003-2 彼女達
「は、 夢か!」 「現実っす!」
いや、もう少し余韻を感じさせてくれても。
気を失ってしまった悠が目を覚まし、お決まりの台詞を口にすると、視線の先にいたカッパーが即座に否定した。
「色々あったすけど、大丈夫っすか?」
「誰かさんのせいだけどね」
「いや〜、なんのことすかね?」
とぼけたので日本式ツッコミでもお見舞いしてやろうかと思ったが、
「白々しいーーーん?」
異様に近い大きな双丘と、頭の裏に感じる引き締まっていながらも柔らかな感触に違和感を抱き、ツッコミしかけた手をとめる。
「あ、気づいちゃいました」
「え〜と、膝枕してくれてる?」
「そおっすよ、嬉しいっすか?」
「はい、嬉しいです!」
ーーーじゃなかった。
「何故、膝枕を?」
「……………//」
「カッパーさん?」
「あ、はい」
「大丈夫?なんか顔赤い気がするけど」
「気のセイじゃないっすかね」
見つめてくる悠の視線に、カッパーは咳払いをひとつすると話しだす。
「まぁ、こんな風になってしまったのは私のセイかもしないので、ちょっとしたサービスです」
「いや、ほぼカッパーのせいでは?」
「はっはっは、大胆にスカートの中に頭を突っ込んでいた人に言われたくないっすよ」
「いや、あれは本当に事故で」
「でも、堪能したんすよね」
「ソンナコトナイヨ」
「さっきのお嬢様みたいになってるすよ」
「ソンナコトナイヨ」
こちらの分が悪い。先程の件は許すとしよう。
そろそろ膝枕も悪い気がして起きあがろうとするが「あ、ちょっと待つっす!」と、カッパーの胸に押さえつけられた。
「大丈夫とは思うっすけど、結構頭にダメージをもらっているし、他も色々打ちつけてるっすから、急に起き上がったら駄目っすよ」
「わ、わかった。わかったから」
胸とふとももに挟まれ抵抗できない悠は、素直にカッパーのいう通りにする。
起きるのをやめた悠に、彼女は圧迫をやめた。
「お嬢様は仕事だし、シルバーもお嬢様のサポート中なんで、軽く仮眠してもいいっすよ。昨日はあまり熟睡できてないみたいっすから」
「まぁ、あんな状況だとね」
暫しの沈黙ののち、悠が訊く。
「カッパーって、なにか格闘技とかしてるの?」
こちらの状況でも寝れる気もしないので、気を紛らわすために話題をふる。
誘拐の件や、ゴールドの事情なんかを聞いてもよいが、きっとはぐらかされるだろうし、当たり障りのない内容にした。
「元々、格闘技は一通り齧ってきたっすね。でも、まぁ、基本は軍にいた時に学んだ近接格闘術がベースですかね」
「え、軍に所属してたの⁉︎」
「そおっすよ!」
「そこから、なぜゴールドに雇われることに?」
「いや〜、ろくでもない上長を再起不能にして軍を除籍したところ、ゴールドの姉にスカウトされ、妹様のサポート兼ボディガードになった感じっすね」
「へ〜、ゴールドも俺と同じく姉がいるんだ。きょうだいは姉とゴールドの2人だけ?」
あえて “再起不能” にした部分には触れない。
「2人だけっすねーーーというか」
質問に答えてくれたカッパーだったが、訝しんだ表情をしつつ顔を近づけてくる。
それをされると双丘が迫ってくるのでやめて……うん、やめてほしい。
「上長を再起不能にした件は聞かないんすか?」
「いや〜、あまり踏み込むのもどうかと思って」
ジットリした目に、悠は「あはは」と笑う。
「それに、カッパーが再起不能するってことは、その上長は本当にロクでもない奴だったんでしょう」
これは本当に、そう思っている。
カッパーに誘拐された身だが、彼女は本気で悪人というわけではない……はずだ。
「ーーー違うの?」
「いや、まぁ、本当にクソ野郎でしたけど」
そこまで口にした彼女だが、なにか言いたげな目でこちらを見てくる。
けれど言葉にすることなく大きく息を吐くと、追求をやめるように身体を起こした。
あぁ、双丘が離れていく。
「胸、見すぎっすよ。悠」
「はい、すいません」
「そういう目線、だいたい女性は気づいてるっすからね」
「昔、ある女性にも言われたことあるから重々承知なんだけど……この体勢だと、どうしても」
視界に入ってしまう。
「……………変態っすね」
「ーーーーーッ//」
カッパーから罵られ、別の扉が開きそうになる。
なんてふざけていられるのも彼女の顔がニヤけており、冗談半分で言っているからだが、普通の女性相手にした場合は人権をなくすので本当に気をつけないといけない。
なんてカッパーと遊んでいたら、
「ハ〜ル〜、仕事終わった‼︎ 遊ぼ〜〜」
と、ゴールドの声が階下から響き、階段を上がってくる気配を感じた。
そんな気配に悠は体を慌てて起こす。
カッパーに膝枕されている状況なんて目撃されたら、ゴールドの機嫌はどうなってしまうやら。
この階にくるまで、まだ少し時間がありそうなので何事もなかったように身嗜みを整える。
そんな自分を見て、カッパーがひとこと。
「なんか浮気がバレた旦那みたいっすよ」
「ーーーグフッ⁉︎」
その言葉は深く胸を貫き、膝をつかせるには充分なダメージ量だった。
「どうしたの、悠?」
到着したゴールドが、そんな悠を見て訊ねる。
ーーーというか、
人にあんなこと口にしたカッパーだって、ソファから立ち上がり、何事もない顔でゴールドを迎えいれてるじゃん。




