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我が家に子犬がやって来た!  作者: もも野はち助
【我が家の子犬】

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4.我が家の子犬はお疲れ気味

 邸に連れて来られる前のアルスの話で、一瞬暗い雰囲気になってしまったラテール一家だったが……。まだ幼いフィリアナの子供らしい純粋で前向きな様子によって、重苦しい雰囲気を一瞬で拭い去られた事で、一家は本来の明るさを取り戻す。そして、かなり遅くなってしまったフィリアナの6歳の誕生祝いを再開し、一家団欒の晩餐を楽しんだ。


 しかし、その楽しい晩餐の終了と同時に先程まで仲良く過ごしていた兄妹が、突如言い争いを始めてしまう。


「やだぁぁぁー!! アルスはフィーと一緒に寝るんだもん!!」

「だからダメだって!! フィーは寝相が悪いから、絶対にアルスを下敷きにしちゃうだろう!?」

「フィー、アルス下敷きになんかしないもん!!」

「あれだけ寝相が悪いのに何言ってんだよ……。アルスが危ないから絶対にダメ!!」

「だって! だって、アルス、初めてお泊りするお家なのに一人っきりになったら、怖がっちゃうもん! だからフィーが一緒に寝てあげるんだもん!!」

「アルスはフィーと違って、夜中に怖がったりしないよ! そんなに心配なら、兄様がアルスと寝てやる!」

「兄様、ずるい!!」

「兄様はずるくない!! 寝相が悪すぎるフィーが悪いんだ!!」


 そう言い切ったロアルドは、空腹が満たされ、ウトウトしながら床に丸まっているアルスをサッと抱きかかえる。すると、急に抱きかかえられたアルスが驚き、手足をジタバタさせた。


「ほら! アルスが兄様と寝るの嫌だって言ってるよ!?」

「これは急に抱き上げたから、驚いてるだけだろう!?」

「お母様ぁぁぁ~!! 兄様がアルスの事、独り占めするぅぅぅ~!!」

「独り占めなんてしてない!! 寝相が酷いフィーが悪いんだろう!?」


 自分ではアルスを取り返せないと判断したフィリアナが、ついに母ロザリーに助けを求めだす。すると、苦笑しながらロザリーが息子に視線を向けた。


「ロアルド、今夜はアルスだけじゃなくてフィーとも一緒に寝てあげて?」

「ええ~!? 嫌だよぉ……。フィーと一緒に寝ると、寝具はグチャグチャにされるし、思いっきり蹴られるんだけど……」

「け、蹴ってないもん……」

「お前は眠っているから知らないだろうけれど……。兄様は前に風の音を怖がったお前と一緒に寝た時、蹴られて寝台から落とされた事があるんだぞ?」

「ううー……。フィー、兄様蹴ってないもん……」


 どうやら兄ロアルドは、以前一緒に寝てあげた妹から、何度も蹴り攻撃をくらったらしい……。そんな前科があった事に段々とフィリアナの主張も声が小さくなっていく。

 すると、娘に甘い父フィリックスまでもフィリアナの肩を持ち始めた。


「ロアルド。今日だけでいいからフィーとも一緒に寝てあげなさい」

「ええー!? 父様まで、それ言うの?」

「ほら、アルスを守ると思って」

「父様、ずるいよ! そういう言い方をされたら僕、断れないじゃないか……」


 不満そうに口を尖らせたロアルドだが……アルスを片手で抱え直し、空いた手を妹のフィリアナに差し出す。


「フィー、一緒に寝るのは今夜だけだからな?」


 するとフィリアナの表情が、ぱぁーっと輝き出す。


「うん!」

「あと……アルスを抱きしめながら寝るのは禁止だぞ?」

「ええー!? 何でぇー!?」

「寝相の悪いフィーが、アルスを押し潰すかもしれないからだ!」

「うー……。兄様のケチー!」

「ケチじゃない!! アルスの安全確保を最優先するための対策だ!!」

「フィー、そういう難しい言葉、よく分かんない!!」

「お前……絶対、意味を分かっているのに知らないふりをしてるだろう……?」

「フィー、そういう難しい事も分かんないもん!!」

「全く! 調子のいい奴だなぁー」


 ブチブチと小言を言いながらも妹の手を取り、自室に向おうとしたロアルドだが……急に立ち止まって、父フィリックスの方へと振り返る。


「そういえば……アルスって、このまま僕の部屋で一緒に寝ても大丈夫なの? 父様、もしかしてアルスの部屋とか用意してる?」


 息子のその質問にハッとした反応を見せたフィリックスが、慌て出す。


「すまない。先程アルス専用に一部屋用意していた事をすっかり伝え忘れていた……」

「やっぱり……。もう! 父様、しっかりして!」

「本当にすまない……」

「で? その部屋はどこなの?」

「二階にある一番南向きの部屋だ」


 その父の返答にロアルドが、怪訝な表情を浮かべた。


「そこって……うちの客室で一番いい部屋だよね……? そんな一等客室を王族付きの護衛聖魔獣とはいえ、子犬のアルスに用意したの?」

「ああ。もしかしたらアルフレイス殿下が様子を見に来られるかもしれないからな」

「あー……なるほど」


 半ば呆れ顔をロアルドがすると、早くアルスと一緒に眠りたいフィリアナが、繋いでいる手をグイグイと引っ張ってきた。


「兄様~。早くお部屋行こう? アルスもう寝ちゃってるよ?」


 フィリアナの指摘でロアルドが、そっと自分が抱きかかえているアルスに目を向けると、いつの間にかにアルスが目を閉じていた。


「本当だ、いつの間に……。きっと今日のアルスは、急にうちに連れて来られたりしたから凄く疲れたんだろうな……。フィー、部屋に行ったら、すぐにアルスを寝台に寝かせるけれど、撫でたりして起こしたらダメだぞ?」

「うん!」


 フィリアナに一言釘を刺したロアルドは、もう一度両親達の方へと振り返る。


「それでは父様、母様、おやすみなさい」

「おやすみなさい!」


 兄に続いて妹のフィリアナも元気よく就寝の挨拶を両親にすると、二人が優しげな眼差しを向けてきた。


「ああ。二人共、おやすみ」

「ロアルド、アルスだけでなくフィーの事もちゃんと寝かしつけてね?」

「はーい」


 母ロザリーにそう言われたロアルドは、やや投げやりな返事を返しながらも再びフィリアナの手を引き、二階の一番日当たりの良い南向きの客室へと向かい始める。

 すると、フィリアナが少し前から気になっていた事を兄に質問してきた。


「ねぇ、兄様。さっきアルスの事を『せいまじゅう』って言ってたよね? それってなぁに?」


 小首を傾げて質問してきた妹にロアルドが、やや困惑気味な表情を浮かべる。


「うーん。フィーにも分かりやすく説明するの難しいなぁー。『聖魔獣』っていうのは……簡単に言うと、凄く賢くて魔力も高くて人間を守ってくれるいい魔獣って感じかな?」


 兄のその説明にフィリアナが驚き、一瞬歩みを止めた。


「ええ!? じゃあ、アルスってワンちゃんじゃなくて魔獣なの!?」

「うん。でも僕達人間を襲ってくる魔獣と違って、人間を襲ったりしない良い魔獣だよ」

「ワンちゃんの姿なのに?」

「その言い方だと何か変かな? アルスは犬だけど魔獣でもあるって感じだから」

「ワンちゃんの魔獣もいるの?」

「ワンコだけじゃないよ。大きくて立派な鳥や、白蛇、狼の魔獣もいるよ。大きな鳥の魔獣は、今の国王陛下の聖魔獣だし、白蛇は王様の弟のルケルハイト公爵閣下の聖魔獣。狼は第二王子殿下の兄君のティルクレイス王太子殿下の聖魔獣だね」

「ヘビさんの魔獣もいるの!?」

「うん。しかも聖魔獣は高い魔力を持っているから、僕らのように魔法も使えるんだよ?」

「さっきも兄様言ってたけど……アルスは人間じゃないのに何で魔法を使えるの?」

「アルスはいい魔獣だってさっき話しただろ? 魔獣は魔法攻撃をしてくるからアルスが魔法を使えても別におかしくはないだろう?」

「でも! でも! フィー達みたいなのじゃないよね!? 魔獣はお口から火を吐いたり、翼で凄い風を出したりだよね!? でも『せいまじゅう』は、フィー達と同じ様な魔法が使えるんでしょう!?」

「そうだな……。僕も見た事はないけれど……。そのうちアルスが使えるようになるから、見れるかもしれないね」

「アルスが魔法!! あっ……でもまだアルスは魔法使えない?」

「アルスは、まだ子犬だから……。多分、大人にならないと使えないんじゃないかな?」


 適当に話を切ろうとしたロアルドは、いつの間にか到着してたアルス用の部屋のドアノブをフィリアナと手を繋いでいた方の手で回し、妹に部屋に入るように促す。

 すると、フィリアナが部屋に入りながら素朴な疑問を口にする。


「アルス、いつ大人になるのかなー。フィーと一緒に大人になるのかなー」

「そんなにはかからないと思うよ? 通常のワンコだと二年か三年くらいで大人になるから」

「ワ、ワンちゃんって……そんなに早く大人になっちゃうの?」

「うん。でもアルスは聖魔獣だから、どうだろう? 確か大元の聖獣は300年近く生きてたって伝承で残っているから、その血が濃く出ているアルスも普通のワンコより寿命が長いかも。もしかしたら、僕ら人間と同じ速度で成長するかもね」


 そう言いながら、ロアルドは抱えていたアルスを人間用の大きな寝台の枕が並んでいる辺りの真ん中にそっと下ろした。

 すると、フィリアナがやや寂しそうにポツリと呟く。


「アルスが大人になったら……王子様の所に帰っちゃう?」

「そう、だね。アルスが魔法を使えるようになれば、今度はアルスが王子様を守れるようになるから……」

「なら、アルスはずっと小さいままでいて欲しいな……」


 そう呟きながら、フィリアナはアルスに少しだけ掛布を被せる。


「それか、王子様じゃなくてフィーの()()()()()()になって欲しいな……」


 妹のその願望にロアルドが苦笑する。


「それは無理じゃないかな。聖魔獣が主を選ぶのは一度切りって聞いた事があるし。何よりも今のフィーじゃ、聖魔獣に気に入られる程、魔力は高くないだろう?」

「兄様でもダメ?」

「うーん……。あと5年くらいしたら分からないけれど、でもまだ子供の僕らの低い魔力じゃ、アルスの主には選ばれないと思う」

「でも王子様も子供だよ? なのに何でアルスに選んで貰えたの?」


 フィリアナの質問にロアルドが困惑気味な笑みを浮かべる。

 確かに第二王子のアルフレイスは、今年で7歳になったので、年齢は妹のフィリアナと左程変わらない。だがアルフレイスは、兄の王太子と同様に王族直系の血筋の特徴でもある二属性魔法が幼いながらも使える為、桁違いな魔力を持っていた。

 対してフィリアナは、子供にしては魔力が高い方だが……規格外の魔力を持つ第二王子相手では、全く勝ち目はない。


「アルフレイス殿下は年齢は子供でも持っている魔力量は、うちの父様より高いんだぞ?」

「フィーと同じ子供なのに?」

「うん。殿下は確か……火属性魔法と風属性魔法の二属性魔法が使えるんじゃなかったっけ? でもあまり体が丈夫じゃないから、実際に使う事は難しい状況かもしれないけれど……」

「むー……。フィーの方が王子様より、ちゃんと魔法が使えるのに……。王子様、アルスに選ばれて、ずるい!」

「魔力が高い王子様と張り合っても仕方がないだろう? それよりも、折角アルスがうちで暮らす様になったんだから、王子様よりも僕らの方がアルスと仲良くなっちゃえばいいんだよ。そうしたら、アルスが城に帰るのを嫌がって、ずっとうちにいてくれるかもしれないぞ?」

「そっか! ならフィー、明日からアルスと仲良くなる為にたくさん遊ぶ!」


 兄の提案にフィリアナが張り切りながら賛同する。

 だが、それと同時に部屋の扉がノックされたので、ロアルドが入室許可を出す。

 すると、フィリアナ付きのメイドのシシルが、部屋に入ってきた。


「ロアルド坊ちゃま、フィリアナお嬢様、そろそろ湯浴みをし、お休みの準備をされないと、また奥様に叱られてしまいますよ?」

「え? もうそんな時間? ならフィーが先に湯浴みしなよ」

「えー!? フィー、兄様の後がいい……」

「フィーをこのままアルスと残したら、朝まで寝ちゃうだろ? だからフィーが先! それまでアルスは兄様が見てるから……。フィーが湯浴みを終えたら、今度は兄様と交代だ」


 初めは兄の指示に不満そうだったフィリアナだが、湯浴みを済ませれば兄よりも先にアルスと一緒に寝られる事に気付き、物凄い勢い浴室の方へと駆け出す。


「フィー、湯浴みすぐ終わらせて来る!」

「こら! 風邪ひくからしっかり温まってきなさい!!」


 兄にそう釘を刺されるも、その後のフィリアナは、まるでカラスの行水のような早さで湯浴みを済ませて戻ってきた。


「フィー……。兄様、しっかり温まって来いって言ったよな?」

「ちゃんと温まって来たもん! ほら! 次は兄様の番! アルスはフィーが見ててあげるから!」


 何故か自信満々の様子で兄に湯浴みを促したフィリアナは、物凄い早さでアルスの寝ている寝台へと潜り込んだ。

 その様子を半ば呆れ気味な表情でロアルドが見やる。


「フィー。兄様が湯浴み中は、絶対にアルスを撫でたりして起こしたらダメだぞ? 約束だからな!」

「大丈夫! フィー、静かにしてアルスと待ってるから!」


 そう宣言するフィリアナに疑いながらも、ロアルドは湯浴みを済ませに隣の部屋へと向かう。

 しかしロアルドが湯浴みを済ませ部屋に戻ると、そこには幸せそうな笑みを浮かべ、アルスを抱きしめて眠るフィリアナの姿があった。


「ちっとも約束を守っていないじゃないか……」


 愚痴るように呟いたロアルドは、少しズレてしまっている掛布をフィリアナとアルスに掛け直し、自身も寝台に潜り込む。


「フィー、絶対にアルスを押しつぶすなよ?」


 すでに深い眠りに落ちて声の届かなくなっている妹にそう声を掛けた後、ロアルドもゆっくりと瞳を閉じ、眠りの世界へと身を落していく。


『明日になったら、フィリアナと一緒にたくさんアルスと遊んであげよう』


 そんな事を考えながら、眠りに就いたロアルドだが……。

 翌朝、ロアルドがいつもより少し早めに目を覚ますと、すでにアルスとフィリアナの姿は寝台から消えていた。

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