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第三十九話 乾杯ですか? はいそうですか。

ずーっとシリアスだったので、少し息抜き展開も必要かな? っというところで、三十九話です。

前半はシリアスですが、中盤からはリラックスして読んでください。

「何でアナタはいつもそう無茶するんですか!」


 そうお叱りを受けたのは、ギルドに戻ってすぐのことだった。


「反省はしている」


「……」

 

 応接室の机をララと挟んで座る、軽く頭を下げる俺と、バツの悪そうな顔のルイン。


「俺の、せいだ」


 目を伏せ、絞り出すように彼は告げた。

 驚きに目を見開くララに続ける。


「俺があそこで無理を言わなければ、こんなことにはならなかった。俺が奴らに見つからなければ、囲まれることもなかった!」


 徐々に語気の強くなるルインの言葉に、耳を傾け腕を組む。


「村を奪還したかったんだ! アンタとならできると思ったんだ! そもそも言えば、俺が強ければ、村が奪われることなんてなかったんだ!」


 心を抉るような叫びを聞いたララの目から、一筋の光るものが流れた。

 彼の言葉は、状況を多くは語っていない。それでも、その震える唇が、鋭い口調が、その壮絶さを安易に想像させた。

 だが、それでは前に進めない。


「たらればの話をするだけなら、そこまでにしておけ」


「は?」


 横目で見る少年の顔は、どす黒い感情に染まっていた。


「そんなことを言っていても仕方がない」


「マザランさん!」


 再びララに怒られる。いい気分はしないしさせないが、話は聞いて欲しい。俺は彼女を手で静止すると、『悲劇の少年』へ言葉を掛ける。


「そもそも、今回の件で行くことを決意したのも、お前に指示したのも、勝てなかったのも、全て俺にも責任はある」


 ついでに言えば村人を助けた後、再び誘拐された事件を防げなかったのも、想定できなかった俺に責任はないとは言い切れない。言わないが。


「――でも!」


 言い訳に等しい反論を述べようとする少年に被せて叱る。


「思い上がるなよ、クソガキ。貴様のその手で出来ることなど、大したことはない。精一杯やった結果がこれだ。後悔など、クソの足しにもならない」


 耳奥で雨の音。

 悔しそうに唇を噛むルインが、再びあの仮面の男と被る。

 変身前の姿の彼はいつも怒りに燃え、正義の為と口にする彼を追い詰めれば、悔しそうに唇を噛むばかりだった。吹っ切れた彼はその後、世界は救えたのだろうか。

 いや、今はどうでもいい。


「俺は、ルイン、お前さんに感謝をしている。あそこで無理矢理連れ出してくれなければ、俺は死んでいたかもしれない。こうして生きているのは、他の誰でもないお前のおかげなんだよ」


「マザラン……」


 彼はすでに溢れそうだった。それを瀬戸際で抑えるこの少年は、強い。


「だからこそ、次に進める」


「手を貸してくれ、マザラン」


 決意が戻った目でこちらを覗く。


「俺だって、情報をゲットしているんだ」


「そうか。ならば聞こう」


 彼が得てきたのは、村人とグロリアの所在について。

 村人はどうやらアクセルの町に囚われているらしい。破壊されたコロシアムを再建させ、そこで再び金稼ぎをするために。

 そして、グロリアについては知らないとの一点張りだった。


「だが、あのボスの態度を見る限り無関係とは言い辛いな」


「うん。でも、何で急に戦おうとしたのかな?」


「もしかして、初めから騙し討ちをするつもりだったとか?」


 ララが顎に手を当てる


「その線も考えられるが……」


「グロリアは間違いなくあそこにいたってことだよね。で、探しに来たわけじゃないなら自分が優先、探しに来たとなれば話は別」


「何が言いたい?」


 ルインは小さな頭を抱えてうんうん唸ると、


「グロリアは初めから捕まっていなかった、ってのはどう?」


「ほう」


 今までの予想を覆す推測に、続きを待つ。


「攫われたと思っていたのが間違いだったんだ。あのおじさん、村を隠れ蓑にしてた」


「つまり、ハナからグルだったって事か」


 そう考えれば、筋は通らなくはない。

 探しに来たわけじゃないなら、魔族撤退中に再び隠れることができる。

 だが、探しに来たとなればすぐに見つけられる可能性がある。ならば、逃げる為の時間を捻出しなければならない。それがあの戦いだった。あわよくば、殺すと。


「あ、でも、人間に従う魔族なんているのかな?」


 自分で言っておきながら、眉間に皺を寄せて疑問点を挙げるルイン。


「あの態度を見ていれば、保身の為に協力してもおかしくはないだろう」


「それだと時間稼ぎの為に自らを差し出すなんておかしくないですか?」


「それもそうか……」


 繋がりかけた鎖は、再び宙を舞った。


「確かめようにも、あのボス含めて魔族はみんな殺されちまったしな」


「殺されたと言えば、アイツ。何なの?」


 あの黒ローブの男。明らかに殺意をむき出しにしていた。魔族を蹂躙した圧倒的な強さ。その気配に俺も気づけなかった。そして、何かが引っかかっている。


「わからない。ただ、何かが引っかかるんだよな」


 フードのせいで顔を拝むことはできなかったが、何処かで会ったことがある気がした。


「マザランさん、記憶が……」


「記憶?」


 首を傾げるルイン。彼には言っていなかったな。それを突っ込むと話が拗れるので、触れることなく話を続ける。


「……殺し方。アレ、見覚えが無かったか?」


「殺し方? ……あっ!」


 ルインが声をあげた。


「そう、手足を斬ってた」


 言いながらルインは口元を押さえた。あの光景を思い出したのだろう。


「それって」


 何かに気が付いたララに頷く。


「ああ、一連の殺人事件の中で、バラバラにされた遺体があったはずだ。もしかしたらアイツかもしれない」


 そして、思い出すのはシーマの最期。


「シーマが殺されたとき、宿の屋根の上に人影を見たんだ」


「じゃあ、この事件の犯人は――」


「あの黒ローブが一番怪しいかもしれない」



 犯人が分かったところで、こちらから確保に向けた動きはできない。

 あの強さなら、確かにヤンググラスのメンツを全員殺害できたとしてもおかしくはないが、それはつまり、俺達では太刀打ちできないということだ。


「王都の方へ、依頼を発行しました。高レベルかつ、Aランク対象にしてます。早くても二日か三日はかかると思いますが……」


「さすが、動きが早いな」


「えへへ」


 頭を撫でると、嬉しそうにはにかむ敏腕受付嬢。尻尾があればブンブンと振っていたに違いない。

 残された世界の中央に位置する王都。そこは中心だけあって、腕利きの冒険者も多いのだとか。そのうち行ってみたいものだ。


「今日は疲れたから、一旦ワイバーンへ戻るよ」


 ルインは弱々しく残した。本当に疲れていそうだ。


「わかった。ゆっくり休めるといい」


 ギルドの前でルインを見送ると、袖が引かれる。


「マザランさん。その……」


「?」


 彼女はもじもじとしながら、


「今晩、予定はありますか?」


 と、上目遣いで訴えてきた。

 正直疲れていて、早く休みたい。だが、散々ララには世話を掛けた。


「いや、ないが」


 だから、できる限り応えたかったのだ。

 その依頼は、


「じゃあ、またあの店で飲みませんか?」


 断る理由のない話だった。



 その夜。いつもの酒場に俺達は来ていた。


「事件の進展に乾杯」


「乾杯」


 酒を喉に流し込む。

 味はしなくとも、雰囲気で楽しめる。それに、酔わない訳ではない。


「進展しただけで、まだ解決してないけどな」


「そんなこと、今はいいじゃないですか!」


 運ばれる料理を次々と頬張るララ。彼女の小さな身体の一体どこに格納する場所があるのだろうか。不思議に思いながら串焼きを喉へ押し込む。


「いつも心配かけてすまんな」


「本当ですよ! アナタは無茶しすぎなんです! 死にたいんですか?」


「そ、そんなことはないが……」


 自分、一度死んでいる身故に何も言えない。


「何が『思い上がるなよ。貴様のその手で出来ることなど、大したことない』よ」


 声のトーンを落として、一体誰の真似をしているのだろうか。癪に障る。


「どっかの『誰かさん』にも同じことを言ってあげたいですよ!」


「そ、その『誰かさん』は誰なんだろうな……」


 目を逸らしながら、干し肉を乗せたパンを口に運ぶ。

 いつもにも増して料理が不味く感じた。

 と、その視線の先に見覚えのある女性と目が合う。

 濃い茶髪を捻って肩から垂らした、スラリと手足の長い女性。

 彼女はこちらに気が付くと、にこやかに手を挙げて近づいてきた。その歩き方は軸がしっかりとしており、隙がない。まるで、生前見たモデルのようだ。


「あらぁ! マザランさんじゃない!」


 彼女を見たのはギルドだ。

 ララの同僚で、年齢も二十代半ばから三十代前半のお姉さまタイプの女性。

 名は確か――


「……クルトさん」


「あらあら。ララちゃんも居たの?」


 声を掛けられて、初めてララの存在に気が付いたかのような素振りをする彼女――クルトは、口元に笑みを浮かべていた。


「ふーん、そういうこと。ララちゃんも隅に置けないわね」


 切れ長の目をキュッと細める彼女に、


「別に、そんなんじゃないです……」


 と、縮こまる敏腕受付嬢……の見る影もない一人の女性。


「どうも」


 俺が軽く会釈すると、


「そっか。てことは、マザランさんは今フリーって事なんだ!」


「なっ――!」


 絶句するララの目の前で、俺の隣に座って見せた。

 その距離、何とゼロセンチ!


「アタシね、ずっとイイと思ってたんだ」


「な、何がかな?」


 吐息が首にかかってこそばゆい。


「だって、滅茶苦茶強くて、カッコいいじゃない?」


「そ、そうか?」


 動揺する俺の手からジョッキを奪い取り、彼女はそれを一気に飲み干す。

 まだ中ジョッキの半分以上残っていたはずだが。


「はーい、おかわり二つ!」


 机上のナフキンで口元を軽く拭い、近づいてきた店員に空のジョッキを渡すとさっさと行かせた。この女、できる。


「クルトさん、近すぎません?」


 口元をジョッキで隠しながら、ギロリと睨むララ。


「そうかしら? マザランさんは、嫌?」


 小首を傾げるクルト。


「――っ!?」


と、腕に柔らかい感触。


「アア!?」


 青筋立てるララのことなどなんのその。


「ダメ?」


 クルトの艶っぽい唇、ぱっくり開いた胸元からはとても豊かなたわわが二つ実っている。


「やだ、エッチ」


 柔らかな手が頬に触れた。

 もう酒が回ってきたのか、目の前がチカチカする。

 と、凄まじい殺気を感じた。その先には、鬼の形相のララ。


「ク~ル~ト~さ~ん?」


「ひぃ」


 うっかり口から変な声が漏れる。


「やだ、ララちゃん。折角の可愛い顔が台無しよ?」


「誰のせいだと――!」


「うふふ。じゃあ、ララちゃんが怖いからアタシは行くね」


 彼女は最後まで余裕を崩さなかった。あの女、できる!

 と、去る前にこちらへ顔を近づけ、


「あんまり他の女の子をやらしい目で見ちゃダメなんだゾ!」


「え――?」


 チュッと頬に柔らかい感触。キスをされたと思った時には、彼女は笑顔で店から出ていった後だった。


「あの女ああああ!」


 ふと前を見ると、鬼の形相は更に悪化していた。魔界貴族もビビッて逃げ出すのではなかろうか。


「お待たせしました」


 何も知らぬ店員が酒を二杯運んできた。が、その二つのジョッキは一瞬で消え、戸惑う店員の前で中身も一瞬で消える。


「ヒック。おかわり。強いの頂戴! ヒック」


「は、はいぃ」


 怯える店員の手に空のジョッキが託され、逃げるようにカウンターの奥へ消えていった。


「あ、あの……ララさん?」


「何でしょう? ヒック」


 目がトロンとし、顔を上気させたララがこちらも睨む。


「いいれすか? マザランさんはカッコいいのれ、気を付けれくらはい!」


「あ、ああ」


 彼女の口から洩れる臭気に顔を顰める。

 油で艶っぽくなった唇には一切惹かれず、その胸元は、先程の立派な実りと比べると、少々心もとない。ないとは言ってないが。


「今、私を見て失礼なことを思いましたね?」


 あの、急に冷静になるのやめてもらっていいですか?



「で、俺がいない間は何もなかったか?」


 一度仕切り直し、落ち着いて尋ねる。


「ありましたよ。えーっとね、ノアさんが走り回ってた」


「ノアが? 何で?」


 ララの呂律が若干怪しいが、先程よりはマシか。


「何かね、子供がどっか行っちゃったんだって」


「子供? 誰の?」


「ノアしゃんの!」


 驚いた。彼女は子持ちだったのか。


「シングルマザーだってさ。かなり大変そうだった!」


 片親……。俺も同じく片親だった。その母親がどれだけ大変かは、よくよくわかっているつもりだ。


「マジか。で、見つかったのか?」


「ぜーんぜん。情報は来てないよ。でも、いつものことだから大丈夫だって」


「ほ、本当かよ……」


 よくこんな物騒な時期にそんなことができたもんだ。

 母親として失格ではないかと思ってしまうが、彼女には彼女の事情がある。余計な口出しはできまい。


「それと、事件のこと気になってたみたいだから、ワイバーンが怪しいかもって話と、ペンダントを見せたんだ。そしたらいなくなっちゃった」


「ワインバーンが怪しい? どうして?」


 その話はそのタイミングでしていなかった筈だ。


「ノアさんと会うちょっと前に、ワイバーンの二人が探してたの。ペンダントは何処だって」


「あ」


 そうか、あのときペンダントはルインが持ち去っていた。

 失くしたワイバーンが探しにくる。事情を知っているララは必然的に怪しいと考えるところだ。


「あくまで、怪しいとまでしか話してないから、きっろらいじょーぶ……」


 彼女はうつらうつらとし始める。もう限界か。


「今日はもう帰ろうか」


 会計を澄まし、店前で別れる。


「本当に送っていかなくていいのか?」


「ぜんぜんらいじょーぶ!」


 と、へにゃへにゃなサムズアップ。不安だ。


「ほら、乗りな」


「え? いいろ?」


 差し出した背中に飛び乗るララ。


「えへへぇ。マザランさんの~背中~」


 上機嫌に歌い始めた。


「歌はいいから、家の場所を教えてくれ」


「え~。うちを知ってろうするつもりれすか? あ! えっちなのはらめれすよ!」


「いや、しねぇよ……」


「む~! 私はそんなにみりょくないってことれすか! そりゃ、あんなないすばりぃじゃないけろ、まったくないわけじゃないれすから~ね!」


「おい、首を絞めるな!」


 どうやら、相当根に持っているらしい。酔っ払いと女が非常に面倒くさいのは全世界共通なのか。


「わかったから。家は何処なんだ?」


「えーっとね、あっち!」


 と、冒険者の宿屋街を指差す。


「いや、そっちは俺の家だ」


「うん、きょうはそこにとまる!」


「何言ってるんだ!?」


「くー」


「寝やがった……」


 幸せそうに寝息を立てるララ。


「仕方がない」


 酔った女性を連れ帰る、と聞くと人聞き悪いが、そんな状況でないのは確かだ。今回は、イレギュラーなのだ。仕方がないのだ。うん。


「とはいえ……」


 心臓の鼓動が早い。それは酔っているからなのか、それとも。

 余計な思考を振り払っている間に、俺は自分の部屋へと辿り着いてしまった。


「さて、どうするよ」


 ベッドに横たわるララ。スカートからは細く引き締まった健康的な脚が、月夜に照らされて妖しく覗く。

 彼女が寝返りをうてば、その絶対領域から秘密の花園が覗きそうになった。それを僅かに残された米粒ほどの理性が引き留める。

 唾を飲み込み、彼女の側へと腰掛ける。天使のような微笑を浮かべて眠るその顔に手を伸ばす。

 すると、


「もう、手を出してはいけませんよ」


「――っ!?」


 そう零してドキリとする。

 罪悪感に苛まれながら、その手を引っ込めた。

 彼女は続ける。


「今度こそ、死ぬかもしれません……」


 そして、再び寝息を立て始めた。どうやら、寝言のようだ。

 夢の中でも、俺の心配か。

 どうしてこう、俺なんか気にかけてくれるのか。

 隠しごとや嘘だらけの、根っからの悪人な俺なんかを。

 ズキリと痛む胸を押さえ、俺は宿を出る。

 どうやら今日は飲み過ぎたらしい。

 身体は限界に近いが、今はまず酔いを醒まそう。

 そうやって夜風にあたっていると、なにやら遠くが騒がしい。


「何事だ?」


 俺は騒ぎの方へと歩を進める。

 近づけば近づくほど、胸騒ぎが大きくなる。

 この方角は、グロリアやワイバーンの滞在していた宿だ。

 宿が見える頃には人だかりが見えてきた。

 窓越しに見えるカーテンにはどす黒いシミ。

 部屋は、ワイバーンか。

 逸る気持ちを押さえつつ、人混みを掻き分け、その場所へ。

 不穏な会話が聞こえる。脳内で文章に変換する前にそれを捨て去り、階段を上った。

 そして覚悟を決め、最後の野次馬を抜ける。


「――っ」


 息を呑む程、地獄の光景。

 血の海の中、抜刀して佇む少年がいた。


「る、ルイン――」


 真っ赤に染まった髪から血が垂れ、涙のように彼の頬を伝う。

 やがて、静かに、縋るように、そっと呟いた。


「マザラン……遅いよ」と。


私は謝りませんよ。

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