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第二十八話 復讐者、その心は燻るか

今回より第二章開幕です。

あの戦いから一夜明け……。

 目を開けて飛び込んできたのは、質素な木造の天井だった。

 昨晩の出来事から一夜明け、冒険者向けの宿で泥のように眠っていたのだ。

 あんな出来事があったからか、見たくもない夢を見ていた気がするが、霞がかかって上手く思い出せない。あんなもの、思い出す必要もないだろう。

 窓を開ければ、強烈な日差しが目を焼く。

 眩しさに目を細めると、既に高いところまで日が昇っていた。

 これ程寝過ごすのは久しぶりである。

伸びをすれば、背中から小気味いいバキバキという音が鳴った。


「さて、行くか」


 最低限の貴重品と、彼らの生きた証をまとめ、部屋を後にする。

 街に出れば、多くの人で賑わっていた。それもそうか。昨日の事件など、この街の誰もが知らず、いつもの日常がただそこにあった。


「あれ、マザランの旦那。こんな時間に宿から出てくるなんて珍しいな」


 宿を出てすぐ、同じ冒険者で初老の男性に声を掛けられる。

 名前は確かセドリックといったか。


「そっちこそ、昼時じゃないか」


 装備を整えながら話すのを見るに、彼もまた寝起きなのだろう。


「まぁ、ね。年甲斐もなく張り切り過ぎたからかな! はっはっは」


「……そうか」


 状況と、眠そうな目をして妙にスッキリした表情を鑑みるに、恐らくそういうことだろう。その点についてはこちらも向こうと同じであるということだ。


「旦那もハッスルしたんで?」


 ニヤニヤとこちらに詰め寄るセドリック。女の匂いが微かに残っている。


「生憎、俺はそういうのを好まないのでな」


「またまた~。若いんだから隠さなくていいぞ?」


 昼から酔っているのかと問いたくなるようなその態度に溜息が零れる。


「それともまさか、ソッチって事か?」


 今度は訝しげに睨んできた。そんな訳あるか。いや、訳はないか。


「そうではないが、あまり興味がないだけだ」


「あらそう。他の三人組はもっと若いから好きそうだがな」


 アイツ等かと、瞼の裏にあの三人を思い浮かべる。彼らが普通に冒険者をやっていたら、もしかしたらそういうことも好きだっただろう。だが、生前の彼らにそんな余裕はなかった筈だ。


「そういえば、こんな時間に出てきて、アイツ等待っているんじゃないか?」


「あ、あぁ……」


 その問いかけへの反応に困るが、


「アンタもいいのか?」


「俺は大丈夫さ~。もう置いていかれてるだろうしね~。ぼちぼち行くとするよ」


 聞き返せば、焦る様子もなく腰を摩りながらギルド方面へ消えていった。

 これが割と日常茶飯事なのかもしれない。


「俺も行かないと、な」


 なんと伝えればいいのかはわからないが、とりあえずララを捕まえてみるか。



 ギルドに着くなり、俺はララの対応が空くのを待っていた。

 今対応しているのは……セドリックか。カウンターに頬杖をつきながらニヤニヤしている。

 対するララは作り笑いというより、苦笑いをしていた。その証拠に、眉がつり上がり、眉間に皴が寄っている。

 急ぎではないが、どれ、助け船でも出すとしようか。


「なぁ、この依頼を終わらせたら、今晩一緒に飲まないかい?」


「えぇ、でも今日は終わる時間わからないですし……」


「俺はいくらでも待てるぜぃ?」


「待つ暇があるなら、まずは仲間のところに早く向かった方がいいんじゃないか?」


 ナンパ中のおっさんに割り込み、その顔を覗き込む。


「げ、マザラン!」


「マザランさん!」


 それぞれ、対照的な反応を見せるおじさんと娘。

 その反応的に、入って正解だったようだ。


「じゃ、邪魔すんじゃないよ……」


「後がつっかえているんでな。それと……」


 彼の耳に近づき、囁く。


「他の女の匂いをつけた状態で口説くのはどうかと思うぞ」


「何っ⁉」


 彼は慌てて両袖の匂いを嗅ぐ。


「じゃ、用が済んだら俺でいいよな?」


「……ちっ。わかったよ、旦那」


「助かる」


 彼は心底嫌そうな顔をして立ち去って行った。

 時折匂いを気にしながら首を傾げていたが、アレは気づかないのも仕方がない。


「いつもいつも、ありがとうございます」


 ララに向き直ると、彼女は深々と頭を下げる。


「言うほどか?」


「はい! よく絡まれてしまうので、その度に」


 確かに、そんな気もする。


「見た目がいいのも、罪なものだな……」


「えっ⁉︎」


 俺の呟きに驚くララ。


「わ、私、そんなにか、可愛い、ですかね……?」


 上目づかいでこちらを見る彼女に俺は頷く。


「ん? ああ。俺個人の感想でしかないがな」


「十分です!」


 カウンターを乗り出して、食い気味に答えるララ。

 その気迫に押されながら、


「あ、ああ、それはよかった」


 と、余計なことを言ってしまったかと心の中で反省した。


「そ、そんなことより! よく無事で帰ってきてくれましたね! 今日も遅いからずっと、ずっと心配してたんですよ!」


 上気していたその表情が徐々に崩れ始める。

 流石に周りの目がある中でそれは良くない。それに、話すべきことがあるのだ。


「そのことについて詳しく話したい。別室に行けるか?」


 彼女の瞳に陰りが見える。一瞬の間の後、


「……わかりました。すぐに手配します」


 と、袖で目を拭って答えた。



「まずは、報告が遅くなったこと、申し訳ない」


 俺は机に手をついて頭を下げる。


「い、いえいえ! そんな謝らないでください! 私なんて、一職員ですし……」


 少し寂しそうにそう言った。口ではそう言うも、内心は不安で仕方がなかったのだろう。報告をないがしろにしたことは非常に申し訳なく思った。

 だが、その時の俺にそこまでの余裕があるかと問われれば、何とも言えないが……。


「まず、報告だが……」


 俺は彼らの遺品と骨壺を机の上に置く。


「これって……」


 ララが震える手を伸ばしかけ、ハッとして引っ込める。


「……すまない」


「……」


 ボロボロと、彼女はその制服に沁みを落としていく。


「うわああああああああああああ!」


 声を上げ、彼女は大粒の涙を流した。時折つっかえながらも、声が枯れそうなほど、泣き叫んでいた。


「……」


 俺はそれを耳にしながら、ただ俯き、目を閉じ、腹の底に蓄えていく。

 これは、俺の責任なのだと。

 彼女の咽び泣く声が途切れるまで、何も言わずに待ち続けた。

 永遠にも思える苦しい時間がやがて終わり、彼女の声がすすり泣く程度まで落ち着いたところで、俺は口を開いた。

 ことの顛末を伝えた。ただ、アエロと俺の正体は伏せたまま。故に伏せられるところは多い。だが、状況は伝わった筈だ。

 その話を聞きながら、ララは自分を取り戻すと、顔を拭いて向き直る。その眼は腫れているものの、力強さが戻っていた。


「以上だ」


「わかりました。まず、私から言えることですが、偉そうなことを申し上げます。マザランさんは自分を責めないでください」


「……」


 何故、ここの人は皆、俺に優しいのだろうか。これほどまでに気遣ってくれる人はそういるものではない。その優しさがまた、俺の胸を締め付けた。


「苦しい顔をしないでください。ご自身を責めたい気持ちはあるでしょうが、悪いのは『アップカット』と魔界貴族です。それをはき違えてはいけません」


「それは、わかっている」


「マザランさんは、今後どうされますか?」


 今後どうするか。その腹は決まっていた。

 あの三人の顔を思い浮かべ、


「まずはアイツ等の故郷を取り戻す。そして――」


 彼女の真剣な瞳に応える。


「魔界貴族を根絶やしにする」


 彼女は複雑な表情を浮かべるが、すぐに目を閉じて首を横に振る。


「覚悟は決められたようですね」


「ああ」


「であるなら、これから踏む手続きはこうされた方がいいかと思います」


 冒険者のパーティで脱落者が出た場合の制度を説明され、俺はその手続きを彼女の案に基本従いながら進めていく。

 結論をざっくり言うならば、チーム名を残し、自分がリーダーになることで、現在のランクを引き継いでいくというものだ。


「お仲間はどうされますか?」


「それは、暫く持たない様にしようと思う」


「これ以上、巻き込む人を増やしたくない。そう言いたいのですか?」


「……」


 今日のララは鋭い。

 内心を見透かされているようで、居心地が悪く感じる。

 確かにそうだ。俺はこれ以上仲間が死ぬところを見たくないのだ。

 ――昔はそんなことなかったと思うのだが。


「単独では行けないクエストも多いです」


「ああ。だが、別のチームに便乗すればまだ何とかなるだろう?」


「単独行動をした場合、何かあった時に逃げられないかもしれません」


「それはそうだろう。その時は、その時だ」


「何かあった時に、誰にも気づいてもらえないかもしれません」


「誰も悲しまないさ」


「私は――!」


 ドンと机に拳が振り下ろされた。


「私は……」


 髪が逆立ち、肩で息をする。その表情は伺い知れないが、怒っていることだけは分かった。


「いえ、私情を挟み過ぎました。申し訳ございません」


「俺も……すまない」


 微妙な空気が流れる。

 彼女は椅子に座り直すと、こちらを見ることなく


「ただ、忘れないでください。アナタの命はアナタだけのものではないということを。それを実感しているはず、です」


「……心に刻んでおく」


 残りの手続きを済ませ、ぎこちない雰囲気のまま、俺達は部屋を後にした。



「どうしてだよ! 魔族を倒しに行きたいんだよ! どうして誰も俺に力を貸してくれないんだよ!」


 受付に戻ると、甲高い叫びがその空間を切り裂いていた。

 静まり返った広いエントランスに集まる人々の視線の先。

 騒ぎ立てる存在。


「お前は――」


 そこにいたのは、かつて俺と共にコロシアムで戦ったあの少年の姿だった。


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― 新着の感想 ―
[一言] どうもはじめまして。 作品拝見しました。 とても面白かったです。 (≧▽≦)
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