6.飛び交う弾丸
支店と呼ばれる倉庫も人数こそ少ないがすでに機動隊により包囲されていた。
工場の爆発の連絡はすぐに来た。
「第一目標で大規模な爆発があったとのことです。ただし目標のアンドロイドは発見できず。現在、残った隊員による更なる調査と負傷者の救助活動が継続中とのことです」
「やはり向こうは囮でこっちが本命か」
隊長は忌々しそうに目の前の古びた倉庫を見る。
「突入しろ。ただし爆発物には注意しろよ。こちらにも仕掛けられているかもしれんからな」
出入口のロックが電動工具によって切断され扉が開かれる。
そして幾人もの隊員が倉庫の中へと突入を開始した。
・・・
緑色の光を放っていたパイロットランプが次々に赤色へと変わっていく。
そしてすべてのランプが赤色に変わった時、うな垂れていたアリスは顔を上げた。
アリスの体を固定していた金具がカチンッカチンッと自動的に外れていく。
全ての固定が解放されるとアリスはずるりとハンガーより下ろされた。
足が地面に着く。
アリスは歩みを進めハンガーから出た。
ハンガーの左右にはアリスを取り囲むようにずらりと武器が並べられている。全ての武器はその持ち手をアリスの方へと向けている。自分を使ってくれと言うように。
アリスはそれら武器をぐるりと見回すと、マシンガンとライフルを手に取った。
アリスはゆっくりとした足取りで進む。
隣り合う部屋へ、そして倉庫の出入口へと向かう。
・・・
倉庫の中から立て続けに銃声が響き渡った。
最初の銃声から1分と経たぬ間に負傷した隊員が他の隊員によって引きずられて出てきた。
なおも倉庫の中では銃声が響く。
銃撃による閃光だろう、倉庫の窓ガラスが光りを受けて明滅を繰り返す。
隊長は無線機に向かって怒鳴った。
「何が起こっているっ、状況を報告しろっ!」
ザッという雑音の後、銃声と共に隊員の声が返ってきた。
『目標と思しきアンドロイドを確認。ただし銃器にて重武装しています。これ以上の対応は不可能。一時退避を行いますっ』
少しして倉庫の中から隊員達がぞろぞろと出てきた。足を引きずっている者、負傷した者に肩を貸している者、両脇に腕を通されてして引きずり出されてくる者など多数だ。
無傷な者より負傷者の方が多い。
次の瞬間、倉庫の扉が内側からの衝撃によって吹き飛んだ。
ガコンと音を立てて舞い上がった扉が地面に転がる。
そして、アリスが外へと出てきた。
アリスはぐるりと周囲を一瞥。
腕を伸ばしてマシンガンを構えると、周囲の機動隊員に向けて砲撃を開始した。
隊員は一斉に身をすくませ盾の陰に身を隠す。
マシンガンより放たれた弾丸は盾をへこませ、当たり所によっては盾を貫通して隊員の体を貫いていく。負傷した隊員は悲鳴を上げてその場に転がり、他の隊員によって周囲の建物の陰へと連れていかれる。
隊長は叫んだ。
「後退だっ、後退しろっ! 安全な場所まで一時退避だっ!」
弾丸がまき散らされる中、機動隊はその包囲網を後退させていった。
◇◇◇
足立は車の中にいた。耳にイヤホンをつけ、手には情報端末を持ってその画面を見詰めていた。
イヤホンからは現場で飛び交う無線の会話が聞こえていた。情報端末にはネットを介して送られてくるアリスのリアルタイムの情報が表示されていた。
足立は渋い顔をしていた。
音声と情報から現場が混乱しているのは分かった。そして機動隊も本腰を入れて反撃を開始したのだろう、先ほどまではアリスの吐き出すエラーは限界を超えた駆動による間接や筋肉組織の異常だけだったが、今は体表組織の局所的なエラーも出始めた。おそらく銃弾を受けたのだろう。致命的エラーとして表示されている。
「さすがに銃弾を受けてはひとたまりもないか。筋肉組織への負荷の蓄積も早い。状況の変化に対するシステムの処理も追いついていない……」
この分だとエネルギー消費による活動限界がくる前に、破損とシステムエラーによる限界がくる方が早いかもしれない。
また新たな弾丸がアリスの体に当たったのだろう、重大な損傷を示すエラーの表示が増える。
足立は車の窓を開け倉庫がある方向の空を眺める。
そして深くて長いため息をひとつ吐いた。
「この分だと、長くはもたないな……」
いや、自爆の時間がくる方が早いか。
いずれにせよ、終わりの瞬間はもう間近だった。