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09 リンクシステム



 個人での訓練がいち段落すると、ゴーレムに乗った女性教官モニカ・マルーンが生徒たちを集めた。


「はぁ~い、では次は動くゴーレムを相手に戦ってもらいまーす。あ、ゴーレムは攻撃はしてこないから安心してね~。それじゃ、三~四人でランダムにチーム分けするから、清聴~~」


 のんびりとした口調でチーム分けが読み上げられる。

 ロザリンドのチームは三名。


「よろしくお願いいたします。わたしはエリナ・モーテルです。属性は水で、回復術が得意です」


 ――エリナ・モーテル。

 魔力属性は水。神に仕える家系に育ち、幼い頃から人々を癒やす才能に恵まれた、いわゆる回復役。温かく、包容力があり、チームメイトに安心感を与える癒し系。


「あたしはソフィア・アストラル。属性は火。攻撃魔法が得意よ。よろしく」


 ――ソフィア・アストラル。

 魔力属性は火。古代魔法を操る家系の末裔で、天才型の魔法使い。知的で好奇心旺盛、冷静すぎるほど理性的。だが、心を許した者には優しい。


「ロザリンド・ロードリックです。属性も特技もないのですが、足を引っ張らないように頑張ります」


 自己紹介するとソフィアが失笑した。


「謙遜するのね。基礎中の基礎の魔法であれなんだから、もっとすごいのを隠してるんでしょ?」

「まさか。まともに使えるのはマジックショットぐらいです」

「まあいいわ。本番になったらわかるだろうから。あ、でも、ロザリンドさんの出る幕はないかもね」


 赤い髪をふぁさっと揺らして。


「あたしは全力で勝ちに行くつもりだから」


 強気な宣言をする。エリナが首を傾げる。


「勝ち負けってあるんですか? ただのゴーレムとの戦闘訓練なのでは?」

「あるに決まっているでしょう。なくても勝つ」


 勝負と勝利に貪欲だ。さすがメインキャラクター。


 ロザリンドたちは待機場所――マルーン教官の横で、自分たちの番を待っていた。


 ゴーレムたちは生徒たちの連携や突出した攻撃によって次々に倒されていく。あるいは時間切れで次のチームに交代する。


「う、ううぅ……毎年のことながら我慢できないっ! ゴーレムはもっと強いのにっ!」


 マルーン教官が悔しげに呻いているのを聞いてしまう。攻撃もしないまま倒され続けていることに、かなりフラストレーションがたまっているようだ。


 ロザリンドは小さな共感を覚えるが、顔には出さない。

 そしていよいよ自分たちの番がやってくる。前のチームと交代してフィールドに入る。


「それでは、始めまーす」


 マルーン教官のやや元気のない合図と共に、ゴーレムが動き出す。機械的な動きながらも、まるで生きているかのようだった。


 ロザリンドは深呼吸を一つし、エリナとソフィアと共に戦闘の構えを取る。


 エリナはすぐさま水の魔法で周囲を守り、ソフィアは火の魔法で攻撃を仕掛ける。

 火の魔法はゴーレムに見事命中する。普通ならそれで倒れるはずだった――が。


 ゴーレムは倒れない。それどころか目を暗く光らせて、恐るべき勢いでロザリンドたちの方へ向かってきた。


「ええっ? なんで? ゴーレム、ステイステイ、すとーっぷ、すとおおーっぷ」


 マルーン教官の慌てた声が響くが、ゴーレムは止まらない。


(ゴーレムの暴走? こんなイベントはなかったはずだけど、まあ現実はゲーム通りには進まないわよね)


 周囲の混乱とは逆に、ロザリンドは落ち着いていた。


(ロードリック公爵家の一員として、お兄様の妹として、無様な姿は見せられない)


 訓練場のフィールドに落ちている石――ゴーレムの砕けた一部と思われる――を拾う。


「バレット」


 石に魔力を纏わせ――

 ゴーレムを見据える。


 その時ゴーレムは巨大な腕を振り上げて、エリナを叩き潰そうとしていた。


「ショット!」


 魔力を纏わせた石を投げる。

 それは銃で撃たれた弾丸のように、ゴーレムの腕を粉々に吹き飛ばした。ゴーレムがバランスを崩している間に、エリナの手を取り背後に庇う。


 場がざわめく。


「マジックショットでゴーレムの腕を落とした?」「どうやって?」「ただのショット撃ちが?」


 どよめきを背後に聞きながら、ロザリンドは小さく笑う。


(ふふっ……フリーマップでレベルアップしてきたかいがあったわ!)


 驚愕と賞賛が気持ちいい。


「エリナさん、大丈夫ですか?」

「は、はい。ロザリンドさん、ありがとうございます……」


 ソフィアもやってくる。


「何いまの……ただのマジックショットじゃないわよね?」

「投石です」

「そんなわけないでしょ!」


 ――本当なのに。


(……あら?)


 その時ロザリンドは気づく。

 自分の能力がわずかに向上していることに。


【特殊能力】インサイトリンク:Lv.1(絆を感じ取ると、一時的にステータス向上)


(絆の力を感じている……? もしかして、リンクできる?)


 ――『エターナル・リンクス』は戦闘マップ上でユニットを動かし、敵と戦うターン制バトルである。ユニット間の位置関係や絆の深さによって、連携攻撃や特別なスキルが発動する。


「全員で一斉に攻撃しましょう。行きますよ」


 ポケットにお守り代わりに入れている、スライムの魔石を手に取る。


「えっ――でも――」


 エリナが戸惑いの声を出す。

 ロザリンドは微笑み、力強く言う。


「大丈夫だから! 私に合わせて!」

「――何なのよもう。任せたからね」


 エリナとソフィアは、ロザリンドの導きで攻撃を始める。ソフィアの炎と、エリナの水、そしてロザリンドの無属性魔法が共鳴する。


 ――『エターナル・リンクス』のゲーム内での経験が、ユニット間の連携効果が、いま現実でロザリンドを導く。


「――バレット」


 ロザリンドは魔石に三人分の魔力を注ぎ込み。


「ショット!!」


 ゴーレムに向けて撃つ。

 激しい魔力の光が渦巻く。水の魔力と火の魔力と、色のない魔力が。


 それらはゴーレムの身体に吸い込まれ、ゴーレムを完全破壊した。



【絆】

・ソフィア・アストラル:★☆☆☆☆ new!

・エリナ・モーテル:★☆☆☆☆ new!




◆◆◆




 王立学園の訓練場に、戦闘と魔力の余韻が静かに流れる。

 放心するロザリンドたちのところに、ウィンダール教官が落ち着いた足取りでやってきた。


「怪我はないか」

「はい」


 ロザリンドたちの無事を確認すると、ウィンダール教官はざわめいている生徒たちの方に振り向く。


「騒ぐな。何事にも不測の事態はある。いついかなるときでも落ち着いて対処せよ」


 そして、ゴーレムに乗った女性教官を鋭く見上げ。


「マルーン教官。早急に事態の把握を進めるように」

「はい~」

「それでは、授業を終わる。協力して片付けをした後、すみやかに着替えて教室に戻るように」


 後片付けが始まる中、ロザリンドはまだぼんやりしていた。

 リンクの余韻がまだ身体に残っている。


(リンクしちゃった……)


 まさか、自分がリンクシステムを使えるなんて。


「すごい……わたしでもお役に立てるなんて」

「ふぅん、たいしたものじゃない」


 エリナとソフィアもまだ余韻を感じているようだった。


「それにしても、一体いまのは何だったのでしょうか……」

「魔力共鳴よ。魔力を共鳴させて、一時的に威力を上昇させる。まあ、基本戦術ね」


 ソフィアが得意げに解説する。


「けれど普通は、同系統の魔力でしか共鳴できない……あたしの火とエリナさんの水……完全正反対の魔力が共鳴できたのは――無属性のロザリンドさんがいたから……?」


 ふたりの視線がロザリンドに注がれる。


「そ、そうかもしれませんわね。無属性でも役立つことがあるのかもしれません」


 ゲームでのリンクシステムは、魔力相性のいい相手か、よほど高い絆で結ばれていないと共鳴はできなかった。

 ――もしくは、全属性持ちの主人公が基点になるか。


 そして今回はロザリンドが基点になってしまったようだ。


(――主人公と同じことをしてしまうなんて、私って結構な特異点になってるんじゃないかしら)


 その懸念は、喜びよりも不安をもたらした。


「――ともあれ、皆さんが無事でよかったですわ」


 顔を見合わせ、笑い合う。そして三人で協力して後片付けを進めた。





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