005-1 姉と妹(シスター・シスター)
ーーー残念だったな、俺で!
人生、運が良ければ悪い日もある。
普段は気にしないがーーーって、もういいわ!
「また、これか? また、これなのか?」
晩乃悠は、椅子に座らされ、背中の後ろで手を手錠で拘束されている状況に叫び声をあげる。
複数回誘拐される人生に、悠は叫ばずにはいられなかった。
今回はどんな目に遭うのか?と思っていると、
「 shut up 」
自分の真正面にいた少女が口にした。
落ち着いていながらも高級感が漂う書斎らしき部屋。重厚感のある書斎机の向こう、幼さと賢さと神経質さを感じさせる少女が、悠を睨む。
( 年齢はゴールドより少し上だろうか?)
レイヤーボブの髪は月白色をしており、身につけている服装は派手ではなく抑えた色味なのに存在感を強く感じさせ、小柄な体型とは裏腹に鋭い視線は大人びた印象をもたせる。
ーーーこの少女こそ、元凶。
悠を椅子に拘束した張本人で、あのとき道路から自分を呼びつけた本人だ。
こんなことする相手には “ バシッ ” と言わなければいけない。
「 I can't speak english 」
バシッと言ってやった言葉に、彼女は一瞬キョトンとした顔を見せたが、呆れたように溜め息を吐きながら口にする。
「 これで伝わるかしら? 」
馴染みある日本語に、悠は頷く。
頷いた悠に、少女は隠すことなく値踏みするような視線を向けてきた。
勝手な想像だが、このオッサンは英語も喋れないのかしら?と思われていそうな気がする。
と、感じなくてよい後ろめたさを抱いていても仕方ないので、悠は質問する。
「なぜ、こんなことを?」
「質問を許した覚えはないわーーーあなたは私の質問にだけ答えてくれないかしら」
ゴールドとは違い、あきらかに歓迎されていない様子で彼女は告げた。
なので、わかりやすく不服そうな顔をすると、
「言動には気をつけられたほうがよいかと」
と、いままで気配すら感じなかった初老の男性に背後から言われた。
その気配にビクッとしつつ、只者ではない男性の気配に抵抗は無駄だと感じ、溜め息をこぼす。
そして、こんな非日常な状況に
(ーーーなんで、こんなことになってんだか? )
と、高級そうな天井をあおいだ。
★
画面に映し出される防犯カメラ映像。
そこには晩乃悠がゴールド邸から外へ出て、誘拐されるまでの経過が記録されていた。
ゴールド邸のバルコニーからエレベーターで降り、正面から外へ出た悠は、高級車の前に立っている小柄な女性へと近づく。
そして、すこし話をしていたかと思うと女性が車に乗るように促すジョスチャーをするが、悠は困ったように首を振り、自分が出てきたビルを指差す。
その態度に女性が怒ったように声を荒げた動きを見せ、悠を困らせる。
だが、怒った態度はフェイクらしい。
悠が彼女に注目しているなか、彼女とは車を挟んで反対側に立っていた執事然とした初老の男性が、悠の背後へとまわり込む。
悠が気づいたのは背後に立ったときでーーー
存在に気づいた悠は驚いた様子をみせた。
だが敵意のない老人の雰囲気に、悠は彼女を宥めに来たのかと勘違いしたらしく、彼へ助けを求めようとすると、
ーーー初老の男性に首を絞められ意識を失う。
意識を失い脱力する悠の体を抱えると、初老の男性は女性が開けた扉から後部座席へと座らせる。
その後、女性も後部座席に乗り込み、
乗り込んだことを確認した男性が扉を閉めると、彼は運転席へと戻っていった。
そして暫くすると高級車は動き出し、画面の端へと消えていく。
「………という感じっす」
映像を止め、カッパーは告げる。
映像を見せられたシルバーは困ったような表情を浮かべていた。
そんな表情になってしまうのも仕方ないだろう。
悠の意思で消えたわけではないことに安心しつつも、誘拐した相手にカッパーも最初見たときには驚きを隠せなかった。
「お嬢様に見せられないわね」と、彼女が言う。
それはカッパーも同感だった。
過呼吸になり、倒れてしまったお嬢様のことを思うと、この映像は毒でしかないだろう。
取り乱し、倒れてしまったお嬢様。
悠を米国へと招くことを決めてから症状がなりを潜め、回復してきたかと思っていたところでの “ アレ ” はカッパーも正直堪えた。
気を失ったお嬢様はいま、ベッドに寝ている。
さすがに放置はできないので一時的にノーレッジとキュアに看病を頼み、私達は悠の行方を探すために防犯カメラ映像を調べさせてもらった。
その結果がーーーこれだが。
「まさか連れていったのがブレシードお嬢様だとは………」
「そうね」と、シルバーも頷く。
お嬢様が “ ああ ” なってしまった原因を考えると、とてもじゃないが報告できない。
どうしたものか?と、カッパーは頭を悩ませる。
★
どうしたものか?と、晩乃悠は頭を悩ませる。
「なるほど、血筋かぁ〜〜」
目の前の少女がゴールドの姉であるブレシードだと知り、悠は納得しつつ、ぶっ飛んだことをする姉妹に頭を痛めた。
「なにかしら?」
ジロジロ見てしまい、ブレシードが聞いてくる。
「いや〜、ゴールドの姉と聞いて納得しただけ」
「似てるとでも言いたいの?」
「そうだね、そっくり!」
誘拐してくるところとか、本当にそっくりです。
なんて悠は思ったが、ブレシードは違うらしい。
「そんなはずないじゃない」と、吐き捨てるように笑った。
彼女の態度に首を傾げていると、執事らしい初老の男性が説明してくれた。
「ブレシード様とゴールド様は、父親は同じですが、母親が違いまして」
「腹違いってこと……ですが?」
「その通りで御座います」
肯定する男性に、ブレシードは余計なことを言わないように釘刺すように「セバス」と名を呼ぶ。
それに対し口を閉じる、男性。
セバスの説明を聞き、ゴールドと比べるとブレシードのほうが年上っぽいので………ゴールドが父親と浮気相手との子供なのかもしれない。
いや、もしかして!と悠は質問する。
「ご両親は離婚とかした?」
唐突な質問に「は?」とブレシードは口にするが、すぐに意図を理解したのか答えてくれた。
「離婚はしなかったわ」
「ーーーそっか」
ということは、予想通り父親が浮気したのだろう。
米国富裕層なんかの婚姻だと、婚前契約で色々決めていて、浮気などあった場合には離婚しそうな印象だったので珍しい気持ちを抱く。
「それよりも、貴方は何故ここに連れてこられたのか理解しているのかしら?」
「あぁ、わかってる。わかってる」
ゴールドの姉だと判明した時点で理解している。
「自分がゴールドと一緒にいるからでしょ」
笑顔で答えると、彼女は気に入らなかったのか、自分のことを睨んできた。




