表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/65

第六話 老体の狼狽

萌キャラがようやく出たと思っただろ?

あれは嘘だ。

 本当に疲れているときは夢を見ないというが、それは本当らしい。

 昨晩、傷ついた魔物の少女を連れ込み……字面が良くないな。救い出し、ギュエロに頼み込み、彼の光魔法で回復をしてもらった。

 俺にできたことはそのサポートぐらい。傷は深く、見ているだけでも痛々しい。明るいところで見ると、裂傷だけでなく、青痣、翼の骨折、足の爪の割れ等、かなりの重傷。それを治す方法は彼の魔法しかない。俺は濡れタオルで彼女の肌を拭き、励まし続けた。

 もちろん、俺自身も重傷だった。肋骨も何本かやられた感覚もある。だが、そんなことはどうでもいいぐらい、彼女を救うことしか考えていなかった。

 回復魔法がかけ終わるまでの間は何とか気を保ててはいたが、傷が消えるのと、少女の呼吸が整うのを見て安心したのか、俺は気絶に近い睡眠に入ったのだ。

 が、目覚めたそこに彼女はいなかった。

 浅葱色の羽が数枚、ベッドの上に落ちており、確かにそこにいた形跡はある。シーツに触れると、ぬくもりを感じた。

 ギュエロは……頭の上に羽を落とされ、奇抜な髪色になったことを知らずに寝息を立てている。

 耳を立てると、何やら物音が隣の部屋からした。



 夢を見ない睡眠が久々に続いた。

 恐らく、疲れていたのが原因だろう。

 思い返せば、ここ最近は疲れることの連続だった。

 ワシは人との関りを避けるために森へ一人で住んでいたが、その森が最近どうも騒がしい。魔界の結界近くだが、基本的に魔物は結界を超えることはないので、生活を脅かされる心配はない。

 だが、ここ最近になっていつも以上に魔物が闊歩し始めたのだ。

 まさかと思って周囲を探索していると、少々離れた場所になんと魔界のコロシアムが結界ギリギリに作られているではないか。

魔族共は結界を超え、人攫いをし、コロシアムで闘わせる。何とも恐ろしい話だ。

 ワシは杖を握りしめ、結界の外からコロシアムを見上げる。

 実際結界は目に見えないが、結界を超えた瞬間に魔の者以外は全身に倦怠感を感じるので、そこで結界の位置を確認できる。立っている位置も、そこから一歩離れた点だ。

 歓喜の音が聞こえた。罵倒も聞こえた。悲鳴も、雄叫びも。正も不もごちゃまぜになった悍ましい空気が建物全体を包んでいた。


「ワシには、何もできん」


 人に教えることができる。それは簡単なことではない。ワシは光魔法の適性が高く、そして人の未来を照らせる。人を救うことができる。ワシはそんな光魔法に魅了され、極めるところまで極めた。

 だが、あと一歩の勇気がない。

 ワシはもう体力がない。きっと、ここにいる魔族共に負けておしまいだ。あのときのように……。

 ワシは強く杖を握りしめた。



 次の日もまた、足はコロシアムに向かってしまった。

 コロシアム前にいると、人の気配がして木陰に慌てて隠れる。


「あれ? 誰かいたと思うのだが……」


 細身で高身長、麻の外套を纏い、槍を手にした男が三人程結界の奥から現れた。

 青白い肌に捻じれた角。間違いない。魔族だ。

 息を潜めたまま、彼らの言葉に耳を傾ける。


「見間違いじゃねぇの」


「いや、確かにいたと思う」


「どっちだよ」


「適当なこと言ってると、お前も出場させるぞ」


「やめろ!」


「だったら、さっさと戻ろうぜ。こっちに長居するのは流石にしんどいぜ」


「そうだな。それにしても、今日送り込まれる魔物ってそんなにヤバい代物なのかね」


「らしいぜ。なんてったってあの宰相様が送り込んだって噂だ」


「なんであのお方の息がかかったようなもんをこんな僻地に?」


「知るかよ。ほら、さっさと戻るぞ」


「へへ! この仕事が上手くいったら都市部に住むんだ」


「お前が住めるかよ!」


 彼らは談笑しながら戻っていった。

 いくつか聞きなれない単語が出てきたが、どうでもいい。やはり、魔の者は結界を超えられたとしても本領を発揮できるわけではないようだ。文献にはいくつか残っていたが、それが本当だとようやく知れた。

 つまり、こちらにおびき出せば、勝機はあるということ。だが、どうやって?



 次の日の深夜、草木が眠るような時間。虫たちの声を耳にしながら、同じくコロシアムの側で潜んでいた。


「おびき出す前に、まずは奴らのレベルを確かめねばなるまい」


 一番大事なものがそれだ。

 魔物狩りは魔法を鍛えるついでに行ってきた。

 普段、動物も狩っている。それで経験値は積んでいるはずだ。

 だが、レベル差が一でもあればワシは奴らに勝つことはできない。

 では、もし確かめようとしたときに乱戦に成ったら? レベルがもし負けていれば、ワシは死ぬ可能性がある。

 そう思うと、身体が震え始めた。


「む、武者震いというやつじゃ」


 なんて言い訳するが、震えは止まらない。早まる鼓動は老体の寿命を縮めるのではないかと違う意味で冷や冷やする。

 と、そこに馬車が向かってくる音がした。

 音の方を見やる。

 魔族だ。

 馬車を結界内から持ち出す点を見るに、あれは人攫いの途中だろう。過去に、同じ光景を見たことがある。


「ふぅ……」


 杖を握りしめ、大きく息を吸う。


「ミクロライトニング」


 ワシは小さく唱え、オリジナル魔法を放つ。

 それは針のように細く小さい光の弾を射出する代物で、『ライトニング』をかなり圧縮したものになる。うまく掠めれば、切り傷を作って出血させることができる。それが確認できれば、ワシは彼らと渡り合えるはずだ。

 飛んで行った光は、御者台の魔族を掠める。当たった!


「痛っ」


 彼は首を軽く抑えた。

どうだ。血は出ているか?

 じっと見つめる。


「どうした?」


「いや、何か当たってよ。ちょっと見てくれ」


 荷台から顔を覗かせた魔族が御者の首元をランタンで照らす。

 心臓が跳ねあがる。そのまま口から出そうだ。

 頼む。傷よ……。


「何だよ。何ともないじゃねえか」


 彼はそう言った。

 それを聞いたワシは、ホッと胸を撫でおろす。あ。


「いや、もしかしたらこの辺に追手がいるかも」


「何だと!?」


 マズい! バレたか!?

 息を止めて、逃げる準備をする。


「って、うお!」


 御者が素っ頓狂な声を上げる。

 何事かと覗けば、結界前で馬が暴れていた。

 こちらの世界の者は魔界に入ることを嫌がるのだから当然だ。


「仕方ない。殺すか」


 御者が槍で一突き。一瞬で馬は絶命した。

 これが、レベル差というものだ。それを実感させた。


「さて、ここからは歩きで行こう」


「承知した」


 彼らは荷台から鎖で繋がれた若い男女を一列に並べ、コロシアムに連れ込んでいく。

 中にはまだまだ子供もいて、泣き叫んでいた。


「うるせぇ! 殺されたくなければさっさと歩け!」


 御者合わせて五名の魔族が槍で脅しながらコロシアムに連れ込んでいく。

 それをワシは、ただただ、泣きながら見送ることしかできなかった。


 それは、彼らを助けてやれない悔しさと、実力不足のふがいなさと、魔族に対する恐怖と、何より、戦わなくてもよい理由を見つけたことに対する安堵を得た自分を許せない怒りが、数十年ぶりに頬を濡らしたのだ。



 それから、コロシアムに足を運ぶことはなくなった。

 ワシは何も見ていない。何かを見たとしても、それはワシに何とかできるものではない。

 近くの町まで行って、ギルドに頼る。それは流石にできない。

 今まで、攫われた者を助けた事例何てほとんど聞かない。

 ワシは無力だ。



 そうこうしているうちに、夢を見た。

 過去の出来事を最近のものにミックスした夢。

 起きたらはっきりとは覚えていないものの、数十年前のあのときのトラウマが蘇ったのは確かだ。ワシはあの日逃げ出したままで、何一つ変われていない。

 もう、あの日々は戻らない。だが、きっと、何かあるはずだ。どうせワシはもうすぐ死ぬ。だったら、最期ぐらい、生きたい生き方をしたいではないか。

 あの日から身に着けることを渋っていた特級魔術師の証である白いローブを引っ張り出す。若干カビ臭いが、まぁ、いいだろう。青臭いことを考える自分にはもってこいだ。

 長年愛用した杖を手に、ワシはコロシアムへ向かった。



 ローブで顔を隠し、コロシアムへ侵入する。

 そこでは、子供と蜥蜴の魔物が闘っていた。野獣のように荒々しく、インファイトへ持ち込む魔物のファイトスタイルには理性の欠片も感じられなかった。

 だが、会場の様子がおかしい。

 魔族たちの会話を聞くに、どうやらこの少年は捕らえられた仲間を助けるために闘っているらしい。

 少年が叫んだ。


「ふん! 面倒な話は後だ! まずはお前を叩き切る!」


 胸が熱くなる。今すぐ加勢をしてあげたい。


「メガバリア」


 ひっそりと少年に防御バフをかける。

 レベル差を縮めるような魔法ではないので、命の保証はないが、あるだけマシだろう。

 せめて、一秒でも生きていられるように。

 すると、彼は蜥蜴男の攻撃に怯まなくなり、そのまま胸元へ一閃を食らわせた。


「ワシにはこれぐらいしかできん。後は、頑張ってくれ……」


 後ろ髪惹かれる想いを断ち切り、観客席から地下へ向かう。

 人が捕らえられているとすれば、ここしかない。

 扉を破壊し、長い通路のような部屋に入る。が。


「誰だ貴様!」


「侵入者だ!」


 もちろん、見張りやら調教係やら裏方の魔族もいるわけで。


「ライトニング! ライトニング! ライトニング!」


 叫びながら魔法を連発する。

 どれも弾き飛ばすばかりで、命を奪うことはできない。

 だが、こけおどしには十分だった。


「な、なんだこいつ!」


 怯える残りの魔族たち。さぁ、あとは我慢比べだ。そっちが伸びるのが先か、こちらの魔力が尽きるのが先か。

 と、そのとき。


「マズい! 火事だ!」


 上の階から悲鳴が聞こえた。


「な、何だと!?」


 彼らは動揺し、慌てて逃げ始めた。

 確かに焦げ臭い。誰かが火の魔法を使ったのか?


「そんなことはどうでもいい。折角のチャンスだ」


 部屋中に並ぶ檻を片っ端から破壊し始める。

 だが、魔力量が追いつくかわからない。時間も足りない。全てを救えない。

 だが、そんなとき。


「だ、誰!?」


 声のする方を見れば、先程闘っていた少年だった。

 彼は鍵の束を手に、呆然としていた。これはお互いに予想外だった。


「もしかして、俺達を助けてくれるのか!?」


 何故彼がここにいる? 何故鍵束を持っている?


「そうじゃ。助けに来た」


 彼から目を背け、檻の破壊に戻る。

 条件が読めないが、迷っている暇はない。

 二人で協力したことで、捕らえられていた人間をスムーズに救い出すことができた。


「さぁ、行くぞ!」


 全員、外へ脱出する。

 コロシアムは燃えていた。石造りなため、建物が崩れることはないが、あの中に居続ければ確実に死ぬ。

 だが、外に出たところで、魔族の兵士がこちらに気が付き、追ってきてしまう。

 捕まっていた彼らを全力で逃がしている中、逃げない人物が。

 彼は何か筒形の道具を弄っているが、上手くいかないようでその場から一向に逃げようとしない。


「お前さん、何しておる!?」


「クソ! 合図をしろって言われているんだ!」


 主語はなかったが、言いたいことがすんなり分かった。

 中に、恐らく協力者がいる。


「よし、待っとれ!」


 追手めがけてライトニングを放つ。

 奴らは弾き飛ばされ、建物の中に再び入る。


「今じゃ! スパーク!」


 火花を散らし、花火に引火させる。

 それは上空で大輪を咲かせた。

 直後。

 熱波が襲う。

 コロシアムの窓ガラスが全てはじけ飛んだ。

 大爆発が起きたのだ。


「ギガバリアァ!」


 咄嗟に少年と自分にバフをかける。

 この凄まじい威力の魔法をワシは知らない。

 耐えきれず、飛ばされてしまう。


「……お前さん、無事か?」


 隣に転がる少年に声かける。


「ぜ、全然痛くない」


「……そうか。よかった……」


 爆風が収まるのを待ち、ゆっくりと立ち上がる。

 コロシアムの中に生き物は流石にいないだろう。

 地下の魔物達は無事かもしれないが。


「どう、しよう……」


 少年は震えながらコロシアムを指さす。


「どうもしない。さすがに無理じゃ」


「あいつ、俺達を逃がすために……」


 犠牲は付き物だ。これだけの人数を助けられただけでも、奇跡に近いというのに。


「お前さんは、みんなを連れて早く逃げよ。まだ追手が来るかもしれん」


「で、でも……」


 渋る少年。優しすぎる。甘すぎる。


「早く!」


 ワシは彼についていくことはできない。

 だが、周辺にまだいるであろう奴らの動きを邪魔することはできる。


「わかった!」


少年は頷き、全力で駆けて行った。

 そして、ワシは闘った。気絶させる程度しかできないが、最上級の魔法を奮発し続けた。

 どうやって帰ったのかを覚えていない程、消耗しきっていた。気が付けば、ワシの髪は真っ白に染まっていた。



 目覚めたころにはもう太陽が真上に昇っていた。

 こんな時間まで眠るなんていつ以来か。

 あんなに激しい戦闘をし、魔力切れまで起こし、年甲斐もなく全力を出した。

 身体はとっくに限界を迎えている。

 何もする気が起きず、再びやってきた睡魔に身をゆだねた。



 それから、丸一日は眠っていただろう。

 全身がまだまだ痛むが、魔力の回復は感じる。だが、さすがに若いころと比べると明らかに回復スピードは遅いが。

 そして、あることをする為に、コロシアムへと向かう。



 たどり着いた頃にはもう夕暮れ時だった。

 燃え尽きたコロシアム。倦怠感を感じながら、焦げ臭い内部へ足を踏み込む。

 中にはさすがに魔族はおらず、静まり返っていた。

 そして、闘技場内。


「――っ!」


 そこには、裸の男が倒れていた。

 彼がきっと功労者なのだろう。側に向かう。

 真っ赤に燃える髪を肩まで流し、その背中は鍛え抜かれた筋肉が盛り上がっている。

 これだけの男が犠牲になったことを誰も労ってやれないのは悲しすぎる。


「せめて、安らかに……ん?」


 彼に肩に手を触れると、まだ温かみを感じた。

 そんな筈はないと指先にも触れるが、間違いなく正者のそれだ。

 一体どんな生命力の持ち主か。

 だが、かなり危ない域にいるのは間違いない。

 折角回復しつつあった魔力を使ってしまうのは勿体ない。だが、そう言っていられない。彼に救われた自分が救う番である。



「ギガヒール」


 最大級の回復魔法をかける。だが、魔力切れをここで起こしては自分の命が危ない。

 応急処置までで止め、彼をそこら辺の森から作った木の皮タンカーに載せ、服を縛って作ったロープで引きずる。彼の身体が大きすぎて載せるまでが大変だったが。

 今度この男が目覚めたら、この音は数百倍にして返してもらおう。

 そんなことを考えながら、老体に鞭を振るい続けた。

 


 彼をやっとのことで自宅に届け、ベッドまで持ち上げる。

 再び回復魔法を施す。だが、一向に目覚める気配はない。

 身体の傷は完治したはずだ。胸元に空いた明らかに致命傷な傷も塞がった。だが、目覚めない。

 やがて、数日が過ぎた頃。

 彼はようやく目覚めたのだ。



 彼は訳アリのようだが、誠実な好青年であった。

 魔法の話には、子供のように目を輝かせていた。彼ならきっと。いや、やめておこう。

 出会ってすぐに彼へ期待を抱くようになったが、その想いは簡単に崩れ去る。

 彼は魔物を連れ帰ってきてしまったのだ。知らないとはいえ、流石にマズいと思ったが、さらに衝撃的なことを言う。

 彼もまた、魔物だったのだ。

 だが、納得する部分もある。彼は明らかに人間離れしていた。

 半ば脅されるような形で、ワシは魔物の回復をさせられる。本当にワシはもうすぐ死ぬかもしれん。

 結局ワシは、魔力切れを起こし、気絶した。



 そして、目覚めれば、魔物達は何処にもいない。そして、何やら騒がしい。

 嫌な予感がする。

 カーテンをめくると、そこでは男に羽交い絞めにされた魔物の少女。そして、口の周りは汚れており、部屋も野菜やら肉やらが飛び散っていた。


「わ、ワシの飯が……」


 魔力切れに近い眩暈が襲った。


マザランが連れ帰ってきたから居候が二人。でも、追い詰められてかつ、こんな経験のないギュエロさんを苦しめちゃったりしないかしら……? やっぱり! ギュエロさんが泡を吹き始めちゃってる! えぇ、マザランは味方なの? 二対一で一見有利な対戦だけど、マザランは異世界においては素人同然だし、本当に大丈夫? 次回『男の花道 ギュエロの腰玉砕』 デュエルスタンバイ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ