004-2 そして悠は姿を消した
「あんな奴のどこが良いのかしらね」
ノーレッジはリビングのソファで英語の教材に目を通している晩乃悠から、ダイニングテーブルで持ってきた書類に目を通すゴールドへ視線を戻し、小さく呟いた。
その声が聞こえたのか、ゴールドが「なに?」と顔を上げ、こちらへ視線を向ける。
「いや、なんでもないよ」
「そうは見えないけど?」
そう言われたのでノーレッジは聞いてみた。
「ゴールドは、あんなオッサンのどこがいいのか? と思っただけだ。わざわざコチラ(アメリカ)にまで招くなんて」
そう聞くと、ゴールドが笑う。
とても柔らかく、宝物を前にしたかのように。
そんな風に笑う彼女を見たのは久しぶりだった。
「彼はねーー優しいんだよ」
優しいという言葉に悠へ視線を向けると、彼の行動を思い返してみる。
(優しい………か?)
優しくないとは思わないが、過去に会ったことのある日本人と比較してみても特段優しい奴だとは思えなかった。
正直な感想としては、日本人なんてあんなーー表立って攻撃しない感じのーーようなものではないかと感じている。
まぁ、色々あった彼女にしてみれば、自分を自分として扱ってくれるだけでも嬉しいのかもしれない。
私としては彼女のことは可愛いが、ビジネスから付き合いが始まっているので完全な友人となりきれていない部分もあるだろう。
シルバーやカッパーに関しても、二人は妹のように思っているかもしれないが、アイツ経由で知り合ったことや、雇用関係もあって、頼れない部分もあるだろうし。
なんて頭に浮かんだが、言葉にはしない。
「いったい “なに” があったんだか」
「ふふふ、秘密」
そういって年相応に笑う、ゴールド。
そんな彼女に気になり、ノーレッジは訊く。
「彼のことーー好き(Like)なの?」
「悠のことは好きだよ」
「彼のことーー好き(Love)なの?」
「へぇ?」
一瞬、飲み込めなかったのかポカンとした表情を見せるが、質問の意味を理解したゴールドは驚きとともに持っていた書類を握り潰した。
「な、な、な、な、な」
顔を真っ赤にし、バグり散らかす少女。
(………これは )
余計なことを意識させてしまったかもしれない。
そんなことを考え、溜め息をこぼすと、
「どうした?」
と、こちらを気にした悠が声を掛けてきた。
そんな彼の声にビクッ!と驚く私達。
「え、なに? 本当にどうした?」
私達の反応が気になり再度聞いてきた悠だが、
「なんでもないから!」
「なんでもないわよ!」
想定以上の勢いある返答に、
「そ、そっか」
と押し負け、それ以上に踏み込むことをやめた。
こちらが気になりつつも英語学習に戻った悠の姿を確認してからゴールドへ視線を戻してみると、
「これが………恋⁉︎」
なんて真っ赤な顔をしたまま呟いている。
正直、勘弁してほしい。
自分の指摘が原因だから否定もしにくいが、ゴールドが “愛” だと思っている感情にまかせ、日本のマンガのような行動をおこさないことを祈る。
憂鬱な気持ちのなか、震える端末。
その音に画面を確認するとノーレッジは、さらに憂鬱な気分になった。
通知に表示される名前は私の依頼者のひとり。
タイミングの悪い知らせに、ノーレッジは深めの溜め息が自然とこぼれ落ちる。




