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満月の夜3  作者: 桐生初
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太宰と甘粕は、混乱している被害者の所属中学の校長室に居た。


事件発生は、一昨日の夜。

発覚したのは、昨日の夕方だから、今日は在校生を落ち着かせる為に、先生方も相当苦労している様だ。


目の前には校長、副校長の他、2年前の被害者と今回の被害者の担任の教員をそれぞれ呼んで貰っている。


「被害男子生徒・・・多田君と、渡辺君にトラブル等はありませんでしたか。」


一応、2年前の時に所轄も調べてくれており、無いという事だったが、念の為の質問だ。


2年前の被害者、多田敬の担任が答える。


「ありませんでした…。成績も中の上でしたし、他の生徒とトラブルになる様な事は…。」


「では渡辺君は?。」


「無いですね…。渡辺は成績も良かったですし、所謂優等生でしたから…。とはいえ、まあ、うちの学校ではって感じですけど…。」


太宰達も一応下調べはして来ている。


この学校は、全体的に学力が低く、一番良い子でも、都内で中位程度の高校にしか進学出来て居ない。


つまり、校内で1番の成績だとしても、偏差値に換算すると、精々60程度という感じだ。


「どんな生徒さんで、どういうお子さんと付き合っていたかなど、詳しい事をお聞かせ願えますか。

出来れば、お2人とも共通の事なんかお分かりでしたら…。」


太宰が優しく尋ね続けている内に、教師達も少しずつ落ち着いて来た様子で、思い出しながら話し始めた。


2人の話を総合すると、学年が違うので、仲の良い子は被っては居ないが、2人共サッカー部に所属していたそうだ。

同じ小学校の出身というのは、殆どの子がそうで、2人も同じであり、小学校のサッカー部にも入っていたらしい。


ただ、サッカー部内で仲が良い者というのは、担任は把握していないという事だったので、サッカー部の顧問を呼んで貰った。


「ええっと…。多田は2年前に1年だから…。つまり、渡辺の一年上の先輩ですよね…。生きてたら、今3年なんだな…。」


顧問は辛そうに額を抑えながら、呟く様に言った。


「そうなりますね…。」


「ー実は、サッカー部はプライベートでも仲が良いんです。まあ、公立の弱小校ですから、お母様方にもお手伝い頂いたりも多くて…。

その関係で、みんなでお宅にお邪魔して、夕飯頂いたりとかもあった様です。」


「そういうご招待やお世話を特に多くされていたのが、多田君と渡辺君のお宅だったりしますか?。」


「ええ…。正しくそうです…。他のお母さん方は、結構お忙しい様で、お手伝いして下さるのも、お二人がメインという感じで…。

みんな食べ盛りですから、試合の後、『みんなでいらっしゃい』と言って下さって、子ども達を夕飯に招いて下さった事も何回かあった様です。」


太宰が甘粕に質問を任せた。

甘粕なりのプロファイリングをぶつけてみろと、さっき言われていたので、それをぶつけてみる。


「では、そのサッカー部の中で、こんな感じの子は居ませんでしたか。

背は168センチ程。

家庭環境があまり恵まれて居らず、お母さんが不在、又は養育できていない様な状態。

カッとなると、見境がつかず、止まらなくなる様な…。」


「ーええっと…。すみません…。この学区、結構そういう子多いんです…。ネグレクトとか、虐待とか、片親とか…。

サッカー部だけでも、きちんと両親が揃っていて、お母さんもまともないいお母さんというと、多田と渡辺と、後2人位で…。」


「キレやすいも殆どの子ですか。」


「そうですね…。学校全体で見ても、キレにくい子の方が多い位で…。」


「ナイフを隠し持ってる子とかは…。」


「学年に5人はいますね…。取り上げても取り上げても、持って来るので、職員室の金庫はナイフだらけです…。」


凄まじい学校というのも判明してしまったが、これでは犯人が絞れない。


太宰が小声で甘粕の耳に囁く様に言う。


「お前ん中じゃ、もっと詳らかに分かってんだろ?。言ってみな。間違ってたっていいんだから。」


「ーはい。」


甘粕は少し微笑んで返事をすると、デカの目をして顧問への質問を続けた。


「では、彼らに関わりのある子…。もしかしたら、卒業生かもしれません。

具体的に挙げれば、母親が子どもに対して無関心で、例えば、持っていない筈の服を着ていても気付かない、食事も用意しない等です。

普通なら与えられる筈の愛情も不足している。

小さな頃のスキンシップも著しく少なかったかと思われます。

経済的にも厳しいかもしれません。

その中で、特に、性的に逸脱している様な節がある子は居ませんでしたか。

例えば、自分の母親位の年代の女性に猥褻な行為をしようとしたり、実際にしたり。

或いは、逸脱した甘え方をしたりとか。」


その瞬間、顧問がハッと息を飲む様になり、口元を押さえた。


「い…居ました…。当時の保健室の先生が45〜6だったんですが、彼女に抱きついて、胸を揉んだと、教員の間でちょっとした騒ぎに…。」


太宰が静かに聞く。


「その生徒は。」


「一昨年卒業しました…。今、高2の筈です…。」


「その子もナイフを所持したりしていましたか。」


「はい…。考えてみたら、その中でも、ちょっと違って居たかもしれないな…。

大抵、カッターみたいな安物の飛び出しナイフだったのに、アメリカ映画で兵士が持っている様な、アーミーナイフだったんですよね…。

成績は良くなかったんですが、背が高めだったのもあり、運動神経は良くて、サッカーが得意だったって感じでした。身体も鍛えて居ましたね。中学生にしては、結構力も強かったです。」


それならば、斧も振り下ろせるだろうし、抜く事も可能かもしれない。


「家庭環境はどうだったんでしょう。」


「良くなかった様です…。お父さんの仕事は知りませんが、あまり裕福では無かった様で、サッカーのユニフォームも成長に合わせて買い替えるというのも難しいとの事だったので、私が卒業生から譲り受けてやりました。

お母さんは妹ばっかりだと言っていましたし、試合には大抵の親御さんが来るのに、一度も来なくて、私もお会いした事も無かったです…。

って、まさか、安部が!?。」


例によって、太宰は柔和な笑顔で否定する。


「いえいえ。そういう訳ではありません。

参考までにお聞きしているだけです。

その安部君について、もう少し詳しくお聞かせ願えませんか。」


「いや、私は所詮、部活の顧問なので、その程度しか…。

どうしよう…。担任だった先生も、保健室の先生も、移動になってしまって、いらっしゃらないんですよね…。」


他の教科担任の先生でもいいと思ったのだが、この2年で、校長と副校長以外の教員が全て入れ替わってしまったそうで、ここで聞ける事は無い様だ。


サッカー部顧問に、安部朋樹の写真を携帯で撮らせて貰い、捜査関係者に回す。


太宰はその卒業生の安部朋樹の住所と、元担任と猥褻被害に遭った保健の先生の連絡先を聞き、学校を出た。


「霞ちゃんに袖にされて、プロファイラーとしての自信まで失っちまったのう?。」


太宰が悲しそうな目で聞くと、甘粕は苦笑しながら頭を下げた。


「すみません。仕事に支障を来しました。」


「そうでなくて。ただ、お前はもっと自信持って大丈夫って言いたいの、俺は。」


「有難うございます…。ていうか、課長、なんか霞さんをゾンザイに扱ってません…?。」


「ええ!?。別にゾンザイに扱ってるつもりは無いぜ?。そう見える!?。」


「うん。なんか…。」


「いや、なんか気のせいかもしれんけども…。」


「はい。」


「霞ちゃん、なんか気もそぞろで、フワーッとプロファイリングしちゃってる感じがしたの。今回。」


「ーまあ、実は俺もそれ、今回は感じましたが…。」


「ーどうしたんだろうなあ。甘粕に距離取ったり…。情緒不安定かしらん?。」


「ー難しいですねえ。女性は…。」


「そうねえ…。じゃ、このまま安部朋樹の自宅行ってみよう。」


ところが、二階建てのボロボロのアパートの一階部分にある自宅には、誰も居ない。


高校はもう春休みで、自宅に居ないとなると、安部朋樹がどこに居るかはおいそれとは分からない。


丁度隣人の老婦人が出て来たので、話を聞いてみる。


「安部さんの所は昼間は誰も居ないよ?。」


「4人暮らしですよね?。」


太宰が聞くと、老婦人は首を横に振った。


「2年前に、お母さんが男作ってさあ。妹だけ連れて出て行っちまったのよ〜。

朋樹君て、悪ガキだったけど、泣いて『俺も連れてって』って言うの振り払って。」


もし、甘粕の読み通り、安部朋樹が犯人だとしたら、母に捨てられた事が犯行のトリガーになった可能性が高い。


「でも、あんなお母ちゃんに着いて行ったところでねえ、あんた。」


「どんなお母さんだったんですか。」


「旦那が出掛けると直ぐ男連れ込んで、昼間っから…。いやらしいったらありゃしないよ。ここの壁薄いから参っちゃったよ、ほんと。」


「妹さんが居た様ですが…。」


「保育園。でも、息子は結構学校サボったり、行ったと思ったら帰って来ちゃったりしてるから、現場見てたんじゃないの?。

だから、あの子もおかしかったよね。」


「悪ガキと仰っていましたが、具体的にはどういう風に悪くて、おかしかったとお思いに?。」


太宰が優しい感じがするせいもあり、老婦人の舌の滑りは良い。


「そこら辺のコンビニで万引きとかさ。野良猫虐めたりさあ。」


「虐めるとは?。」


「足ちょん切ったり、尻尾ちょん切ったりだよ。」


「切った所を目撃された?。」


「いや。その瞬間は見てないけど、ナイフ持って、猫が血を流してんのを、嬉しそうに気持ち悪い顔で笑って見てんだもの。あの子がやったに決まってるよ。」


老婦人は朋樹に対しても良い感情は持っていない様なので、全てを鵜呑みにする訳には行かないが、残念ながらプロファイリングにはマッチしている。


血が流れるのを見る事は、ホシの性的な興奮を高めているのは自明の理だ。


「それにねえ、痴漢なんだよ。」


「痴漢ですか。」


「そうそう。ここの一階にさ、独身の47歳の女の人が住んでたんだけどね。」


「ええ。」


「夜帰って来たら、待ち伏せしてて、後ろから胸揉んで来たんだってよ!。叫んだら逃げて行って、顔は見えなかったけど、絶対安部さんちの息子だって言ってたわよ!。」


「警察に被害届けは?。」


「出したけど、怖いって言って、引っ越しちまったよ。」


被害届は、後で原田に確認してもらう事にして、太宰は夏目に電話を掛けた。


「そっちはどうだい。」


「この2年間、週に一度の割合で、太田南中の学区内のゴミ置き場から猫の死体が回収されていました。

収集後に気付いているパターンばかりで、証拠は一切無いんですが、所轄警察署には届けられており、全部同じ箇所を斧で切り落とされ、血液は殆ど失くなっていたそうです。」


「収穫だな、夏目〜。」


「いえ。ご指示通りに調べただけですから。それと、原田さんの調べでは、他の都道府県で同一の事件は無いとの事で、それなら2年前の惨殺事件で得た戦利品と、猫の血液で耐え忍んだんじゃないかと霞さんが仰り、2年前の検死報告書を柊木先生に調べて頂いています。」


太宰もこちらでの成果を報告し、電話を切るなり、甘粕を見て、ニヤリと笑った。


「じゃ、原田にお願い。」


「ーま…またですか…。」


「おう。」


甘粕は今日も偽りの愛を叫びながら、安部朋樹に関する事と、この付近一帯の中年女性に対する猥褻行為の被害届を調査してくれる様頼んだ。


その間に、太宰は安部朋樹の自宅前の張り込みを所轄に頼み、元担任と保健教諭にアポを取っている。


「よし、アポ取れた。担任から行ってみよう。」












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