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第十二話 強くなりたい

戦闘パートが続いたので、今回は落ち着きます。

次回からはまた戦闘が入る予定なので、なかなか落ち着けそうにないですね。

「アニキ! これも!」


「あ、ありがとう」


「これも持っていくッス!」


「……」


 再び仲間になって数十分後。

 街をグルグルと回り歩き、食材屋巡りをさせられ、気が付けば俺は何故か大量の食材を持たされていた。


「何でこんなにくれるんだ」


 両手で抱えきれない程のバスケットに、こんもり。フランスパンに似た太長いバケット、塩もみして天日干しした肉や魚、芋のような大根、丸い人参、お化けのようなトマトと葉物野菜に穀物も……。一体何日分の食材か。


「今の季節なら、これもおススメです」


 何て言って追加されていくうちに流石の俺も腕が痺れてくる。


「で、これは一体何の真似だ?」


「これからアニキを頼るんだ! これぐらいはしないと!」


 いつの間にか呼び名も変わっている。

 俺の戸惑いなど知らぬ顔で嬉しそうに胸を張るアイル。さっきまで泣きべそかいていたとは思えない切り替えの早さだ。そこに光るものを感じるのもあるが。


「誰も頼んだ覚えはないのだが」


 ため息を吐くと、


「いやいや、その日の食事にすら困っているなんて聞いたら、ねぇ」


「間違いないッス」


「そうですよ」


 彼らは目を合わせて、何言ってるんだと口を揃える。


「……」


 何なのだこの気持ちは。

 内側から溢れ出す何か。

 恥ずかしさと嬉しさで何とも言えない気持ちが心と体を震わせる。

 最近はこういった人の善意に触れる機会が多い気がする。もちろん、そうでもない奴らはいたが……。


「すまない」


 彼らも冒険者。そこまで収入が多くないことは依頼書を見て何となく察している。

 彼らには助けてもらってばかりだ。


「こんなときは言う言葉が違うよ!」


「ん?」


 文化の違いか? 日本で暮らしていた時間が長すぎて謝ることが当たり前になっているのは確かだが……。


「『ありがとう』だよ! 謝るより、そっちの方が言われてうれしいっしょ!」


「――っ!?」


 目頭が人と熱くなる。


「あ! 何泣きそうになってんスか!」


「アニキはしょうがないですね!」


「う、五月蝿い!」


 茶化す彼らに背を向けて空を見上げる。そこには夕焼けの空が広がっていた。

 心に誓おう。彼らにこの恩は倍にして返すと。

 絶対にランクを上げ、彼らを故郷へ連れていく。その為に、強くしなくてはいけない。


「今日はもう遅いから、明日から鍛えよう」


「おう!」


「楽しみッス」


「ええ!」


 各々がやる気に満ちた顔で拳を固める。

 これだけ骨のある若者に出会えたことに感謝を。鍛えがいがありそうでワクワクする自分がいた。


「じゃあアニキ、家まで運ぶッスよ!」


 ライが手を差し伸べる。ありがたいが、


「気にするな。俺はこれぐらい余裕だ」


 腕は割と悲鳴を上げているがな。これは鍛えなおしだ。


「でも……」


 食い下がろうとするので、


「何甘えたことを言っているんだ? 明日への体力をここで使うんじゃない。休んで、明日に備えろ。最高のコンデションで鍛えなければ訓練の意味がないぞ」


「はーい」


 と、彼らをあしらい、俺は帰路に就いた。

 


足取りの軽さからか、荷物は重くとも苦にはならなかった。それより、頭の中は訓練に向けて案を出すことに取られていた為、すぐに家に着く。

 一旦バスケットを地面に置き、扉に手を掛けたところでふと脳裏に過る昨日の事件。

 また大荒れしていたらどうしようか。仲良くできていればいいが……。


「……ただいま」


 恐る恐る扉を開けると、


「あ、かえってきたー!」


 ソプラノボイスで叫んだ後、椅子からこちらの胸へ飛び込んできた。


「いい子にしていたか?」


「うん! してたよ!」


「そうかそうか」


 小さな頭を優しく撫でる。


「負担かけてすまないな」


 厨房に立つギュエロに目をやる。彼は振り返らず、


「全くじゃよ」


 と、振り返らずに調理を続けた。

 本当に彼には頭が上がらない。


「ギュエロさん、とりあえずこれだけ手に入れた」


「ん?」


 ようやく振り返った彼は、その量に目を見開いた。


「な、な、なんじゃあ!?」


 その驚き様にまた彼の寿命を縮めてしまったのではないかと心配になる。


「まぁ、いろいろあったんだ」



 食卓にて、今日の出来事を伝えた。

 ギルドへ行ったこと、いきなりBランクの魔物に挑戦したこと。明日からはその仲間たちと鍛えなおしをすること。


「お前さんはどこまでもお人よしなんじゃな……」


 呆れ顔のギュエロに尋ねる。


「アエロの方はどうだった?」


「きょうねー、おそうじおぼえたよ!」


 ギュエロより先にアエロが手を挙げた。

 そんな彼女の頭を撫でながら、ギュエロの目を見る。


「何もしないわけにはいかんし、自分で汚した分はやってもらおうと思ってな」


 大した事もしていないとばかりに口へ運ぶスプーンが加速した。さっきの悪態と矛盾していないか。


「すま――ありがとう」


 支えられてばかりである今だが、早く恩返しができるようになりたいものだ。


「ギュエロさん」


「嫌じゃ」


「な――」


 まだ何も言っていないのに断られてしまった。

 すでに察していたということなのか?


「どうせ、厄介な頼み事じゃろう」


 こちらを見ることなく、スープを飲み干すことに集中する老人。意地の悪いことだ。しかし、どうしたものか……。


「ねぇ、アエロにはできることー?」


 純粋な瞳で小首をかしげる彼女。今日褒められたことで何かお手伝いしてまた褒められようとしているのだろうか。本当に人間と大差がない程賢い子だ。だが、今回は無理かな。


「うーん、アエロには難しいかな……」


「えー!」


 癇癪を起さないか心配だったが、


「ギュエロじゃないとだめー?」


「そうだな、ギュエロさんじゃないと厳しいな……」


 名前も覚え、かつ彼に話を振ろうとする。意図しているかどうかわからないが、物凄い成長スピードだ。


「もし、時間があればでいい。俺に『魔法』を教えてくれ」


 そう言うと、器を持ち上げる彼の動きが止まった。


「何じゃと?」


 おや? もしかして興味がおありで?


「ギュエロさんのような凄い魔法使いにお願いしたいんだ」


 ピクリと眉が動く。

 これは……流石に露骨過ぎたか?

 様子を伺う。


「……」


 まだ、責めるべきか?


「頼れるのはギュエロさんしかいないんだ」


 その表情は器に隠れて分からないのがまた不安にさせる。


「こんな偉大なる魔法使いに出会ったのは初めてだ」


 まだ動かない。


「俺もギュエロさんみたいな魔法使いになりたいんだ」


 いや、そこまで極めるつもりはないが。


「ギュエロさんだから頼みたいんだ」


 表情が見えないまま。

 というより、いつまでそのままにするつもりだ?

 段々、不安が転じてコミカルさも出てきている。


「アエロ」


 キョトンとした顔の少女に顔を近づけ、


「ん?」


 こっそりと彼を差しながら耳打ちした。


「くすぐっておいで」


 ギュエロとこちらを数回見比べた後、


「わかった!」


 元気はそのまま、声を押し殺して答える。よし、偉い子だ。

 彼女はゆっくり椅子から降りて、ギュエロの後ろへ回ると、その翼を脇の下に忍ばせた。

 彼女とアイコンタクトをとり、俺は頷く。


「えい!」


 その翼を脇でわしゃわしゃ動かした。


「あ、あひゃひゃひゃひゃ! や、やめておくれ!」


 器を割らないように机に置きながら、彼は悶絶する。

 これ以上割れると予備がないもんな。


「ギュエロさん、どういうつもりだ?」


 頬杖をつきながらジト目を向けると、笑いながら


「だ、だって! あひゃ! わ、ワシここまで褒められたの久々じゃったもん! あひゃひゃひゃひゃ! も、もう、や、やめろおおおお!」


 等と、情けない理由を告げた。まぁ、そんなことだろうと思ったがな。


「アエロ、もうやめてやれ」


「はーい!」


 彼女は素直に椅子へ戻る。

 老人はゆっくり息を整えながら、「殺す気か」と零していた。


「何でアエロちゃんはお前さんの言うことは聞くんじゃ……」


「……そういうところだと思うぞ」


 呆れながらスープを啜る。うん、味はわからない。



「教えるのはいいが、ワシは厳しいぞ?」


 片づけを分担して済ました後、二人で外に出てくる。

 アエロもついて来ようとしたが、万が一見られたときに言い訳できないので眠っていてもらうことにした。


「構わない。端からそのつもりだ」


「うむ。良い顔じゃ」


 彼は小さな木の棒を渡してきた。


「これは?」


 その木の棒をまじまじと見つめる。


「杖じゃ」


「ふむ」


 菜箸サイズの木の棒を削り出し、綺麗に丸く研いだ木の棒。ギュエロの持つ大きな杖とはサイズも形状も違えば、先端に宝石はついていない。


「これは初心者用の杖でな、魔法を使った時の魔素の出入り口になったり、一点に収束させる役割を持つんじゃ」


「ふ、ふむ?」


 知らない単語だ。


「魔素ってなんだ?」


「魔法の素じゃ」


「あ、ああ」


 元素のようなものだろうか……?


「世界中の全ての物には魔素が含まれておってな、その魔素を集め、その性質を変化させて放出することで魔法になるんじゃ」


「全てに入っているのか?」


「うむ。例えば、この土にも幾分か入っておる。魔界に近い土地じゃから、余計に多いのじゃが、この辺で野菜を育てたりすると、あんまりよろしくなかったりする」


 つまり、魔素は魔界由来の成分で、植物の生育にも影響を与える代物ということか。


「でも、この辺に木は多いぞ? 他にも自然が豊かだし……」


「発育はむしろ良くなるんじゃ。じゃが、最悪魔物化する可能性もあるからな。木程大きければ大丈夫じゃが、普通の野菜は奇形になりやすい。味も劣る」


 そういうものなのか。今回貰って来た食材は、もしかしたら美味しいのかもしれないな。味はわからないが。


「話が逸れたの。さて、魔法じゃが、最初は属性気にせず魔素の動きを掴むのが無難じゃろう。ほれ、杖を構えよ」


「こ、こうか?」


 尖った先端を斜め上へ向ける。


「うむ。そんなもんじゃ。で、集中して先端に気を溜める」


「あ、ああ」


「喋るな!」


 理不尽だ。返事もダメなのか。

 だが、すぐに杖へ意識を向ける。

 すると、身体の奥底から杖目掛けて何かが流れていく。それはドロドロと先端をノズルにして零れ落ちていった。


「零すでない!」


 注意され、その零れるものを落とすまいと意識する。


「イメージせい。入り口をこう、絞るんじゃ!」


 わからん!

 意識を集中しても、零れていく。

 すると、今度はそれらがUターンし始める感覚があった。

 その逆流は恐ろしいスピードで、心臓辺りに蓄積し――


「のわ!」


 身体の中心から何かが爆発した。


「はぁ……。道のりは長そうじゃな」


 ギュエロの長く深い溜息で今日の訓練は終わりを告げた。


「ま、まだやれる……」


「アホ。暴発して魔力切れを起こしておる。今日はもう無理じゃ」


「そ、そうか……」


 このふら付く感じが魔力切れの症状だそうで。

 でも、悪くないなと思える。筋肉痛のような、頑張った証として。嬉しい悲鳴と言う奴だ。

 明日からはこの訓練を続け、魔力の総量を上げるのと、魔素の操作のコツを掴んでいく。

 今日は忙しくも、収穫のあった一日だった。明日からさらに忙しくなると思うとワクワクする。

 俺は睡魔に身を委ね、ゆっくりと目を閉じた。


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