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満月の夜3  作者: 桐生初
8/31

8

早速手分けをし、太宰と霞。甘粕と夏目で組んで、先ずは殺人事件の被害者から洗い出し始めた。


被害者は全員がそこそこの金持ちや出世している人間だった。

小さいながらも会社の経営者であったり、役員クラスであったり。


聞き込みに行ったが、被疑者の自殺という結末で、被害者遺族は、悲しみ、悔しい気持ちを抱えているままかと思ったが、何故か一様に、皆淡々としていた。

引っ越しをして新しい生活を始めている人や、中には海外に移住しているケースもあった。


そして一様に、当時の調書以上の事は、頑なに全く話さない。

愛という女の事は、口を揃えて知らないと言うし、それとなく他の被害者と家族の名前を挙げてみるが、全く知らないと言い、調べられる限りでは、被害者全員が何故か同い年という事以外に、接点も出てこなかった。


「なんか、清々してるって気がすんのは気のせいでしょうかね。」


車に乗り込んだ夏目が煙草をくわえながら甘粕に言うと、もう既に吸っていた甘粕も唸った。


「お前もそう思ったか…。やっぱ、ガイシャの奥さんが依頼者って事かなあ…。」


「旦那殺してくれって、愛って女に頼んで、愛は無関係の男を手玉に取って、殺させたって事ですよね…。立証すんのが、相当難しそうですが。」


「その通り。尻尾を掴んだとしても、立証すんのがな…。もうちょいガイシャの身辺を洗おう。ついでに、原田に頼んで、ガイシャの奥さん達の金の流れも調べといて貰おう。」


「はい。」




夜には、凡その調べがつき、4人とも戻って来て、いつも通りの報告会だ。


「つまり、全員、蓋を開けて見たら、金はあってもロクでもねえ亭主って事だな。」


遺族に話を聞くだけでなく、職場関係者や、よく出入りしていた飲み屋からの聞き込みで、殺害された被害者全員が、何らかの形で妻に疎んじられても当たり前の状態だった。

飲み屋の女に入れあげる、非合法カジノへの出入り、病的な度重なる浮気など、いずれも家庭を顧みず、子どもの事は妻に任せっきりで、好き放題という類いの男性ばかりだった。

仙崎が担当している小林が殺した被害者のシーマ工業社長も、一見真面目かと思いきや、キャバクラの若い女の子に貢ぎまくっていた様だ。


「奥さんが殺人依頼をしても、おかしくはねえと…。さて、問題はその依頼方法だな。ガイシャの奥方達同士の接点はどうなんだ、甘粕。」


「俺たちが調べられる範囲ではありませんでした。今、原田が調べてくれてます。」


「おう。そっか。」


と言うなり、地響きを立てて、原田がヒョウ柄のTシャツで登場した。


「先ずお金だけどお。旦那が死んだ後、みんな保険金が下りてるのよね。

で、保険金が下りた直後、80万から100万引き出してる。

でもさ、葬儀関係で物入りでとかって言い訳は通じちゃう額じゃない?

現金だし、全部どうやって使ったかなんて、誰だって証明すんの無理じゃないかな。」


「だなあ。そんで、ガイシャの嫁さん達の繋がりは?」


「表面上は全くなし。

住所も、子どもの学校もマチマチだし、子どもの年齢もバラバラ。

ツイッターとかのSNSでの繋がりも見受けられませーん。

つーか、年齢がみんな40後半だからか、そういうの苦手な年代なのかなって感じ。」


「分かった。原田、ありがとさん。」


「妻達の携帯の履歴とか洗わなくていいの?課長。」


「それは今やっちまったら、こっちがやばい立場になっちまうよ。

それに、令状なしじゃ、証拠としても使えねえしな。

そっちは未だ待ってくれ。」


「りょーかい。まあ、もうちょっと探ってみるよ。まだインスタとかは探り入れてないからさ。」


「インスタとはなんじゃ。」


太宰の呟きに、その場に居た全員が非難がましい様な驚きの表情で太宰を見た。


「なんつー目をすんだ、お前らはっ!」


「課長、インスタ知らないの!?インスタグラムだよ!

写真投稿SNS!

こっちは老若男女有名人からど素人まで世界中で流行ってやってんの!」


「はあ…。だって俺、写真撮らねえもん…。カミさんの方が上手いくらいで、子どもの写真もロクなの撮れた試しがない…。」


かなりしょげかえってしまっている太宰に、夏目の抑揚の無い辛辣なダミ声がカウンターパンチを食らわす。


「そうだったんですか。残念なお父さんですね。」


「ふん!そういう夏目は!やってんのか!」


「いいえ。俺はやってませんが、美雨が自分で作った料理や弁当を載せてます。」


「霞ちゃんは?」


「私は見るだけですけど、アカウントは持ってます。」


「へえ…。甘粕は?」


すると、甘粕はどういうわけだか、バッと目を逸らして、上着を取った。


「俺、被疑者の職場行って来ます!夜しか開いてない職場の奴の所!」


そしてもう出て行ってしまったので、夏目が慌てて追いかけて行った。


「なんなの、あの反応は…。」


すると、原田と霞が訳知り顔でニヤニヤと笑い、2人で携帯を取り出して、太宰に見せた。


素晴らしく出来のいい、プロ並みの美しい空の写真が出ている。


「ん?」


「甘粕さんの写真です。インスタで出してて…。ほら、フォロワー数見て下さい、課長。」


「987!?すげえ!」


「でしょう?」


「こんな趣味があったのか、あいつは…。車だけかと思ったら…。」


「まあ、車の写真は多いんですけど、車写ってても、ほら、こんな感じで、お洒落です。」


「はあ…。才能あったのねえ…。」


「課長、ダーリンはライバルにしか教えて無かったんだよ。あたしはライバルから聞いて、わざわざ探したんだからね。」


「なんでだ。恥ずかしいのか?」


「そうらしいよ。フォローしといたわよって言ったら、真っ赤になってどっか行っちゃった。」


「上手いくせにおかしな奴…。ところで、このインスタっつーのは、匿名性高いのか?甘粕の名前も、2508って番号だけだが。」


「そうだね。基本、誰が誰だか分からない様にはできる。

アカウント取る方法も、フェイスブックアカから取る方法、個人のアドレスから、電話番号からと大まかに分けて三種類くらいあるし、その基本情報は公開されない。

かなりのスキルと労力が無ければ無理だね。フェイスブックアカから取る場合だったら、フェイスブックの方のセキュリティーが甘ければ、簡単に辿れるかもだけど、それ以外からだと、ちょっと厳しいわね。」


「このインスタから連絡は取れねえのか?」


「個人的には取れるよ。

ダイレクトメッセージってのがあるから、直にやり取りは出来るよ。」


霞が太宰のカンに気が付いて聞いた。


「ー課長、もしかして…?」


「うん…。連絡手段はインスタじゃねえのかなって気がちょっとしたのよ…。

さっき、原田が老若男女って言ってたし、美雨ちゃんが料理とかって言ってたろ?主婦層取り込みやすい世界なのかななんてさ。

まあ、『殺人依頼承ります』とは書かねえだろうけども。」


「なるほど…。確かにインスタなら、世界中、日本中のありとあらゆる人と繋がれます…。でも、逆に顔が見えないリスクもあるけど…。」


霞は同意しつつも、不安そうにホワイトボードを見つめた。

被害者の妻が、なんらかの形で見つけた愛という女性のインスタで繋がり、夫の殺人依頼をする。

依頼された愛という女は、殺人の実行犯を見つけ、手玉に取り、殺人を犯させて、報酬を得る。

妻達は報酬を支払い、何食わぬ顔で暮らしているのだとしたら…。

愛という女も恐ろしいが、霞には、夫を無関係の人間に殺させ、その人間が自殺をしても、平然と暮らしている妻達の方が恐ろしい様な気もした。




「佐藤ねえ…。あんなことするとは思わなかったけどさあ。」


夕暮れの食品工場の裏手で、愛という女が関わって居ると思われる事件の、3番目の被疑者の元同僚は、タバコをふかしながらそう言った。


「ただ、事件起こす前はすんげえ幸せそうだったんだよな。毎日休憩っていうと、直ぐ携帯チェックしてさ。女でも出来たのって聞いたら、うんとは言ってたよ。」


「どこで知り合ったとか、どんな女だとか、名前とかは仰っていませんでしたか。」


「仰ってませんでしたねえ。聞いてもニヤニヤするばっかでさ。紹介してくれって冗談で言ったら、ダメだ!会ったらお前まで彼女の事好きになるとか、訳のわかんねえ事を…。あんな嫉妬深いタイプだったのかなあ…。まあ、それだけいい女だったのかもしれねえけどさ。」


「そうですか…。」


「ただまあ、凄え可愛いんだとは言ってたね。年はちょっと下としか教えてくれなかったけど、俺らのちょっと下って、30前半て事っしょ?それですんげえ可愛いって何?童顔て事?って聞いたら、まあそういう感じだけど、それだけじゃねえとか、なんかよく分かんなかったなあ。とにかくさ、今まで会ったこともねえタイプで、もう奥さんなんか、比べたらゴミなんだと。」


「すごい入れ込み様ですね。」


「ほんとだよ。謎。まあ、前から奥さんとは上手くいって無かった様だけどさ。けど、だからって、飲み屋の姉ちゃんと付き合うとか、パチンコやるとかってタイプでも無かったし、真面目な方だったんだけどねえ。だから、どこで知り合ったんだかも不明。でも、俺たち、夜勤だからさ。昼間はフリーじゃん?ずっと寝てる訳でもねえしさ。主婦と付き合うには、都合いいっちゃあいいのよ。」


「相手の女性は主婦?」


「いや、分かんねえ。俺の想像。30前半で、昼間会えるって、主婦かなと思っただけ。」


「なるほど。じゃあ、当然、女の写真なんかもご覧になった事は無いんですね。」


「無いねー。でも、夢中になってる女がいた事は確か。」




夜勤をしていた4番目の事件の被疑者1名の元同僚も、大体同じ様な答えだった。

翌日、日中出勤していた、長沢を含めた被疑者2名の元同僚達も、一様にそう言った。


「しかし、ここまで存在消せるもんなんですかね。」


車に戻ると、夏目が不思議そうに言った。


「そうだなあ…。逆に携帯だけで連絡とってたら、携帯壊せばそれでおしまいだからかもな。普通の人はあんまりクラウドに保存かけたりもしねえんだろうしな。してたとしても、ロックかけてたら、本人以外は法的な手続きをいくつも踏まないと見られないし。」


「そうですね。ある意味なんでも携帯で済む世の中だからか。」


「んな感じだね。愛は30前半。昼間自由になる身。男は一様に、尋常でなく夢中になっていた…。収穫はこんだけかー。」


「甘粕さん。」


「ん?」


「心理操作で、殺しまでやらせるのは、霞さんも出来ると仰っていましたし、昨夜美雨から聞いて、可能な事は分かりました。

でも、なんていうんだろ。そこまで夢中にさせて、意のままに操るってのは、ちょっと信じ難い気がします。余程の美人だったとか、そういう事ですか?」


「俺もちょっとよく分からないんだよ、そこが…。」


「例えば、甘粕さんが霞さんに泣きつかれて、『酷い事をする男が居る、殺して欲しい』って頼まれて、ホイホイ殺します?。」


甘粕は目を見開き、真っ赤になって夏目を怒鳴りつけた。

その有様、イケメン台無しの、ただの燃えるヤカン。


「殺すかあああ!!!。つーか、何で俺だあ!お前だろ、それはああああ!」


「俺は美雨が、んな事言い出したら、細部に渡って聞き取りし、しっかり調査してから殺します。」


「ーお前はほんとに動じねえな…。でも、そこだよな…。なんで調べもしないで鵜呑み?。」


「惚れてるにしても、自分の手え汚すわけですからね。そこが俺としては不思議です。」


「俺もだ…。」


「いや、だから甘粕さんに聞いてんですよ。」


「だからなんで俺なんだよ!」


再びイケメン台無し。

今度は燃えるヤカンにプラスして、目の焦点が合っていない。


「だって、俺は結婚してて、つまり両想いですが、甘粕さん、片思いじゃないですか。」


その瞬間、甘粕から、本当にガーンという効果音が聞こえた気がした夏目は、流石にマズイと思ったが、もう遅かった。

そのまま一気に青ざめ出した顔の甘粕はうなだれてしまい、蚊の鳴くような小さな声で言った。


「人殺してまで好かれようとは思わないけど…。人に寄っては、そこまで思い詰めてしまうかもしれない…。」


「あ、甘粕さん…。す、すいません…。あ、あの…。」


夏目でも焦ってしまうような落ち込み方のまま、甘粕は力なく言った。


「課長達の方どうなってるかな…。これから逢坂に会う約束してて…。五課には戻れねえから、電話して聞いてみよ…。」


肩を落とし、聞いたことも無い力の無い声で電話する甘粕の背中に、心の中で土下座して謝る夏目だった。




太宰と霞は、被疑者達の家族に聞き込みをした一日だった。

被疑者は全部で4名。

事件そのものはこの2年半の間に発生し、仙崎が担当している小林以外、全員が自殺している。



現在、佐藤の妻を訪ねている。


「死んでくれて助かってるんです。そっとしておいて貰えませんか。」


大体がこの反応であったが、そこは人柄、人誑しとも呼ばれている太宰である。

なんとか説得し、家の中に入れて貰い、全員の妻から話を聞けた。


「うちは夜勤がメインですから、昼間は寝てる生活だったんですよ。物音も立てられないから、家に居ても何も出来ないので、私も子どもを保育園に預けて、働いてたんですけどね…。

事件を起こす3カ月くらい前から、夜勤明けでも家に居ない日がある様になったんですよ。

これは浮気だなと思いました。」


「酷いね。奥さん働いて、1人でお子さん育ててるようなもんなのにね。」


太宰の優しい相槌に、妻は勢いづく。


「でしょう!?。もう頭に来て、浮気の証拠探したんですよ!。」


「そりゃそうだ。んで、見つかった?。」


「それがね、変なラインの友達が居たんです。男のフルネームで、『片桐愛之助』って。歌舞伎役者みたいな。」


「内容は見れたの?」


「変なのはそこなの、刑事さん。履歴がいつ見ても消去されてるっていうか、無いの。かえって変でしょう?」


「そうだね。変だね。名前もなんだか作り物だしね。」


「そうなんですよお!。」


愛という女と一字被っている。

もし、愛という女だとして、偽名が愛之助。

捻りも何も無いが、分かり易いといえばそうかもしれない。


しかし、ほかの家族に話を聞く事で、このふざけた偽名は愛という女に近づいて行く。


会沢の妻も、同様に浮気を疑い、携帯を調べた所、やり取りの履歴が常に消去されている片桐愛之助という友達の存在を掴んでいた。

仙崎の依頼人の小林の妻も、愛という女だと言っていたという事は、やり取りの内容を唯一目撃している人物なのかもしれない。

2人はその足で、小林の妻に逢いに行く事にした。


「課長、1番最初の被疑者の長沢の奥さんには、話を聞かないんですか?。」


車に乗り込み、リストを見ながら霞が聞くと、太宰はエンジンをかけながら、苦い顔になった。


「俺もいの一番に聞きたかったんだけどさ。1番最初だから、愛の方で抜け落ちもありそうだし。しかし。」


「はい。」


「長沢の奥さん、行方不明。」


「ーえっ!?。それは一体…。」


「1番逃げられたくなかったんでね。芥川に先に張り込みに行って貰ったんだ。そしたら、無人でさ。

近所の人が、ハワイに行くって子どもをお婆ちゃんに預けて出て行ったきり、戻って来ないんだって教えてくれたんだってさ…。」


「ー嫌な予感がするんですね、課長…。」


「うん。なんかね…。刑事の勘だと、愛って女に消されてんじゃねえかと…。だから、そのお婆ちゃんにも話聞きに行くよ。」


「はい…。」




小林の妻は、今までで、1番感じが良かった。

仙崎が伝えてくれていたらしく、旦那の罪が軽くなるなら協力したいと言ってくれた。


「でも、それは子どもの為ですから。

私はあんな男、もうどうでもいいです。」


「嫌がらせとか酷いですか。」


太宰が聞くと、コクっと頷き、泣き出した。


「勝手に浮気して、勝手に殺人犯になられただけなのに、どうして私がこんな目に…!」


それは納得行かないに決まっている。

太宰は優しく声をかけながら、相槌を打ち続け、徐々に妻を安心させ、妻も癒されているかのように打ち解けて行っている。

霞は心の中で、太宰のこの技術に感心していた。


「文面ですよね。忘れもしないです。

うちの馬鹿亭主が『もう会いたい。』『次いつ会える?』って送って、相手の女が『私も。早く会いたい。また来週かな。明日からまた教室がビッシリ入ってるの。昨夜も本当に楽しかったわ。読んだら消去忘れないでね。奥さんを苦しめちゃダメよ。』って。で、そこに馬鹿亭主が『嫁なんて』って書いた所でもぎ取って見たんです。く…悔しい…。」


思い出してまた泣き出す妻を、全力で慰める太宰。


「友達としての名前までは確認出来なかったんです。何せ、奪い合いの中で見ましたから…。でも、歌舞伎役者みたいな名前でした。片なんとか…で、愛が入ってて…。」


片桐愛之助と繋がった。


「で、その後、スマホを私からもぎ取って出て行って、帰って来なくて…。夜勤の仕事入ってない日なのに、なんなのと思って、ずっと電話掛けてたんですけど、繋がらなくて…。

翌日の昼過ぎに警察から電話が来て、人を殺したって…。」




最後にまた慰めてから車に乗り込んだ太宰は、霞と目を合わせ、2人は頷いた。


「何かの教室をやってるんですね。愛は。」


「だね。それが何か…だな。よし、じゃあ、長沢の奥さんの婆ちゃんのところだ。」




「つまり、ハワイで行方不明という事ですか。」


「そうなんですよ。ハワイから孫宛ての絵葉書が来て、そのまんま、帰って来ないんですよ…。」


お婆ちゃんとは、要するに、妻の義母で、被疑者の実母だった。


「なんかね。ハワイ旅行が当たったんですって。」


「何で当たったんですかね。」


「さあ…。私もよく…。何せ、彩子さん、隆と離婚したがっていましたし、隆がとんだ迷惑掛けてしまいましたからね…。うるさいと思われる様な事は聞かず、気持ち良く息抜きさせてあげたかったんですよ…。

もしかしたら、行方不明じゃなくて、蒸発なのかなとも思ってしまいましてね…。

だったら、このままにしておいてあげたほうがいいのかなとか思ったりして…。

孫は可哀想なんですけれども…。」


この婦人の孫は被疑者とその妻の息子である。

無邪気にリビングでゲームをして遊んでいるのを、老婦人が見た。


「その辺りの詳しい事情をご存知の方はいらっしゃいませんか?」


「さあ…。」


「習い事をしてらしたとか、聞いた事はありませんでしたか。」


「いいえ、何も・・・。」


「大変失礼なんですが、息子さんが浮気しているとか疑ったりはされていませんでしたか。」


「私にはそういう話はしない人でしたから・・・。でも、変な女に誑かされて、あんなことをしたんだと思うと、彩子さんには本当に申し訳なくて・・・。」


「お嫁さんの仲の良いお友達もご存じありませんか。」


「すみません・・・。同居してればまだ分かったのかもしれませんが、別居してますので・・・。」


義理の母には、通常あまり突っ込んだ話はしないだろう。

長澤彩子の両親や兄弟は既に他界しており、その線も無い。

太宰が唸ってしまった所で、電話が鳴った。


「お前、ほんとに甘粕?なんかあったのかいな。……。そう?大丈夫なの?こっちはねえ…。」


現状報告をし合い、電話を切るが、太宰は首を捻っている。


「課長?甘粕さん、どうかされました?」


「いやあ…。今まで聞いた事無い元気の無い声だったんだけど、特に何があった訳でないらしく…。どしたのかなと思ってねえ…。」


まさか夏目に傷つきやすい恋心を一刀両断にされているとは思いもよらなかった。


























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