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第四十一話 逃避行中の蝋人形

あけましておめでとうございマス。お久しぶりです。

生きてます。今年も灰燼転生をよろしくお願いします。

 深夜ではあるものの、ここにこれ以上滞在するのがマズいと判断した俺達は、宿を後にすることにした。


「ララ、一人でも大丈夫か?」


 宿を出る直前、彼女の背中に声を掛ける。

 外はまだ暗く、ヒンヤリした空気が宿の中に滑り込んできていた。


「大丈夫ですよ。むしろ、お二人が心配です」


「人の心配をしている場合じゃないか」


 二人で小さく笑いあう。


「絶対、生き残りましょう」


 彼女の願いにも似た力強い言葉に、俺達は頷く。

 事件解決より、生き残る。それが、俺達の最優先事項。

 日の出前の静かな街を、俺達は駆け抜けた。



 俺とルインが選んだ潜伏先はルインの故郷、バルの村。


「ここなら、流石に追手はこないだろう」


「余計なのが来そうだけどな」


 少年が釘を刺す。


「そのときはそのとき、だろう?」


「まぁね」


 肩を竦めるルイン。

 日は既に上り始めている。

 だが、一度休んだ方がいいだろう。


「ルイン、お前は一旦休んでいろ」


「でも!」


 声をあげる少年の肩を叩き、


「休むのも仕事の内だ」


 そう言って、一軒の住居に押し込んだ。


 かつて、仲間から自分も言われた言葉。今も自分に掛けるべき言葉。

 その仲間たちは、あれからどうなったのだろうか。

 明けの明星のその先に、彼らはいるのだろうか。


「柄でもないこと考え過ぎだ」


 首を横に振り、村の探索を始める。

 魔族も、あの時いた謎のフードも気配はない。

 ただ、村の入り口に放置された腐臭を放ち始める魔族だった物の塊は何とかせねばなるまい。


「結局、貴様らの目的はわからなかったな」


 魔石を発動させ、その塊に火をくべる。


「せめて、安らかに眠れ」


 命のやり取りをした相手だ。この程度の慈悲は与えても文句は言われまい。

 ――いくら憎い種族だとしても。

 耐えがたい臭いを発しながら、ごうごうと燃え上がる。

 燃え尽きるまで、俺はただただその煙の行く末を見上げていた。



 次の目的は、この村にある謎。

 確か、魔物を捕らえた檻があった筈だ。

 その場所は厩舎だったか。

 その方面へと歩を進める。

 村の外れに設置された、広い土地、広い柵に囲まれた茅葺屋根の大きな建物。かつては立派な佇まいの施設だったのだろうが、もう見る影はない。そこは踏み荒らされ、柵は本来の役目を果たせそうにない。

心を少し痛めつつ、歩みを続けた。これ以上進めまいと、近づけば近づく程、糞尿に交じって血の臭いが強くなる。

 激臭に顔を顰め、壊れた柵を踏み、厩舎の中へと踏み入れた。

 そこにあった景色は、俺の想像通りと言えばそうなるであろう。

 元々、家畜を飼育していた施設。柵で仕切られていたであろうその内部は、本来発揮すべき機能をゴッソリ入れ替えた異空間へと変貌を遂げていた。

鉄製の檻が立ち並び、その一つ一つにこびり付いた赤茶色の汚れを、天窓から白く照らしている。どれも破壊され、中にいたであろう何かは消えている。

家畜に檻など必要ない。檻が必要な何かがここにいたのだ。


「しかし、これでは何がいたのか判断するのは厳しいな……」


 見た目もさることながら、臭いもキツイ。鼻がひん曲がるという表現で済めばいい。そんなことを言っている間に、倒れるのが関の山だ。

 布で鼻を押さえながら、満遍なく観察する。

 藁の敷き詰められた床。周囲には血痕が生々しく点在している。その中に、金属的光沢のある何かが覗いていた。恐る恐る拾い上げると、鉄のような重量感のある両手に収まるサイズの器具。万力のようなその器具の挟む所には赤黒い粘液がべっとりとついていた。似たようなものを俺は知っている。指に挟み込み、締め上げる。情報を吐くまで、最大二十回の苦痛を与え続ける代物。

 ならばと周囲を漁ると、やはり見つかったのは砕け散った木製の固定台だったもの。こんなもの、使う対象は魔物や動物なんかじゃない。

 充分な収穫があった。もう、ここを後にしよう。そう思って踵を返したところで、足が何かを引っ掛けた。


「ん? これは」


 藁の中から引き上げたのは、血色の悪い腕が一本。


「……魔族。見張りのものか?」


 周囲に遺体は見当たらない。逃げ出したか、それとも。

 とりあえず、不快なこれを早く捨ててしまおう。衛生的にも、精神的にもよろしくない。


 腕の焼却後、間借り先の家屋へ足を向ける。

 ひとまず、休みたい。身体の節々に痛みが残り、ダルさも見え始めていた。連日の戦闘や事件、睡眠不足によって限界が近いということだろう。この先も、激しい戦闘が予測される。

 玄関の戸を開け、寝室へ向かう。

 質素な造りの家だが、ギュエロの暮らしていた小屋と比較すればずっといい。部屋は玄関、リビング、ダイニング、キッチンに寝室。寝室だけはカーテンで仕切られているのが、あの小屋と同じだ。

 静かに、そのカーテンを押し退けて部屋に入る。


「……起きていたか」


 ツインベッドの片方、三角座りで佇む少年。


「ここさ、俺の家じゃないんだ」


「そうか」


 彼の家がどこかは知らない。ただ、状態が良い家を選んで勝手に借りているだけだ。


「ラピスの……守りたかった人の家なんだ」


 その名前の人物が誰なのかは知らないが、彼にとってかけがえのない人なのだろう。


「そのラピスというのは?」


 ルインはこちらを一瞥することもなく、


「幼馴染の、女の子」


「魔族に、殺されたのか?」


「そんな筈ない!」


 声を荒げ、こちらに食って掛かろうとする。


「そうか」


 まだ、何か言いたげに唇を震わせるが、その先が紡がれることはなかった。


「自分がいかに無力なのか、思い知らされた」


 彼は自分の手を見つめ、目を潤ませる。

 その手に映る景色は、思い出したくもない、凄惨な事件か。


「俺は、もう失いたくない。誰かを取り戻す力が、守る力が欲しい」


「夜にも言ったが、この先は引き返せない、地獄だぞ? それでも構わないか?」


「うん。構わない」


 小さな身体に宿る炎が、俺の目にもはっきり見えた。それは勇気の炎ではない。憎悪に満ちた闇の炎。

 その正体に、少年はまだわからないだろう。気づいた頃には遅いかもしれない。俺は今から、それを利用する。

 彼の覚悟に背中を押されるように、俺もゆっくり頷く。


「マザラン、強くなりたい」


「いいだろう」


 今この瞬間から、ルインとの特訓が始まった。

 どうやら、世界は俺を休ませてはくれないらしい。


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