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第二十一話 卒業試験

 朝。カツアゲに近い、ぼったくり価格の受講料回収の日。

 金はある。実力はまだ分からないが、戦闘になっても構わない程、このメンバーは強くなった。


「集まったな。さて、行こうか」


 決意を瞳に宿す者、口元だけに笑みを浮かべる者、不安に俯く者。三者三様の心持だ。

 だが、ある意味でいつも通りと言えよう。

 アイツ等は恐らく払えないと思っているに違いない。


 ギルドの中に入る。今日も、大勢の人が行き交い、賑やかな様子だ。

 冒険者だけに限らず、商人や農家も含めた職業の坩堝にもなっていることがその理由か。


「よう。約束の日だな。ちゃんと持ってきたか?」


「持ってこなかったら、分かっているよな?」


「まぁ、考える頭がないようでしたら、教えて差し上げますがね」


 いつもの、人をイラつける言葉の連投が聞こえる。

 声の方、彼らはテーブルについてコップを傾けていた。

 素晴らしい歓迎だ。応えてやらねばなるまい。

 彼らの方へ出向き、その机を叩きつける。


「そちらからお声を掛けて頂き、光栄ですよ。探す手間が省けましたからね」


 リーダーである金髪の眼を覗き込み、視線を外さない。


「チッ」


 舌打ちして睨みつけてくる。不満げに睨んでも大した脅しにならないぞ。


「そんな風に来るってことは、ちゃんと持って来たんだよな? ああ?」


 顔をかなり近づけ、見上げるように睨んできた。


「周りに人がいますから、もう少し声のトーンを落としてくださいな」


 ずっと彼から目を離さないでいると、


「わかった、わかった。なら、約束の物はちゃんと持って来たんだろうな?」


「ああ。勿論」


 ライから桐箱を受け取って、机の上に置く。


「上等な箱に入れてくるなんて、粋なことするじゃねぇか」


「それだけの額が入っておりますから」


 桐箱の蓋を開ける。


「な、これは!」


 三人全員が身を乗り出す。


「どうされました?」


 彼らに尋ねる。

 その視線の先にあるのは、溢れんばかりの金貨。


「だ、だいぶ利子付けてくるじゃねぇか」


「ええ。先日のお礼も含めてですから」


 俺は三人の眼を見ていく。

 ゴリラは興奮して鼻を膨らませている。まるで、本物のゴリラのようだ。

 ただ、俺が警戒しているのは馬面だ。この面子の中で一番鼻が利くのは彼だろう。馬の嗅覚は知らないが。

 件の馬面に視線を向けた時、彼と目が合う。やはり、彼だけは見ている場所が違う。

 目が合ったからか、彼はそこに水を差す。


「気前が良すぎるではないですか。何か理由でも?」


「だから、気持ちって」


「何言っているんだ。これだけもらえるなら貰おうぜ」


 ゴリラが馬面の邪魔をする。ナイスアシストだが、


「貴方は黙っていなさい。脳みそゴリラ」


「なっ! 誰が脳みそゴリラだ!」


 彼は顔を真っ赤にして立ち上がるが、完全にスルーされる。


「それは先程聞きました。でも、それだけ出すということは、何かあるのでしょう?」


 訝しげな視線。それを聞かれたら、交渉を開始するしかない。


「ええ。こちらは差し上げます。ですが……」


 ヴァイスの持っていた麻袋を受け取り、テーブルの上に置く。

 じゃらりと重たい金属がぶつかる音が欲望の音を鳴らす。


「中身を見ても?」


 疑いの眼差しは消えず、


「全部金貨……。何を考えているのです?」


「これは提案です」


 空気が変わるのを感じた。緊張した顔つきに変わった。

 軽くあしらわれるのではないかと警戒していたが、これで交渉のテーブルにはついてくれたという訳だ。後は、彼らが乗るかどうか。


「この金貨。桐箱の中身と同額入っています」


「マジでか」


 これだけあれば、半年は楽に暮らせる。それだけの額だ。

 金の少ない冒険者にとって、喉から手が出るほど欲しいだろう。だが、タダではくれてやらない。


「我々と勝負しましょう。勝てば、こちらも差し上げる」


「負ければ?」


 馬面が緊張した面持ちで尋ねる。安心しろ。その桐箱の中身はくれてやると言ったんだ。手切れ金という奴だな。


「こちらのお金は差し上げません。それだけです」


「ほう」


 金髪は隠しきれない笑いが口元に現れている。欲望に忠実な人間は好きだ。

 ゴリラは言わずもがな。


「……ちょっと、こちらに分が良すぎるのではありませんか?」


 馬面だけが疑い続ける。

 もう少しだけ押してみるか。


「何か問題でも?」


「怪しいということです。何か企んでいるのではないですか?」


 彼は手を顔の前で組んで口元を隠す。


「企み……という程ではありませんが、彼らの願いなのです」


 そう言って、アイルを前に出す。


「町が無くなって、冒険者になるしかなかった僕らを皆さんは助けてくださった。強くしてくれた。おかげで僕らはもうランクCの冒険者です」


「ああ、俺達には感謝しかないよな」


「はい。だから、ですから、僕らは皆さんから卒業しようと思うのです」


 これが、俺達の目的。金を渡しても、また理由をつけて何か難癖付けて突っかかってくるに違いない。だから、ここで誠意と決意を見せつけ、これ以上の絡みを失くすのだ。

 その為には、まずこの賭けに乗ってもらい、俺達がその後勝つ必要がある。

 ここまでは作戦通り。さぁ、どうくる?


「卒業だと? お前ら、ふざけてんのか?」


 ゴリラが詰め寄る。


「僕たちは本気です!」


「つまりはアレか? 俺達とはもう関わりたくないってか?」


 ああ。その通りだ。


「いいえ。これ以上、迷惑を掛けたくないだけです」


 アイルがきっぱり言い切る。

 いい顔していると思ったが、よく言った。彼のポテンシャルは中々のものかもしれない。


「それとも、皆さんは我々に勝てないから乗るつもりはないと?」


「何?」


 よし、掛かった。


「格下である我々に負ければ貴方がたはそのメンツを潰され、このギルドにいられなくなる。それを恐れているということですね?」


 だが。


「フフフ……ハハハハ!」


 馬面が笑いだす。


「そういうことですか。私たちを得意なフィールドに誘い込み、そこで勝とうという魂胆ですね!」


「――っ!?」


「図星のようですね! いいでしょう! やりましょう!」


「何?」


 馬面は大声で叫ぶ。


「ここにいる皆さん! 今から私たちと彼らで決闘を行います! 向こうは四人でこっちは三人。どちらが勝つか、予想してください!」


 何を狂ったか、彼は椅子の上に立ち、建物内にいる全員へ声を掛ける。

 全員足を止め、顔を上げ、何だなんだと集まりだす。


「彼らCランクが勝てると思う奴!」


 ゴリラも一緒になって叫ぶ。

 戸惑う一同はひそひそ話している。


「じゃあ、俺達が勝つと思う奴!」


「……」


 まだざわつくだけで答える者はいない。さらにけしかける。


「俺達が勝つと思う奴!!」


「お、おー」


「おい!」


「おー!」


 半ば言わされたような形で人々は答えた。

 彼らは強者側に立つ人間。この世界も、弱者は強者に従うしかないのだ。


「どうする? 引くなら今だぞ?」


 金髪がニヤリと笑う。余裕そうで何よりだ。


「誰が引くッスか! 望む所ッス!」


 ライが食いつく。彼は初めから戦うこと前提だったからな。


「これだけのギャラリーがいます。戦うなら、すぐ外でしょう」


「……わかった」


 俺達は、先を行く彼らの背中を追う。



 ギルド前の広場にて、大勢のギャラリーに囲まれながら、俺達は対峙していた。


「アニキ、どうする?」


 アイルが耳打ちする。


「どうもこうもしない。練習通りやるだけさ」


 この闘いの指示は俺が行う。これまでの練習も半分俺が指示していたが。とはいえ、彼らに考える頭があるため、あまり必要はないのだろうが。


「さぁ、好きにかかってくるといい。格の違いを見せつけてやる!」


 金髪がこちらに切先を向けた放ったこの一言がゴングとなる。


「行くぞ!」


 金髪はショートソード、馬面はナイフ、ゴリラは鋼鉄の籠手のようなものを付けている。

 バランス、スピード、パワーと言ったところか。馬面はさらに魔法も使える為、特に注意が必要か。


「ライは馬面、アイルは金髪へ行け! ヴァイスはアイルのサポートを!」


「了解!」


 彼らは言われた通り、近いタイプの元へ行く。


「ふん! 砕いてくれるわ!」


「そんな短いリーチで? どうだか」


 鬼のような速さの拳が飛んでくる。

 なるほど。レベルが高いからこそ、人間離れした動きができるということか。だが、それに頼り切ってきた男の攻撃には隙が大きい。


「オラ! オラ! オラ!」


 振りの大きな拳を全て往なし、横に抜けたところで首筋目掛けて剣を振り下ろす。

 だが、


「ダメか」


「当たり前だ。お前みたいな低レベルに傷つけられてたまるか」


 剣の勢いに押されて地面を転がされた彼は、けろりとした顔で立ち上がる。


「チィ」


 さて、どうするか。

 ライの方を見てみる。


「せや!」


 細やかな動きで牽制を続けるライ。赤い彗星の如きスピードに馬面は対処しきれていないが、ダメージが入らない。もとい、だからこそ、無駄な体力は使うまいとしているのかもしれない。


「レベルが追いついてもいないくせに、よく勝負を仕掛けますね。そういうのを、何て言うか知っていますか?」


「俺は頭を使うのが苦手だから、そういう難しいのは知らないね!」


「そうですか、身体も小さければ脳も小さいのですね」


 馬面が駆け巡る小さな星の首を捕らえる。


「ぐっ……放せ……」


 そしてその首を持ち上げた。少年の足がバタバタと空中を走る。


「無謀というのですよ!」


「ライ! 魔石だ!」


 俺の声に反応したライが、魔石を取り出して馬面にぶつける。


「何!?」


 魔石の爆発はレベルに関係なくダメージを与えられる。そこに、攻略のヒントが転がっているという訳だ。


「やりますね……」


 咄嗟にその手を放して間合いを取った馬面。間一髪助かったライは距離を取った。


「よそ見するな!」


 その間も猛攻が仕掛けられる。


「遅いな。俺の知っている格闘戦最強の男は、この程度じゃなかったぞ」


「抜かせ!」


 彼の挙動ではあの仮面の男には到底追いつかない。

 あのスピードと渡り合った頃を比べると、大したことはない。

 故に他の戦況を見ながらでも闘える。


「さっきから鬱陶しい!」


 金髪は何度も競り上がる地面に足元を掬われながら、アイルの攻撃を往なす防戦一方になっていた。

 石畳の地面でも、その下には土がある。その土を操作して、蜥蜴男戦の時に俺達へやった『マッドウォール』の応用で足元を崩す。

 そのチャンスに攻めるという流れだが、彼もまたBランクの冒険者。伊達に攻撃は通らない。


「おい、お前ら! あの魔法使いを止めろ!」


 全体に命令を下すが、


「ちょっと、彼が遊び足りないようでしてね」


 と、ちょこまか飛び交いながら、魔石の爆破も繰り出すライに押され始めている馬面。


「はいはい!」


 と、二つ返事で答えるゴリラ。だが、彼にそんな余裕はない。


「行かせない」


「邪魔ばかりしやがって!」


 ムキになればなるほど動きは単純になっていく。

 まだ、決め手に欠けるな。このままでは千日手になりかねない。

 そう考えていた時。


「先に倒すべきは魔法使いじゃありません! 彼です!」


 馬面が俺を指さす。


「敵の司令塔を全員で叩くのです!」


「了解!」


 金髪が攻撃を避けた後、こちらに人間離れしたスピードで詰め寄る。


「何!?」


 ゴリラの倍以上のスピードとリーチの剣戟が何本も繰り出される。まるで剣が二本、三本と増えているように。

 全てを剣で受け止めるが、限界がきて剣が根元から砕ける。


「クソ!」


 金髪から間合いを取ったその時。

 後ろに跳んだ先にナイフも飛んできていた。正確には、ナイフを持った馬面の姿。ライの小柄な体では止めきれず、弾き飛ばされた姿が近くにある。


「死ね!」


「がああああああああ!」


 俺の胸元にそのナイフが突き刺さり、鮮血が飛び散る。


「アニキ!」


 仲間たちの悲痛な叫びが聞こえた。


「貴方が死ねば、後はイージー、です!」


 ぐらつく視界の中、返り血を浴びて真っ赤になった馬面が邪悪な笑みを浮かべるのが見えた。


やめて! 馬面男のナイフ攻撃で、マザランを焼き払われたら、彼の指令で繋がっているパーティメンバーまで敗北しちゃう!

お願い、死なないでマザラン!

アンタが今ここで倒れたら、ギュエロさんやアエロとの約束はどうなっちゃうの?

ライフはまだ残ってる。ここを耐えれば、アイツ等に勝てるんだから!

次回「マザラン死す」デュエルスタンバイ!

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