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06 主人公不在?




 入学式の後は広い教室に移動し、オリエンテーションが進んでいく。学園の施設の説明や、年間スケジュールなどが説明されていく。


(うーん、やっぱりアリーシャはいないなぁ)


 後ろの方の席に座ってひとりひとり確認していくが、やはりアリーシャは見つからない。


(もしアルドがいたらと心配していたけれど、アルドもアリーシャもいないなんて……主人公が不在とか、いったいどうなってるのかしら……)


 ――『エターナル・リンクス』は主人公選択式SRPGである。


 女主人公はアリーシャ・エイドリアン。魔法が得意。

 男主人公はアルド・カーティス。物理攻撃が得意。


 男主人公の場合は、クリストファーはラスボス確定で、特別攻略キャラは王女となる。

 もし、この世界に男主人公アルドがいたら、クリストファーの生存は絶望的だが、生徒の中にはアルドもいなかった。


 単なる休みかとも思ったが、それらしいアナウンスはない。

 入学式は完全に主人公がいないものとして進んでいる。


 いったいどういうことなのか。


(――ちょっと待って。アリーシャがいないということは、お兄様は闇落ち確定……?)


 アリーシャの選択がクリストファーを救うのだ。

 彼女がいなければ、クリストファーは闇落ちしてラスボス確定になってしまう。


(いいえ! そんな未来は絶対に阻止するんだから! まだやれることはあるはずよ。希望を失ってはいけないわ!)


 オリエンテーションは終わり、校内の案内もつつがなく終了する。

 あとは生徒の相談を受け付ける時間が設けられ、用事のないものは帰ってもいいようだ。


 ロザリンドもあとは帰るだけなのだが、まだ教室で考える。


(こうなると、覚醒イベントをすべて潰して闇落ちさせないようにするしかないわよね。――そうよ! アリーシャがいないのなら、私がアリーシャの代わりをすればいいんだわ)


 幸い、フラグは全部覚えている。

 どういう場所でイベントが起こり、どんなふうにストーリーが進むのか。ロザリンドはよく覚えていた。


(前世の記憶はほとんどないけれど、ゲーム知識はしっかり覚えているわよ)


 どの段階でどこでイベントが発生するのか、どうやればフラグが立つのか、よく覚えている。

 だが何か大きな見落としをしている気がする。

 そしてそれに、すぐに気づいた。


(……そうなると、もしかして私がクリストファーエンドに行くことになるわけ……?)


 フラグを立てたら、そうなりかねない。

 せっかく婚約解消しようとしているのに。


「ダメ、ダメッ! 絶対にダメ!」

「うわっ」


 すぐ近くで驚きの声が聞こえ、ロザリンドは顔を上げた。

 そこには、ロザリンドに話しかけようとしていた黒髪の男子生徒が、強張った表情で立っていた。


 ――闇属性の魔術師、ジュリアン・ザカライア。メインキャラクターの一人。


「……えっと、ロザリンドさん、話しかけても大丈夫かな」


 先ほどの奇行で怯えられているようだ。


「あ、いえ……おほほ。ジュリアンさん、どうなさいました?」

「うーん、なんて言ったらいいのかな……僕は君にとても興味がある。君の力に」

「私の力ですか?」


 ロザリンドは目を瞬く。


「君の魔法……無属性だが、とても強い力を感じるんだよ。魔水晶をも割る力に……」

「あれは、魔水晶が経年劣化していたからだそうです。私が割ったのではありません」

「僕は違うと思うな。君自身に、強い魔力を感じる」


 紫の瞳が興味深げにロザリンドを見る。


「ロードリック家の深窓の姫君が、まさかここまでの強い魔力を持っていたなんて驚きだ」


 どこか楽しむような声に、ロザリンドは息を呑んだ。


(――深窓の、姫君?)


 一体どこの誰のことだろう。

 いや、この状況だと自分しかいないのだが。


(確かに、社交界にはほとんど出ていませんが)


 公爵家の令嬢でありながら、ロザリンドはいままでほとんど社交パーティに出たことがない。十四のときにデビューしたきりで、パーティに出るように親から言われたこともなかった。


 だからロザリンドは、この教室にいる人々のことも、学校に通う人々のことも、ほとんど知らない。ゲーム中でしか。


「さすが、ロードリック家の黄金の薔薇姫だなって、皆思ってるよ」


 ジュリアンの感心したような声に、ロザリンドは度肝を抜かれた。


(誰のことですかー!?)


 一体どこの誰がそんな呼び方を吹聴しているのか。

 あまりにも身の丈に合わない呼称だ。


「ロザリンドさん」

「は、はい?」

「君のことがすごく気になるんだ。詳しく調べてもいいかな」

「ダメです。レディの秘密はそう軽くありませんわよ」


 淑女らしくジュリアンに笑いかけると、ジュリアンは困ったように苦笑した。


「じゃあまず、君と仲良くなるところから始めよう」

「あら素敵。これから三年間、よろしくお願いしますわね」


 レディらしく微笑む。


(なんというか、この会話、ジュリアンイベントに似ているわね……)


 入学式の後は、各キャラクターとの会話イベントが存在する。

 挨拶程度の軽いイベントで、見ても見なくても問題はない。好感度が上がることもなく、アイテムが手に入るわけでもないので、一度見たらスルーされる程度のイベントだ。


 ジュリアンイベントの内容は、七色の魔力を発現した主人公に興味を示すというものだった。


(エドワードイベントもそうだったけれど、ジュリアンイベントも私に発生するなんて……でもそうなれば、きっと……)


 ロザリンドは立ち上がる。


「おほほ、私用事を思い出しましたわ。ごめんあそばせ」


 ロザリンドは早足で校舎内を移動し、外に出るとダッシュした。中庭に向けて。


(入学式の日、クリストファーと会話するのが、最初のフラグ!)


 他キャラクターとの会話イベントはスルーしても全然大丈夫なのだが、唯一クリストファーとだけはここで会話をしてフラグを立てておかないと、この後いくら会話してもクリストファーエンドには辿り着けない。


 慣れたプレイヤーはついついスキップしてしまうため、罠フラグとも呼ばれていた。


(私は、毎回全会話を見ていたけれど――だって、クリストファーの情報が少しでも欲しかったから!)


 主人公から見える彼の情報はとても少なくて。

 だから貪欲に求めた。


(――そう、私ならクリストファーの全フラグを立てられる。その上で、個別エンディングに到達しなければいいのよ。そこまでの闇落ちフラグは全部折る! フラグ立て職人に、フラグクラッシャーに、私はなる!)






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