003-9 彼女達
荒げる声が響き、晩乃悠は目を覚ます。
(……今日は厄日かな?)
二度も殴られ、二度も気絶するなんて。
ゴールドは武器商人だったりするのか、お金持ちだからといって個々の人材が優秀で戦闘力も高すぎる。
「ハル、大丈夫!」
目を覚ましたことに気づいたゴールドが自分を心配そうに覗き込み、聞いてくる。
この感じ、ゴールドに膝枕されてそうだが、
「ゴールド!」
視界の端に映る黒髪女性の怒りを露わにする表情と声色に晒され、色々と状況が知りたくなった。
……が、それを口に出すことはできず。
ゴールドと黒髪女性が、悠を挟んで、途中だったらしい会話を再開する。
その様子は和気藹々といった雰囲気ではなく、仁王立ちしている黒髪女性が問い詰めるように言葉を口にし、それにソファで膝枕してくれているゴールドが言い返している様子で、二人は言葉を荒げ言い争いをしていた。
そんな二人に割り込むこともできない悠は、殴られた腹の調子を確認しつつ、周囲の様子を確認するために瞳を動かす。
場所は、ゴールド邸のリビング。
動かした瞳で周囲を見ていると、リビングのソファに正座させられたカッパーと目が合い、
「無事みたいで安心したっす」
と、どこか疲れた笑顔を浮かべながら言われる。
それに答えようと思ったが、カッパーの奥で執事然としたシルバーも正座をさせられているのに気づき、只事ではない状況だと察した。
「カッパー!」
黒髪女性に注意されるように名前を呼ばれ、カッパーは “ ビクッ ” と身体を強張らせ俯く。
その様子は、さながら教師に叱られる小学生か、母親を怒らせた子供のようだった。
場を支配しているのは黒髪女性。
「この子たちが貴方がゴールド邸にいる理由を説明してくれないのだけど、貴方は説明してくれるかしら?」
「ノーレッジに関係ないでしょ!彼のことは!」
悠に黒髪女性ことーーーノーレッジに訊かれるが、それを拒むようにゴールドが割って入る。
再び、彼女達が言い争うなかノーレッジの後ろでオロオロとしている赤髪女性がいた。悠を殴り飛ばした人物と同一人物とは思えないギャップが可笑しく、すこしだけ和む。
(ふぅ〜〜、やれやれ)
和んだことで落ち着きを取り戻した悠は、一度目を閉じると、覚悟を決めて口を開いた。
「はい、はい、ちょっと落ち着いて」
★
「はい、はい、ちょっと落ち着いて」
ゴールドの膝から起きると、彼はそう言って自分に注目させ、私とゴールドの会話を切った。
そして、私ーーパーク・リー・ノーレッジーーへと顔を向けるとニコリと笑う。
米国と違う、日本人特有?の雰囲気にテンポを崩され見つめ返すだけの私に、彼は気にした様子もなくソファを座り直すと、心配そうな顔で見てくるゴールドへも笑いかけ頭を撫でる。
「ノーレッジ……さん? 立ったままだと話にくいでしょうから座られたらどうですか?」
彼の指示に従うのも癪なので、ソファに座ることなく彼を見下しーーー睨む。
けれど彼は笑顔を崩さない。それどころか、
「シルバーとカッパーも、その状況だと落ち着いて話せないから足を崩そうよ」
と周囲に声を掛け、主導権を取っていく。
彼の言葉にカッパーは私をチラリと見るも、再度彼へと視線を向けると申し訳なさそうにしつつも普通に座り直した。
シルバーは「飲み物を用意します」と離脱する。
それを見送った彼が視線を戻すと、
「え〜っと、Can you speak Japanese?」
座らない私へと訊いてきた。
「日本語で問題ないわ」
「NO、NO 、NO!」
キュア(赤髪女性)ーーこと、私の秘書であるキュア・リトルベアーが日本語が理解できないと首を振っている。が、彼の拙い英語だと支障がありそうだったので無視をした。
「あ、助かります」
ヘラヘラした彼の表情がイラッとさせる。
「それで、貴方は何者?」
主導権を取り返すためにも、私から質問した。
私のトゲのある聞き方に、ゴールドが文句を口にしようとするが彼に阻まれ口を閉ざす。
そのかわりに彼が口を開く。
「お腹が痛いので座ったままで失礼ーー私の名前は晩乃悠。あなた達は?」
「……私はノーレッジ。赤髪の彼女はキュアよ」
「はじめまして、よろしくお願い致します」
握手ではなく、日本人らしく悠は頭を下げる。
キュアがつられて頭を下げるが、私は頭を下げることなく悠を見下し、睨み続けた。
「で、あなたは何者で、何故ここにいるのかしら?ーーーその格好、まさかゴールド達と一緒に生活しているわけじゃないでしょうね?」
寝巻きにも見える悠の格好に眉を寄せながら、ゴールドとカッパーにも視線を向けると二人は答えにくそうに顔をそむける。
そんな彼女達に “ なにか ” を察したのか、悠はやれやれといった様子を見せた。
「彼女達は……なんて?」
「答えないから貴方に訊いているのよ」
怒気の含んだ声に、私の怒りを感じとったキュアが身を震わせるが、目の前の男は平然としたまま少し考えるそぶりをする。
そして、考えがまとまったのかーーー口を開く。
「素直に話すか……」
それを聞き、ゴールドとカッパーの空気がざわつき、慌てた雰囲気を漂わせるが、
「自分はゴールドの計画で強引にーーー」
「ハル!」
「ーーー招待されて米国に拉致られまして」
悠は気にすることなく言い切った。
「はぁ?」といった顔をする私。
「えっ?」といった顔をする幼女。
なんだか突拍子のない答えを聞いた気がしたが、彼なりの冗談なのかしら?
弁護士である私は職業柄、人の嘘を感じ取ることが出来るが、嘘を言っている気配はない。
「ゴールドが招待って、どんな関係なのよ!」
「キャッ!おじさんと幼女との関係を聞くなんて恥ずかしいわぁ〜。キャッ、キャッ!」
「ふざけないで答えなさい!」
もし一線を越えるような関係ならと怒鳴るが、震えるのは身内だけで悠は平然としていた。
「ノーレッジは、ゴールドの趣味知ってる?」
「この子の趣味?ーーーお金稼ぐことかしら」
「あ、そっちではないですね」
「なら……ジャパンカルチャーかしら?アニメーションやマンガとかいった」
「あ、それですね」
それを聞いた瞬間、私は悠を汚らわしいモノを見るような目で見てしまう。
過去、ゴールドの趣味に興味を抱き、読んでいたマンガを見せてもらったことがある。
そこにはゴールドと変わらない女の子がハプニングで男性に押し倒され、あられもない姿をさらしてしまう姿が描かれていた。
そんな趣味の同類。
しかも私より年上であろう男性が……だ。
それは軽蔑の眼差しを向けてしまっても仕方ないだろう。
「あ、あぁ〜〜〜」
私の態度に、悠も察したのだろう。
物凄く、罰が悪そうな顔をしながら苦笑する。
「ゴールド、こんな反応されたら言えないね」
「え、あ、そ、そうだね。そうなんだよ!」
「だからって、突然おじさんを家に招いて、あまつさえ居候させていたら、そら彼女も怒るよ。自分だって、女性3人が暮らす家に知らない男がいたら怒るよね」
「……でも」
「でも、じゃないの。きちんと報告・連絡・相談しないとーーーほら、ゴールド謝って」
「うん、わかった。ノーレッジ、ごめんなさい」
なに、この空気?―――終わってないから!
「なに決着したみたいな空気だしてんのよ!な・に・ひ・と・つ、解決してないから!」
その言葉に「そうなの?」みたいな顔をされ、私は我慢できず悠に迫った。
突然、怒気を露わに近づいてきた私に、悠は驚きソファからずり落ちそうになる。そんな彼の顔の真横を私はハイヒールで踏みつけた。
ヒッ!と声をあげる悠の横で、踏みつけられたソファにヒールが沈み込む。
「お、お、お、お、落ち着きましょう。ねぇ」
「ノ、ノーレッジ!」
私の行動に慌てる悠とゴールド。
悠はソファに刺さるハイヒールの側面を頬に感じて困惑の目を向けてくる。ゴールドが抗議するように私の名前を呼ぶが、睨みつけ黙らせた。
念の為、カッパーとキュアにも視線をむけて牽制し、彼女達が介入しないようにすると、改めて彼を睨みつける。
「私が質問に、貴方は素直に答えなさい」
「いや、この状況では無ーーー」
「い・い・わ・ね!」
その言葉に、悠は素直に頷いてくれた。




