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第五十話 停止した町

 アクセルの町は、魔界に面しているものの、数千人規模の町民が住む大きな町だった。

 マニフォールの街との交流が最も深く、ベッドタウンの役割も果たしているとか。魔界の近く故に野菜が大きく育ちやすいため、農作物の生産が活発に行われていたらしい。

 しかし、そこに面影は一切残っていない。あるのはただただ地獄。


「これは……一体……」


 息を呑むアーリム。彼は目を見開き、その光景をまじまじと見つめていた。

 見える範囲に転がる死体は、全て魔族。


「これ、俺達戦わなくてもいいということか?」


 誰かがそう言った。


「おいおい、だったらこれをやったのは誰なんだよ!」


「知らねぇよ! 仲間割れでもしてんじゃねぇの?」


 やんのやんのと言いあう冒険者達。

 果たして、そうだろうか。


「ルインお前は――」


 彼の方を見れば、先程からそわそわと体を揺らし、周囲を見渡し、人の顔色伺いと、落ち着きがない。


「落ち着け、ルイン」


 こちらの話など聞こえていないようで、視線があっちこっちしている。これは少々危険な臭いがするな。


「おいルイン……ルイン!」


 肩を揺さぶり、ようやくこちらに気づいた。


「え、あ、何?」


 まだ半分上の空な様子だ。逸る気持ちはわかるが……。


「さっきから上の空だぞ」


「あー、まぁ、大丈夫、だよ」


 早く切り上げたそうな少年に視線を合わせる。


「大丈夫な訳ないだろう。お前、何を気にしているんだ?」


 その問いかけに、皴が眉間に寄っていく。


「何って、わかるだろう?」


「捕まった人たちだな?」


「そうだよ! 早く助けに行かないと!」


 衝動的に動きそうな彼を止める為、肩を掴む手に力が入る。


「痛ぇよ! 放してくれ!」


「一旦落ち着け! まだ状況が掴めていないんだ!」


 今回のミッションは町の奪還と捕虜の開放。

 二兎を追う者は何とやらだ。どちらかに集中しないと、もしもの時に全滅する恐れがある。リーダーはどう考えるか……。

 そう思って顔を上げると、狐のような細い目と合ってしまった。


「捕虜の奪還、ですか……」


 人命救助が最優先か。それも悪くないだろう。


「諸君。耳を貸していただきたい。我々はこれより、捕虜解放班と魔族殲滅班、二手に分かれようと思う」


「正気か?」


 彼の提案は、戦力を二分させるということだった。


「状況が掴めないなら、下手に散らばるのは止した方がいい」


 咄嗟に出した意見も、冷たい目で転がされる。


「いいえ。二班ですから大して問題はありません。それに、片方がやられても、もう片方が生き残れる場合もありますから」


 犠牲ありきの考え方か。それは俺好みではないな……。


「私は別にアナタの好みは気にしておりませんので」


 見透かしたかのように放つ言葉も、間違ってはいない。故に、言い返すことは不可能だ。


「わかった。素直に従おう」


 そして、即席のチーム分け。

 俺とルインは捕虜の解放班だった。

 そして、解放班に充てられたのは僅か十名ほど。


「おい、これは流石に少なくねぇか?」


「戦闘要員が減る方が危険ではありませんか?」


 そう言う彼の目は完全に人を見下しているように感じた。


「気に入らねぇな」


「俺も何か嫌いだ」


 珍しくルインと気があう。縁起でもねぇ。


「まぁまぁ、そんなにカッカしなさんな」


 そう言ってきたのは、クシュッとした優しそうな顔の冒険者。


「ある意味、俺達は少数精鋭ってことだろう?」


 なるほど。物は捉えようといったところか。


「そういうことにしておこう」


「それでいいのさ!」


 彼の逞しい笑顔に励まされ、心が幾ばくか楽になった気がした。



 さて、探すと言っても、闇雲に探したところで危険が増える一方だ。


「こっちはこっちで作戦を練らないとだな」


「お、お兄さんがリーダーを張ってくれるのかい?」


 俺は頷き、作戦を練る。

 この町は特徴的な配置になっていた。

 馬車がすれ違える程度に巨大な門から四十五度に広がる石の壁。その壁に沿うように連結した団地のような家が並び、その家々の間に広大な農地が広がる。農地に近づくにつれて家の高さが低くなっているのを見ると、日当たりを良くしようとしているのがわかる。まぁ、その農地も死体だらけの血の海と化しているわけだが。

 さて、所々崩壊しているものの、建物は大体が残っており、どこに町民が匿われていてもおかしくはない。

 では、最も怪しいところは何処か。


「結局、俺達も向かうべき場所は同じようだな」


 ど真ん中を通る巨大なコロシアムへの道を堂々と向かう本隊。その敢然たる背中を見送りながらメンバーに伝えた。


「じゃあ、何だ? 俺達もアイツ等に付いて行くのか?」


 つまらなさそうな男に笑う。


「いいや、それじゃあ芸がないだろう」


 俺達は一度門を出ることにした。



 おかしい。

 これだけ目立つ行動をしているのにも関わらず、誰も襲ってこない。


「敵、本当にいない?」


 ツェーウェルドが辺りを警戒しながら耳打ちする。


「それだといいけどねー」


 対して、ベルダは頭の後ろで手を組みながら、干し肉を噛んでいた。行儀が悪そうに見えるが、彼なりの集中力の持たせ方だ。

 やはり、私のパーティメンバーは優秀である。どんな時でも、私の意図を組んだ行動をしてくれるのだ。

 彼らが警戒をしてくれるからこそ、自分は思考に集中できる。


「アイツ等には悪いが、楽な仕事だぜ!」


 野良冒険者は相変わらず能天気だ。

 その程度の集中力と危機管理能力でBランクまで生き残れたものである。


「あ!」


 コロシアムまで半分程のところで、ベルダが声を上げた。


「どうしました?」


「アイツ、生きてるかも!」


 彼の指さす方向、重なった死体に寄りかかるように倒れている下級魔族。胸から腰に掛けて切り傷が痛々しいものの、弱々しく肩が上下しているのが見えた。

 これは、情報を得るチャンスかもしれない。だが、罠の可能性も捨てきれない。

 迷っていた最中。


「ヒャッハー! 貰い!」


 一人の細身な冒険者が飛び出してその傷へ剣を一突き。

 魔族はビクンと跳ね上がったと思うと、断末魔を上げることなく崩れ落ちた。


「よっしゃああああ! まずは一体!」


「アナタ、どういうつもりですか!」


 天高くガッツポーズを決める彼の胸倉を掴む、


「どうって、生きてたんだから殺したんだよ! むしろ褒められるべきだぜ?」


「罠だったらどうするのですか! それに、情報だって得られたかもしれないのに!」


 しかし、男は興味なさげに


「ほら、どうということもないだろ? あと、生かしておいても本当のこと話す保証はないんだぜ?」


 しれっと言ってのけた。


「つーか、迷ってる暇あったらさっさと仕事しろっての!」


「ガハハハハ!」


 他のメンバーも笑いながら進行を再開する。

 このままではマズい。


「皆さん、落ち着いてください!」


 そう声を掛けるも、


「そっくりそのまま返してやるよ」


 むしろ返されてしまった。

 私が、焦っていると?


「そうだ! ここからは早いもん勝ちでどうだ?」


「それ、いいな! 討伐数稼いでやるぜ!」


「うおおおお!」


 一同はコロシアムに向かって駆け出す。


「なっ!?」


 その様子に絶句する二人。


「我々も行きましょう。このままでは危険です!」


 最後尾から駆け出した冒険者たちを追った。




「っしゃああああ! 俺が一番!」


 コロシアムのエントランスを突き抜け、階段を駆け上がり、闘技場に飛び出す細身の男。


「さぁ、魔族共、かかってこいや! 俺の糧にしてやるy――」


 威勢よく啖呵を切った矢先、彼の言葉が途切れる。

 その様子を見て後続の足が止まった。

 彼は口から血を吐き出すと、首にチョーカーのような赤い筋が入る。やがて、そこから分断され、支えを失った首は砂の上へと落下。遅れて後を追うように枯れ木のような身体も崩れ落ちた。まるで、腐った木が自らと共に最後の実を落とすように。

 絶句する全員の前、事切れた男の奥には、首輪から鎖に繋がれた人間大の化け物。猛禽類のような嘴と鋭い目を持った頭に、極彩色の翼、鍵爪の付いた足。それは、チームドライクーゲルが数日前に遭遇したあの化け物だった。

 マズい。非常にマズい。

 予想外の出来事に異常を知らせる思考をリセットする。

 と、その時。乾いた拍手がスタジアムを響かせた。


「何だ!?」


 ベルダが反応したその先。入って正面の観客席に、全身宝石で着飾った魔族、否。魔界貴族が見下ろしていた。


「貴様は――」


 拍手を止めると、男は長い両手を広げ高らかに叫ぶ。


「オーディエンスの皆様! この度はお集まり頂き感謝申し上げます。劇的なオープニング、傲慢さへの裁きの一筋はお楽しみいただけましたでしょうか! 人間界ギリギリのこの町だからこそできる、スリリングでワイルドでエキサイティングなショーを是非ご堪能ください!」


「ショーだと?」


「何を言っているんだ?」


 戸惑う彼らに反して、唇を強く噛む。

 罠だった。我々は、まんまと敵地のど真ん中へ躍り出てしまったのである。

 その証拠が、この瞬間に湧き上がる『オーディエンス』の歓声。

 超巨大なコロシアムの観客席には多数の魔族が犇めき合っていた。その席が、すべて埋まる程に。

 魔界貴族は続ける。


「それでは続きまして、ショーの案内人はそのままに、高ランク冒険者の大量虐殺ショーです! 人間界の強者が、弱者になり下がる瞬間を篤とご覧あれ!」


 そのとき、首輪と繋がる鎖が断ち切れる音がした。

 最低で最悪のショーが、今始まる。

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