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第二十三話 再受注

「わーい! マザランありがとー!」


 白いポンチョのような服を着てはしゃぎ回るアエロ。

 サイズ感は間違いなくダボダボで大きすぎる。俺の眼は全く当てにならないことがわかった。

 だが、彼女の翼が引っかからずに袖へすっぽり隠すことができる為、結果オーライだ。

 正直、かなり似合っている。


「ほう。中々似合っているじゃないか」


 ギュエロもまた、マグカップ片手に感心しながらその姿をまじまじ見ていた。

 何とも微笑ましい、小さな天使だ。

 そんな彼女が急に動きを止めると、


「ねぇねぇ、わたしもまちにいきたい!」


「なぬ!?」


 ギュエロが盛大に茶を噴出する。


「ギュエロきたなーい」


 嫌そうな目のアエロを他所に、彼は自分の粗相を拭く。


「何を考えておるんじゃ。魔物が街に行けば討伐されるに決まっておろう」


「ぎゅえろ、すぐだめっていうからきらーい!」


「嫌いで結構!」


 睨み合う彼ら。親子喧嘩でも見ているようだ。

 だが、ギュエロの言い分に賛成だ。彼女はあくまで魔物。

 魔物が街に出れば、間違いなく殺される。そんなところに連れていくなどとんでもない! というのは当然だろう。


「いいもん! マザランにつれてってもらうもん!」


 アエロは俺の後ろに隠れると、舌をべーと出す。

 俺は彼女に向き直ると、


「すまんが、連れていくことはできない」


「え……」


 信じられないとばかりに見開いた眼が潤み始める。


「街は……危ないんだ」


 どう言ったら納得してくれるのかを考えながら、言葉を選ぶ。


「どうして?」


「それは……」


 何が正解なのだ。

 誰か、教えてくれ。


「それは魔物がみんな怖いからじゃ」


「アエロ、こわいの?」


 震える声。俺は衝動的に抱きしめてしまう。


「アエロのこと、みんなきらいなの?」


「そんなことはないよ。そんなことはない」


 その緑の頭を優しく撫でる。

 顔を上げると、ギュエロはバツの悪そうな顔で唇を嚙んでいた。


「とにかく、街には行かせない。以上じゃ」


 彼は寝室へ消えていく。

 胸の中では一人の少女がむせび泣いていた。


「……」


 ギュエロには嫌な役目をさせてしまったな。

 どうすることもできず、俺は彼女が疲れて眠るまで頭を撫で続けた。



 翌朝。


「おはよう。よく眠れたか?」


「もちろん!」


 メンバーと合流する。

 彼らはすっきりした顔持ちだった。


「アニキは……そうでもない?」


「あ、いや。大丈夫だ」


 実際は普段より眠れなかったのは確かだ。


「昨日は昼寝が長かったッスもんね!」


「五月蝿い」


 げんこつをライの頭にぶつけた。


「痛い!」


 さて、今日はさらなる勝負の日だ。


「今日こそ、アイツに挑む、か」


「おう! ついに、行くぜ!」


「もう、負けませんよ!」


「今度こそやってやるッス!」


 全員、やる気は満々だ。

 あの『森の怪猪』に、再挑戦をする。



 そもそも依頼が残っているか不安だったが、


「ええ、ありますよ。今の皆さんなら絶対勝てます!」


 ララが俺の手を握ってくれる。

 それを見た仲間たちはニヤニヤと見つめてきた。


「な、なんだ?」


「いや、何でもないッスよー」


 何もなかったらそんな反応をしないと思うのだが……。


「おや? ヒーロー達じゃないか! 君らはもしかして、挑むのかい?」


 見知らぬ男性が話しかけてきた。


「おう! これでBランクだぜ!」


「そうかそうか! 頑張れよ! 俺、昨日は君らに賭けていたんだ! だからおすそわけさ!」


 そう言って、彼は大量の魔石が入った袋をくれた。ずっしりと重い。


「こんなにいいのか?」


「もちろん! 儲けさせてもらったしね。はっはっは!」


「ほう、貴方も彼らに賭けたのですか」


 今度は礼装に身を包んだ紳士。

 こんな格好をして、何故冒険者ギルドにいるのだろうか……。


「もしかして、貴方も?」


「ええ、もちろん! 彼らには光るものがありましたから!」


 そう言って、彼は小さな瓶を差し出す。中には緑色の液体が満たされている。


「こ、これ――! いいのですか!?」


 ヴァイスが興奮して声を上げる。


「なんだ、これ?」


「これは回復薬です! 高くて庶民には買えない代物です!」


 その金額は何と、一本で一月分の生活費が飛ぶレベルだった。


「でも、こんな怪しい物、飲んで大丈夫か?」


「大丈夫です。むしろ、ありがたく頂きましょう!」


「どんな効果があるんだ?」


 その問いにヴァイスはニヤリと笑う。


「回復するんです。魔法を使わずとも」


「ほ、本当か!」


「ええ……凄いでしょう?」


「ああ! 凄い!」


 怪しさは満点だが、なかなか手に入らない代物だと思うと、ありがたく頂戴するほかないだろう。


「ぜひ使っておくれ。期待しているよ」


 彼はにっこり優しげに笑ってその薬を握らせる。それも、全員に一本ずつ。


「こんなにもいいのか!」


「俺からもこれを使ってくれよ!」


「これも!」


「アイル様! これ使って!」


 人が徐々に増え、気が付けば人だかりができていた。

 おい、アイルファンが紛れていたぞ。ファンがいたのか君。


「わわ!」


「す、凄いッス」


 気が付けば、何故か俺達は新品の高級装備に生まれ変わっていた。


「本当は使い慣れたものの方がいいのだが……」


「でも、これでいいじゃない!」


 アイルの後ろには若い女性の集団が……。

 いつの間に。


 皆の想いを受け取り、俺達は森へ出発する。折角お金を貯めたのに、皆のおかげで準備が揃ってしまった。


「勝ったらさ、みんなでパーっとやりたいよね!」


「大賛成ッス!」


 能天気な彼らは終わった後のことに花咲かせる。


「おいおい。そういうのは縁起が悪いんだぞ?」


「え、何で?」


「……そういうもんなんだよ。戦い前に終わった後の話をしてはいけないのさ」


「ふむ。何故なのでしょうか……?」


 深いことを考えないライとアイルはへらへらしながら前を行く。

 ヴァイスだけは変な方向に興味を持っていた。



 そうこうしている間に、生息地へ辿り着く。

 前回戦ったポイントには痕跡が残っており、その激しさを物語っている。

 荒れた地面の上をよくよく観察しながら、周囲を警戒。いつ出てきてもおかしくはないからな。

 今回も、キノコトラップは用意している。

 それも、農家の方が先程渡してくれたものだ。これが一番掛かりやすいらしい。

 そして、大量の魔石。大ダメージを狙うのだ。


「これ、もしかしたら奴の物かもしれません」


 ヴァイスが見つけたのは、木の皮が剝がれたような痕跡。


「剥がれてるッスか? でも、何で?」


「移動する際に擦れたのでしょう。ほら、隣も」


 隣の幹にも同じ痕跡。地面を見れば……。


「あ! 足跡がありました!」


 ヴァイスが指さす先には、大きな足跡。


「でかした! 後は追うだけだな」


 俺達は森の中の獣道を、足跡伝いに歩き続けた。

 歩くだけで体力が削り取られるが、ここまで鍛えてきた俺達の体力は伊達じゃない。

 やがて、低い草木の開けた場所に出る。


「ここは?」


「恐らく、寝床でしょう。草が潰れています。この周辺に、罠を仕掛けます」


 前回同様、餌のキノコと大量の魔石を用意する。

 今回は贅沢にたっぷり使っている。致命傷にならずとも、戦いが有利になる程度は力になってもらいたいところだ。


「後は、待ちましょう」


 少々離れた位置で、奴が来るのを待つ。

 今か、今かと待ち続け、数十分は経っただろう。

 のっそりのっそり巣へと戻ってきた。


「後は、罠だな」


 緊張した面持ちで構える一同。

 寝床に入る前に、猪は周囲の警戒を始める。

 祈りが届いたのか、奴はふらふらと罠へ向かう。そこに何があるのか知らずに。

 そして、その足がある地点を踏み込んだ瞬間。大爆発が発生し、強烈な熱波と衝撃波が俺達を襲う。

 砂埃が舞う中、薄目で様子を伺う、

 

「ま、そう簡単にやらせてくれやしないよな」


 奴は雄叫びを上げ、これを仕掛けた相手を探して周囲に目を配らせる。その小さな瞳には怒りの炎が燃えていた。

 そんなに怒っても仕様がないだろう? 二度も引っかかったお前が悪いのだから。


「効いてはいるみたいですね。牙が折れています」


 ヴァイスの言葉によく見てみると、奴の立派な牙は根元から砕けていた。

 ダメージは確実に通っている。


「さて、と。やりますかね」


 アイルの言葉に、全員がポジションをとる。

 もう、以前の俺達じゃない。


「行くぞ!」


「おう!」


 いざ、決戦の時。



 一方その頃。

 彼らを見送った直後に、可愛い来客の対応を私はしていた。

 白いポンチョ風の服を着た、エメラルドグリーンの髪を持つ幼い少女がギルドの中に入ってきたのだ。


「どうしたの?」


 キョロキョロと辺りを見渡す彼女に問いかける。

 彼女はこちらに気づいてあっと声を出す。


「ねぇねぇ、マザランしらない?」


 彼女の口から出たのはよく見知った男性の名前。

 まさか、彼の娘? 実はもう、伴侶がいたとか?

 眩暈がした。それなら飲みに行く時に食事をしてから来るのは頷ける。


「マザランさんならよく知ってるよ」


 そう言うと、彼女の目は輝いた。


「ほんと!? どこにいるの?」


 辺りをキョロキョロと見渡すも、見つからない。

 それもそうだ。今さっきイノシシ退治に出かけたところなのだから。


「ごめんね。さっきお仕事で出掛けちゃった」


「え……」


 彼女は悲しそうな顔で今にも泣きそうだ。


「あー、そうだ!」


 このままこの子を放っておく訳にはいくまい。


「じゃあ、帰ってくるまでお姉さんと遊ぼっか!」


「いいの!? やったー!」


「うふふ」


 ぴょんぴょん飛び跳ねる少女。

 ダメだ、可愛すぎる。

 ダボダボの裾の上から手を握って、私は応接室へ連れていく。

これは誘拐じゃなくて、迷子の対応であると自分に言い聞かせたくなる程、少女に心奪われていた。


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