002-2 そして始まる、誘拐生活
世界には、桁違いなお金持ちがいるようだ。
そんな感想を抱いたのは手錠をかけられ、ゴールドに「よろしくね」された後に、
「さて、悠との生活も始まるし、これから過ごす場所を案内するね」
と言われ、ルームツアーが決行されたからだ。
正直、目隠しを外されてから視界に映る色々がすべてお洒落で高級そうだし、メイド服の従者に肉体美を備えた従者を侍らせている時点で、ゴールドはお金持ちなんだろうなぁ〜と感じていた。
ーーーが、予想以上だった。
海外への飛行機をチャーターしている時点で気づくべきだった、自分の金持ちの想像なんて超えていてあてにならないことに。
いや、一般人には想像できないよ。
金髪幼女ーー12〜15歳くらい?ーーが高層ビルではないとはいえ、なかなかの規模のビルを保有し、その上層部3層を改装して自宅にして暮らしているなんて・・・・・・誰が想像できる?
ルームツアー中の色々をまとめるとーーー
このビルはゴールドが事業を行うために中古で購入した物件で、地上8階・地下2階の計10フロアーをフルリノベーションし、
1階にはレストラン、
2〜4階はシェアオフィス、
5階は運営する関係会社事務所。
そして上層階である6〜8階をゴールドの自宅として利用しているーーとのこと。
ルームツアーされた感覚だと1フロア35メートル四方程。約1200平方メートル × 10フロアなので、総面積12,000平方メートル規模のビルをゴールドは保有していることになる。
それを聞き驚愕する自分の横で、ゴールドが「どうよ!」と無い胸を張っていたので、凄い凄いと頭を撫でてあげた。
各部屋の詳細については利用した時なんかに語ることもあるかもしれないが、全部を見てまわった際の自分の反応としては、
「はぁ〜 (感嘆) 」
「ひろっ ‼︎ 」
「えぇ〜 (驚愕) 」
「マジか〜、いや、マジか〜 (圧倒) 」
悠が住んでいるマンションも事業と自宅兼用で借りたので狭くはないのだが、ゴールドの自室より狭く、案内される場所・場所と比べても見劣りしてしていた。
正直、日本で会ったことのあるお金持ちの人のタワマンより凄いのではないだろうか。
いや〜、上には上がいますね。
正直、こんな環境で過ごせるなら誘拐されて良かったとすら思えるくらいだ。メイドさんのお給仕サービスもありそうだしね。
ただ、散らかっていたゴールドを説教していたシルバーの様子だと自堕落な生活は送れなさそうだけれどもーーーそれを考慮しても魅力的。
「悠様、どうぞ」
こんなふうに対応してくれるのだから。
ルームツアーを終えると、ダイニングのテーブルにて、クラシックなメイド姿の色白美人な女性ことシルバーからティーセットが提供される。
萌え萌えなどなく、メイド然とした立ち振る舞いに貴族文化を体験しているような気分になった。
「そのほか、御要望はございますか?」
「手錠を外していただきたいんですが」
手錠をシルバーに見せながら言ったが、彼女は何事もなかったようにニッコリと笑って「では」と告げると、ゴールドの横の席に腰掛ける。
「それで、俺はなにをすればいいの?」
誘拐なんて初めてだからわからないよ。
「特になにもしなくてもいいよ。私と過ごしてさえくれれば」
「えぇ〜」
ゴールドがお菓子を食べながら質問に答えてくれたがーーーなにそれ、困る。
「要求があるから誘拐したんじゃないの?」
「要求は私と一緒に過ごしてもらうことだし。私の自宅内なら基本的に自由に過ごしてもらって大丈夫だよ」
「えぇ〜」
ちょっと予想してなかった解答に、助けを求めるようにお茶を飲むシルバーへと資産を向けたが、
「概ね、お嬢様のいうとおりです」
と、言われただけだった。
これでは要求事項をさっさと解決して解放される計画も台無しだ。
「せっかくのアメリカだし、外出は?」
「現状は無理ですね」
「えぇ〜」
初めての海外旅行だというのに寂しい限り。
「なら、ネットは?」
「……駄目」
「の、ようですので申し訳有りませんが」
まぁ、普通に考えて外部と連絡取れるようなモノを誘拐した人間に渡すわけがないよね。
「ネットで、なにかしたいことがあるの?」
「現代社会はネットがないと出来る事が限られてくるからね……もともと連休取得予定だったとしても対応予定の仕事はあるわけで」
「これからは働かなくて大丈夫。私が養ってあげるから」
う〜ん、社会人の時に聞きたかったセリフ。
ただ魅力的な言葉ではあるが、少女の口から言われるとやるせない気持ちになってしまう。
「なに、不服?」
「大人としては、なるべく下の世代から搾取したくはないんですよ」
これは政治家に聞かせてあげたい名言。
まぁ、正直なところ『タダより怖いものはない』と思っているだけなんですけどね。
というか、なぜ3人は暖かな目をして自分を見ているのだろうか?
「コホン。養う、養わない議論については横に置いては置いておくとして。御主人はネットが駄目とはいいますがゲームやネット配信などに関しては普通にご利用いただけます」
「そうなんですか」
「はい。それ以外にもトレーニングルームもありますし、多数の書籍もありますので、ご利用いただければと思います」
確かにルームツアーの中にはジムのような場所に、凄い数の本が収納された書庫があった。
「ーーー 本、本かぁ」
最近読めていなかったから良いかもしれない。
「でも、俺。英語できないからなぁ」
「日本語の書籍もあるので大丈夫ですよ。それか、この機会に語学の勉強でもなさいますか?」
「そう……ですね。なにか勉強するのに良さそうな教材をお願いしてもいいですか」
「承知致しました。ご用意出来ましたらお渡ししますね」
「よろしくお願いしまーーー」
「はい、はい、はい!」
まだお礼の途中だったが、話を聞いていたゴールドが何か思いついた顔をしたかと思うと、挙手をして提案してくる。
「私が English teacher する!」
そうきたか。でも………。
「自分、英語は知識ゼロ。ベイビー級の英語力で、単語すらも知らないくらいだよ」
「問題なし! 」
自信満々なゴールドに、首を傾げる悠。
そんな疑問に答えるように幼女は語る。
「カッパーに日本語を教えたのは、私!
そんな私にかかれば悠の英語も堪能に!」
私に任せなさい!と胸を叩くゴールドの姿に、悠は拍手を贈るが、その視界の端でカッパーが目を逸らしたことが気になった。
(オマエ、ナゼ、メヲソラス?)
口にすると、得意げなゴールドが不機嫌になると思い黙って拍手を続けるが、不安に駆られる。
助けを求めるようにシルバーへも視線をチラリと向けるが、こちらも目を逸らされた。
え、なに? 不安なんですけど!




