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第五十九話 人だからこそ、人でないからこそ

前回の終わりの少し前――。

 今、あの龍が見ている場所は何処なのか。

 俺がヘイトを稼ぎ、向いているように見えるが、実際には何かを探して彷徨っているのではないかと疑ってしまう場面があった。

 それは、俺を振り払い、少し距離を取ると興味を失くす点。

 俺はあくまで邪魔してくる羽虫程度にしか思われていないようだ。


「あの時と同じだと言いたいのか」




 子供が消える孤児院がある。

 その噂は、とある一般人のSNS投稿を見つけた組織員の進言と、消えた弟妹を探していたシルフの情報を元に調査をした結果、事実となった。


「県から補助金を得てやってる事業、ねぇ」


「闇が深いわよ。住民監査請求、全部却下されたみたい」


 資料を捲りながら嘆息したのは、机に腰かける幹部の一人、ディーナ。

 目に映るのは、スリットの入った白いスカートに、黒いデニムのショートパンツという少々煽情的な格好。気まずくなって、俺も資料へ視線を落とす。


「明らかに金の動きがおかしいんだろう?」


「そうね、今のアナタの視線並みに」


「ぐっ――」


 すぐにそういうことを言う女は好かない。

 その心の中を読んだかのように、彼女は足を組み替える。窓から差し込む太陽光が肌に反射して眩しい。


「そ、それで、人身売買の噂もある。警察は動かないのか?」


「裁判所から令状が下りないらしいわ。この中に書いてあることを照らし合わせれば……」


「癒着、か」


 政治家、司法、警察、それらとも繋がっているともすれば、正攻法で切り開くのは不可能か。


「心配なのはあの子ね」


「ああ。この後のミーティングでこの話題が出る。アイツはこの事件に思うところがあるだろうし、引き受けると考えて間違いないだろう」


 資料内には、孤児院で預かっている子供のリスト。

 この中に、行方不明な弟妹がいるのだろうか。


「もう、あの子はこれ以上戦えない。前回の敗北で体内の石にヒビが入ってたみたいよ」


「アレ、割れるとどうなるんだ」


「さぁ。死ぬんじゃないかしら」


「そう、か」


 俺達は、得体の知れない何かを身体に抱えて戦う。本当に何もわかっていないものを。



 その石をかつては失った少年。今、もう一つ取り込んだなれ果てが暴れ回る。

 怪人に変える能力を持った石が、今度は怪物に変えた。自我はあるのかないのかわからない。

 彼の行動原理は弟妹のような子供を守ること。

 それが今も同じなら、彼には守りたい子供がこの街にいることになる。だが、こんなに暴れては本末転倒じゃないか。

 半壊した民家の屋根に着地し、龍と対峙する。

 その時、建物の下から出てくる住民。

 まだ、逃げていない人がいたのだ。だが、いちいち助けてなんていられない。

 龍の長い尾による薙ぎ払いに備えて、道路へ降りる。

 振り返って、ぞっとする。

 その人たちは、良く知る人物だったのだ。

 見捨てるなんて、できない。

 瞬時に前傾姿勢をとって駆け出す。

 間に合え、間に合え!

 建物の崩れる音。落下する巨大な瓦礫。アレがぶつかれば、無事で済まない。


「アアアアアアアア!」


 彼女らの上で、その瓦礫を受け止める。

 ズシリと感じるその重さ、突き刺さる細かい破片、骨が折れ、悲鳴を上げる腕。


「あ、れ……」


 顔を上げたララと目が合う。


「あ、アンタ、何で……」


 ノアが愕然とした表情でこちらを見ていた。

 俺がこの姿でいることもそうだが、俺自身も彼女が魔族化していることに驚いている。


「……」


 彼女らの無事に安堵していた最中。

 突如俺は宙に連れ去られる。


「放せ!」


 嘴に咥えられ、急激に上昇するGが全身を襲う。

 刀を振るうが、この姿勢では力が入らず、硬い嘴に弾かれる。

 マズい、意識も飛びかけてきた。

 ここから狙える弱点は何処か。柔らかい場所。

 探った先で見えたのは、赤い宝石のような瞳。距離は刀身より少し短いぐらい。チャンスはある。

 刀を逆手に持ち替え、その瞳目掛けて切先を突き立てた。


「ギイアアアア!」


 突如奪われた視界に戸惑い、口が開く。

 その感覚、その瞬間を利用し、俺は飛び出した。

 幸い、空中で追撃されることはなく、無事、大きな建物の上に着地する。まぐれではあるが、非常に助かった。

 と、その建物の下から、またしも一人顔を出す。


「た、頼みます。ここにアイツを近づけないでくれ!」


 あまり馴染みのない、初老の男性がこちらを見上げて叫ぶ。


「何故だ」


「私の大事な倉庫なんだ!」


「あ? テメェの命とどっちが大事なんだ!」


 これ以上守るのは不可能だ。

 俺の腕は二本。守ることと攻めること、もう両手が塞がっている。


「これがないと、生きていけないんだよ!」


「何を保管してるんだ? 命と同等に大事なものなんて」


「それは言えません」


「ならば、倉庫と共に死ね!」


 そう投げ捨て、上空を見る。

 もう、その眼は回復しているようだった。

 これ以上、ここには留まれない。

 倉庫の屋根を駆け、折れた腕にヒールを掛けながら次々と建物を飛び移る。

 身体は万全でないが、レベルアップの影響か、身体は生前よりも扱いやすい。

 折れた骨は三級魔術程度じゃ何ともならないが、痛みは引いてきた。

 効果があるのかわからないカウンターを食らわせた後、距離を取って着地した宿屋の上。そこから見えた奔走する初老の姿。

 ようやく逃げる決心がついたかと思いきや、彼は何かを抱え込んでいた。危なっかしい足取りはやはりというべきか、転倒して抱えたものをぶちまける。

 慌ててその何かをかき集めていたが。


「待っ――」


 彼が後ろを向いたその時にはもう遅い。

 背後に迫っていた龍が男を捕らえる。龍は嘴で拾い上げたかと思うと、宙に放り投げ、口に入れ込み、奥の歯で噛み砕いた。

 その残酷な様子から目を逸らした直後、大きな爆発音。

 慌てて見れば、龍は口から煙を吐きながら落下していく。

 彼が食われた瞬間爆発した。とすれば、考えられるのはただ一つ。

 ぶちまけたものを拾い上げると、それは魔石だった。

 こんなものを街のど真ん中で保管していることに戦慄を覚えるが、今はそれどころではない。

 横たわる龍へと近づく。

 嘴の付け根から抉れ、筋肉組織が丸出しになった恐ろしい形相。

 だが、まだ命を諦めていないのがその瞳からわかる。

 回復される前に、止めを刺す。


「お前をもうこれ以上戦わせない」


 刀を鞘から抜き、血まみれの顔に触れた。その瞬間。


――僕に構うな!


「なっ――」


 慌てて手を放す。

 今のは、一体何だ。脳内に、アイツの声が――。

 だが、考えを巡らせる間もなく、俺の体は宙に打ち上げられていた。


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