003-1 彼女達
金髪幼女ことーーーゴールド。
正確な年齢は不明。西洋絵画の少女が抜け出してきたかのような美しい容姿で、名を体現するかのような金色の髪の輝きも合わさり幻想的な雰囲気を漂わせる。
それだけでなく、彼女は事業運営を行う経営者であり、自分のビルを保有する資産家。
ーーーラノベヒロインかな?
そんな設定過多な幼女が、なぜかソファに座る晩乃悠の股の間に座り、背もたれのように体をあずけながら、プロジェクターから映し出されるアニメを見ていた。
ーーーはい、刑罰執行中です。
映像を真剣に見るゴールドは、先ほど語ったように幻想的な雰囲気を漂わせているが、見ているアニメはジェイカル特有のラッキースケベ的な展開があるもので、
「うへへへ、ツルちん。エロいよぉ〜」
見ている話は、特に “そういった” 展開の多い回である。
このアニメの内容は意外と真面目で、マネーリテラシーや投資・事業構築などを噛み砕いて説明しているのだが……いかんせん、それだと話題にもならないのでラノベ要素満載だ。
「ゴールド、顔、顔」
あきらかに、幼女がしちゃいけない顔をしてる。
「だって〜」
「だって〜。じゃなくて」
ただでさえ一緒に観るのが辛いのに、幼女が幼女のハレンチシーンを見てニヤニヤしている姿を見せられるコッチの気持ちも考えてほしい。
正直、この状況から逃れるなら逃たいが、
「でも、ツルちん可愛いんだもん」
がっちりと手錠した腕を掴まれて無理で。
色々と密着していて、ヤバい。
助けて!と、護衛として控えるカッパーへと視線を向けたが、彼女はニッコリと笑うだけだった。
アニメが終わる頃には羞恥心で死にそうになる。
「うん、何回見ても面白い」
「それは良かったね」
「じゃあ、次の話もーーー」
やっと解放されるかと安堵していたが、続けてアニメを見ようとするゴールドに絶望しかけていると、タイミングを見計らったようにシルバーが後ろから声を掛けてきた。
「お嬢様、そろそろお仕事の時間です」
「えぇ、悠もいるし、今日はキャンセルで!」
「駄目です!」
ピシャリと告げる、シルバー。
「仕事……溜まってますよね」
「ソンナコトナイヨ」
腕の中のゴールドが視線をそらす。
「私達がいないとき、しっかりと仕事に取り組む約束だったと思うのですがーーー先程確認したところ片づいていないようですが?」
「……………」
この反応は有罪っぽい。
悠は状況を察し、ゴールドを抱くように置いていた両腕を上げた。
それを見たシルバーはカッパーに視線を送る。
「お嬢様、行くっす」
「やだ、やだ、悠と遊ぶ!」
「はい、はい、お仕事するっすよ」
悠から離されることをゴールドは拒否するが、カッパーは彼女を抱き上げると問答無用で連れていく。
その様子は宿題をしない子供と親のやり取りで、彼女が企業の社長とは思えなかった。
それに少し笑いつつ、ゴールドがいなくなった解放感からソファの背もたれも使って大きく背筋を伸ばしたーーーら、
「シルバーさん。まだ、そこにいたんですね」
「はい」
こちらを見下ろすシルバーと目があった。
「悠様」
「はい、なんでしょう?」
そのままシルバーが話しかけてきたので、背伸びした体制のまま会話を続ける。
「英語教材の件、御用意が出来ましたので持って参りました。御受取り下さい」
そう言って差し出された教材の束を受け取るため、悠は伸ばしていた腕を上げてしまった。
その瞬間、フワッと舞う布が視界に広がり悠の顔を覆うように被さる。
これがゴールドの見ていたアニメだったら、それぞれ別角度からのアングル映像がスローで流れたことだろう。
覆い被さったモノが、シルバーの着ていたクラシカルなメイド服のスカートだと気づいたのは、何が起きたのか?と確認するために顔を動かし、彼女の白い足とガーター付きの下着が見えたからだった。
「……………」
「……………」
流れる沈黙を破ったのは悠でもシルバーでもなく、
「シルバー。お嬢様をどこに連れていけ……ば」
「カッパー、なんで目を隠すの?」
「お嬢様には目の毒っすからね」
ゴールドを抱えたまま戻ってきたカッパーで。
「あ〜、お二人さん。そういったことをするのは止めませんがーーー場所を考えてほしいっす」
そこまでカッパーが告げたところでシルバーは状況を理解したのだろう。
「ーーーーー‼︎」
声にならない悲鳴を聞き、悠は覚悟を決める。
「ガハッ⁉︎」
次の瞬間、なにかに顔を叩かれ、シルバーが逃げたのかスカートが顔から外れ、光を取り戻す。
ただ、顔の痛みに悶えていたので状況は不明。
「え、なんか悲鳴聞こえたんだけど」
「だ、大丈夫っすか?」
「………だ、大丈夫」
すこし痛みが治まり、顔を押さえつつ立ち上がると、心配そうにするカッパーに答えた。
そして状況を確認するため先程まで座っていたソファへと視線を向けると、自分から距離をとったシルバーが顔を真っ赤にし、スカートをおさえながら、コチラを睨みつけている。
羞恥と怒りに、肩で息する彼女の姿に、
「本当に、申し訳御座いませんでした」
と、滑らかな動きで土下座するのだった。
だが、まだ感情がおさまらないシルバーから返答はない。
なので更に頭を床に擦りつけるように謝罪する。
「わざとじゃないんですーーーごめんなさい」
おや、まだ反応がない。
「わざとじゃないんです!スカートの中を見たのは!」
まだ、許してくれないようだ。
「だとしても、不注意でした!申し訳ありません!」
ここは全身全霊で謝罪する。
「見てどうだったんすか?」
「肌の白さとガーターが合わさり、大変エッーでした! ありがとうございます! 」
ーーーーー ん?
余計なことを口走った気がして、冷や汗をかく。
「悠様」
名を呼ばれ、ゆっくり顔を上げるとシルバーがニッコリと微笑む。
それにつられ笑う、悠。
そこからシルバーは大きく振りかぶると、纏めた教材の束を悠に投げつけた。
「ヘブッ!」
投げつけられた教材は悠の顔面に綺麗に当たる。
そして後ろに倒れる悠を確認すると、シルバーはプリプリした様子で多目的エリアを後にした。
地面に倒れた悠に、状況を理解したゴールドが、
「Etch , lewd , pervert」
と、叫んでいるのが聞こえる。
だが、それに答えてあげることは出来なかった。
顔面に当たった教材の束が跳ね、空中を暫く浮遊すると、倒れた悠の鳩尾へと沈みこんだ。
「ガ、ハッ!」
薄れゆく意識のなか、悠は余計な合いの手を入れたカッパーだけは許さない!と、心に決めるのだった。
「急所じゃなくてよかったっすね」
絶対に許さない!ーーー絶対にだ!




