03-10 彼女達
お、おっかね ――― ‼︎
ハイヒールで顔の真横を踏まれたこともだけど、見下し睨みつけてくるノーレッジの鋭い視線が怖く、素直に頷くしかなかった。
一部ではご褒美かもしれない。
が、悠にそっちの趣味はない。
「そ、それで私は何を答えれば……」
「私が質問するまで、口を開かない!」
「あ、はい」
黒のストッキングに包まれたスカートまで伸びる足は扇情的で、ノーレッジの色っぽさを堪能したい気持ちになるが……そんな余裕はなさそうだ。
本能で、余計なマネをしたらマズイと悟る。
「晩乃悠という名前は本名?」
「はい、本名です!」
「貴方はゴールドに招かれて紐育にいるーーで、間違いないかしら?」
「はい、その通りです!」
「ゴールド達を愛称で呼んでいるけど、彼女達とは面識あったの?」
偽名ではなく愛称だったのかーーー。
「会ったことある?ということなら面識はない。米国に連れてこられてから金髪幼女だと知ったくらいだし」
「貴方とゴールドはどういった関係なのよ?」
「え〜、恥ずかしくて言えなーーーヒョ⁉︎」
バスッ!と音を立てるソファ。
ノーレッジがハイヒールを浮かせたかと思うと、再び顔の真横を踏みつける。
踏みつけた場所は先程よりも近く、頬に擦り傷の跡くらいついていそうだ。
「………ネッ友です」
「ネットモとは?」
「インターネットフレンド。SNSで絡んだり、ゲームとかしたり……とか?」
思いつきにしては良い嘘ではないだろうか。
答えた悠を見つめてくる、ノーレッジ。
疑う表情をしながらも彼女は質問を続ける。
「いつから、ココ(ゴールド邸)に?」
「……3日程前」
「ゴールドが自宅で仕事しだした頃ね」
そう口にしながら彼女はゴールドを見た。
彼女は金髪幼女に対して何かいいたげな顔をしていたが、口にしたところで反発されるだけだと思ったのだろう、自分への尋問を続ける。
ゴールドも口をだしたそうに様子を伺っているが、なかなか参加できない様子。
「それで、貴方はゴールド達と “なに” をしているの? そして、いつまでいるの?」
「……………」
「なんで……黙るのかしら?」
ノーレッジに怪しまれるとは思ったが、この質問に悠は即答することができなかった。
その “ なに “ かは悠のものではないから。
そんな思案に、悠は本当に “ なに ” を自分はしているのだろう?と今更ながら考え込む。
「な、なによ!」
考えるなかでノーレッジを見つめていたらしく、彼女から怪訝そうな顔をされる。
正直、現状を素直に彼女へ伝えれば誘拐生活を終わらせて日本へ帰国出来るかもしれない。
もともとゴールド達が自分勝手に始めたこと、こちらが気をつかう必要なんてない。
ーーーけど、
あぁ、本当。こんな自分の性格が嫌になる。
★
悠の沈黙にノーレッジは眉を寄せる。
ゴールドとカッパーも黙ったまま思案する姿を不安げに見ていた。
「答えられない質問だったかしら?」
ヘラヘラと答えていたのに、突然考え込んだのだから、私じゃなくても怪しむだろう。
だから問い詰める言葉に棘が混じる。
そんな棘を悠は気にすることなく溜め息をひとつ吐くと、再びヘラヘラとした表情に戻り、ノーレッジの質問に答えた。
「その質問は俺では答えられないかな」
「なんで答えられないのよ!」
「俺はゴールドの “ サプライズ ” でココ(ゴールド邸)に招かれたから、正直詳細を把握してないんだよね」
「 Huh? 」
なにいってんだ、コイツ?
信じられない返答にノーレッジはゴールドへと視線を向けると、彼女はバツが悪そうに私から視線を逸らす。
どうやら嘘ではなさそうだが………いい年こいた大人の対応としてどうなのか?
呆れて、呆れてしょうがなく深い溜め息を吐き出してしまったが、ふと気になることができた。
「貴方、仕事は? 日本は長期休暇を取得しづらいと聞くけど」
「あぁ、それは大丈夫。個人事業者だから」
「個人事業者?」
「えっと、Sole proprietor かな」
「Sole proprietor ……なんの?」
「色々しているから説明が難しいなぁ。名刺を渡せればいいんだけど持ってきてないし」
怪しい、怪しい、怪しすぎる。
だから、この答えに辿りついても仕方ない。
「貴方、ゴールドを騙して金銭巻き上げようとか考えてないでしょうね」
「ノーレッジ!」
ゴールドは幼い。過去にはゴールドの正体を知って会社の金を横領しようとした輩もいた。
ゴールドは悠を庇うように叫ぶが、目の前の男は信用に値しない。
過去のことがあったからシルバーあたりが彼を調査してはいるだろうが、それだって完璧ではない。日本と米国では感覚も違い、情報に漏れがあるだろう。
いっそ悠を見る目が厳しくなるが、
「あ〜、それはない。ない」
と、笑いながら手を左右に振る。
「詐欺師は皆、そういうわよ」
「そらそうだ」
なにか疑いを晴らすものはないか?と、考えていそうな顔をした悠は思いついたようにシルバーの名を呼び、要件を告げる。
「シルバー。端末をーーー」
「こちらでよろしいでしょうか?」
間髪入れず現れたシルバーに驚く、二人。
( 貴女、お茶はどうしたのよ? )
と思ったが、気づけばテーブルに人数分のお茶と甘味が置かれていた。
あいかわらずの完璧メイド……執事?
そういえば、何故シルバーはメイド服ではなく執事服っぽいものを着ているのかしら。
そんなことを気にしていると、悠はシルバーに使い方を聞きつつ操作し、目的の画面を表示できたのか端末を渡してきた。
「表記は円だから気をつけて」
「日本のバンクサイトかしら?」
「そう。あと別に証券会社のサイトも開いてるから併せて確認してもらえると」
端末を受け取り内容を確認する。
彼のいうように円表記だったので把握出来なかったが、頭のなかでドルに変換すると表示されている金額に驚く。
「子供を騙してまでお金が必要ではないと御理解いただけましたでしょうか?」
所持金が多いから詐欺を働かない……なんてことはないが、表記されている金額が本当だとすれば金に執着する必要はないだろう。
「貴方 “ なに ” している人なの?」
「まぁ、宝くじが複数回当たるような出来事がありまして」
彼の言うように大きな金額が入金されている箇所が何度かあるが、コンスタントに入金されている金額もなかなかなモノ。
それを投資に回しているようで、なかなかの資産金額。そのなかには少し前に話題になった銘柄も含まれており、
( 彼に弁護士として売り込もうかしら )
なんて考えるくらいにはお金を持っていた。
私の反応にゴールド達も気になっている様子を見せており、彼女達も悠の資産については知らないようだ。
「そうね、聞きたいことは増えたけど」
「答えられる範囲でなら答えるよ」
おどけた表情が癪にさわるが、金銭目的ではないと判断する。
もしかするとゴールドのビジネスに対して近づいてきた可能性もあるが、現状では追求できるだけの情報はない。
だから、ひとまず納得することにした。
「なら、貴方は pervert だったり psychopath だったりするのかしら?」
「え、え? サイコパスはなんとなくわかるけど、パ、パーバーってなに?」
「変態なのかって聞いたの!」
「状況的にはノーレッジのほうーーーグワっ」
ふざけたことを口にする彼の頬を片手で鷲掴みにし、それ以上余計なことを語れないようにする。
「詐欺師じゃなさそうだとしても、私は貴方を信用したわけじゃないの。貴方をゴールド達に手を
だす変態野郎だったり、危害をくわえるようなサイコパス野郎の可能性だってあるわ」
「あい」
「正直、ゴールド達の安全のためには出ていって欲しいと考えている」
ゴールドが「ダメ!」と言うが、無視。
「けれどーーーここはゴールド宅で、君はゴールドが招いたお客様だ。だから私がゴチャゴチャいおうが決定権はゴールドにある」
「うい」
「だが、私が心配しないわけじゃない。今後はシルバーやカッパーには警戒してもらうし、私やキュアが様子を見にくるから」
「あい」
「ゴールド達になにかあったら、私が持つ力すべて使って、貴方が生きているのが嫌になるくらい破滅させるから覚悟しておきなさい!」
「了解っす!」
渾身の返答を聞き、私は彼を解放した。
解放された彼は大きく息を吐くも、問題解決したと安堵した様子を見せる。そして私を見て笑うと立ち上がり握手を求めてきた。
和解のかわりに、ということだろう。
まだ信用しきれていないとはいえ無下にするのも気がひけたので、彼と握手する。
「悠、よかったね♪ 」
「そうだね―――て、うわぁ!」
彼との生活が続けられるのが嬉しかったのだろう、ゴールドはソファの上に立ち上がり、悠めがけてダイブした。
突然のことでバランスを崩しかけた悠だったが、ノーレッジの身体を掴む事で転倒を回避する。
ーーーただ、その結果。
悠の右手はノーレッジの左肩を掴み、
悠の左手はノーレッジの乳房を鷲掴みにしていた。
「………あっ」
それに気づいたゴールドが申し訳なさそうな声を漏らし、その声に悠はゴールドの視線から状況を察する。
「あ〜〜、え〜っと」
状況を確認するようにフニフニと胸を揉む、悠。
( ーーーー怒# )
私の殺気に気づいたのだろう、悠は静かに手を離し、背中のゴールドを安全圏に置くと、再び私へと向き直った。
シルバー、カッパーも察して距離を取る。
周囲の状況が整ったことを確認すると、
「 ―――キュア!」
とキュアの名を呼び、察した彼女が悠の前に立つとニッコリと笑顔を見せたのちに綺麗な回し蹴りを繰り出した。
「 ―――グハッ! 」
綺麗に決まった蹴りに、悠は綺麗なトリプルアクセルを決めてソファに沈み込んだ。
★
ソファに沈む姿に、シルバーは溜め息を吐く。
(お嬢様が持っているアニメの主人公みたいだ)
ラッキースケベというらしいが、タチが悪い。
完全に沈黙してしまいお嬢様に介抱されている悠を見ながら思う。
「と、馬鹿の相手で本題を忘れていたわ」
思い出したようにノーレッジ様が告げる。
「ゴールドと仕事の打ち合わせをする予定で来たのに、馬鹿がいたせい忘れかけていたわ。ほら、会議するわよ。ゴールド」
「えぇ〜〜〜」
「えぇ〜〜〜、じゃないわよ。ただでさえ無駄に時間を取られたんだから、早くする!」
渋るお嬢様に「キュア」とノーレッジ様が口にすると、キュアが謝りながら持ち上げた。
「そのまま先に連れて行ってもらえる」
ノーレッジ様にそう言われてキュアはうなずくと、私達に頭を下げ、お嬢様を抱っこしてゴールド邸を後にする。
「仕事したくな〜い」
「ゴールド様、頑張りましょう!」
なんて声が聞こえ微笑ましく思っていると、
「私は、悠をベッドに運んでくるっすね」
カッパーがノーレッジ様からのお説教から逃げるように口にしたので眉を寄せた。
(私だけが怒られるじゃない!)
そんなことを考えるシルバーだったが、悠をそのままにして余計なことを突っ込まれるよりはと考え許容する。
ただ悠から目を離さないように、
「カッパー、悠の介抱をよろしくね」
とお姫様抱っこをするカッパーに伝えるが、
「了解っす!」
理解してるのか?していないのか?わからない様子で彼女もこの場を後にする。
そんなカッパーにノーレッジ様がなにも言わないので許されたと考え、何事もなかったかのように自分の仕事へと戻ろうとしたシルバーだったが、
「ねぇ、シルバー」
と呼び止められてしまう。
「なんでしょうか、ノーレッジ様?」
「彼ーーー悠はゴールドの症状について知っているのかしら?」
心配するようなノーレッジ様の表情。
その質問に私の表情も曇る。
「………いえ、知りません」
「………そう」
「ただ、なんとなく察している可能性は否定できません。それが “ なに ” かは理解されていないと思いますが」
悠の考えはーーーシルバーにはわからない。
この誘拐生活を終わらせる機会をみすみす逃したのだ。
ーーーお嬢様の為かもしれない。
ーーー悠自身の為かもしれない。
考えてみても、彼の本心は理解できなかった。
それでも明らかな事実がある。
「ただ、悠がいらしてからのお嬢様は前より楽しそうに過ごされています」
「………そう」
私の言葉にノーレッジ様がどう感じているかは不明だが、お嬢様の元へと歩き出した際の顔は微笑んでいたように見えた。




