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ロリユーカイ(prototype)  作者: 冬時宇井好
17/31

003-4 彼女達



ハル様、本日はありがとうございます」


頭を下げるシルバーに、悠は顔を上げる。


いまは夕食後。ゴールドとカッパーがお風呂に行き、悠はゆっくりと英語教材に目を通しているところだった。


本当はゴールドがいない間に探索し、脱出の手立てなどを考えなければいけないのだろうが、監視役が常にいる状況では難しい。


今回だってシルバーが、こうして監視してる。


そらーーー諦めるよね。


「なにかお礼されるようなことをしたっけ?」


「ゴネたお嬢様をうまくなだめていただき、あまつさえ仕事へ促してくれたことです」


「あぁ〜」


あれか……と、悠は思い出す。


シルバーにサボりが見つかり連れ戻されそうになったゴールドは、最終的にゴネた。


それは、それはゴネにゴネ。


スーパーでお菓子を買ってもらえない子供の様な状況で、普通なら「置いて帰るよ!」なんて言えばシブシブながらも諦めるだろうが、目的が仕事をしてもらう状況ではゴネたほうが強い。


まさかシルバーもお嬢様がそこまでゴネるとは思っていなかったのか困惑気味で、見かねた悠が “

とある提案 ” をしたことでゴールドは渋々ながらも仕事を再開してくれた。


提案といっても、自宅で作業出来るようにし、自分がゴールドの仕事中も一緒にいただけだ。


すこしばかり「ゴールドの仕事姿見てみたい!」など言ってやる気が出るように誘導した部分はあるが……仕事再開してくれたら嬉しいなぁ〜程度の期待だったので、渋々とはいえ仕事再開してくれてコチラが驚いたくらい。


だから、思ったことを口にする。


「あれは、たまたま提案にゴールドがノッてくれただけだから、シルバーにお礼されるようなことでもないよ」


「いえ、提案していただいたおかげで私は助かりましたので」


再度、頭を下げるシルバーに悠が遠慮すれば繰り返しになりそうだったので、


「そうですか。なら素直に受けておきますね」


と、お礼を受け入れることにした。


「……………」


「……………」


話題が終わり、流れる沈黙。


常に話題を振り撒くゴールドや、気さくに話すカッパーと違い、無駄なことを話さないシルバーと2人きりだと話題に困る。


このまま英語教材に視線を戻してもよいが、


「ねぇ、シルバーさん」


「はい、なんでしょうか?」


「お話……しませんか?」


と、毎回コレだと辛いので提案した。


「………お話、ですか?」


なるべく警戒されないように笑顔でいたが、凄く警戒されたようで、暫く思案するような “ 間 ” のあとに口を開く。


「そう、お話。これから一緒に暮らすんだし、お互いのことを知っていく必要はあるでしょ」


「……………」


警戒され、返答がないので言葉を続ける。


「君達はさ、誘拐にあたって調査して俺を知っているかもしれないけど、俺は君達のことを何も知らないから、話をしたいんだよ」


「……………」


返答に困っている様子のシルバー。


「俺は問題ないと判断されたから誘拐されたんでしょう。なら、君達のことも教えて欲しいな」


彼女のことだ、今回の計画を実行するにあたって吟味に吟味を重ねたはずだ。すこしでも悠の調査で害になりそうだと感じれば、お嬢様の命令されたとしても反対しただろう。


「調査したからといって、必ずしも想定外はあります。完璧な調査は稀ですので」


だから、私がシッカリしないと!


そんな思いが悠にも伝わってくる。


「余計なことを、俺に話したくないと?」


あぁ、こんな言い方したら頷くにくいだろうに、悠は口にしてしまった。


予想通り、返答はない。


が、そのことが “ 肯定 “ を示している。


ちょっと悪いことしたなぁ〜。と、彼女の気持ちに気づかないフリをして話を続けた。


「まぁ、女性だけの空間にオッサンがいるんだからシルバーの警戒もわかるけど、君達の計画なら誘拐生活は続くんだし、互いのことを知り、妥協点を模索しない?


………じゃないと、息苦しくなってしまう。


俺はアメリカの常識も知らないし、君達のコトを知らないうちに不愉快にする可能性もあるしね」


若干おどけつつ、シルバーの様子を伺う。




     ★




………また、だ。


また、彼は平然と言ってきて。


計算か、天然か、本当に判断できずーーー困る。


誘拐されたばかりだというのに、普段と変わらないかのごとく、慣れたように一日を過ごす。


だから戯けた様子で笑う彼に、笑顔を返せない。


(………どう返答すればいい?)


何を話すべきか? 何を話さないべきか?


言葉が出ない私に、彼は笑顔のまま待っている。


話さないと!と、思えば思うほど言葉に詰まり、思考が遠のいていく。


「ごめんね。意地悪な言い方して」


見かねたのか、悠が口を開いた。


「別に、みんなの踏み込んだ話をしようなんて思っていないんだよ。ゴールドみたいに趣味だったり好きなことだったり、カッパーみたいに揶揄からかいあったり……まぁ、過度なスキンシップなんかは控えてほしいけどね」


わざとらしく肩を竦めてみせる、悠。


「なんだったら、今日みたいなゴールドへの愚痴でもいいし、俺に対する要望でもいいんだよ。互いに肩の力を抜ける程度の間柄になれれば」


言っていることは、もっともだ。


誘拐を計画してから本日まで、周囲には気づかせないようにしているが、日々気を張り、そのせいか少々疲れが蓄積してきているのを感じていた。


それを察してなのか、彼が過ごしやすい環境を手に入れるためなのか、あるいは両方か。


どちらにせよ、こんな日々が続けば限界がくることはあきらかである。


「確かに、肩に力が入っていては疲れてしまいますものね」


「そうだね〜」


考えていくうちに自然と出た答えだった。


そして、彼への警戒を少しだけ緩める。


警戒しない選択肢はない、けれど警戒しすぎていても前に進めないと思った。


「わかりました、お話いたしましょう」


「おっ、本当に!」


せっかく相手が会話を望んでいるので、いい機会だと思い、聞きたいことを質問する。


ハル様は、何故、誘拐されているのに平然と過ごされているんでしょうか?」


「それは、美人達と優雅に過ごせるから!」


「真面目に答えるき、あります?」


「う、嘘ではないんだけどなぁ〜」


と悠は呟くが、真面目な顔をすると告げた。


「まぁ、正直に話すなら【命の危険】を感じないからかな」


「え⁉︎」


「君達は最初こそ強引だったけど、米国コチラにきてからは、手錠こそされてはいるけど害する行為はしてこなかったからね。だから落ち着いていられるかな」


そんな風に悠はにこやかに語るが、シルバーは反応に困る。


悠が過去にどんなトラブルに巻き込まれてきたのか、シルバーは気になったけれど、現在進行形でトラブルに巻き込んでいる身としては聞きづらかった。


「そして、逃走タイミングを伺っていると」


「そうだね」


まさか素直に答えるなんて思わず、シルバーは驚きの表情をする。


そんな表情に、悠は苦笑。


「そらそうでしょ、突然連れてこられたら」


「いや、まぁ、そうですけど」


「正直に言えば、米国コッチで暮らすのもやぶさかではないよーーーただ、日本むこうに色々残しているから一旦は帰りたいよね」


悠の思いは理解できた。


「普通に招待してくれればよかったのに」


けれど、コッチにはコッチの事情がある。


「招待状を送れば、来てくれましたか?」


「招待する理由の記載はあるのかな?」


「たぶん、書かないですね」


「なら、きっと怪しんでこなかっただろうね」


また、悠とシルバーの間で流れる沈黙。


「けれど、いまはココに居るし協力はするよ」


「………え?」


見つめ返したら悠の顔は真剣だった。


「お互いに利害は一致してると思うんだ」


「利害が一致ですか?」


「君達は抱えている問題があり俺を誘拐した。


 俺は帰れない理由を解消し、帰国したい。


 ネックになっている問題は一緒なんだし」


「互いに、手を取り合いましょう……と?」


「そういうことーーー信用できない?」


ゲーム一緒にどう?なんて感覚で聞いてくる。


そんなこと、即決できるわけもない。


「………それは」


「なら、シルバーに信用してもらうためにも、ひとつ暴露でもしようかな」


そういったかと思うと、悠はシルバーに手錠した手首を見せーーー手錠をはずした。


「ーーーはぁ?」


手錠がテーブルに落ちる音に反応するように、驚きの声とともにシルバーは立ち上がる。


「え、え、なんで外せるの?」


その様子にマジックが成功したことを喜ぶように手首を見せながら、悠は笑う。


「はずせるのを知らなかった。ってことは、本物の手錠だと思ってたんだね。けど、これはオモチャの手錠だよ」


「オモ……チャ?」


「精巧な作りだけど安全装置がついていて、普通にはずせるんだよねーーーわかりにくいけど。ほら、このボタン」


テーブルに落ちた手錠を拾い、安全装置のボタン部分を見せると、悠は何度も手錠をしたり・はずしたりして見せた。


「ははは、はぁ」


シルバーは、目の前の事実に力なく座る。


綿密に計画したはずなのに、こんなミス。


自分の情けなさに目を押さえつつ深く溜息を吐き出した。


「そんなに落ち込まなくても大丈夫だよ。俺だって、すこし前に気づいたばかりだし」


ーーーなんの慰めにもならない。


「はずせるのでしたら、逃げればよかったのでないですか?」


「逃げてもよかったんだけど、財布も端末も持ってないから、ここから出ていっても土地勘のない場所を彷徨うだけだからね」


「そうですか」


投げやりな返事。悠を相手にしていると、なんだか全てが馬鹿らしく感じてくる。




『お嬢様〜、ちゃんと髪乾かすっすよ』

『はい、はい、ちゃんと乾かすから』




遠くから聞こえてくるお嬢様達の声。


もう少ししたら私達のいるところへ来そうなので、シルバーは投げやりな気持ちを切り替えるために息を吸うと、席から立ち上がり彼女達を迎える体勢を整えた。


悠との会話も、ひとまず終了。


悠もお嬢様達の声に半ば強制的に話し合いを終了させられ落胆した様子を見せている。


そんな悠を見ることなく、


ハル様。まだ私達の事情についてお話することは出来ませんーーーが、貴方のことを少しは “ 信用 ” してみようと思います」


「本当、よかった!」


私達は少しでも前に進む必要があるからーーー。


そのために “ 彼 ” を引き入れたのだからーーー。




     ★




「お力が必要なときは宜しくお願い致します」


こちらへ視線を全然向けないが、シルバーに多少なりとも受け入れてもらえたようで良かった。


まだまだ不明なことは多いが、一歩前進。


そのことが嬉しくて軽く舞い上がってしまった。


そして、町屋まちや聖歌せいかや柚ノゆずのきゆかりにも注意される悪い癖が出てしまい、


「うん、こちらこそ宜しく。下着を見ちゃった仲だし、喜んで力貸すよ!」


ーーーー余計なことを口走る。


ヤバっ!と、気づいたときには遅かった。


急速に空気が冷えていくのを感じる。


ゆっくり、ゆっくりと振り返るシルバーの表情は笑顔だが、その表情からは凄まじい圧を感じ、悠は冷や汗を流す。


持ち上げた分厚い書籍は彼女が時間を潰すために用意していモノで、


「あぶない!」


いまや、悠に襲いかかる凶器。


避けていなければ顔面に直撃だっただろう。


「シルバーさん、シルバーさん⁉︎」


まるでアクション映画のワンシーンのように、シルバーは椅子からテーブルへと駆けあがると、自分に向かって跳躍し、頭めがけて拳を振り抜く。


通り過ぎた拳の速度は、明らかに殺人級。


「いまのはヤバイ、いまのはヤバイよ!」


シルバーの背中に向かって叫ぶ。


「シルバーさん、いまのはヤバーーー」


「ーーーれろ」


「え?」


「忘れろ、忘れろ、忘れろ、忘れろ、忘れろ!」


発狂したように言葉を繰り返す彼女は、コチラへと顔を向けると、獲物をとらえたライオンのように迫ってくる。


その姿に、悠は小動物のように逃げ出した。


ダイニングテーブルを、グルグル。


次第にフィールドはリビングまで拡大していき、追いかけ回される。


「ごめん、ごめんなさい、俺が悪かったから」


「謝っていただかなくて大丈夫ですよ、ハル様。ただ、忘れていただくだけですので」


「いや、さっきの威力だと別のモンでるから!」


そんな感じで逃げていると、


「なに………してるんすか?」


お風呂上がりのゴールドと一緒に戻ってきたカッパーが呆れた様子で聞く。


「たす、たすけて、カッパー!」


「ーーーーー」


背後のシルバーは日本語ですらなくなり、英語でなにかを口走りながら迫ってくる。


英語なんて理解出来わからないはずなのに、彼女が『痛くしませんから』や『すぐ済みますよ』なんてことを言っているのが理解できた。


笑いながら追いかけてくる彼女が、怖い。


サイコパスっぽくて、怖い。


「頑張るっすよ、ハル


そして助けてくれないカッパーに殺意が湧いた。


しかし、それどころではない。


ゴールドも「なに、追いかけっこ?」なんて言うと、逃げる悠をシルバーと2人で追い立てる。


(やめて、オジサンの体力は “0 ” よ)


暫く追い立てられた後に、呼吸がままならなくなった自分を襲おうとしたシルバーをカッパーが抑えてくれたことで追いかけっこが終わった。


「はひゅ〜、はひゅ〜、はぁ、はぁ」


暫く立ち上がれず、体力のない自分が情けない。


改めて運動しようと思う悠だった。



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