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第四話 Missing

私、気づいてしまったんですよ。

ここまで萌キャラがいないことに。

 瓦礫を片付けながら、考える。

 あの光は何だ。あれから時代が進んでいる未来だとしたら、レーザー兵器か何かか。そんな国家機密になりそうなものを一個人が持っているか? しかも杖から出ていたぞ? どう見ても木製の……。


「ギュエロさん、こんなに吹き飛ばす必要はなかったんじゃないか?」


 散らばった木片をかき集めながら悪態を吐く。


「人と会うのは久々でのぅ。すまんかった」


 彼もまた、木の板を組み、壊れた家の壁や扉の修復に取り掛かっていた。


「あれは一体なんだ? 何かの兵器なのか?」


 何を言っているのかわからないとでもいう顔をする老人。


「兵器? お前さん、何も知らないのか?」


「あ、ああ」


「そうか」


 そう言うと、彼は作業に戻る。


「あ、あの……」


 そのまま、扉が完成するまで彼は何も言わなかった。



 結局この作業で一日を使い切り、夜になってしまった。


「あの、ギュエロさん。教えてくれ。あの光はなんだ?」


 彼は神妙な顔つきで言う


「光魔法じゃよ。それも、一級の光魔法、ライトニングじゃ」


「……光魔法?」


 おいおい、何の冗談だ? 老人の口から『魔法』なんて言葉が出てきたぞ?

 魔法に近いテクノロジーなら見てきたが……。


「なんじゃ、何も知らないとは言ったが、光魔法も知らぬのか?」


「ああ」


 彼は目を真ん丸にする。


「光魔法と言うのは六属性ある魔法のうち――」


「待て、そもそも魔法ってなんだ」


 彼は口を開けたまま固まる。


「ま、魔法も知らぬのか?」


「ああ」


 じっくり考えた後、


「お前さん、もしかして記憶喪失か?」


「ま、まぁ、そんなところだと思う」


 俺の素性は話さない方がいいだろう。話せば恐らく理解してもらうのに時間がかかる。いや、それどころか、警戒させるだけだ。

 暫くはそれで通そう。


「そうか……ならば教えてやらんこともないのぅ」


「じゃあ、教えてくれ」


「わ、わかった」


 食い気味で返すと、苦笑いしながら解説を始めてくれた。



 魔法とは何か。光魔法とは何か。

 発動の仕組みから、種類について。階級が三級、二級、一級とあり、それを扱える人を〇級魔術師と呼ぶそうだ。で、このギュエロはそれを伝承できる数少ない特級魔術師なのだそうだ。

 で、魔法には六属性あるらしく、火、水、風、土の四大属性に加え、光と闇の二元属性で構成されている。この老人は若いころから魔術の道を歩み、そのうちの光を極めたそうだ。


「そこで、お前さんが生きている原因じゃが、ワシの一級魔法である『ギガヒール』を使ったからじゃな。あれは瀕死の人間も復活できる奇跡の魔法じゃ!」


 目を輝かせながら話す老人に、何とも言えない気持ちが溢れ出す。


「助けていただき、ありがとうございました」


 深々と頭を下げる。


「構わん。ただの散歩の、途中のついでの話じゃ」


 顔を逸らし、鼻の下を嗅いでいた。

 本当にただの散歩のついでなら、俺は死んでいただろう。だから、俺はこの人に感謝をしなければならない。


「それでギュエロさん。一つだけ、お願いがあるのですが……」



 夜風に当たりながら、俺は空を見上げる。

 終始興奮していた老人を寝かしつけ、俺は頭を整理するために外に出てきたのだ。

 この短期間でいろいろなことがあった。死んだと思えば見知らぬ土地で目覚め、闘いの道具にされ、反逆し、今度こそ死んだかと思えば誰かに助けられて生きている。

 あの戦いでのこと、そしてギュエロの話。やはり俺がいるこの世界は、元居た地球とは違う、知らない世界だ。

 さらに驚いたのが、レベルというシステム。

 経験を積むごとに加算され、上位の者に下位の者は絶対に勝てないという仕組みだった。それだけ聞けば、弱者が強者に利用される元居た世界と変わらないが、努力次第で勝つことができる。それがこの世界のシステム。

 『黄昏の三連星』の目指した世界に近いともとれる、弱者が虐げられ続ける世界の作り替え。努力しても、力持つものに勝てなかった、あの現代社会とは違うかもしれない。


「実態はどうか知らないがな」


 癖でポケットをまさぐるが、そこに煙草は無かった。


「そうか。あの世界と違うということは、こういうことでもあるのか」


 少し残念に思いながら、空を仰ぐ。

 俺がいなくなった世界は、どうなったのだろうか。

 俺は最期、敗北を受け入れていた。何で受け入れてしまったのか。あの魔界貴族を相手にした時のように、どうせ死ぬなら自爆すれば邪魔者を道連れにできたかもしれない。だが、そうしなかったのは何故か。


「ダメだ。そんなこと考えるのはよそう」


 この世界について一気に知識を詰め込まれたせいで、半分以上頭に残らなかった。メモがあれば少しは変わったかもしれないが。

 ただ、こうして生きている以上、もう一度元の世界に戻る方法はあるかもしれない。そうなれば、もう一度組織の役に立てるかもしれない……。

 そのために、まずはこの世界を知るところから始めよう。


「明日からは、調査でもしてみますか」


 ギュエロには、()()()()()()()()()()()、お世話になることになった。

 あまり長居はできない。なるべく早く、元の世界に戻ろう。



 翌朝。


「今日から調査をしようかと思う」


「記憶を取り戻す調査か」


 彼は狩りに行く支度を整えながら尋ねる。


「ああ。まずはあのコロシアムに」


「残党が出てきたときに勝てるのか?」


「勝てなくてもいいさ。死なないように立ち回るぐらいならできる」


「そうか。くれぐれも油断しないように……って、お前さんは大丈夫か」


「ああ。行ってくる」


 俺は手作りのクリケットバットを借り、意気揚々と出ていく。



 コロシアムまでの道のりはおおよそ八~十キロメートルほどの距離だった。車があれば大した距離ではないのだが、歩くとそれなりにしんどい距離だ。道も舗装はされておらず、森の中の少々広めな獣道を進む為、距離以上に時間がかかる。

 道中、昨日のような魔物(高レベルになった獣が変化したもの)が現れたらこちらも怪人態になろうと考えながら、道なき道を歩み続けること体感三時間程。

 ついにコロシアムが姿を現す。

 黒く焦げた壁からは、元々の美しい景観を失っていた。


「……」


 特に何かが起きた訳ではなくとも汗をかいた。帰ったら水浴びをしたいところだ。

 森の中の湿度が高く、気温もそこそこ高かったことが要因か。


「さて、中に入るか」


 コロシアムに近づいたそのとき、何か体の中を違和感が駆け巡った。


「何だ、これ?」


 感覚としては、低気圧が近い時に感じる不調に近いか。

 活動に支障はないが、あまり気分のいいものではない。


「仕方がない。早めに切り上げよう」


 コロシアムに入り、観客席側の中をぐるりと周る。内部構造的に、あの世界のスタジアムに近い感じだが、観客が通るような場所には何も目ぼしいものはなかった。そして、貴族らがいた特等席周辺にも行ったが、同様だった。どうやらあの一件で燃え尽きたらしい。灰になって隅に集まっているそれがそうだろう。

 次は地下に行ってみよう。あそこは魔物達や捕らえられた人間達の檻があったはずだ。

 階段を降り、いざ、地下へ。本来なら施錠されていたであろう、閂付きの大きな扉が開放されており、薄暗い奥からは何やら唸り声が微かに聞こえる。

 恐る恐る踏み込む。

 壁掛けの松明は、燃え尽きて灰になってしまっていた。

 暗さに目が慣れてくると、ずらりと並んだ檻は一部が破壊され、大多数は中で死んでいる。そしてそのせいか、臭いもかなりキツイ。湿気が多い地域なため、腐敗も早いのだろう。

 さらに進み続けると、今度は息のある魔物達が現れた。

 だが、どれも檻を突き破れるほどの体力はないようで、衰弱している。放っておいてもいずれは死ぬだろう。

 姿形はそれぞれで、元の世界の生物が改造手術を施されたような見た目をしている。


「だから俺も魔物として扱われていたのかもしれないな」


 ゆっくりと進む中、あるところで足が止まった。

 その檻で背を向けて倒れているのは、人間に見える。

 じっと観察していると、かすかに肩が動いているのがわかった。

 そして、俺は声を掛けてしまう。


「生きているのか?」


 ピクッと肩が跳ね、顔だけをこちらに向ける。


「っ!?」


 その顔は、美しい少女のものだった。

 今にも眠ってしまいそうな眼でこちらを見ている。

 そして、かすかに見えたその腕は、鳥のような翼。

 彼女の口はゆっくり動く。


「た……すけ……て……」


 小さな声で、確かにそう言った。


「……ああ、クソ。俺はどうかしているぞ」


 クリケットを振りかぶり、檻の南京錠目掛けて振り下ろす。

 だが、弾かれた。鉄と木じゃさすがに勝てない。


「ならば!」


 腕だけを怪人化させる。俺の鱗に覆われた腕の先には、鋭い爪が付いている。鋼にも負けない、強靭な爪が。


「おらぁ!」


 振り下ろし、鍵へぶつける。

 甲高い音を響かせたが、まだ外れない。


「まだまだ!」


 全力で何度も振り下ろす。

 少しずつ音が変わり、ついに。


「おらぁ!」


 割れた南京錠が地面に落下する。


「よし」


 中に入り、少女を抱き上げた。

 非常に軽い少女の身体。何も身に着けてはいない白い素肌は、痛々しい蚯蚓腫れや化膿した線状の傷が無数にできていた。なんとも惨たらしいことか。俺も逆らえば鞭を食らったが、強靭な鱗を持つ俺とはダメージが比較にならないだろう。


「頑張って耐えてくれ。後で楽にしてやるからな」


 そのまま外に出ると、そこには音に反応して集まったのか、魔物の生き残り達。口周りに血がついているのをみるに、奴らは死にかけもしくは屍を喰ってきたところか。

 この魔物達は、血色の悪い小鬼の姿をしており、全部で三体。


「なるほど。楽には帰してくれなさそうだ」


 そっと少女を下ろす。


「俺の邪魔をするということは、覚悟ができているんだろうな」


 全身怪人化させる。が、おかしい。頭がさらに重くなり、のうのかいてんがおそくなっていく。

 あいつらうまそ……。


「ぬああああ!」


 全身怪人化を解き、腕だけ部分変身する。


「危うく理性を持っていかれるところだった!」


 自我をキープするように叫び、小鬼の群れに突っ込む。


「おらぁ!」


 まずは一匹の首を撥ねる。

 簡単にもげたところを見るに、レベルはこちらの方が上。


「次はお前だ!」


 怯んだ小鬼二匹の首を掴み、お互いをぶつける。

 そのまま彼らは伸びた。


「あと二匹!」


 足を怪人化させる。丸太のような足を持ち上げ、回し蹴りをぶつけ、壁に叩きつけた。

 何かが折れたような音を立て、その小鬼はその場に崩れる。


「ラスト!」


 手刀を小鬼の心臓部に突き立てる。脈打つ生暖かいモノを感じながら、その腕を一気に引き抜く。

 鮮血が飛び散り、服に掛かってしまう。

 と、そのとき。


「おいおい。冗談じゃねぇぞ……」


 地響きと共に奥の闇から現れたのは、さっきの小鬼をそのまま大きくしたような怪物だった。

 その高さはおおよそ三メートルか。

 奴は巨大な棍棒を手に、ニタニタ笑っていた。


という訳で、助けようとしてしまったマザラン。

レベルの高い魔物はマザランの攻撃を一切受け付けない。

さらに奪ったクリケットまで武器にしてマザランを苦しめる。


ちょっと! いくらコロシアムの先輩だからって自分だけそんなに強いなんて卑怯よ!


次回『マザラン散る! 無敵のボスゴブリン』 デュエルスタンバイ!

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