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我が家に子犬がやって来た!  作者: もも野はち助
【我が家の番犬】

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29/90

29.我が家の番犬は公爵令息を敵認定する

  王太子の口から出た予想外のワードから、今回想像以上に深刻な状況になっている事にフィリアナ達は顔色を変えた。


 闇属性魔法は、現在セルクレイスが受け継いでいる光属性とは対局の属性値魔法である。だが、その効果や詳細などは、あまり世間的には知られていない。そもそも闇属性魔法を扱える人間というのが、かなり稀な存在であり、同時にその属性名からあまり良い印象がない為、仮に使い手がいたとしても、その力をひた隠しにしてしまう傾向が強いのだ。


 だが、現状堂々とその闇属性持ちである事を公言している人物がいる……。それが王弟でもあり、クリストファーの父でもあるルケルハイト公爵だ。

 その事でロアルドは、何故この場にクリストファーが同席しているのか気付き、同時にある仮説も立ててしまった。


「まさか……その闇属性魔法をクリストファー様は扱えるのですか?」


 ロアルドのその質問にクリストファーは苦笑を浮かべながら、首を振った。


「いいや。僕が扱えるのは母より受け継いだ風魔法のみだよ。そもそも僕は王家の血が流れていると言っても直系ではないから、二属性魔法持ちではないからね。だけど父は直系であるから火属性と闇属性持ちなんだ。今回はセルク兄様から、城内にまで襲撃してくる魔獣について、父の代理で相談に乗って欲しいと申し出があったから、たまたま登城していたのだけれど……。まさか今日、その襲撃を目にする事になるとは思わなかったよ……」


 そう言って苦笑を浮かべたクリストファーだが、その後すぐに天使のような顔の眉間に皺を作り出す。


「お陰で襲撃してくる魔獣の様子を実際に確認する事が出来たのだけれど……。結論から言うと、あれは間違いなく闇属性魔法によって操られている状態だ。僕は領内の魔獣討伐をする際に父が、闇属性魔法を使用している様子を実際に目にしているから間違いないよ」


 そう語ったクリストファーだが、何故かその表情は癒しの天使には似合わない静かな怒りを含んでいた。そんなクリストファーの様子にラテール兄妹は疑問を抱く。すると、今度はセルクレイスが深刻な表情を浮かべながら語り始めた。


「闇属性魔法は私の光属性魔法と同じで、現状だと直系の王家にしか受け継がれない力なんだ……。ただ次期後継者にしか受け継がれない光属性魔法と違って、闇属性魔法は非常に低い確率ではあるが、直系の王家であれば次男以降の男児に限り、何人でもその力を受け継ぐ事が出来る。つまり……現状、闇属性魔法を使える人間はクリスの父であるルケルハイト公爵の他にもう一人……」


 そこでセルクレイスは、敢えて言葉を溜める。


「私達の父とは腹違いとなる存在が未確認の叔父だ……」


 すると、フィリアナとロアルドが同時に息を呑む。

 その人物はリートフラム王家に対して何度も刺客を差し向けている人間……すなわち、王子二名の暗殺を企てている首謀者である。


 そんな人間が、よりにもよって光属性魔法と同じくらい稀有で、使用するには倫理観を問われるような闇属性魔法の使い手なのだ。しかも、その首謀者は何故か王位継承権を持つ王子達だけでなく、異例な高魔力持ちの聖魔獣であるアルスの命までも狙っている。


 現状、闇属性魔法にどのような効果があるのか分からないフィリアナだが……。先程から王族の少年達が発している『魔獣を操る』というワードから、嫌な想像しか出来ないでいた。


 すると、その不安から瞳に涙が溜まり出したフィリアナは、膝の上に顎を乗せていたアルスを無意識で抱きしめる。そんなフィリアナの様子にいち早く気づいたクリストファーが、柔らかな笑みを浮かべながら声を掛けてきた。


「フィリアナ嬢、アルスと……その銀色の狐は操られたりしないから大丈夫だよ。聖魔獣は、一般的な魔獣と違って体内の魔石の純度が高すぎるから、そう簡単には闇属性魔法でも操る事は出来ないから」


 その言葉にフィリアナは安堵の表情を浮かべるが、ロアルドの方は険しい表情を浮かべたままだ。そんな兄の様子に気づいたフィリアナは、声を掛ける。


「兄様? どうしてそんなに難しいお顔をしているの?」

「いや、だって……逆に考えれば、普通の魔獣は簡単に闇属性魔法で操られてしまうって事だろう? しかも闇属性魔法は、放たれた瞬間なら光属性魔法で相殺が出来るけれど、受けてしまった後の効果の無効化は出来なかったはず……。恐らく今回のように操られた魔獣だと闇属性魔法の支配下にあるから、セルクレイス殿下が張ってくれている光属性魔法の結界でも防げないんじゃないかと思って……」


 そう言ってロアルドがチラリとセルクレイスに視線を向けると、それを肯定するようにセルクレイスが苦笑を浮かべた。


「その通りだ……。城内に私や弟を狙って魔獣逹が侵入出来るのは、その魔獣達が闇属性魔法の支配下にあるからだ。その事で闇属性魔法使いでもあるルケルハイト公爵に相談をしている。だが……」


 そこでセルクレイスは、続きの説明をクリストファーに託す。


「闇属性魔法は、精神攻撃や呪術的な効果の魔法が多くて……。父の話では、闇属性魔法を掛けられた場合、術者にしか解けないそうなんだ。それ以外で解呪可能なケースは……術者、あるいは掛けられた対象者のどちらかが死亡すると、解呪に至るようだけれど……。その時点で術が掛けられた痕跡は全て消えてしまうから、それが呪術だったのか闇属性魔法だったのかの判断は難しいそうだよ」


 深刻な表情で説明されたクリストファーの話で、フィリアナは先程襲ってきたヘルウルフ達の事を思い出す。闇属性魔法を掛けられ、強制的に城を襲撃するように操られ、炎の中で苦しみながら死んでいった彼らの事を思うと、いくら自身の命を守る為とは言え、フィリアナは罪悪感を抱かずにはいられない気持ちになる。

 そんな妹の心境を読み取ったロアルドが、幼子をあやすようにポンポンとフィリアナの頭を叩く。


「フィー、今回はこちらも命が掛かっていたのだから、罪悪感を抱く必要なんてないぞ。確かにヘルウルフ達には同情しかないけれど……。でもあの時、本気で対処しなければ僕らの方が、命を落としていたかもしれないのだから」

「そんなの分かってるよ……。でも!」


 頭では理解していても気持ちの整理が付かない様子の妹の気持ちを察したロアルドは、苦笑しながら少し乱暴にその頭をグリグリと撫でる。すると、髪型を乱されたフィリアナが兄に恨めしそうな視線を送った。そんな兄妹のやりとりを見ていたクリストファーが、口元を緩める。


「フィリアナ嬢は優しいね……。あんなに怖い思いをさせられたのにその魔獣達の事も思いやれるなんて……。僕が同じ立場だったら、とてもではないけれど自身の事を考えるだけで精一杯で、そんな同情的な気持ちなんて抱けないよ」

「そんな事は……」


 そう謙遜しようとしたフィリアナだが、何故か悲しげな笑みを浮かべてきたクリストファーの様子に違和感を抱く。すると、話が脱線し始めた事に気付いたセルクレイスが再び話を戻し始めた。


「とにかく、今は闇属性魔法持ちで、王位継承権も持っている可能性が高いその首謀者の正体を早急に突き止める事が、最優先事項となる」


 そのセルクレイスの意見にこの場にいる全員が、同意するように一斉に頷いた。

 だが現状、王家がその首謀者の情報をどのくらいまで掴んでいるのか分からなかったロアルドが、その事をセルクレイスに確認する。


「ちなみにその首謀者について何か分かっている事はございますか?」

「いや、残念な事に未だに有力な情報は得られていない……。ただ確実に言える事は、その人物はリートフラム王家の直系の血を引く闇属性魔法の使い手であり、クリスが命を狙われていない状況から、クレオス叔父上よりも王位継承権が上の人間である事は確かだ」


 そう言い切ったセルクレイスにフィリアナ達はある違和感を抱く。今回の状況で一番犯人として疑われやすいのは、どう考えても王弟クレオスなのだが、セルクレイスはその可能性を全く考えていないのだ。

 そんな二人の考えをすぐに察したのが、その息子であるクリストファーだった。


「ちなみに父が僕を王に立てて、陰でこの国を牛耳ろうという野心を抱く事は、まず無いよ。なんせ父は。登城しようとすると吐き気がこみ上げてきて、体調不良を起こす程、この城での過去の生活がトラウマになってしまっているから……。実際に公爵位を賜ってからは、父は一度も登城した事がないんだ……」


 そう語ったクリストファーは、やや悲しげな笑みを浮かべる。恐らくセルクレイスからの闇属性魔法についての相談は、登城が困難な父親の代理でクリストファーが対応しているのだろう。それ程までに当時まだ少年であった王弟クレオスは、前王時代に深い心の傷を負ってしまった事が窺える。


 そんな王家の内情を聞かされたフィリアナ達は、すでに死亡している前王に未だ振り回されているリートフラム王家に同情しながらも、内心では焦っていた。

 何故、王家が抱えている問題の内情を一介の伯爵家の人間である自分達にここまで詳しく語るのかと……。


 もちろん、その背景には王家が保護している高魔力持ちのアルスをラテール家で預かっている事が関係している。しかし、それでもあまりにもあけすけに内部事情を語られ過ぎているのだ。


 恐らく王家が二人にここまで情報を開示してきたのは、将来的にラテール家との関係を強固にしたいという囲い込みを視野に入れたものだろう。その一番手っ取り早い方法が、第二王子アルフレイスとフィリアナの婚姻なのだが……。


 現状フィリアナが頑なにその申し入れを避けている為、王家の方はロアルドに内情を惜しみなく開示し、このお家騒動に巻き込む形でラテール家の囲い込みを行おうとしている様子だ。


 そんな王家側の目論見にフィリアナ達は気づいてはいたが、現状大切な愛犬と化しているアルスが関わっている以上、その情報開示による自分達の囲い込みを甘んじて受けるしかなかった。アルスを守る為には、どうしても王家が抱えている問題についての詳細を知っておくことが必要だったからである。


 だが、王家はまだアルス関係で、フィリアナ達に隠している秘密がある様子だ。

 本日の目にした不仲なはずの第二王子とアルスの連携攻撃は、まるで二人がすでに聖魔獣契約を交わしているのではないかと思ってしまう程、見事なものだったからだ。


 もし聖魔獣契約が成立していた場合、アルスを第二王子に取られてしまう……。

 そんな不安に駆られていたフィリアナは、先程から不思議そうな表情を浮かべ、視線を送ってくるクリストファーの存在に気づいていなかった。

 すると、そんなクリストファーが、おもむろに口を開く。


「ところで……フィリアナ嬢とアルは、すでに婚約者同士なのかな?」


 どことなく愛らしい雰囲気をまといながら、小首を傾げて質問してきたクリフトファーの質問がフィリアナの思考を一瞬だけ止める。だが、すぐに我に返ったフィリアナは、大袈裟に首を左右に振った。


「ま、まさか! それは誤解……」


 そうフィリアナが言いかけると同時に自身の膝上にあった重みと温かみが、一瞬で消えた。その事でフィリアナは、慌ててクリストファーの足元に視線を向ける。

 しかし、時はすでに遅かったようで……それを決定付けるようなクリストファーの悲鳴が室内に響き渡る。


「うわぁぁぁー!! ちょ、ちょっと、アルス! 痛い! 痛いってば! 血ぃ……血が出てるからっ!!」


 なんと、つい先程まで大人しくフィリアナの膝上に顎を乗せてまどろんでいたアルスが、一瞬でクリストファーとの距離を詰め、全力でその足首に噛み付いていたのだ……。

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