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我が家に子犬がやって来た!  作者: もも野はち助
【我が家の子犬】

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1.我が家に子犬がやって来た!

当作品は作者が好き勝手に妄想した架空ファンタジー世界が舞台のお話です。

『精霊』や『聖獣』(聖魔獣)という存在が出てきますが、一般的に認知されている設定とは異なるので、もし世界観やお話が合わなかった場合は、無言でブラウザをそっと閉じ、別作者様の素敵な作品をお読み頂くようお願いいたします。

それでは以下より、作品をお楽しみください。

 この日、ラテール伯爵家の第二子フィリアナは、六歳の誕生日を迎えたというのにテーブルの上のご馳走に手を付けず、長い間押し黙っていた。

 その状況にフィリアナより三つ年上の兄ロアルドが食事の手を止めて、盛大にため息をつく。


「フィー……。もう父様の事は諦めよう? この時間になっても帰ってこないんだから、多分お帰りは明日の朝だと思うよ?」


 やんわりと説得に掛かって来た兄に対してフィリアナは、ぶんぶんと勢いよく首を振った後、頬を膨らませながら再度テーブルの上のご馳走を睨みつける。

 そんな頑なな態度の妹にロアルドは、憐れむような視線を向ける。


「フィー……」

「やだぁー……。だって……だって五歳のお誕生日の時もお父様、帰って来てくれなかったんだもん……。だから今日は絶対にお夕食までには帰ってきてくれるって……。フィーのお誕生日お祝いしてくれるって、お父様約束してくれたんだもん……。だから今日、絶対に帰って来るもん!!」


 そう訴えるフィリアナの瞳にブワリと涙が溜まり始める。

 その兄妹のやり取りを眺めていた母ロザリーは席を立ち、フィリアナの傍までやってきて、ゆっくりと膝を折る。そしてフィリアナを慰めるような優しい笑みを浮かべながら、下からフィリアナの顔を覗き込んだ。


「そうね、今日のお父様は『今年は絶対にフィーの六歳のお誕生日を祝うぞ!』と、張り切ってお仕事に向かって行かれたものね……。でもね? どんなにお父様が頑張っても、きっと途中でとても難しいお仕事が入ってしまったのだと思うの。それは仕方のない事だって、フィーも分かるわよね?」


 母ロザリーの言葉から、昨年の五歳の誕生日に父親が急遽泊まりの仕事になってしまった事をフィリアナが思い出す。

 ラテール伯爵家は、代々地属性魔法に長けた一族である。特に男児にその属性と才能が受け継がれやすく、父フィリックスはもちろん、フィリアナの兄ロアルドも幼いながらもかなり高い地属性魔法の才能を持っている。

 そんなラテール家の男児は、王族の専属護衛魔導士に選ばれる事が多い。


 ちなみにそんな地属性特化型の一族に生まれたフィリアナだが、扱える魔法は水属性だ。どうやらフィリアナは母ロザリーの家の血を濃く受け継いだようだ。

 しかし兄と併せて植物を育てるのに特化した属性なので、キレイな花が大好きなフィリアナは自身が水属性魔法持ちで良かったと感じている。


 そんなラテール伯爵家の現当主でフィリアナの父でもあるフィリックスは、歴代でも特に優れた地属性魔法の使い手だった為、この国の第二王子が誕生した際、早々に専属護衛魔導士として抜擢された。

 しかし父の護衛対象である第二王子アルフレイスは幼少期から体が弱く、昨年などフィリアナの5歳の誕生日の前日に高熱で倒れ、父フィリックスは護衛任務の為、一週間近く城内に泊まり込みになってしまったのだ……。

 昨年、父親にも誕生日を祝ってもらいたかったフィリアナは、未だにその事を根に持っている。


「フィー、第二王子殿下の事、嫌い……」

「そんな事を言ってはダメよ? 第二王子殿下だって、フィーに意地悪をしようとしてお熱を出された訳ではないのだから……。お熱が出てしまったのは殿下の所為ではないの」

「じゃあ、誰のせい? もしかしてフィーがいい子にしていなかったから神様が王子様にお熱出させて、お父様がフィーのお誕生日をお祝い出来ないようにしたの? 王子様もフィーのせいでお熱出しちゃったの……?」


 ますます涙で瞳を膨らませ始めたフィリアナにロアルドが呆れ気味で反論する。


「そんな訳ないだろう? 殿下が熱を出されたのは悪い奴のせいだ! フィーのせいでも殿下のせいでもないよ!」


 ロアルドがそう叫ぶと同時に母ロザリーが、それを遮るかのように息子を咎める。


「ロアルド! その事は口にしてはダメだとお父様にきつく言われていたでしょう!?」

「だって……去年、父様が第二王子殿下の護衛騎士の人と話していたの僕、聞いたんだ。去年、殿下が熱を出されたのは、悪い奴が殿下に変な物を飲ませたからだって……」


 反論しながらも更に詳細を口にしてしまった息子をロザリーが咎めるように厳しい視線を向ける。

 父であるフィリックスが第二王子の専属護衛魔導士の為、どうしてもラテール家では、王族の警備関係での打ち合わせ等をする機会が多い。

 しかし邸の使用人達は皆、身元のしっかりした忠義に厚いラテール家傘下の子爵家や男爵家出身の人間ばかりなので、王族の警備情報が外部に漏れる事はない。


 だが、まだ九歳のロアルドには、それらの情報を軽々しく口にしてはいけないという認識があまりないのだ。かと言って頭の回転が速い子供でもあったので、父親達の会話内容が理解出来てしまう。

 その為、病弱と言われているこの国の第二王子が、実は命を狙われているのでは……と、ロアルドは勘づいてしまっているのだ。


 そんな年齢よりも賢いと見られる事が多いロアルドだが、まだ九歳という年齢なので思った事をすぐに口にしてしまう事が多々ある。その度に母ロザリーが口が酸っぱくなる程、息子のうっかり発言を注意していた。


 それとは対照的に本日六歳となったばかりのフィリアナは、そんな複雑な状況など全く理解出来ない為、昨年からずっと第二王子の事を目の敵にしている。フィリアナにとって第二王子は、大好きな父親をフィリアナから取り上げ、独り占めしている人間という認識なのだ。

 その為、兄ロアルドの話を聞いても第二王子に対して同情心は、あまり生まれないらしい。先程と同様にプクリと不満げに頬を膨らませたまま、テーブルのご馳走を睨みつけている。


 そんな押し黙ってしまった息子と娘の様子に母ロザリーが盛大なため息をつく。

 すると、その沈黙を破るように食堂の扉が勢いよく開かれた。


「フィリアナお嬢様!! つい今しがた旦那様がお戻りになられましたよ!!」


 満面の笑みで食堂に駆けこんで来たのは、使用人の中でも一番年若い給仕見習いのオリバーである。まだ十三歳の彼は、ラテール家傘下の男爵家の次男なのだが、幼少期まで平民だった為、マナーや礼儀作法は目下特訓中である。


「オリバー……。ノックは?」

「あっ……。も、申し訳ございません! お嬢様が旦那様の事を首を長くしてお待ちしていると伺っていたので、早くお伝えしたくて……」


 ロザリーから注意を受けたオリバーが、気まずそうに頭を掻きながら謝罪する。その様子にロザリーだけでなく、ロアルドも苦笑した。だが、フィリアナはオリバーからの報告を聞くと同時に勢いよく椅子から飛び降り、物凄い速さでその横をすり抜け、食堂から飛び出す。


「こら! フィー!! 食事中に席を立ったらダメだろう!?」


 そう叫んだロアルドも乱暴にナプキンを椅子の上に放り投げ、フィリアナを追いかける。その二人の行動を目の当りにしたロザリーは、先程よりも盛大なため息をつきながら、小言をこぼした。


「二人には……もう少し厳しめなマナー教育を行わないとダメなようね……」


 そう言いながらロザリーも席を立ち、二人を追うように帰宅した夫を出迎えにエントランスへと向かった。

 だが、誰よりも先に食堂を飛び出したフィリアナは、執事のオーランドに上着を預けている父フィリックスの姿を視界に捉える。


「お父様ぁぁぁー!!」


 そのまま父親に突撃し、抱き付こうとしたフィリアナだが……何故かその直前でピタリと立ち止まった。

 そして父親が左手で抱えている物体に目が釘付けになる。なんと父の左手の中には、フワフワした何かが乗っかっていたからだ。その存在が何なのか理解した瞬間、フィリアナの瞳がキラキラと輝き出す。


「ワンちゃん!!」


 そして再び父親に飛びつかんばかりの勢いでピョンピョンと飛び跳ね、父フィリックスが下からお腹を支えられるように左手に乗せている愛らしい子犬をねだるように両手を掲げる。


 その子犬は、全体が黒毛なのだが、ちょうど両目の眉間あたりから首周りと腹側にかけて真っ白なホワホワな毛色をしており、見た目的にも大変愛らしい子犬だった。しかし、その愛らしい姿のわりには前足が太くしっかりしているので、将来は大型犬になる事を彷彿させた。そんな子犬の四本足は、まるで白ソックスでも履いているかのように黒と白の見事なツートンカラーの毛色をしており、それが更に子犬の愛らしさを引き立てる。


 生後二ヶ月といった様子のその子犬は、興奮しながら物凄い勢いで駆け寄ってきたフィリアナに驚いたのか、父フィリックスの手の中で四本足をジタバタさせ始める。すると、フィリアナを追いかけて来たロアルドもその子犬の存在に気付き、妹と同じように大声をあげた。


「あっ、ワンコ! 父様、そのワンコ、どうしたの!?」


 そして妹と同じように両手を掲げ、父フィリックスの前で子犬を求めるようにピョンピョンと飛び跳ね始める。そんな子供達からの襲撃を受けたラテール伯爵家の家長フィリックスは、苦笑しながら子犬を子供達から庇うように遠ざけた。


「こらこら。二人共、少し落ち着きなさい」

「ああー!! お父様、ダメェェェー!! フィー、ワンちゃん見たいのに!!」

「フィー! そんなに大声を出したらワンコが怖がるだろ!!」

「だってそのワンちゃん、フィーのお誕生日プレゼントでしょう? だからフィーが一番に抱っこするんだもん!!」

「小さいお前じゃ、一人でワンコの世話なんて出来ないだろう? 多分このワンコは、僕ら二人に対して父様が連れて来てくれたんだよ。でもワンコは噛み付く事もあるから、先に兄様が抱っこして安全を確認する!」

「兄様、ずるい!!」

「ずるくない! 世の中()()()()()()()()なんだから、フィーがワンコを抱っこするのは、兄様の次だ!」

「そんな難しい言葉、フィー分かんないもん!! だからフィーが最初にワンちゃん抱くの!!」

「何でそうなるんだよ……」

「だって今日はフィーのお誕生日だから、フィーは特別でお姫様なんだもん! だから今日は、何でもフィーが一番なんだもん!」


 父親が抱えている子犬を巡り、ぴょんぴょんと飛び跳ねている兄妹が言い争いを始めた。

 すると、フィリックスの左手に抱えられていた子犬が危機感を抱いたのか暴れ出し、必死でその争いから逃れるようにその左手から抜け出す。その予想外の子犬の行動に三人が驚きの声を発すると、子犬はあっという間にエントランスの入口にある小さなキャビネット下の隙間に潜り込んでしまった。


「ああー!! ワンコが逃げたー!!」

「待って! ワンちゃん!」


 子犬が潜り込んでしまったキャビネットに物凄い勢いで駆け寄った二人は、すぐに床に這いつくばり、その下の隙間を覗き込む。


「ロアルド! フィー! 床に顔をつけるなんて……みっともないから、やめなさい!!」


 子供達のその行動に驚きながら母ロザリーが声を荒げて注意するも、興味が子犬に一直線な兄妹の耳には、その声は届かないようだ。母の制止を無視しながら、ロアルドが床に這いつくばってキャビネット下に手を突っ込み、子犬を捕まえようとする。しかし九歳のロアルドでは頭と肩が引っかかってしまい、キャビネット下の奥まで手を差し入れる事が出来ない……。


「ダメだ……。僕じゃ体が大き過ぎてキャビネットの下には潜り込めない。フィー、小さいお前なら両手を上げたままお腹を床にペッタリつけたら、多分この隙間に頭から潜り込めると思う。兄様が後ろからお前の事を下の隙間に押し込むから、子犬を捕まえられるか?」

「分かんないけれどフィー、ワンちゃん触りたいから頑張る!」

「よし! 頑張れ!」


 子犬捕獲作戦を実行する為、気合の入った表情を浮かべたフィリアナは、床にベタっと突っ伏し、背伸びをするようピンと両手を伸ばして、出来るだけ体全体を平べったくする。すると、その体勢のフィリアナの腰の辺りをがっしりと掴んだロアルドが、キャビネット下に妹を押し込む為、踏ん張るように両足で床を蹴り始めた。


「二人とも!! 危ないから、やめなさい!! お洋服も汚れてしまうでしょう!? 子犬はオーランドかオリバーが捕まえるから!!」


 二人のやんちゃぶりに悲鳴を上げながらロザリーが叫ぶも、兄妹は先程立てた子犬捕獲作戦を実行する事に必死だ。その様子を父フィリックスは苦笑しながら眺めていたのだが、隣の妻にキッと睨まれ、慌てて肩を縮こまらせる。


 その間にロアルドは、自身の妹をキャビネット下の隙間に押し込んだ。

 兄によってキャビネット下に頭から突っ込んだ状態となったフィリアナが、両手で中を探り始める。すると、捕まりたくない子犬が暴れ出したのか、キャビネット下からガタガタと何かが暴れる音がし始めた。


「フィー! 大丈夫か!?」

「う、うん! でもワンちゃん逃げちゃって上手く捕まえ……あっ! 足掴めた! 兄様! フィーを引っ張って!」

「よし! 引っ張るぞ!」


 フィリアナの合図でロアルドが尻餅をつきながら、キャビネット下からズルリと妹を引っ張り出す。すると、前両足を掴まれた子犬がフィリアナと同じように腹ばいになった状態で床を滑るようにキャビネット下から、芋づる式に出てきた。


 しかし子犬は必死にフィリアナの捕獲から逃れようと、キャンキャン吠え始める。だがフィリアナは、すぐに腹ばいの体勢から立ち上がり、子犬の両手を掴んで持ち上げた。そしてそのままギュッと自分の方に子犬を抱き寄せ、頬ずりし始める。


「ワンちゃん、フワフワ~! かわいいー!」

「こら! フィー! あんまりギュッとし過ぎたらダメだ! ワンコが苦しがるだろう!?」

「ワンちゃん、初めまして! 私、フィリアナって言うの。あなたのお名前は?」


 ギュッと抱きしめられた状態で兄妹二人から頬ずりされ始めた子犬は、そのパワフルすぎる扱いに驚き、キョトンとした様子で二人の背後で苦笑しているラテール家当主のフィリックスをじっと見つめる。

 すると、フィリックスが呆れながらもどこか微笑ましそうな笑みを浮かべながら二人に近づき、目線を合わせるように腰を落とす。


「この子の名前は『アルス』だ。飼い主は……実はある高貴なお方なのだが、事情があってしばらくうちで預かる事になった。だからこの子犬は、フィーのお誕生日プレゼントではないんだよ……。しかもいつかは、その飼い主の元に返さなくてはならない」


 その父親の話を聞いた二人は、一瞬だけ体をビクリとさせた。

 会ったばかりの可愛い子犬は、時が経てば必ず自分達の手元を離れて行ってしまう運命だという事を一瞬で悟ったからだ。

 そんな反応を見せた二人に父フィリックスは、苦笑しながらもある事を確認してしてきた。


「それでも……二人はアルスと仲良くしてくれるかい?」


 何故か少しだけ寂しそうな表情を浮かベた父親からの申し出に二人は、一瞬だけ互いに顔を見合わせる。だがすぐに満面の笑みを浮かべながら、大きく頷いた。


「うん! 私、アルスといっぱい、いっぱい仲良くする!」

「僕もアルスとたくさん遊んで仲良くなる!」


 大変良い返事をしてきた子供達にフィリックスは、子犬のアルスごと自分の方に引き寄せ、まとめて抱きしめた。


「二人とも、アルスの事を頼むな……」


 そう二人の耳元で囁いた父が、どこか切なそうな笑みを浮かべていた事にこの時の二人は、全く気づいていなかった。

★【我が家の子犬】の登場人物の年齢設定★

・フィリアナ→6歳

・ロアルド→9歳

・アルス→見た目が犬年齢で生後三カ月

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