002-4 そして始まる、誘拐生活
「ほら、いい加減諦めるすっよ」
ほのかに暗い部屋、カッパーが耳元で囁くと広いベッドへと悠の背中を押した。
★
食事も終わり、お風呂をいただいたあとーーー
ゴールドとの共寝を回避するため空室にでも逃げ込もうとしたが、脱衣所前で待っていたカッパーに捕まり、再び手錠をされると金髪幼女の部屋へと連行された。
ゴールドの部屋。
パジャマに着替えたゴールドが、ワイドキングサイズのベッドで横になり、布団を持ち上げながら誘ってくる。
「ほら、悠。ほら、ほら!」
ポンポンとベッドに入るように促されるが、金髪幼女と一緒に寝るなんて悠には出来ない。
ここはーーー米国。
なにか間違いを犯すつもりはないが、もしも “ 何か ” があれば、悠は鉄格子。現状とは別の理由で日本に帰れなくなってしまう。
逃げようにも、カッパーが許してくれない。
「ほら、ほら、ほらっす」
こちらを揶揄うように背中を押してくる。
悠の心境を察しているだろうが、彼女は主人と一緒になって楽しんでいた。
強引に逃げようとも考えるが、自宅で拘束されたことを考えると不可能だしーーこんな手錠をつけていては外にも出られない。
「ほら、はやく〜」
「ほら、はやく〜」
ハモるように言う、二人。
なんとか現状を打開しようと考えるが、良い案なんてでてくる筈もなく、すこしでも時間を稼ごうとするのが精一杯だった。
そしてーーー冒頭のカッパーの台詞。
押し方が上手いのか、悠はバランスを崩してベッドにいるゴールドの横に倒れ込む。
主人にぶつからないように配慮する従者の鏡。
そこから、カッパーは倒れ込んだ悠の身体とベッドの間に手を差し入れたかと思うと、まるで重さを感じていないような動きでひっくり返し、主人の横に添える。
添えられた悠の姿に笑ったゴールドは、頬にキスをして布団を掛けると、腕に抱きつき、寝る体勢をとった。
「それでは、おやすみなさいっす」
2人の体勢が整ったのを確認すると、カッパーは部屋を出ていこうとする。
「あ、エッチなことしちゃ駄目っすよ!」
「しないよ〜」
悠の声色に笑うカッパーは「 lights out 」と言って間接照明以外の電気を消し、部屋を出ていった。
薄暗くなった部屋。
ゴールドが抱きしめる力を少し強めながら呼ぶ。
「ねぇ、悠」
「なに?」
「むふふ」
「なに?」
「いや、本当に悠がいるんだな〜。って」
彼女は、嬉しそうに、嬉しそうに口にする。
「君達が連れてきたんじゃないか」
「そうなんだけどね……ふふふ」
こんなに嬉しそうだと、怒るに怒れない。
けれど、訊かなくてはいけないことがあった。
「ねぇ、ゴールド」
「ん〜」
「君は、なぜ俺を誘拐したの?」
その言葉に流れる沈黙……というか反応がない。
「ゴールド?」
気になり視線を向けると、そこにはスヤスヤと寝息をたてているゴールドの姿があった。
はしゃぎ疲れたのだろうか?
眠る少女は温もりを求めるように、腕を抱きしめる力を更に強め、身体を密着させてくる。
その際に “ フニッ ” という感触が腕を襲う。
(俺は抱き枕、俺は抱き枕、俺は抱き枕ーー)
カッパー程の大きさではないが、小さいながらに主張してくる存在に、悠は平静を装うために呪文のように自分へと言い聞かせた。
「ンンッ」
彼女が身じろぎしたせいで再び感触が襲い、なかなか心の平穏が訪れてくれない。
ーーーーもしかして、こんな生活が続くのか?
と思うと、悠は我慢出来る自信を失いそうになる。
(あぁ、本当にどうにかしなくては……)
彼女の体温を感じつつ、悠は瞳を閉じた。




