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我が家に子犬がやって来た!  作者: もも野はち助
【我が家の番犬】

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27/90

27.我が家の番犬は連携攻撃が得意

「アルスー! レイー! そろそろ出かけるよー!」


 フィリアナの呼びかけに何故かアルスは、逃げ惑うようにその場を離れ、反対にレイはすぐにフィリアナの足元にやって来て行儀よく腰をおろした。


 この邸に来たばかりの頃のレイは、毛糸玉ほどの大きさの子狐だったが、現在はアルスと同じ程の大きさに成長しており、銀の毛並もフワフワから絹のような手触りの極上の毛皮のようになっていた。


 だが、人懐っこさは相変わらずで、ラテール邸の人間には誰に対しても分け隔てなく、懐いてくれている。またアルスに対しては、現在もベッタリとくっ付いている事が多いのだが、子狐だった頃に比べると甘えるような行動は大分減っていた。


 そんなレイは、現在では魔獣に襲われた際は雷属性の魔法を放ち、アルスや兄ロアルドと見事な連携攻撃が出来る程の成長を見せていた。協調性が高く、素直な性格に育っているレイを褒めるようにフィリアナは腰を下ろして、わしゃわしゃと撫でまわす。


「レイは、いい子だねー。それに引き替えアルスは……。アルスー! もう殿下との交流は逃れられないのだから、諦めて出てきなさーい!」


 再度、フィリアナが呼びかけると、背中を丸め尻尾をダラリと垂らしたアルスが、ショボショボした様子で現れた。そして悲しそうな表情を向けながら、フィリアナに擦り寄る。そんな渋々という様子を見せる愛犬の顔をフィリアナは、優しく両側から包み込んだ。


「お城行くの、嫌だよね……。でもね、そうしないと殿下にアルスを連れ戻されちゃうかもしれないの……。だから今日も、少しの間だけ我慢しようね?」


 まるで幼子に言い聞かすようにフィリアナは、アルスの頬を撫でながら諭すと、アルスがピスピスと鼻を鳴らし出した。そんなアルスをフィリアナはギュッと抱きしめる。


 フィリアナ達が第二王子アルフレイスより半ば強制的にお茶席に招かれ始めてから、早三年が経ったのだが……。その間、アルスの第二王子に対する嫌悪感は年々増している。

 それも現在では登城する日になると、それを拒むように身を隠してしまう程だ。


 しかし、そんな状況を見かねたフィリアナがアルスを連れて行く事を諦めようとすると、アルスは慌てて姿を現し、必死でフィリアナに縋り付いてくる。恐らく第二王子のもとに行くのは嫌だが、フィリアナに置いていかれる事は、もっと嫌なのだろう。


 そんなやり取りをこの三年間、月に三回は行っているフィリアナ達だが……。不思議な事に初期の頃に懸念していたアルフレイスからの婚約申し入れアピールは、現在あまりされていない。


 その要因の一つに登城する際は、常に兄が一緒でないと登城しないように徹底していたからだ。この三年間、ロアルドは第二王子がフィリアナへの婚約を望む話題を出そうものなら、即話の腰を折り、違う話題にすり替えていた。


 そしてフィリアナの方も出来る限り、アルフレイスから婚約の申し出をされないように気張っていた。婚約者がいない事を嘆かれれば、社交界でも評判の年頃の令嬢を紹介し、フィリアナに好意を示す素振りを見せてきた際は、社交辞令だと受け止め、鈍感なふりを貫いた。


 そんな対応を三年間も徹底されてしまった第二王子は、流石に一度友人からの関係を深めた方がいいと判断したようだ。最近では、フィリアナを婚約者として囲い込むよりも兄ロアルドを将来的に自身の側近に囲いたがっている様子が窺える。


 その為、この日も兄と共に嫌がるアルスと元気いっぱいな銀狐のレイを連れて登城し、第二王子が待ち受ける王族専用のプライベートガーデンで準備されていたお茶席に着いたフィリアナは、やや油断をしていた。


「そう言えば……来年でフィリアナは13歳になるのだよね?」

「はい」

「ならば来年はデビュタントだね!」


 そのアルフレイスの言葉にフィリアナが、あからさまに笑顔を引きつらせる。

 つい先程まで、兄ロアルドと学園内で交流を深めた方がよい令息達の絞り込みを話し合っていたはずだが、急にフィリアナの話題に変えてきたのだ。


 そんなフィリアナより一つ年上であるアルフレイスは、この年の春から王立アカデミーに通い出したのだが、王族としての公務もこなさなければならない為、幼少期の病弱体質設定を利用し、学園には週に二日程しか通っていない状態だ。


 そんな状態ならば、通学は断念すればよかったのでは……とフィリアナは思ってしまったのだが、アルフレイス曰く、女子禁制とされている王立アカデミーは、令息達のみと関係醸成が出来る絶好の交流場になるそうだ。その為、入学前から交流があったロアルドは、学年は違えどもアルフレイスと他令息達との架け橋役をしている為、学園内ではすっかり第二王子の側近候補という目で周囲から見られているらしい。


 そんな兄達の関係もあり、この日も二人は学園生活の話題で盛り上がるのだろうと思っていたフィリアナは、いつも通り二人の会話をニコニコしながら聞いていればよいと、完全に気を抜いていたのだ……。


 だが、アルフレイスの方は、今日のようにフィリアナが気を抜くのを虎視眈々と狙っていたらしい。まだ出会ったばかりの頃のように急にフィリアナにアプローチのような接し方をしてきたのだ。


 そして、この第二王子のアプローチらしき行動で真っ先にフィリアナが警戒していた内容が、デビュタントのエスコート役をアルフレイスに申し出られる事だった。

 しかし、アルフレイスは予想に反して、全く別の話題を振ってくる。


「デビュタントの際に着るドレスの準備は、もう始めているのかい?」

「ドレス……ですか? いいえ。まだ半年も期間があるので、これからデザインや色などは検討しようかと……」


 予想外の質問だったので何も考えずに素直にフィリアナが答えると、何故か兄ロアルドは落胆するように右手で自身の両目を覆って天を仰ぎ、逆にアルフレイスの方はにっこりと何かを企むような優雅な笑みを浮かべた。

 その瞬間、フィリアナは自身が返答対応を誤った事に気付く。


「ならば、そのデビュタント用のドレスは、僕から贈らせて貰えないかな?」


 その第二王子からの申し出に思わずフィリアナは、兄に助けを求めるようにグリンと視線を向けた。だが、ロアルドはアルフレイスに気づかれないようにゆっくりと首を振る。その兄の反応は、明らかに今回は回避不可だという通告であった……。


 だが、フィリアナもそれなりに諦めが悪い性格である為、なんとか自力で回避出来ないかと奮闘し始める。


「ええと……何故、殿下がわたくしのドレスをご用意して下さるのですか?」


 やや引き攣った笑みで、敢えて令嬢ぶるフィリアナにアルフレイスが苦笑する。


「そうだなー……。君達には、三年間も僕の我が儘で友人としての交流をして貰っているから、そのお礼……と言う理由ではダメかな?」

「ですが、それはわたくしよりも兄の方が貢献しているかと……」

「もちろん、ロアにも別の機会にお礼をしようと思っているよ。でもまずはデビュタントという人生で一度きりしかない門出を控えているフィリアナにお祝いも兼ねて、お礼をしたいなーと思って!」

「そ、そのようなお気遣いを頂き、大変光栄です。ですが、デビュタントのドレスは、両親も選ぶのを楽しみにしておりまして……」

「そうか……。でもまだ具体的には、準備は始めていないのだろう? どうせなら王家から贈られたドレスで社交界デビューをした方が、インパクトはあるかと思うのだけれど。例えば……昔のエレノーラ嬢のような令嬢避けには、かなり効果的だと思うよ? それにこの間、母にこの事を相談した際にかなり乗り気でね。義姉上と一緒になって君の似合いそうなドレス選びが出来る事を楽しみにしているんだ」


 珍しく行儀悪くテーブルに頬杖を突いて、にっこりと顔を覗き込んでくるアルフレイスの攻撃にフィリアナは、涙目で兄に救いを求める。しかし、今回に関しては王族からの申し出を断る良い回避方法が思いつかないのか、ロアルドは諦めるように瞳を閉じて静かに首を振った。

 王家から『お礼』と称されてしまえば、一介の伯爵家では受け取り辞退など許されない……。


 もし以前のフィリアナであれば必死で悪あがきをし、なんとか回避しようと足掻いたはずだが……。12歳となった現在では、だいぶ貴族令嬢としての常識と分別が身についていたので、それが無駄な足掻きだと悲しい事に理解出来てしまう。

 そんなフィリアナは、覚悟を決めてお礼と称された意味ありげなドレスの贈り物を受け取る事を承諾しようとした。


 しかし、その絶妙なタイミングでアルスが吠え出す。

 その愛犬の素晴らしい機転行動にフィリアナが、顔を輝かせたのだが……すぐにアルスの反応がおかしい事に気付く。すると次の瞬間、アルフレイスとロアルドが同時に勢いよく立ち上がり、何故か二人とも魔力を練り上げ始めたのだ。


 兄達の謎の行動にフィリアナが怪訝そうな表情を浮かべると、庭園の垣根から禍々しい濃紺のモヤのような煙をまとった二メートル以上の大きさの狼系の魔獣が、三匹まとめてこちらに突進してくる様子が視界に入る。

 その状況にフィリアナは、自身から一気に血の気が引くのを感じていると、父フィリックスの怒声が庭園内に響き渡った。


「殿下をお守りしろっ!!」


 しかしフィリックス達の方でも同じ大きさの狼系の魔獣が五匹も襲い掛かっており、その対処でこちらの守りまで手が回らないという状況だ。いつの間にか父達の方に駆け寄っていたレイが、果敢にも雷属性魔法で応戦している姿も目に入ったが……。襲撃して来た魔獣は、一匹が二メートル以上もあるので、かなり対処に苦戦している状況である。


 そもそも何故、どこよりも安全面に配慮されている城内に禍々しい気をまとった魔獣達が入り込んできたのかが、謎である……。その信じられない光景を目の当たりにしたフィリアナが固まっていると、何故か一早くアルフレイスが動き出す。


「ロア!! 地属性魔法で魔獣の足止めをするのと同時に僕達の前に防御壁の展開を!」

「はい!」


 いつの間にか慣れた様子でロアルドを略称呼びしながら指示を出してきたアルフレイスは、物凄い気流の風魔法を片手で練り上げ始める。その姿は今までの『自称病弱な第二王子』という印象は一切ない。

 その様子にも唖然としていたフィリアナだが、この後アルフレイスは更に驚きの行動を見せる。


「アルス!!」

「バウ!!」


 なんと自身に対して嫌悪感を剥き出しにしてくるアルスに呼びかけたのだ。

 そして不思議な事にアルスの方も何故か慣れた様子で、その呼びかけに応え、そのまま襲い掛かってくる魔獣目掛けて突進する。その危険を伴う状況に思わずフィリアナが叫んだ。


「アルスっ!!」


 そんなフィリアナの叫びと同時にアルフレイスが先程から練り上げていた風魔法を放つ。すると、ロアルドの地属性魔法で一瞬だけ動きを封じられた魔獣目掛けて、アルフレイスが放った風魔法が、激しい渦を巻きながら真横に勢いよく伸びた。


 その風魔法に先に走り出していたアルスが、魔獣に直撃する寸前に強力な火属性魔法を混ぜ合わせるように放つ。すると竜巻は一瞬で大火炎の渦となり、三匹の禍々しい魔獣達を飲み込むように捕らえた。その瞬間、魔獣達の悲痛な叫び声が庭内に響き渡る。


 そんな人生で初と言っていい程の強力な連携攻撃魔法を目の当たりにしたフィリアナは、口を半開きにしたまま立ち尽くすと、兄ロアルドが激を飛ばしてきた。


「フィー!! 消火の準備!!」


 兄のその言葉で我に返ったフィリアナが、慌てて強力な水属性魔法を放つ為に魔力を練り上げ始める。

 その間、膨大な魔力を持つ第二王子の放った風魔法とアルスが放った火属性魔法が混ぜ合わさった連携魔法を受けた魔獣達は、断末魔のような叫び声をあげていた。その耳を塞ぎたくなるような状況の中、フィリアナは自身の魔力を研ぎ澄ますように練り始める。


 だが、魔獣達はその炎から逃れようと必死になって暴れ出し、飛び火してしまいそうな火の粉と、(すす)を周囲にまき散らし始める。その被害を最小限に防ごうと、ロアルドは地属性魔法で岩の壁をサークル状に展開させ、魔獣達を囲い込んだ。


 すると、岩壁内で大火炎の渦に襲われている魔獣達が暴れている様子が衝撃音と振動で伝わってきて、内部がかなりの地獄絵図になっている事が想像出来た。だが現状、自身の命がかかっている状況下では、フィリアナも非情に徹しなければならない。

 それでも……魔獣達の悲痛な叫び声は、フィリアナに深い罪悪感を与えてくる。

 そんな精神状態になっているフィリアナにロアルドが、顔を顰めながら訴える。


「フィー! 悪いが、兄様の防御壁はあまり持たない! だから出来るだけ早く消火出来るだけの水属性魔法を練り上げてくれ!」

「わ、分かった!」


 兄の限界宣言で、フィリアナは雑念を捨て、魔力を出来るだけ濃厚に練り上げる事に集中する。

 その間、アルフレイス達は五匹の魔獣達に対処しているフィリックス達の援護を行い始めていた。すると、アルス達が加勢すると同時にフィリックス達の状況は一気に優勢となる。それだけ膨大な魔力持ちの第二王子とアルスは、互いの力バランスと相性がいいのだろう。


 だが、その状況はフィリアナに大きな違和感を与えてきた。

 本日、初となるはずのアルフレイス達の連携攻撃が、まるで事前に示し合わせていたかのような見事さだったからだ。その考えに一瞬意識が行ってしまったフィリアナの目の前で、兄ロアルドが維持していた防御壁が崩れ始める。


「フィー!! 急げ!!」


 切羽詰まったような兄の叫びで、フィリアナは今自分が出し切れる最大級の水属性魔法をその崩れ始めた岩壁の隙間に全力で放った。すると、岩壁の内部で大渦となった強力な水属性魔法が、黒焦げになった魔獣三体を空に向かって高く巻き上げる。


 その魔獣達が大きな音を立てて地面に落下するのと同時に大量の魔力を放ったフィリアナが、力尽きるように膝から崩れかける。だが、そんな状態のフィリアナを隣にいたロアルドが、掬い上げるように腕ごと引き上げた。

 よく見ると自分と兄の顔や服が、先程の大火炎の渦で舞い上がっていた火の粉の所為で、(すす)まみれになっている事にも気付く。


「大丈夫か?」

「うん……。でもかなり魔力を使い過ぎてしまったから、立つのがやっとかも……」

「偉いぞ、フィー。よく頑張った!」

「兄様達は凄いね……。あれだけ強力な魔法を連続で使っていたのに、まだ平然と立っていられるなんて……」

「兄様達は魔力量に特化した特異体質みたいなものだから、自分と比べても仕方がないと思うぞ?」

「自分で特異体質とか言う兄様は、カッコ悪いと思う……」

「兄様は、カッコ悪くない!」


 そんないつも通りのじゃれ合い会話を交わしていた二人だが、ふと同時にある方向に目をやりながら、一瞬で無言となる。その視線の先には、先程と同じように見事な連携魔法攻撃で父達の援護を行っているアルス達の姿があった。

しばらくその様子を無言で見つめていた兄妹だが……その沈黙をフィリアナが破る。


「ねぇ、兄様。私、先程から物凄く気になっている事があるのだけれど……」

「奇遇だな。兄様もだ……」


 またしても謎の沈黙を挟んだ二人だが、すぐにフィリアナがその気になっている内容をボソリと口にする。


「どうして殿下とアルスは、初めてな状態であんなにも息がピッタリな連携魔法攻撃が出来るの?」

「それは……兄様にも分からない」


 そう返したロアルドは、再度父達の援護を行っているアルス達をジッと見つめるが、その後すぐに深いため息をこぼした。


「だが……これだけは、はっきりと言い切れる。王家は、まだアルス関係で僕達にひた隠しにしている事が、絶対にあるはずだ」


 兄のその見解に同意するようにフィリアナは、(すす)まみれな顔で大きく頷いた。

★【我が家の番犬】の登場人物の年齢設定★

・フィリアナ→12~13歳

・ロアルド→15~16歳

・アルス→見た目はすっかり成犬の大型犬

・アルフレイス→13~14歳

・セルクレイス→18~19歳

・クリストファー→ロアルドと同年齢

(↑これから出てきます)

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― 新着の感想 ―
[一言] はい、自分ももうやられました。 早いですよね、年々早くなっているような気がします。 嫌な季節の到来です。蚊は嫌です。ホントに。
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