001-2 こうして私は誘拐されました!
決めてからは早かった。
世間的に長期休暇も近く、その期間は休むことを決めていた悠は、紫と聖歌さんに旅行の件を話した2日後から事業を休みにして合計2週間という大型連休を確保した。
小規模事業者、万歳!
思いついたら調整できる働き方は最高。
会社勤めだと "こう" はいかない。
正直、最近の運勢的に旅行すれば何かしらのトラブルに巻き込まれてしまいそうだが、それらも想定して聖歌さんと昨日打ち合わせを入念に行っておいたので大丈夫だろう。
大丈夫だよね・・・・・・大丈夫だと思おう。
不安がない訳ではないが、気持ちを切り替えるように喫茶店の珈琲を飲むと、旅行代理店から貰ったパンフレットを開く。
旅行代理店で話した感じだと、連休中の飛行機チケットは難しいが連休前後での予約は可能。滞在するホテルもランクを上げられるなら問題ないとのことだった。
世の中お金じゃないと主張する人々がいるが、良くも悪くもお金は問題解決までの時間を短縮してくれる。
あと、こんなにもスムーズに話が決まりそうな理由としてパスポートを作っていたからだろう。
海外旅行に行ったことのない悠は少し前までパスポートを持っていなかったが、ネットの友人にパスポートを取得するように強く勧められ、そこまで言うならと作りに行った。
そのおかげで思いつきの今回の旅行も、すぐに行けそうな状況である。
友人の助言に感謝、感謝。
あとは、自分が行き先を決めるだけ。
なんて考えながらパンフレットを眺めていると、なにやら店内が騒がしくなり、悲鳴のような声も聞こえた。何が起きたのか確認すると、光沢のある銅のように輝く髪をしたスーツ姿の女性が暴れる男を取り押さえている。
「ーーー離せよ‼︎」
男が叫びながら抵抗するが、服の上からでも鍛えていることが理解出来る女性に押さえ込まれ、身動き取れないようだった。
日本でもこんな事件がおきるなんて! と、他人事のように傍観していると、
「く・・・・・・じゃなくて、そこのお兄さん!」
ボディーバックを掲げながら叫び、呼ばれた方へと人々が振り返ると、なぜか自分に視線が集まる。
念のため振り返ってみるが、そこは壁で。
顔を戻し、自身を指差すと彼女は頷いた。
「これ、お兄さんの荷物ですよね?」
その言葉に彼女が掲げるバッグに目を凝らすと確かに見覚えがあり、慌ててバッグを置いていた場所を確認する。
確かに置いたはずの "そこ" にバッグの姿がなく、いまさらながら盗まれたと気づき、自分の馬鹿さ加減を知った。
「ありがとうございまーーす ‼︎」
盗まれた事に気づいた悠は、席から彼女の元へと駆け寄ると深々と頭を下げる。
いえいえ。なんて言いながら、彼女は取り返したバッグを渡してくれた。
「盗まれたモノとか無いですか?」
「え〜っとーー大丈夫そうです」
彼女の問いに、バックの中身を確認し答える。
その答えを聞いてニッコリと笑う彼女にドキッ!としたかったが、男の抵抗をものともせずに捕え続けている状況では・・・・・・ときめけなかった。
「あの、申し訳ありませんがーー」
そんなことをしているとタイミングを伺っていた店員に声を掛けられ、警察を呼んだことと、事務所へ移動するように促される。
問題解決し、落ち着きを取り戻すギャラリー。
だが、『警察』と聞いた盗人の男は暴れ逃げようとするが、捕まえてる当人は涼しげな顔で「ほら、歩いて」と後ろから腕を捻り上げ事務所まで歩かせていた。
ーーいや、本当。彼女は何者なのか?
正直、盗まれたバッグの中に貴重品はなかったので、どうして男がバッグを盗んだかよりも、彼女の凄さの方が気になってしまい苦笑する。