を思い出してしまい、ビクリと体を強張らせる。カバーには、先程アルスが大量に流していた血が付着していたからだ。そんなフィリアナの反応を巻き付けていた腕から、アルスがすぐに感じ取り、そのピアノカバーをロアルドの顔面に向って投げ返す。


「こんな大量に自分の血がついた物……気持ちが悪くて体に巻き付けたくない」

「仕方がないだろう!? 今お前の体を覆う物が、この部屋にはそれぐらいしかないのだから! 少しの間くらい我慢しろよ!」

「なら、あそこのカーテンがいい」

「お前……何様だよ!! 自分でとってこい!!」


 すると、アルスが悪戯を企む子供のような笑みを浮かべる。


「何を今更……ロアがよく言っていたのだろう? 俺は『俺様犬』だと」


 その瞬間、ロアルドの中で何かがブチ切れる。


「フィー! そこをどけ! こいつ、一発殴りたい!!」

「ダ、ダメだよ! アルス、さっきまで死にかけていたんだよ!? そんな事をしたら、また死んじゃうよ!」

「こいつは、一度死んだ方がいい!」

「いや、本当に一度死んでいるから!」

「何だ、ロア。俺とやり合う気か? 言っておくが、今の俺は魔法だけでなく体術も使えるから、手加減など一切出来ないぞ?」

「「えっ……?」」


 その言葉に驚いた二人が、思わずジッとアルスを見つめる。


「闇属性魔法は術者自らが解呪する方法以外だと、術者か対象者の死なのだろう? 俺は先程、一度死んだらしいから、恐らくその時に魔法封じの術は解呪されたらしい」


 アルスの口から放たれた『俺は一度死んだらしい』という言葉にフィリアナが反応して、ビクリと体を強張らせる。だが、ロアルドの方は、すでにそのトラウマを克服したらしく、疑わしそうな目をアルスに向ける。すると、アルスがそれを証明するかのように右手に魔力を練り上げ始めた。


「本当だぞ? ほら」


 しかし、その光景を目にしたロアルドとフィリアナは、一気に顔から血の気を引いて言葉を失う。

 何故なら……アルスが右手に発動させた魔法は今まで扱っていた火属性魔法ではなく、風属性魔法だったからだ。

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[一言] ハチ助様 メッセありがとうござます。 誤字脱字報告、しつこくてすません、って言いながら今回も勝手ながら送信させていただきやした! そして、なぁるほろ! 大好物な展開に、によによしており…
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