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第二十話 得られたものは事実なのか

「アイル、背中の傷はどうだ?」


 黒コートが消えてから、アイルの状態を見る。

 あの時、アイルは背中に鍵爪の一撃を喰らっていた。深々と刺さり、動くこともままならなかった筈だ。


「あー、まだ痛むけど――」


 胸を張ったり、緩めたりして感触を確かめる。


「うん、動くのに問題はなさそう!」


 と、はにかんでサムズアップした。


「アニキだろ? 俺に回復魔法をかけてくれたの」


「ああ。初めてで上手くいくか確証がなかった。いざとなればできるもんだな」


 素直な感想を述べると、


「流石アニキ! 本当にありがとう!」


 と満面の笑みで感謝を述べられた。


「お、おう」


 俺に男色の趣は無いが、つい、直視できずに目を逸らしてしまう。


「あ! 照れてるッスね!」


「――茶化すな!」


 ライに突っ込んだところで、笑顔が飛び交う。一先ず、こうして全員で笑えるだけでも十分だ。


「さて、やることやって帰りますか」


 リーダーの号令で蜥蜴男の前に集まる。


「アニキの過去にまつわることって、一体何だったのでしょう?」


 俺はしゃがみ込み、彼の身体をよく観察する。

 俺は赤い鱗で、コイツは青。俺は五本指全て鋭い爪が生えるが、コイツは三本指で発達した鍵爪を持つ。親指と小指の部分が無いというべきか。さながら恐竜映画で見たラプトルに似ている。腰の感じも、足が腰の横から下に伸びている形状だ。顔つきは、俺の怪人態に近いと言えば近いが、目のつき方が違うか。コイツの目は左右に離れており、よりトカゲらしさが増している。

 これは魔物で、怪人とは別物という訳だ。


「とりあえず、爪とか鱗は持って帰って、後は焼こう」


 手分けして解体作業に入る。

 不思議なことにこの世界は、生きているとレベルが低い相手から一切のダメージを受け付けないが、死ぬと関係なくなる。一体どういうメカニズムなのだろうか。

 四人もいればすぐにこの作業も終わる。

 俺達は魔石を用いて遺体を灰に変えた。


「あ、あそこに尻尾が残ってるッス」


 ライの指さす方に、コイツがアイルの攻撃を避ける為に自切した尻尾が落ちていた。


「本当にトカゲみたいだな……」


 もう冷え切ったそれを手に取る。長さは一メートル程。重量はそこそこある。


「これ、武器になったりしないか?」


「どうだろ。鍛冶屋に行ってみようか」


 布に包めてそれを持つ。


「さて、行こうか」


 立ち去ろうとする中、そわそわするヴァイス。


「どうした?」


 アイルが聞くと、


「あの石塚というか、巣なんですけど、皆で解体しませんか? 疲れているとは思うんですけど……」


 ヴァイスが言うには、後にアクセルの町を取り返したときに、この巣があれば邪魔になるとのこと。確かに、これは通行の妨げになる。


「やるか」


 荷物を一旦下し、今度は巣の前に集まる。


「あれ、何だこれ」


 巣の中に、箱が落ちていた。

 上物そうな桐箱だ。こんな場所にあるのは違和感しかない。あえて、そうしているというなら――。


「アイツの仕業か」


 あの黒コートの姿を思い浮かべる。

 彼が残した物と考えるのが妥当か。


「どうする?」


「罠――ではないと思うが、開けてみよう」


 アイルから受け取った箱は重量を感じた。

 恐る恐るその蓋を開ける。

 爆発物ではないかと全員で身構えたが、そんなことはない。


「す、凄い……」


中に入っていたのは金貨や銀貨。これらを合わせれば、明日、アイツ等に求められた金額を払うことができる。それぐらいの大金だ。


「これが依頼報酬と言いたいわけか」


「こ、これは流石に破格すぎませんか? だって、Aランク相当ですよ?」


「蜥蜴男のランクはいくつだ?」


「――っ!? まさか、Aランクあると?」


「こんなことができるかは分からないが、レベルをあえて調整した状態でよこして来たらどうだ?」


 あの男が魔界貴族の一人だとしたらどうだ? コロシアムを主宰する以上、対戦カードに実力差がありすぎると試合にならない。だったら同レベルにする為に何か調整をしていてもおかしくはない筈だ。


「それで、生まれてから育て上げてレベルを調整していたらとするとどうだ?」


「いろいろと納得ができますね」


「これをヒントと言いたいのか?」


 納得いかないが、それはそれだ。

 俺達は解体に取り掛かる。



「アニキ! これ、何か綺麗じゃないッスか!」


 隣で作業していたライが、何かを見つけて見せてくる。


「これは……何かの鉱石か?」


 手のひらサイズの赤みがかかった石の中に、濃い赤い筋がいくつも入っている。

 この巣は石や砂利を粘土で固めた、良くできた造りで、この鉱石のような石はその中に紛れ込んでいたものだ。

 この辺に山はない。何故こんな物が……。

 赤い石、これも何かのヒントか?


「魔石に似てるッスね」


「ああ、そうだな……」


 だが、どこか見覚えがある気がする。

 記憶を辿れ。いつ、どこで見た。


 俺がこの世界に来たばかりの頃、俺が意識を取り戻した瞬間より以前の、靄がかかった記憶。

 思い出せ。何処かに、何か――。

 摩天楼で倒れ、雨の中、誰かが――あの仮面は――本部が――研究所――山――「廃棄」――「リザードマン」――檻――コロシアム――。


「――ニキ! ――アニキ!」


 激痛が脳を締め上げる。


「アニキ! しっかりするッス!」


「あ、ああ、すまない」


 まるでロックがかけられているかのようにその記憶を探ることはできなかった。思い出せない時なんて、そんなものだろう。


「やるか」


 俺達は作業を再開した。



「やっと終わったな」


「疲れたー!」


 きれいさっぱり石塚は消え、ライとアイルはその場で横になる。ヴァイスは汗だくになって木の幹に凭れて休んでいた。

 皆、よく頑張ってくれた。

 

「ちょっと休憩して、帰ろう!」


「おー!」


 横たわる二人は、グーを空高く掲げている。

 その空はもうすでに赤く染まっていた。



 ギルドに着くころにはすっかり日も沈んでいた。移動だけでかなりの時間を使っている。


「ただいま帰って来たッス!」


 手を挙げながらダッシュでララに報告するライ。

 その彼女はというと、


「皆さん、よくご無事で……」


 と、ボロボロと涙を流していた。


「心配かけたな」


「ええ、本当ですよ……」


 そう言って胸を叩かれる。

 痛くはないのに痛いのはどうなのだろうか。


「報告をしたい。またあの部屋を使ってもいいか?」



 俺達は再び応接室へ。


「これが、蜥蜴男の一部だ」


 彼女は並べられた鱗や鍵爪に興味津々。

 手に取っては蠟燭の明かりに照らしてよく観察している。

 さらに臭いも嗅いでしかめっ面になっていた。それは流石に臭いだろう。


「それは何ですか?」


 俺が一緒に机へ置いた、布に包まれた物体を指さす。


「ああ、これは――」


 それを見ると、どうも違和感がある。


「あ、アニキ、それ、ちょっと伸びてませんか?」


「そ、そんなわけないだろう?」


 布からはみ出た尻尾。

 持ってくるときはスッポリ包まっていたはずだ。つまりは、アレだ。解けてはみ出ただけだ。


「いや、確かに、伸びているな」


 運ぶ前より、数センチほど伸びている。その証拠に、自切した面から新しい肉が盛り上がっているのだ。鱗もまだ柔らかい。


「まさか……」


 俺がナイフを突き立てると、それは簡単に吸い込まれる。

 生きていれば格上の存在に刃は通らない。つまり、コレは死んでいる。


「な、何をしているのですか?」


 引きつった笑顔で問いかけるララ。


「いや、これは奴が自分で切り落とした尻尾なんだが……」


 その生きているのか死んでいるのか分からない尻尾を指さし、俺の考察を伝える。


「それなら、レベル鑑定してみましょうか?」


 ララがササッと席を立つ。

 ギルドにはレベル管理用に鑑定装置を持っている。これもどういう原理かは分からないが、特殊な石製の桶のような物に、聖水と呼ばれる特殊な液体を満たし、そこに手を入れると聖水上にレベルが浮き上がるという物だ。ファンタジーすぎて半分以上理解できていない。

 で、その装置を使えばレベルを見ることができる=生死の判断もできるということだ。


「開けてくださーい!」


 扉の外からララの声。


「お待たせしましたっ!」


 開けるとそこには、ララが蟹股になりながら石桶を持っていた。


「どっこいしょ!」


 と机の上に載せる。若い娘がどっこいしょって……。

 というより、よくこの石の塊を持ってきたものだ。こんな華奢な体のどこにそんなパワーが?


「聖水持ってきますね」


 再び消える。


「ね、ねぇ。これって重いッスよね?」


 青ざめた顔でライが指さす。


「あ、ああ。持ってみたらどうだ?」


 彼は恐る恐る手を伸ばし、持ち上げようとする。


「む、無理!」


 今度は顔を真っ赤にして踏ん張るが、ビクともしない。


「そ、そんなにある訳……」


 アイルも挑戦するが、ダメだった。


「俺もやってみるか」


 袖をまくり、指を掛ける。


「ふん!」


 若干、下が浮く。だが、これは!


「お待たせしま――え?」


 空いた扉の向こうでは、奮闘する俺達の姿を見て固まるララがいた。



「わ、私、か弱い乙女ですヨー」


 ロボットのような口調で、遠い眼をした彼女が淡々と準備を進める。


「これぐらい普通だと思ってマシタ」


「こ、腰は大丈夫か?」


「ご心配ありがとーございマスー」


「あ、ああ」


 彼女の口からは「ハハハ……」と乾いた笑いが零れていた。

 き、気まずい!


「じゃ、入れますネ」


 口調は変わらず、その尻尾の先端を桶へ入れた。すると――。


「『レベルゼロ』」


 彼女はそう告げた。


「つまり、どういうことだ?」


 彼女は震えながら、その尻尾を布の上に置く。


「死んでいたら、そもそもレベルなんて表示はされないんです」


「でも、ゼロなんだろ?」


「いえ、表示すらされないのです」


「そ、それって――」


 全員が息を呑む。


「コレ、生きています」


 応接室の空気がその一言で凍りついた。


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