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言い淀む夏目というのが珍しいのもあって、3人は固唾を飲んで夏目の話を聞いていた。
「ー妙な拘りがある気がしたんです。その拘りが幼稚というか、アンバランスというか…。」
甘粕が助ける様に言う。
「俺が思ったのと同じかな。カレーの家を狙う。」
「そうです。カレーって、近所で作ってると、直ぐ分かるじゃないですか。
あれでガイシャを決めてんじゃないかと、ふと思ってしまい…。」
「確かに、どこかの家でカレーを作っている匂いがすると、猛烈に食べたくなって、真似しちゃったりしますよね。成る程。それから?。」
霞にも促され、夏目は仕方なさそうに続ける。
「後は単純な事です。
カレー食ってアイスとスナック菓子まで食ってと、思春期ならではみたいな旺盛な食欲。
他の家族は邪魔だから殺したという感じなのに、母親だけ執拗にいたぶって殺害している…。
端的に言ってしまえば、酷えマザコン野郎だなと…。
熟女趣味、マザコン男は成人男性にも居るでしょうが、なんていうのかな…。
そういう完成されたマザコンじゃない感じがするんですよね…。上手く言えないんですが。
それと、殺し方が大人にしちゃあ、非効率的です。
血を見たいという欲求があるにしても、母親以外の家族が邪魔なら、もう少しリスクの少ない殺し方をするんじゃないかと…。
斧なんてあんな重い物、振り上げてから降ろすまでそれなりの時間が掛かります。
その間に反撃される可能性を全く考えていない。
ただの趣味にしか思えない。
で、趣味と考えると、丸でアニメかゲームの世界の様な凶器だなと思ったもんですから…。」
夏目初のプロファイリングに、思わず3人で拍手してしまう。
「夏目!。俺もそう思ってたんだ!。で、課長は!?。」
太宰は苦笑した。
「俺のは、ただのデカのカンだな。現場入った時の、あのチグハグな感じと、同じ学区内で起きてる事、家の中の間取りを把握してそうな動き方から、長男の同級生かと思っちまったって、ごめんね、霞ちゃん。専門家に3人で楯突いちまって…。」
「いいんですよ、そんな!。私にあるのは知識だけで、刑事のカンはありませんから!。
そっかあ…。確かにね…。私、そういう所見落としてしまってました…。
ていうか、甘粕さん、言ってくれればいいのに、どうして気を遣っちゃうの〜!?。」
霞に責められるが、甘粕は困った顔で笑うだけだ。
太宰は最近、これがどうも引っ掛かっている。
甘粕は、霞に遠慮して意見を言わない事が、あまりに多い。
「じゃ、捜査方針。」
甘粕を横目で見ながら、太宰が言った。
「近所の聞き込みは、あまり期待出来そうにないが、引き続き所轄にお願いするとして、俺達は、ガイシャの中学に聞き込みに行ってみようか。いいかな?。霞ちゃん。」
「ええ。勿論です。」
「じゃ、俺と甘粕で行く。霞ちゃんと夏目は、近所で別の聞き込みをして欲しい。」
「動物の虐待が無いかどうかですね?。」
霞がニヤリと笑って聞くので、笑顔で頷き、次は原田に指示を出す。
「この2年の間、他の都道府県で、同じ様な事件が起きてないか、一応、探ってみといてくれい。」
「りょ〜かい。」
犯人が2年間、犯行を我慢していたのか、出来なかったのか、はたまた遠く離れた地域でやっていたのかどうか分からないので、一応潰しておきたいのだ。
甘粕を促して車に向かいながら口を尖らせて早速言う太宰。
「なんで霞ちゃんにあんな気い遣っちまうのよ〜。」
「ー学者さんだから、俺より正しいのではないかと…。」
「あのね、甘粕。」
「はい。」
「学者さんの知識だけで捜査すんなら、ここに霞ちゃんを招いたりしねえのよ?。わざわざ警察官の訓練受けさせて、警察官試験まで受けてもらって。」
「ーはい…。」
「知識だけで捜査すんなら、研究室にこっちが出向けばいいだけだろ。警察でやるっつーのは、刑事の目が必要って事なの。」
「まあ、そうですよね…。すみません…。」
「それとも、それ以外でもなんかあんのかい?。最近どうなっとるの。プライベートは。」
「ーもう…。送り迎えしてくれなくていいと言われました…。」
丁度車に着いたところだったが、太宰は思わず立ち止まって、甘粕の顔を見てしまった。
寂し気な微笑を浮かべている。
「それは…。」
「ーうん…。なんか距離取られてます…。デートに誘ってもやんわり断られましたし…。名前で呼んでくれなくなって、また名字に戻っちゃったし・・・。」
「ーなんで…。」
「分かりません…。俺が押せないからでしょうか…。」
取り敢えず行きましょうと甘粕に促され、車に乗ったはいいが、太宰は唸り続けてしまっている。
その内、甘粕が笑い出した。
「課長、そんないいんですよ。それより事件でしょ?。」
「だってさあ〜。辛いじゃないかよ、甘粕う。」
「まあ、はっきり振られた訳じゃありませんし、事件が片付いたら、またご機嫌取ってみます。」
「うん…。」
気になってしょうがないが、目下は事件が優先だ。
何が原因かは分からないが、2年間犯行を我慢していたとしたら、次の間隔は狭まるかもしれない。
それを見越して、4人は今度こそ犯人を1日も早く挙げねばならないのだ。